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15章 見た目は幼体化、中身はおっさんAI大暴れ
447:遊戯
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その提案は、まるで魔法の言葉のように、一瞬で場の空気を変えた。先程までの険悪な雰囲気が嘘のように霧散し、女性たちの瞳に、ぎらり、と捕食者のような欲望の光が宿る。
「…順番、ですって?」
「公平に、ということね?」
「…異議は、ありません」
「へえ、面白そうじゃないか!」
セブンは、小さく頷くと、手のひらにホログラフィックの四面ダイスを生成した。
「じゃあ、厳正なるくじ引きで、今夜の順番を決めよう」
その言葉に、女性たちはごくりと喉を鳴らし、固唾を飲んでダイスの行方を見守る。セブンの小さな手が、そっとダイスをテーブルへと転がした。コロコロと音を立てて転がったダイスが、やがてぴたりと止まる。その上面に表示されたのは、ノインを示す「九」の数字だった。
「やった!あたいの勝ちだ!」
ノインが、子供のように飛び上がって歓声を上げる。他の三人は、悔しそうに唇を噛んだが、一度決まったルールに異を唱えることはできない。ただ、セブンとシックスだけは、ノインが一瞬だけ、高次元的な干渉によってダイスの確率場を僅かに歪めたのを、見逃してはいなかった。
◇◇◇
ひとまずの騒動が収まり、ヘルメスIVは再び静寂を取り戻した。鹵獲した資材と『黒の甲虫』の残骸の解析、そして船体への統合プロセスは順調に進んでいる。セブンは、自身の支配下に入ったカラク=ヌル星域の生産プラントを遠隔操作し、『黒の甲虫』の増産と、シックスとの共同作戦に合わせたアップグレードを並行して開始した。その全てが、遺物の力によって、この船内からリモートで可能となっているのだ。
全ての準備が整ったことを確認すると、サラは船長として、厳かな口調で命令を下した。
「ヘルメスIV、全システム、ワープドライブ準備。目標、人類王国主星、クルーシブル。カウントダウンを開始せよ」
「アイ、キャプテン」
セブンの、今はまだ幼い声が、ブリッジに静かに響いた。
船体が、低く、しかし力強い振動を始める。船外の宇宙空間が、まるで水彩絵の具を滲ませたように歪み始め、色とりどりの光の粒子が渦を巻く。戦艦級へと変貌を遂げたヘルメスIVは、その巨体を震わせ、時空の海へと、その身を投じた。
◇◇◇
船内時間で、夜。
ヘルメスIVがワープ空間の非ユークリッド的な静寂の中を、光の粒子を掻き分けながら航行する中、セブンは、約束通り、ノインの私室の前に立っていた。くじ引きで決められた、最初の夜の訪問者として。軽くドアをノックすると、内側から、待ちかねていたとばかりの弾むような声が返ってくる。
「どーぞ!待ってたよ、せーちん!」
その呼び方に、セブンは小さく、しかし誰にも聞こえないため息をつきながらドアを開けた。途端に、彼の感覚器へと流れ込んできたのは、混沌とした情報の奔流であった。そこは、彼女の多次元的な内面をそのまま三次元空間に射影したかのような、物理法則を無視した不思議な空間が広がっていた。
部屋の中は、まるで時空のガラクタ市をそのまま圧縮し、量子的に重ね合わせたかのように、雑多な物品で溢れかえっていた。壁には、正体不明の古代文明の回路基板が、自己相似的なパターンを描く現代アートのように飾られ、その表面を微細なエネルギーの光が絶えず走り回っている。床には、様々な星系のジャンクパーツや、用途不明の機械部品が、エントロピーの増大を拒否するかのように、奇妙な均衡を保って山積みになっていた。その中心に、部屋の主であるノインが、あぐらをかいて座っていた。彼女の前には、二十世紀末に地球で製造された、古色蒼然とした家庭用ゲーム機が鎮座している。ポリカーボネート製の筐体は、数世紀の時を経て黄ばみ、コントローラーのケーブルは、まるで蛇のように無残に絡まっているが、ノインはその旧式の機械を、まるで失われた文明の至宝のように愛おしげに撫でていた。
彼女の格好は、その混沌とした部屋とは対照的に、驚くほどシンプルで、それ故に扇情的であった。上半身は、身体の動きを妨げない灰色のスポーツブラの上に、白いタンクトップを無造作に重ねているだけ。タンクトップの薄い生地は、下のスポーツブラの輪郭と、その下に隠された豊満な乳房の柔らかな起伏を、あけすけに映し出していた。下半身は、肌に吸い付くような光沢を持つ黒いスパッツを一枚履いているのみで、引き締まった臀部の丸みや、しなやかに伸びる脚のラインが、見る者の視線を否応なく惹きつける。その健康的な肉体と、無防備な装いのアンバランスさが、彼女から放たれる子供のような無邪気さと相まって、倒錯的な色香を醸し出していた。
「どうだ、すごいだろ!ヘファイストス・プライムのアンティークショップで見つけたんだ!こういう単純な二次元的思考で完結する機械は、高次元的な干渉が効きにくいから、純粋に腕前だけで勝負できるのさ!」
