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第11話 噂の渦中で
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フォーラムの喧騒を、俺はスマホでも見るかのような気軽さで眺めていた。
ログアウトすれば現実世界に戻れるが、俺はまだこの世界の空気を吸っていたかった。特に、大きな「仕事」を終えた後は。
【速報】最強ギルド『ラグナロク』、隠しダンジョンで謎のプレイヤーに敗走か!?
スレッドを開くと、そこは憶測と興奮の坩堝だった。
『ラグナロク』のメンバーと思われる人物の断片的な書き込み、それを元にした考察班の推理、野次馬たちの無責任な煽り。情報が錯綜し、事実と虚構が入り混じって、巨大な物語が勝手に紡がれていく。
『マジかよ、あのラグナロクが?』
『先行してた「マコト」って奴、何者だよ。どっかのトップギルドのエースのサブキャラか?』
『いや、目撃情報だと初期装備だったらしいぞ。それでラグナロクを出し抜いたってんなら、チート確定だろ』
『黒いノイズの化け物って何だよ。新種のモンスター?』
『ラグナロクの何人かがヤバいデバフ食らって、聖女様の特殊クエストじゃないと治せないらしい。マコトって奴がその化け物を呼び出したんじゃないのか?』
悪質なチーター、未知のスキルの使い手、新イベントのキーパーソン。
俺の評価は、スレッドを読む人々の想像力によって、刻一刻と変化していた。
面白いのは、誰一人として、俺がシステムの穴、すなわち「バグ」を利用しているという真実にたどり着いていないことだ。彼らにとって、バグは忌むべきエラーであり、攻略の対象とはなり得ない。その思考の壁が、俺という存在を覆い隠す、絶好の隠れ蓑になっていた。
「まあ、どうでもいいか」
俺はウィンドウを閉じ、立ち上がった。
他人が俺をどう評価しようと、俺のやることは変わらない。
俺はただ、この世界の「理」を知りたいだけだ。
俺は再び、『始まりの街・アルモニカ』の街門をくぐった。
ダンジョンに潜る前とは、街の雰囲気が明らかに違っていた。
すれ違うプレイヤーたちが、俺のアバター名『マコト』と、その貧相な初期装備を見て、ヒソヒソと囁きを交わしている。好奇、警戒、嫉妬、様々な感情がごちゃ混ぜになった視線が、針のように突き刺さる。
「おい、あれって……」
「フォーラムで噂の……」
「うわ、マジで初期装備じゃん。どう見ても雑魚なのに……」
面倒極まりない。
これでは、これまでのように人知れずNPCのAIバグを探すなんて真似はできそうにない。俺の平穏なバグハントライフは、どうやら本当に終わりを告げたらしい。
舌打ちしながら人混みを抜けようとした、その時だった。
ピロン、と軽快な電子音が鳴り、メッセージの受信を告げるウィンドウが開いた。
差出人は、フレンドリストにたった一人だけ登録されている名前。
『リリィ:マコトさん! 今、街にいますか!?』
そのメッセージは、どこか切羽詰まったような響きを持っていた。
俺が『はい』とだけ簡潔に返信すると、すぐに次のメッセージが届く。
『リリィ:フォーラム見ました! ラグナロクと揉めたって……それに、変なモンスターにも襲われたって……! 大丈夫なんですか!? 怪我とか、してませんか!?』
矢継ぎ早に送られてくる心配の言葉。
文面から、彼女が本気で慌てているのが伝わってくる。
俺は少しだけ考える。この状況を、彼女にどう説明するべきか。
真実を話すわけにはいかない。だが、嘘をつくのも性に合わなかった。
『マコト:問題ない。全部、終わったことだ』
俺は、当たり障りのない事実だけを返した。
すぐに、リリィから返信が来る。
『リリィ:よかった……。でも、心配です! 今、どこにいますか? すぐ行きます!』
その有無を言わせぬ勢いに、俺は少しだけ面食らった。
断ることもできた。だが、なぜか、その申し出を無下に断る気にはなれなかった。
俺は自分の現在地、西地区の裏通りにある広場の座標を送った。
