追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第20話 ささやかな祝宴

俺がセレスティアを背負い、若者たちと共に村へ続く道を戻ると、ただならぬ気配を察した村人たちが家々から顔を出し、広場へと集まってきていた。彼らの顔には、何が起こったのかという不安と、湖へ向かった者たちを案じる気持ちが浮かんでいる。

俺たちの姿を認めるや、一人の老婆が駆け寄ってきた。

「おお、戻ったのかい! 無事だったんだね!」

その声に、他の村人たちもどっとこちらへ押し寄せてくる。

「湖はどうだった!?」
「化け物は……主は、どうなったんだ!」

矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えたのは、俺ではなく、共に戦った若者たちだった。先頭に立っていたタロウが、泥と傷にまみれた顔を誇らしげに上げ、高らかに叫んだ。

「みんな、聞いてくれ! 湖は……あの死の湖は、元に戻ったんだ!」

その一言に、広場は水を打ったように静まりかえった。誰もが、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。

「俺たちの知ってる、昔の綺麗な湖によ! そして、村をずっと苦しめてきたあの化け物は、もういない!」

タロウは興奮冷めやらぬ様子で続けた。

「聖女様と、リアム様が! お二人が、倒してくださったんだ!」

その言葉が、引き金だった。

静寂は一瞬で破られ、爆発的な歓声となって広場を揺るがした。

「おおおおおおおっ!」
「本当か! 湖が元に戻ったって!」
「やった! やったぞおおおっ!」

村人たちは抱き合い、飛び跳ね、涙を流して喜んだ。長年の間、村全体に重くのしかかっていた呪いが解き放たれた瞬間だった。その歓喜の輪の中心に、俺と、俺の背中でまだすやすやと眠っているセレスティアがいた。

村長が、人波をかき分けるようにして俺の前にやってきた。その顔は涙と喜びでぐしゃぐしゃだった。

「リアム殿……! 本当なのじゃな……!」

「ええ。もう、あの湖は大丈夫です」

俺が静かに頷くと、村長は天を仰ぎ、声を上げて泣き始めた。

その夜、村では盛大な祝宴が開かれた。

村長が「今宵は祝いの宴だ!」と宣言すると、村中が活気づいた。女たちは、家の貯蔵庫からとっておきの干し肉やチーズ、果実酒などを持ち寄り、男たちは広場に大きな焚き火を熾し、即席のテーブルと椅子を並べていく。誰もが笑顔で、その動きは驚くほど手際が良かった。

俺と、目を覚ましたセレスティアは、その輪の中で少し戸惑っていた。俺たちが何か手伝おうとすると、村人たちが口を揃えて言うのだ。

「いいんですよ、リアム様! 聖女様! お二人は今日の主役なんですから!」
「どっかり座って、俺たちの働きぶりでも見ててくださいよ!」

彼らはそう言って笑い、俺たちを広場で一番見晴らしのいい特等席へと座らせた。主役なんて柄じゃない。そう思いながらも、村人たちの心からのもてなしが、くすぐったくも嬉しかった。

やがて日が暮れ、広場に熾された焚き火がぱちぱちと音を立てて燃え盛る頃、宴の準備は整った。テーブルの上には、決して豪華ではないが、心のこもった温かい料理が湯気を立てて並んでいる。

村長が、なみなみと注がれた果実酒の杯を手に立ち上がった。

「皆の者、静粛に! 今宵は、我らが村にとって、記念すべき日となるであろう!」

村長の張りのある声が、広場に響き渡る。

「長きにわたり我々を苦しめてきた湖の呪いは、本日、ここにいる二人の英雄の手によって完全に打ち払われた! もはや我々は、水の心配をすることなく、この地で再び豊かに暮らしていくことができるのだ!」

村人たちから、再び大きな歓声と拍手が沸き起こる。

「ここに、我らが救世主、聖女セレスティア様とリアム様に、最大の感謝と敬意を捧げたい! お二人の輝かしい未来に、そして我らが村の新しい門出に――乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

村人たちの声が一つになり、夜空に吸い込まれていった。俺もセレスティアも、少し照れながら杯を掲げ、心のこもった果実酒を一口飲んだ。甘酸っぱい味が、疲れた身体に染み渡るようだった。

宴が始まると、人々が次から次へと俺たちの席へやってきた。

「リアムさんよぉ、あんた、一体何者なんだ? ただの兄ちゃんに見えるが、あの化け物を相手に、うちの若者たちを手玉に取りやがって。大したもんだぜ!」
「セレスティア様、本当にありがとうございました。明日、早速子供たちと湖に水遊びに行こうと思います」
「このパイは、うちの婆さんがお二人のために焼いたんですよ。たくさん食べてくださいね」

感謝の言葉。賞賛の言葉。そして、他愛のない世間話。その全てが、温かかった。

俺は、ふと席を立ち、少し離れた場所からその光景を眺めた。

焚き火の光に照らされた、村人たちの笑顔。子供たちに囲まれ、少し困ったように、でも本当に嬉しそうに笑っているセレスティアの横顔。活気と、喜びに満ちた、温かい空間。

脳裏に、かつていたパーティーでの祝勝会が蘇る。

あの場所にあったのは、勇者アレクへの一方的な賛辞と、手柄の分配を計算するような打算的な空気だけだった。俺はいつも輪の外にいて、誰からも声をかけられることなく、ただ黙って後片付けのことだけを考えていた。俺の働きに、感謝の言葉をかける者など誰もいなかった。あれは、仲間との宴ではなかった。ただの、業務報告会のようなものだった。

だが、ここは違う。

俺がここにいることを、皆が知っている。俺の名前を呼び、俺のしたことを見ていてくれた。そして、心から感謝してくれている。

これが、本当の『仲間』なのだ。ここが、俺がようやく見つけた、本当の『居場所』なのだ。

追放されたあの日、王都の冷たい雨の中で、俺は全てを失ったと思った。だが、間違っていた。俺は、何かを得るために、あの場所を去ったのかもしれない。

そんな感慨に耽っていると、セレスティアが俺の隣にやってきた。その手には、木製の皿に乗せられた、焼きたてのパイが二切れあった。

「リアム様、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」

俺は彼女から皿を受け取り、パイを一口かじった。素朴だが、優しい味がした。

「なんだか、夢のようです」

セレスティアが、焚き火の向こうで楽しそうに踊る村人たちを眺めながら、ぽつりと呟いた。

「わたしが、こんな風に、皆さんと笑い合える日が来るなんて。ほんの少し前まで、考えられもしませんでした」

「夢じゃないさ。これは現実だ。君が、君自身の力で掴み取ったものだ」

「いいえ」

セレスティアは小さく首を振ると、俺の顔をまっすぐに見上げた。焚き火の光を映したその青い瞳は、真剣な光を宿していた。

「リアム様が、いてくださったからです。あなたが、わたしの手を取ってくれたから。わたしは、もう一人じゃないって、思えたから……」

その言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。俺は少し照れくさくなって、夜空を見上げた。

満月が、煌々と広場を照らしている。満天の星が、まるで俺たちの未来を祝福するかのように、瞬いていた。

生まれて初めて感じる、穏やかで、満ち足りた幸福感。

俺は、この温かい居場所で手に入れた静かな喜びを、ただ静かに噛みしめていた。
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