悪魔も恋をする

月詠世理

文字の大きさ
33 / 34

33話

しおりを挟む
 キョトンとした表情をして返事をする彼女がいた。

「何?」

「俺が与えたセツナという名前は、お前の本名だ」

「えっ!?」

 目を丸くさせる少女に気を良くした俺。ニヤリと笑う。

「お前の本名は刹那せつなだ。本名は奪ったようで奪っていなかったのさ」

「何それ……」

「唖然としすぎだ。刹那の母親はお前を守ろうとして、愛する姫、愛姫と呼んでいたらしい」

 俺は彼女の頭を優しく撫でる。しかし、俺はその手を叩かれた。俺と向き合う彼女は眉間に皺を寄せていた。

「じゃあ、私はずっとセツに騙されていたということ?」

「嫌味っぽい言い方だなあ。真実だから仕方ないけどさ」

 俺は胸を思いっきり叩かれた後、俺の胸に顔を預けて、再びボロボロと泣き始める彼女。声をかけることはなかった。ただ側にいてじっと待っているだけ。しかし、泣き止みそうにない彼女に俺は痺れを切らした。

「刹那、聞いて欲しい。俺はこれから先もお前と一緒にいたい。だから、俺のものという印をつけてもいいか?」

 泣きすぎて瞼を腫らしている彼女は、小さく頷いてくれた。俺はこれから先も彼女と離れることのないように、魂に印を刻む。永遠に俺から逃れることができない痕。

「私はお母様に守られていたんだね。……それより、セツ。私はセツに告白したのに誤魔化された気がするの。セツは私に愛を紡いではくれないの?」

 手強い。俺、そういうのは苦手なんだけどな。時間が経ってから扉の外にいなくなったやつが現れたし、盗み聞きしているし、余計に言いにくい。
 外に声が漏れ、聞こえることのないように結界を張った。これも一種の魔法。魔女に教えてもらったものだ。

「刹那は二人きりの時だけに呼ぶよ。他の人がいるところではユアって呼ぶ。これは、刹那を守るためでもあるけれど、二人だけの秘密にしたいから。だって、俺は――」

 バキッ! パリンッ!!

 結界が割れた。あいつが部屋に入ってくる。

「セツ、聞こえないようにこんなへんてこな魔法使うなんて卑怯だよ! 男がみっともないことをするな!!」

「うるさい! 気配を最小限まで絶って、感知されないようにしたお前が言うな! さっさと出て行け」

 隣でわなわなしているユア。俺と言い合いをしているやつをプラプラと震える指で差しながら尋ねる。

「まさか、スピリトさん。私がセツに告白していたのを――」

「きいていたな」

「きいていたよ」

 俺たちの返答を聞いて、彼女の頰が朱色に染まっていく。

「セツ、聞いていたのを知っていたなら、教えてください!!」

 彼女はあまりの羞恥心に声を張り上げて怒った。
 泣き顔も怒り顔も笑った顔も全部好きだ。

 俺はユアの耳元に唇を寄せる。スピリトには聞かれないように、結界魔法を俺たちの周りに使う。

「刹那、愛している」

 軽く耳にキスをした。耳を真っ赤になって抑えるユア。俺はそれを見て笑う。
 すぐに破られてしまった結界だが、愛を伝えるのには十分な時間だったようだ。
 ゆでだこのようになり、片耳を抑える彼女を再度見て、俺はニヤリと口角を上げた。


 後に、俺は悪魔の王となる。その俺の隣にはユアがいる。補佐官であるスピリトは時々現れ、俺たちをからかっては去っていく日々。チェサはユアに懐いており、一度彼女にくっつくとなかなか離れないので、困った存在として認識されていた。


 ユアが子を生んで、子が成長するとセツは子どもに悪魔の王を押し付けた。そして、スピリトにその子の面倒を任せる。生まれた子どもの力は強かったので、力のコントロールを身につけさせるのが大変なことであった。
 成長して魔力が暴走することもなくなったから大丈夫だろう。もし、魔力暴走が起こったとしてもスピリトがいるし、なんとかなるさ。あいつは何度も俺たちの子を救ってくれているからな。

 俺とユアは世界旅行へ。いろいろな国や街を見て、ゆっくりしようということになった。誰にも邪魔されない二人きりの時間が欲しくて行動にでた。しかし、転移魔法を使えるスピリトは俺たちの居場所をつかんでは、フラッとやってくる。
 チェサがどうやっているのかは知らないが、俺たちがいる場所を当てているらしい。
 たまに入る邪魔者はこの際無視だ。息子からの連絡を持ってきてくれるし、なにも悪いことばかりではない。

 俺は眠っている刹那を揺らして起こす。目を擦りながら起きた彼女の唇に自分の唇を重ねた。

「刹那、今度はどこに行く?」

「ふふっ、セツとならどこだっていいよ!」

 優しい笑みを浮かべる彼女を俺は抱きしめた。

 生まれ変わっても必ず見つけるからな、刹那。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...