数分後、人混みをかき分けるようにして、白いヒーラーローブがこちらに走ってくるのが見えた。
リリィだった。
彼女は俺の姿を見つけると、ほっとしたように表情を緩め、駆け寄ってきた。
「マコトさん!」
息を切らせながら、彼女は俺の顔を下から上まで心配そうに眺める。
「よかった、本当に無事で……。フォーラムにはひどいことも書かれてたから……マコトさんがチーターだとか、みんなに迷惑をかけてるとか……」
「事実はどうとでも捻じ曲げられる。ネットなんてそんなものだ」
「そう、ですけど……!」
リリィは悔しそうに唇を噛んだ。
「でも、私は信じてますから! マコトさんは、悪い人じゃないって。あの時、私を助けてくれたみたいに、きっと何か理由があったんですよね?」
真っ直ぐな瞳が、俺を射抜く。
その純粋な信頼は、少しだけ、居心地が悪かった。同時に、心のどこかが温かくなるような、奇妙な感覚もあった。
「……理由、か。まあ、そんなところだ」
俺は曖昧に答え、話題を変える。
「それより、あんたこそ大丈夫なのか。パーティは見つかったのか?」
「あ、はい! 親切な人たちに拾ってもらって、少しだけレベルも上がったんです。……でも、マコトさんの噂が広まってから、ちょっとだけ、パーティの雰囲気が……」
リリィは言い淀んだ。
俺とフレンドであることが、彼女の足を引っ張っているのかもしれない。チーターと繋がりがあるプレイヤー。そう見られても仕方がない状況だ。
「なら、フレンドは解除した方がいい。あんたに迷惑がかかる」
俺がそう提案すると、リリィは首をぶんぶんと横に振った。
「嫌です! 絶対に嫌です!」
その声は、彼女にしては珍しく、強い拒絶の響きを帯びていた。
「マコトさんは、私の恩人です。周りの噂だけで、そんなことできません。それに……」
彼女は少し俯いて、もじもじと続けた。
「それに、また、一緒に冒険したい、ですから……」
その言葉に、俺は返す言葉を失った。
この少女の思考回路は、俺がこれまで学んできたどんなプログラミング言語よりも、複雑で、理解不能だった。
その頃、街の最上級区画にある荘厳な建物――『ラグナロク』のギルドハウスでは、重苦しい空気が漂っていた。
円卓を囲むのは、ギルドマスター・ヴォルフガングと、彼の腹心である幹部たち。
ダンジョンから帰還した彼らは、すぐに例の状態異常の解析にあたっていた。
「――結論が出た」
ギルド所属の、高名なアルケミスト(錬金術師)が口を開いた。
「この【データ汚染】は、呪いの一種だ。通常の治癒魔法やアイテムでは効果がない。解除するには、大聖堂の聖女様から直接受けることができる特殊クエスト『聖別の儀』をクリアするしかない。しかも、儀式には高価な触媒が多数必要となる」
その報告に、幹部たちは呻き声を上げた。
「なんて面倒なデバフだ……」
「被害者は12名。全員分の触媒を集めるとなると、ギルドの予算にも響くぞ」
「問題は、それだけではない」
ヴォルフガントが、冷たい声で続けた。
「あの『黒いバグ』の正体だ。我々がこれまで戦ってきた、どんなモンスターとも違う。世界の法則そのものを無視する、絶対的な拒絶の力。あれがもし、街中や、重要なクエストポイントで現れたらどうなる? 我々では、足止めすることすらできん」
彼の言葉に、誰もが沈黙した。
最強を自負する彼らが、初めて味わう無力感。それが、ギルド全体に重くのしかかっていた。
「そして……プレイヤー『マコト』」
ヴォルフガングが、その名を口にする。
「彼が、あの黒いバグを呼び出したのか、それとも、たまたま遭遇しただけなのか。それはまだ分からん。だが、奴だけが、あのバグに干渉し、消滅させることができた。これは事実だ」
彼は円卓に肘をつき、指を組んだ。
「奴の持つ、あの黒い魔書……。あれが鍵だ。我々は、マコトを裁くべき『悪』として追っていたが、考えを改める必要があるかもしれん」
「まさか、ヴォルフ!奴と手を組むとでも!?」
「それはありえん」
ヴォルフガングは即座に否定した。
