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三章 天才と凡才
巣立ちの日
しおりを挟む「……朝か」
んっと背伸びをして、頭を搔く。
今日何かあったっけ……。
予定がなければ二度寝をしようと考えていると、徐々に脳がクリアになってある事を思い出した。
「……やばい」
俺は慌てて身だしなみを整え、まとめている荷物を持つと外に飛び出した。
そう、今日この日、俺たちはこの都市を出ていく予定なのだ。
☆ ☆ ☆
門の周りでは、すでにレイとセシルとナツミさん、その他が集まっていた。
「すまん、遅れた」
「おいおい、こんな大事な時に遅れるとか……しっかりしろよ」
「オーケー、アンさん、ギルティ」
「は!? ぎるてぃってなに? ってか、なんでだんだん近づいてきてんの、怖いんだけど!」
アンさんにアイアンクローをすると、いい声で叫び出す。それをいつもの事のように流して、ナツミさんは話しかけてきた。
「んじゃあ、そろそろ行くか」
「おう」
本当に、俺たちはこの二ヶ月弱滞在したこの都市から出ていく。そう決めたのは、およそ数週間前まで遡る。
☆ ☆ ☆
「それで、あたしに聞きたいことってなんだよ」
突然俺の部屋に訪ねてきたナツミさんは、唐突に聞いてきた。
「というか、突然訪ねてきた理由の方を聞きたいんですが……」
げんなりとそう言うと、ナツミさんは小馬鹿にするようにはっと笑った。
「旅に出るんなら、ある程度目的決めとかないと行けねぇだろうが。それの確認だよ」
「アロガンさんには」
「言ってねぇ。つか、ほぼ絶縁に近い状態だし話すこと自体ねぇ」
それは……。
原因を作ったのが自分だという自覚があるので、返答に困る。そう悩んでいると、はぁーっとため息を吐くと、苛立たしげに声を上げた。
「ほら、だからさっさとここに来た用件を言え。そっから、次への目標を立てることにつながるかもしれないし」
確かにそれもそうか……。
シオと名乗った女が言ってたことを思い出しながら、俺は口を開いた。
「前魔王が死んだ、理由について」
「はあ? そりゃ、人間との戦いに敗れて……」
そう言いかけて、俺の目をのぞき込むように見据えてきたかと思うと、はぁーっと深く溜息を吐いた。
「……人間との戦いで敗れたのは嘘じゃないし、死んだ原因の大半は人間からの攻撃だった」
「大半?」
言い方に引っ掛かりを覚えて、聞き返す。
「流れ弾だよ、直接的な死因は」
「は?」
「弱っているところに、たまたま味方が撃った魔法が直撃した。混戦だったから、仕方ないのかもしれないが」
「いや、待てよ。そんな話、知らねぇんだけど」
記憶を隅々まで調べてみるが、それらしき記憶は全然出てこない。
「……必要ないと思ったんだよ」
ナツミさんは言い訳をするように、視線を逸らした。
「それだけの理由なら、隠す必要ないだろ」
それだけの理由ならば、隠す必要は無いはずだ。魔王が、そんな死に方というのは確かに一般の魔族に知られるとまずい。だが、幹部という立ち位置にいた俺が知らされないのは不自然ではないか。
そう問い詰めると、彼女は数秒間口元をまごつかせ、諦めたようにため息を吐いた。
「……その魔王にトドメを刺したやつが問題なんだよ」
「もしかして、幹部の中にいるのか?」
「んなわけないだろ」
恐る恐る聞いてみると、即座に否定された。
え、なにその可哀想なものを見る目は。そこまで頓珍漢なことを言ったか、俺。
ナツミさんは切り替えるように、ごほんと咳払いをすると口を開いた。
「トドメを刺したのはな……現魔王なんだ」
「は……?」
あいつが、前魔王を? それなのに、今魔王をしてるって……。
「あいつがわざと殺したって可能性があるってことじゃねぇか!」
「違う。偶然だ」
「偶然って、どうしてそんなことが言えるんだ!」
「それはそう言ってたからだ」
「誰が!」
興奮する俺に、落ち着けと窘めてくる。
