追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第78話 最強のパーティー、出陣

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俺の決断はエデンに新たな風を吹かせた。

それはもはや楽園を守るためだけの内向きの力ではない。世界を救うという、外向きの力強い意志の風だった。

村に戻った俺は、勅使として待機していたグスタフ騎士の元へと向かった。彼は教会の客間で、不安げに俺の帰りを待っていた。

俺は彼の前に立つと、彼が持参した王の剣を静かに受け取った。

「……お受けいただけますか」

グスタフの声が震えていた。

「ええ」

俺はきっぱりと答えた。

「俺たちエデンは、国王陛下の救援要請を受諾します。魔将ヴラドの軍勢を、必ずや打ち破ってみせましょう」

その言葉にグスタフの顔が、安堵と、そして堰を切ったような感動にくしゃりと歪んだ。彼は再びその場にひざまずき、涙ながらに感謝の言葉を繰り返した。

「おお……! ありがとうございます、リアム殿……! このご恩は王国永遠の誉れ……!」

翌日。
エデンの出発の朝は驚くほど静かで、そして厳かだった。

広場には村人たちが総出で集まり、俺たちの旅立ちを見送ろうとしていた。彼らの顔に不安の色はなかった。あるのは、俺たちへの絶対的な信頼と無事の帰還を祈る温かい眼差しだけだった。

「リアム様、セレスティア様、皆さん。どうかご武運を」
「必ずご無事で帰ってきてください!」
「ここは俺たちが命に代えても守ります!」

村長やタロウをはじめとする警備隊の若者たちが、力強くそう言ってくれる。俺たちが留守の間、この楽園を守るのは彼ら自身なのだ。その自覚が彼らを一層たくましく見せていた。

俺は仲間たちと共に、その温かい声援の中心に立っていた。
俺たちの出で立ちは、およそ世界の危機に立ち向かう英雄の一行には見えなかっただろう。

俺はいつもの旅人の服に、動きやすい革のブーツ。ルナリエルから貰った黒曜石のブローチだけが胸元で静かに輝いている。

セレスティアは純白の法衣に銀の杖。
ルナリエリは森の色を写したような軽装の鎧に、愛剣【月穿】。
アイリスは竜の鱗を模した革鎧を身にまとい、その背後には翼を休めたフレアが控えている。
ソフィアは星空を思わせる深い青のローブをまとい、その手には古めかしい魔導書。
そしてダリウスは、飾り気のない鋼の鎧にその背に長剣を負っている。

俺を含めて六人と一頭。
それが人類の存亡をかけた戦いに挑む、俺たちのパーティーの全てだった。

だがその場にいる誰もが、この少数精鋭の部隊が一国の軍隊にも匹敵する、いや、それを遥かに凌駕するほどの力を秘めていることを疑ってはいなかった。

俺は村人たちに向き直り、代表として別れの言葉を告げた。

「みんな、心配しないでくれ。俺たちには最強の仲間がいる。必ず平和な世界を取り戻して、この場所に帰ってくる」

俺は一度言葉を切ると、仲間たちの顔を見回した。

「そして俺たちが留守の間、このエデンを頼んだぞ。ここは俺たち全員のかけがえのない故郷だ」

その言葉に村人たちから、地鳴りのような雄叫びが上がった。

「「「おおおおおおっ!」」」

俺はその声援を背に、仲間たちに向かって頷いた。

「――行こう」

その一言を合図に、俺たちの最初で最後になるかもしれない、世界を救うための旅が始まった。

俺たちは徒歩では行かない。王都までの道筋はすでにヴラドの呪詛によって、危険地帯と化している可能性がある。時間は一刻も惜しかった。

「フレア!」

アイリスが快活な声を上げる。その合図に、フレアが大きく翼を広げその巨体を広場に横たえた。

「みんな、乗って!」

俺たちは次々と、フレアの広い背中へと乗り込んでいった。六人を乗せても、フレアの背中はまだ余裕があった。

「さあ、出発だ! 目指すは王都アークライト! 全速力でお願いね、フレア!」

「グルルルルルルッ!」

フレアは力強い咆哮で応えると、大地を強く蹴った。
巨大な翼が一度、大きく風をはらむ。

次の瞬間、俺たちの身体は強烈なGと共に空へと撃ち出された。

「うおおおおおっ!」

眼下に、俺たちの愛する楽園エデンが急速に小さくなっていく。手を振る村人たちの姿が豆粒のようになっていく。

俺たちは東へ。王都のある方角へ。
呪詛の闇が渦巻く世界の中心へと、一直線に突き進んでいった。

フレアの速度は、王国騎士団の飛竜の数倍はあろうかというほどの驚異的なものだった。眼下の景色が、まるで川の流れのように後方へと過ぎ去っていく。

空を飛ぶ巨大な赤い竜。
その背に乗る六人の英雄たち。

それはまるで古の神話の一場面が、現実世界に現出したかのような幻想的な光景だった。

俺は頬を打つ強風の中で、強く決意を固めていた。

必ず帰ってくる。
仲間たちと、そして平和になった世界と共に。

この、俺たちの故郷エデンへと。

最強のパーティーは今、静かに出陣した。
世界の誰もがその存在を知らない。
だが彼らこそが、この絶望の時代に灯された人類最後の、そして最大の希望の光であるということを運命だけが知っていた。
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