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三章 天才と凡才
視界奪取
しおりを挟む「んで、どうするよ」
ナツミさんを降ろしてミシェルとの距離をとるため走る。……決して、ナツミさんが重かったとかではない。ではないが、人を担いで逃げるのは走りづらいのである。もう一度言おう、決してナツミさんが重かった訳ではない。
「いや、今んとこ何も決まってねえ」
「おい」
『力を貸してほしい』っつー言われたら、なんか策があるんじゃないかって思うだろ。
「ミシェル君の属性としては、水。生成した水を操るタイプだから、お前としてはやりやすいんじゃねえのか」
「うるせぇ。この封鎖された空間だと、戦いにくいだろ」
やつがどれほどの量の水を生成できるのか分からないが、無制限に生み出せるのならとっくにこの地下は水没しているはずだ。
そうなっていないということは、限りがあるか何かしらここに目的があるのか。
「魔法は魔力が必要だから、出せる量は限りがあるぞ」
「思考を読むな、思考を」
となると、持久戦にもってくのがベターか。
「そうだな、今のところその辺が無難だろ」
「だから思考を読むなって」
「ま、いつも通りお前が前に出てあたしが指示を出す」
それもう作戦も何もないのでは……。
そう思いつつも、今のところ他に案が浮かんでこないので、その作戦でいくしかない、か。
「おーし、じゃあ次の角で待ち受けるぞ」
「あー、そうそう。言い忘れてたけどな」
意気込んでいると、ナツミさんはクイッと背後を親指で示すと、口を開いた。
「後ろ、見てみろ」
「は……?」
なんだなんだと思いつつ振り返ると、そこには龍の形をした水が宙に浮かんで追いかけてきていた。
「は? ちょ、えっ!?」
「このペースだと、次の角までには追いつかれるぞ」
「そういうのは早く言えよっ!!」
気づいてたんなら、もっと早く言って欲しかった。
というか、あれに当たったらどうなるんだ。取り込まれて溶けるのだろうか。それとも、溺れ死ぬのだろうか。
「試してみたいのか?」
「なわけねぇだろ、あと思考を読むな」
何回言わせんだ、こいつ……。
何はともあれ、ナツミさんが次の角までもたないと言うのなら、そうなのだろう。
「じゃあもう戦ってくるわ。指示、頼んだぞ」
「おう、逝ってこい」
なんか言葉のニュアンスがおかしかったような気もするが、俺はピタッと足を止めると踵を返す。
振り返る時の勢いに任せて、龍の形をした水を手のひらでぶっ叩く。
「『気操術』」
腕に負荷がかかって、ミシミシっと嫌な音が聞こえてくる。
「『霧散』!」
パァンっと弾けるように、水が弾けて霧散していった。
「次、正面から三本!」
「おう!」
水の槍の先端部分に触れないよう気をつけて、ぶっ叩くと、先程と同じように霧散していった。
「近づいてきてる! 手には水で作られた剣を所持!」
「了解っ!」
奥から一瞬で距離を詰めてくるミシェルを、剣を抜き取り受け止める。
彼は小さく舌打ちすると、少し距離をとってすぐに追撃を仕掛けてきた。
「上! 右! 斜め左下!」
「クソがっ!」
ナツミさんの声に従って、ミシェルの追撃をなんとか捌く。しかし、追撃の手は止まらない。
「下! 右! 上上右左上斜め下左右上!」
「なんのコマンドだよ!」
絶対に適当だろ、それ。そんなコマンドあった覚えねえぞ。
「『気操術』」
剣から手を離し、虚空を掴む。
空気を持ち上げ、回すように身体を捻じる。
「『螺旋』」
ミシェルの体が宙に舞い、ぐるりと回転して床に叩きつける。
「カッハ……!」
苦しそうに顔を歪ませるミシェルに、剣を喉元に突きつける。
「勝負あ――」
「真人! 下っ!」
ナツミさんの声に、反射的にその場から飛び退く。すると、足の先を下から飛び出すように出てきた水が掠った。
その水は天井に当たると、ドォンっと大きな音を立てて天井に傷を残した。パラパラと、天井の欠片が降り注いでくる。
「『アークウォール』」
追撃するかのように、足下から水が飛び出してくる。
「ちっ……!」
「『アークランス』」
それを跳んで回避する俺に向けて、水の槍が飛びかかってきた。
「空中だと、避けられないでしょう?」
ミシェルが俺に微笑みかけてくるが、この危機的状況において、それはとても嫌味ったらしい笑みのように見えた。
「――っ!」
その時、視界が変わった。
大気中の所々に、白いモヤが見える。
「『視覚共有』」
チラとナツミさんの方へ視線を向けると、ぐっと無言でサムズアップしてきた。えっ、なに、怖い……。
だが、直感的にこれは魔力が大気に漂っているのが視覚化されたものだと理解する。
「うおぉぉりゃああぁ!!」
その白いモヤに手を伸ばし、掴んで強引に体を横にずらす。
「危なっ……!」
水の槍が横を通り過ぎる。
「『アークラ――っ!」
さらにこちらに手を伸ばし、水の槍を作り出そうとしていたが突然目を押さえて動きを止めた。
「な、なんだ……!? 目が……っ!」
突然の異変に戸惑いつつ、なんだなんだとナツミさんの方へと視線を向ける。
奥にいるナツミさんの表情は、薄暗くて伺えない。しかし、薄暗くとも爛々と輝く瞳は見えて、ニヤリと口角を吊り上げている表情が容易に想像できた。
「『視覚強奪』ミルカンディアの全てに指定……奪取完了。……『シャッフル』」
それは小さいながらもここまではっきりと聞こえてきて、喜色と狂気が混じった声音だった。
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