そして、ナツミさんは俺の目を見据えると、はっきりと言った。
「守谷 真緒だよ」
☆ ☆ ☆
閑話休題。
「んじゃあ、そろそろ出発するか」
「グルルルルっ!」
竜の背中を撫でながら、そう言った。
今回から、竜舎を用いての移動へと変更となった。理由は単純、女性陣からの要望と都市の防衛による報酬が思いの外多かったからだ。
「ルノー、これからよろしくな」
竜――ルノーは、機嫌がいいようで俺に頬を擦り付けてくる。ははは、愛いやつめ。
ルノーとコミュニケーションをとると、今度は額をさするアンさんへと視線を移す。
「……世話になったな」
「ほんとだよ。サトウさんさんには振り回された記憶しかねぇわ」
彼には、一度旅についてこないかと聞いてみた。
けれど、ここを拠点に活動してるので無理と断られたのだ。
「ま、縁がありゃまた会えるだろうよ」
断ってきた時も、同じことを言ってきた。
その言葉で、八代と同じ方位磁針を渡すのをやめたのだ。彼は、そうやって故意に再開するのは望んでないと思って。
「私たちがいないからって泣かないでくださいよー」
「泣かねぇよ。つか、それ言うならお前らだろ」
「死なないようにね」
「別に身近に死の危険はないから……」
「よろしくね」
「……ああ、任せろ」
レイ、セシル、ナツミさんの順番でアンさんに一言ずつ挨拶をする。
「またな、アンドレ」
「……! ああ」
いつもと変わらない笑顔を向けられて、照れくさく感じてしまいさっさと竜舎へ乗り込んでしまった。俺に続いて、三人も竜舎に乗り込んできた。
「んじゃあ、出発するぞ!」
アンさんの方を振り返ることなく、出発する。
このままアンさんと話していたら、出発するタイミングを逃してしまいそうだったから。出ていく気がなくなりそうだったから。
そうして、俺たちはミルカンディアから新たな地へと出発したのだった。
☆ □ ☆ □ ☆
「見送り、行かなくてよかったのか?」
領主の屋敷にて、書類と向き合う領主に話しかける男が一人。
「……なんで儂が見送らなきゃならねぇんだよ」
「そんなこと言って。昨日、しっかり話し合ったんだろ?」
カラカラと、からかう様な声音で話しかけるのはアンなんとかさんこと、アンさんだった。
「研究室をどうするかについて話しただけだ」
「ふーん」
アンさんは、ナツミさんが出発する際につけていたバッチを思い浮かべる。
「それで、どうすることになったんだ?」
「研究は一旦停止。自我を持ったクローンは、儂の方である程度サポートすることになった」
「やっぱりアロガンさんはナツミさんに甘いっすね」
「殺すぞ」
軽い殺気を感じて、苦笑いを浮かべるアンさん。
「いやー、サトウさんさんが説得に来た時はヒヤヒヤしたよ。ほら、雰囲気が結婚の報告みたいな感じだったし……」
くくくっと笑うアンさん。
「そんなもんだから、アロガンさん不機嫌になってきて。いやー、上手くいってよかったよかっ!」
「少し静かにしろ」
「痛い痛い痛いっ! すんません、静かにします!!」
アイアンクローをくらい、ミシミシと頭から嫌な音がする。
「まあ、あの件に関しちゃ、元々決まってはいたんだよ」
「いてて……え、なんで?」
「知り合いに頼まれたんだ、ナツミをあの愚図に同行させろって」
ここではないどこかを見つめるようにして、アロガンはそう話す。
「意外だな。アロガンさんが、頼み事聞くなんて」
アンさんが本気で意外そうな声を出すと、アロガンは頭を掻きながら答えた。
「……いい加減、ここに置いとくのも面倒だったからな。ちょうど良かったんだよ」
そう言うアロガンの瞳には、どこか眩しいものを見るような、暖かい光が宿っていた。
――――――――
「そいやアロガンさん、それなんの書類?」
「上から武闘会に参加しろって言われてんのを、断る書類」
「参加しないのか」
「当たり前だろ、面倒くせぇ」
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