「奴のやり方は、我々の信条とは相容れない。だが、無視することもできん。――これより、『ラグナロク』は二つのチームを編成する。一つは、黒いバグの目撃情報を集め、その正体と目的を探る調査隊。もう一つは、プレイヤー『マコト』を24時間体制で監視し、その行動と能力を分析する追跡隊だ」
彼の瞳には、もはや私怨の色はなかった。
ギルドの、そしてこの世界の未来を見据える、王の目だった。
俺は、そんな大掛かりな監視体制が敷かれようとしていることなど知る由もなく、リリィと別れた後、宿屋の一室に籠っていた。
ベッドの上に腰を下ろし、『バグズ・グリモワール』を再び開く。
黒いバグを喰らったページ。そこに記された『ノア』の名と、いくつかのキーワード。
この魔書は、ただバグをスキルに変えるだけではない。喰らったバグの情報を記録し、その根源へと俺を導こうとしているかのようだ。
「……手がかりが、必要だな」
俺はアイテムストレージから、ダンジョンのボスがドロップした『古びた設計図』を取り出した。
羊皮紙に描かれた、複雑な水道の図面。だが、肝心な注釈の部分は、見たこともない奇妙な文字で書かれていて、全く読むことができない。
『特殊なインクで書かれており、普通の人間には読むことができない』
説明文の通りだ。
「普通の人間には、か」
その一文が、俺の思考に引っかかった。
ならば、「普通ではない人間」なら、読める可能性があるということか。
例えば、歴史学者や、古代文字の研究家、あるいは……錬金術師のような、特殊な知識を持つNPC。
俺の脳裏に、一つの光明が差した。
街には、様々な職業のNPCがいる。彼らのAIに【ゴースト・プロンプト】で干渉すれば、この設計図を解読するヒントが得られるかもしれない。
平穏なバグ探しは終わった。
だが、代わりに、もっと巨大で、刺激的な謎が目の前にぶら下がっている。
俺は、思わず口の端を吊り上げた。
世界の裏側に潜む『ノア』というハッカー。そして、それを追う最強ギルド『ラグナロク』。
面白いじゃないか。
この世界の本当の姿を、俺が丸裸にしてやる。
俺の新たな探求は、この一枚の設計図から始まる。
ログアウトすれば現実世界に戻れるが、俺はまだこの世界の空気を吸っていたかった。特に、大きな「仕事」を終えた後は。
【速報】最強ギルド『ラグナロク』、隠しダンジョンで謎のプレイヤーに敗走か!?
スレッドを開くと、そこは憶測と興奮の坩堝だった。
『ラグナロク』のメンバーと思われる人物の断片的な書き込み、それを元にした考察班の推理、野次馬たちの無責任な煽り。情報が錯綜し、事実と虚構が入り混じって、巨大な物語が勝手に紡がれていく。
『マジかよ、あのラグナロクが?』
『先行してた「マコト」って奴、何者だよ。どっかのトップギルドのエースのサブキャラか?』
『いや、目撃情報だと初期装備だったらしいぞ。それでラグナロクを出し抜いたってんなら、チート確定だろ』
『黒いノイズの化け物って何だよ。新種のモンスター?』
『ラグナロクの何人かがヤバいデバフ食らって、聖女様の特殊クエストじゃないと治せないらしい。マコトって奴がその化け物を呼び出したんじゃないのか?』
悪質なチーター、未知のスキルの使い手、新イベントのキーパーソン。
俺の評価は、スレッドを読む人々の想像力によって、刻一刻と変化していた。
面白いのは、誰一人として、俺がシステムの穴、すなわち「バグ」を利用しているという真実にたどり着いていないことだ。彼らにとって、バグは忌むべきエラーであり、攻略の対象とはなり得ない。その思考の壁が、俺という存在を覆い隠す、絶好の隠れ蓑になっていた。
「まあ、どうでもいいか」
俺はウィンドウを閉じ、立ち上がった。
他人が俺をどう評価しようと、俺のやることは変わらない。
俺はただ、この世界の「理」を知りたいだけだ。
俺は再び、『始まりの街・アルモニカ』の街門をくぐった。
ダンジョンに潜る前とは、街の雰囲気が明らかに違っていた。