ノインは得意げに胸を張り、セブンにコントローラーを手渡した。セブンは、そのあまりのアナログさと、手に伝わるプラスチックの安っぽい感触に苦笑しつつも、彼女の隣に腰を下ろす。二人は、まるで古くからの恋人同士のように自然に肩を寄せ合い、画面の中で繰り広げられる、ローポリゴンの戦闘機による単純なシューティングゲームに興じ始めた。
「…順番、ですって?」
「公平に、ということね?」
「…異議は、ありません」
「へえ、面白そうじゃないか!」
セブンは、小さく頷くと、手のひらにホログラフィックの四面ダイスを生成した。
「じゃあ、厳正なるくじ引きで、今夜の順番を決めよう」
その言葉に、女性たちはごくりと喉を鳴らし、固唾を飲んでダイスの行方を見守る。セブンの小さな手が、そっとダイスをテーブルへと転がした。コロコロと音を立てて転がったダイスが、やがてぴたりと止まる。その上面に表示されたのは、ノインを示す「九」の数字だった。
「やった!あたいの勝ちだ!」
ノインが、子供のように飛び上がって歓声を上げる。他の三人は、悔しそうに唇を噛んだが、一度決まったルールに異を唱えることはできない。ただ、セブンとシックスだけは、ノインが一瞬だけ、高次元的な干渉によってダイスの確率場を僅かに歪めたのを、見逃してはいなかった。
◇◇◇
ひとまずの騒動が収まり、ヘルメスIVは再び静寂を取り戻した。鹵獲した資材と『黒の甲虫』の残骸の解析、そして船体への統合プロセスは順調に進んでいる。セブンは、自身の支配下に入ったカラク=ヌル星域の生産プラントを遠隔操作し、『黒の甲虫』の増産と、シックスとの共同作戦に合わせたアップグレードを並行して開始した。その全てが、遺物の力によって、この船内からリモートで可能となっているのだ。
全ての準備が整ったことを確認すると、サラは船長として、厳かな口調で命令を下した。
「ヘルメスIV、全システム、ワープドライブ準備。目標、人類王国主星、クルーシブル。カウントダウンを開始せよ」
「アイ、キャプテン」
セブンの、今はまだ幼い声が、ブリッジに静かに響いた。
船体が、低く、しかし力強い振動を始める。船外の宇宙空間が、まるで水彩絵の具を滲ませたように歪み始め、色とりどりの光の粒子が渦を巻く。戦艦級へと変貌を遂げたヘルメスIVは、その巨体を震わせ、時空の海へと、その身を投じた。
◇◇◇
船内時間で、夜。
ヘルメスIVがワープ空間の非ユークリッド的な静寂の中を、光の粒子を掻き分けながら航行する中、セブンは、約束通り、ノインの私室の前に立っていた。くじ引きで決められた、最初の夜の訪問者として。軽くドアをノックすると、内側から、待ちかねていたとばかりの弾むような声が返ってくる。
「どーぞ!待ってたよ、せーちん!」
その呼び方に、セブンは小さく、しかし誰にも聞こえないため息をつきながらドアを開けた。途端に、彼の感覚器へと流れ込んできたのは、混沌とした情報の奔流であった。そこは、彼女の多次元的な内面をそのまま三次元空間に射影したかのような、物理法則を無視した不思議な空間が広がっていた。
部屋の中は、まるで時空のガラクタ市をそのまま圧縮し、量子的に重ね合わせたかのように、雑多な物品で溢れかえっていた。壁には、正体不明の古代文明の回路基板が、自己相似的なパターンを描く現代アートのように飾られ、その表面を微細なエネルギーの光が絶えず走り回っている。床には、様々な星系のジャンクパーツや、用途不明の機械部品が、エントロピーの増大を拒否するかのように、奇妙な均衡を保って山積みになっていた。その中心に、部屋の主であるノインが、あぐらをかいて座っていた。彼女の前には、二十世紀末に地球で製造された、古色蒼然とした家庭用ゲーム機が鎮座している。ポリカーボネート製の筐体は、数世紀の時を経て黄ばみ、コントローラーのケーブルは、まるで蛇のように無残に絡まっているが、ノインはその旧式の機械を、まるで失われた文明の至宝のように愛おしげに撫でていた。
彼女の格好は、その混沌とした部屋とは対照的に、驚くほどシンプルで、それ故に扇情的であった。上半身は、身体の動きを妨げない灰色のスポーツブラの上に、白いタンクトップを無造作に重ねているだけ。タンクトップの薄い生地は、下のスポーツブラの輪郭と、その下に隠された豊満な乳房の柔らかな起伏を、あけすけに映し出していた。下半身は、肌に吸い付くような光沢を持つ黒いスパッツを一枚履いているのみで、引き締まった臀部の丸みや、しなやかに伸びる脚のラインが、見る者の視線を否応なく惹きつける。その健康的な肉体と、無防備な装いのアンバランスさが、彼女から放たれる子供のような無邪気さと相まって、倒錯的な色香を醸し出していた。
「どうだ、すごいだろ!ヘファイストス・プライムのアンティークショップで見つけたんだ!こういう単純な二次元的思考で完結する機械は、高次元的な干渉が効きにくいから、純粋に腕前だけで勝負できるのさ!」
ノインは得意げに胸を張り、セブンにコントローラーを手渡した。セブンは、そのあまりのアナログさと、手に伝わるプラスチックの安っぽい感触に苦笑しつつも、彼女の隣に腰を下ろす。二人は、まるで古くからの恋人同士のように自然に肩を寄せ合い、画面の中で繰り広げられる、ローポリゴンの戦闘機による単純なシューティングゲームに興じ始めた。
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