すれ違うプレイヤーたちが、俺のアバター名『マコト』と、その貧相な初期装備を見て、ヒソヒソと囁きを交わしている。好奇、警戒、嫉妬、様々な感情がごちゃ混ぜになった視線が、針のように突き刺さる。
「おい、あれって……」
「フォーラムで噂の……」
「うわ、マジで初期装備じゃん。どう見ても雑魚なのに……」
面倒極まりない。
これでは、これまでのように人知れずNPCのAIバグを探すなんて真似はできそうにない。俺の平穏なバグハントライフは、どうやら本当に終わりを告げたらしい。
舌打ちしながら人混みを抜けようとした、その時だった。
ピロン、と軽快な電子音が鳴り、メッセージの受信を告げるウィンドウが開いた。
差出人は、フレンドリストにたった一人だけ登録されている名前。
『リリィ:マコトさん! 今、街にいますか!?』
そのメッセージは、どこか切羽詰まったような響きを持っていた。
俺が『はい』とだけ簡潔に返信すると、すぐに次のメッセージが届く。
『リリィ:フォーラム見ました! ラグナロクと揉めたって……それに、変なモンスターにも襲われたって……! 大丈夫なんですか!? 怪我とか、してませんか!?』
矢継ぎ早に送られてくる心配の言葉。
文面から、彼女が本気で慌てているのが伝わってくる。
俺は少しだけ考える。この状況を、彼女にどう説明するべきか。
真実を話すわけにはいかない。だが、嘘をつくのも性に合わなかった。
『マコト:問題ない。全部、終わったことだ』
俺は、当たり障りのない事実だけを返した。
すぐに、リリィから返信が来る。
『リリィ:よかった……。でも、心配です! 今、どこにいますか? すぐ行きます!』
その有無を言わせぬ勢いに、俺は少しだけ面食らった。
断ることもできた。だが、なぜか、その申し出を無下に断る気にはなれなかった。
俺は自分の現在地、西地区の裏通りにある広場の座標を送った。
数分後、人混みをかき分けるようにして、白いヒーラーローブがこちらに走ってくるのが見えた。
リリィだった。
彼女は俺の姿を見つけると、ほっとしたように表情を緩め、駆け寄ってきた。
「マコトさん!」
息を切らせながら、彼女は俺の顔を下から上まで心配そうに眺める。
「よかった、本当に無事で……。フォーラムにはひどいことも書かれてたから……マコトさんがチーターだとか、みんなに迷惑をかけてるとか……」
「事実はどうとでも捻じ曲げられる。ネットなんてそんなものだ」
「そう、ですけど……!」
リリィは悔しそうに唇を噛んだ。
「でも、私は信じてますから! マコトさんは、悪い人じゃないって。あの時、私を助けてくれたみたいに、きっと何か理由があったんですよね?」
真っ直ぐな瞳が、俺を射抜く。
その純粋な信頼は、少しだけ、居心地が悪かった。同時に、心のどこかが温かくなるような、奇妙な感覚もあった。
「……理由、か。まあ、そんなところだ」
俺は曖昧に答え、話題を変える。
「それより、あんたこそ大丈夫なのか。パーティは見つかったのか?」
「あ、はい! 親切な人たちに拾ってもらって、少しだけレベルも上がったんです。……でも、マコトさんの噂が広まってから、ちょっとだけ、パーティの雰囲気が……」
リリィは言い淀んだ。
俺とフレンドであることが、彼女の足を引っ張っているのかもしれない。チーターと繋がりがあるプレイヤー。そう見られても仕方がない状況だ。
「なら、フレンドは解除した方がいい。あんたに迷惑がかかる」
俺がそう提案すると、リリィは首をぶんぶんと横に振った。
「嫌です! 絶対に嫌です!」
その声は、彼女にしては珍しく、強い拒絶の響きを帯びていた。
「マコトさんは、私の恩人です。周りの噂だけで、そんなことできません。それに……」
彼女は少し俯いて、もじもじと続けた。
「それに、また、一緒に冒険したい、ですから……」
その言葉に、俺は返す言葉を失った。
この少女の思考回路は、俺がこれまで学んできたどんなプログラミング言語よりも、複雑で、理解不能だった。
その頃、街の最上級区画にある荘厳な建物――『ラグナロク』のギルドハウスでは、重苦しい空気が漂っていた。
円卓を囲むのは、ギルドマスター・ヴォルフガングと、彼の腹心である幹部たち。
ダンジョンから帰還した彼らは、すぐに例の状態異常の解析にあたっていた。
「――結論が出た」
ギルド所属の、高名なアルケミスト(錬金術師)が口を開いた。
「この【データ汚染】は、呪いの一種だ。通常の治癒魔法やアイテムでは効果がない。解除するには、大聖堂の聖女様から直接受けることができる特殊クエスト『聖別の儀』をクリアするしかない。しかも、儀式には高価な触媒が多数必要となる」
その報告に、幹部たちは呻き声を上げた。
「なんて面倒なデバフだ……」
「被害者は12名。全員分の触媒を集めるとなると、ギルドの予算にも響くぞ」
「問題は、それだけではない」
ヴォルフガントが、冷たい声で続けた。
「あの『黒いバグ』の正体だ。我々がこれまで戦ってきた、どんなモンスターとも違う。世界の法則そのものを無視する、絶対的な拒絶の力。あれがもし、街中や、重要なクエストポイントで現れたらどうなる? 我々では、足止めすることすらできん」
彼の言葉に、誰もが沈黙した。
最強を自負する彼らが、初めて味わう無力感。それが、ギルド全体に重くのしかかっていた。
「そして……プレイヤー『マコト』」
ヴォルフガングが、その名を口にする。
「彼が、あの黒いバグを呼び出したのか、それとも、たまたま遭遇しただけなのか。それはまだ分からん。だが、奴だけが、あのバグに干渉し、消滅させることができた。これは事実だ」
彼は円卓に肘をつき、指を組んだ。
「奴の持つ、あの黒い魔書……。あれが鍵だ。我々は、マコトを裁くべき『悪』として追っていたが、考えを改める必要があるかもしれん」
「まさか、ヴォルフ!奴と手を組むとでも!?」
「それはありえん」
ヴォルフガングは即座に否定した。
「奴のやり方は、我々の信条とは相容れない。だが、無視することもできん。――これより、『ラグナロク』は二つのチームを編成する。一つは、黒いバグの目撃情報を集め、その正体と目的を探る調査隊。もう一つは、プレイヤー『マコト』を24時間体制で監視し、その行動と能力を分析する追跡隊だ」
彼の瞳には、もはや私怨の色はなかった。
ギルドの、そしてこの世界の未来を見据える、王の目だった。
俺は、そんな大掛かりな監視体制が敷かれようとしていることなど知る由もなく、リリィと別れた後、宿屋の一室に籠っていた。
ベッドの上に腰を下ろし、『バグズ・グリモワール』を再び開く。
黒いバグを喰らったページ。そこに記された『ノア』の名と、いくつかのキーワード。
この魔書は、ただバグをスキルに変えるだけではない。喰らったバグの情報を記録し、その根源へと俺を導こうとしているかのようだ。
「……手がかりが、必要だな」
俺はアイテムストレージから、ダンジョンのボスがドロップした『古びた設計図』を取り出した。
羊皮紙に描かれた、複雑な水道の図面。だが、肝心な注釈の部分は、見たこともない奇妙な文字で書かれていて、全く読むことができない。
『特殊なインクで書かれており、普通の人間には読むことができない』
説明文の通りだ。
「普通の人間には、か」
その一文が、俺の思考に引っかかった。
ならば、「普通ではない人間」なら、読める可能性があるということか。
例えば、歴史学者や、古代文字の研究家、あるいは……錬金術師のような、特殊な知識を持つNPC。
俺の脳裏に、一つの光明が差した。
街には、様々な職業のNPCがいる。彼らのAIに【ゴースト・プロンプト】で干渉すれば、この設計図を解読するヒントが得られるかもしれない。
平穏なバグ探しは終わった。
だが、代わりに、もっと巨大で、刺激的な謎が目の前にぶら下がっている。
俺は、思わず口の端を吊り上げた。
世界の裏側に潜む『ノア』というハッカー。そして、それを追う最強ギルド『ラグナロク』。
面白いじゃないか。
この世界の本当の姿を、俺が丸裸にしてやる。
俺の新たな探求は、この一枚の設計図から始まる。
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