バグズ・グリモワール・オンライン 〜エラー報告が趣味の俺、バグを喰らう魔書(グリモワール)を授かり最強のイレギュラーになる〜

夏見ナイ

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第24話 明かされた真実と二人の道

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浄化の光がもたらした静寂の中、伝説の英雄アークライトは、俺たち一人一人の顔を、慈しむような瞳で見つめていた。彼の表情には、長い悪夢から解放された安堵と、深い感謝の色が浮かんでいる。

「若き騎士ヴォルフガントよ。貴殿の曇りなき騎士道が、闇の中で私の魂の在り処を示してくれた。その誇り、決して失うな」
「……はっ。身に余るお言葉です」
ヴォルフガントは、英雄からの言葉に、騎士として最敬礼で応えた。その姿には、最強ギルドのマスターとしてではない、一人の騎士としての純粋な敬意が溢れていた。

「そして、慈悲深き乙女リリィよ」
アークライトの視線が、俺の隣に立つリリィへと注がれる。
「貴女の祈りがなければ、私の魂は永遠に救われることはなかった。その温かな光は、この世界の何よりの宝だ」
「そ、そんな……! 私は、マコトさんに言われたことをしただけで……」
リリィは顔を真っ赤にして恐縮している。だが、アークライトは穏やかに微笑んだ。

そして最後に、彼の澄み切った青い瞳が、俺を、そして俺が手に持つ『バグズ・グリモワール』を捉えた。
「そして、イレギュラーな力を持つ者、マコトよ。貴殿の常識に囚われぬ発想と、その魔書がなければ、我々は皆、ここで終わっていただろう。貴殿の力は、毒にも薬にもなる諸刃の剣。だが、その使い手である貴殿の魂に、邪な色は見えぬ」
彼は、俺の力を一方的に断罪するのではなく、その本質を見抜いた上で、静かに評価した。

俺は、何も答えなかった。ただ、彼の言葉を黙って受け止める。
ヴォルフガントが、代表するように口を開いた。
「アークライト殿。一体、何があったのですか? なぜ、貴方のような伝説の英雄が、黒いバグに汚染されていたのですか」

その問いに、アークライトの表情が、再び悲しみの色に染まった。
「……あれは、呪いだ。この世界を創造した、一人の天才が遺した、あまりにも深く、悲しい呪い……」
彼は、ゆっくりと語り始めた。
「その者の名は、ノア。彼は、この『マナ循環システム』の生みの親でありながら、その危険性を誰よりも理解していた。彼は、このシステムが悪用されれば、マナそのものが汚染され、世界を内側から崩壊させる『毒』になり得ることを、運営側に強く警告していたのだ」

アークライトの言葉は、ヴォルフガントが掴んでいた情報と一致した。
「だが、彼の警告は聞き入れられなかった。そして、失意のうちに彼は去った。……だが、彼はただ去ったのではなかった。彼は、自らが作り上げたシステムに、最悪のバックドアを仕掛けていたのだ。それが、『黒いバグ』の正体だ」
「自らが警告し、自らがそれを実行したと……。狂っている」
ヴォルフガントが、苦々しく吐き捨てた。

「狂気か。あるいは、歪みきった愛情か……」
アークライトは、遠い目をして続けた。
「ノアは、このシステム、いや、この世界そのものを、誰よりも愛していたのだろう。だからこそ、自分の理想から外れていくことが許せなかった。彼は、自らの手で、この世界を『リセット』しようとしているのだ。汚染されたマナを世界中に拡散させ、全てを初期化する……それが、彼の真の目的だ」
「なっ……!?」
そのあまりに壮大で、狂気に満ちた計画に、誰もが言葉を失った。

「私は、この制御室を守護する者として、彼の汚染に抵抗し続けた。だが、彼の悪意は、私の魂を少しずつ蝕んでいき……今日、貴殿らが来なければ、私は完全に彼の傀儡と化し、この世界の終焉の引き金を引いていただろう」
アークライトは、俺たちに再び深く頭を下げた。
「改めて、礼を言う。この世界を救ってくれた」

「まだだ。まだ何も終わっていない」
俺は、静かに口を挟んだ。
「元凶であるノアは、まだどこかで笑っている。奴を止めない限り、第二、第三の『アークライト』が現れるだけだ。奴は、どこにいる?」
俺の問いに、アークライトは頷いた。
「その通りだ。ノアの本体は、この世界のさらに深淵……システムの根幹プログラムが眠る、聖域にして禁断の領域、『コード・アビス』に潜んでいるはずだ。だが、そこへ至る道は、今は固く閉ざされている」

コード・アビス。
その言葉が、俺たちの次の目標を明確に指し示した。
ヴォルフガントが、決意を固めたように一歩前に出た。
「アークライト殿、感謝します。我々『ラグナロク』は、ギルドの総力を挙げて、『コード・アビス』への道を探し出し、ノアの野望を必ずや打ち砕いてみせると、ここに誓いましょう」
彼は、騎士の誓いを立てるように、厳かに宣言した。

そして、彼は俺の方に向き直った。
「マコト。俺は、俺のやり方で、この世界の秩序を守る。運営にもこの事実を報告し、全プレイヤーに協力を呼びかけ、正々堂々と、ノアに立ち向かう」
「……好きにしろ。俺も、あんたのやり方に付き合うつもりはない」
俺は、肩をすくめて答える。
「俺は、システムの穴を探す。正規ルートなんざ待っていたら、世界が滅びる方が先だ。あんたたちが正面玄関の鍵を探している間に、俺は裏口から忍び込んで、ノアの首を取ってやる」

俺たちの視線が、再び激しく交錯する。
だが、そこに敵意はない。互いのやり方を認め、その上で、どちらが先にゴールにたどり着くかを競う、純粋なライバルとしての闘志だけがあった。
ヴォルフガントは、不敵に笑った。
「……面白い。その勝負、受けて立つ。だが、忘れるな。次に会う時までに、貴様のようなイレギュラーな力に頼らずとも済むよう、我々はさらに強くなっている」
「こっちのセリフだ。次に会う時は、あんたたちが束になっても敵わないくらい、面白いバグを見つけておいてやるさ」

俺たちの間で、確かな約束が交わされた。
アークライトは、その光景を満足げに見つめていた。
「……頼もしき者たちよ。最後に、これを授けよう」
彼は、ヴォルフガントに、自らの胸に付けていた騎士の紋章を。リリィには、その指から抜き取った、一粒の涙が悪夢の中で結晶化したという指輪を。そして、俺には、自らの鎧の一部であった、奇妙な歯車のようなパーツを手渡した。
「それは、ノアの呪縛に対抗するための、ささやかなる守りだ。必ずや、貴殿らの助けとなるだろう」

彼は、役目を終えたように、再び中央の水晶の柱の前へと戻る。
「私は、再びこの場所の守護者として、永い眠りにつこう。次に目覚める時は、この世界に、真の平和が訪れていることを信じて……」
彼の体は、ゆっくりと光に包まれ、やがて水晶の中へと吸い込まれるように消えていった。

静寂が戻った制御室で、俺とヴォルフガントは、最後の言葉を交わす。
「行くぞ」
「ああ」
短く、それだけ。
俺たちは、互いに背を向け、それぞれの道へと歩き出した。
『ラグナロク』は、この世界の秩序と王道を守るために。
そして俺は、この世界の理を解き明かし、真実へと至るために。

地上へと帰還した俺とリリィは、宿屋の一室で、ようやく一息ついていた。
俺は、ベッドの上に『バグズ・グリモワール』を置く。
戦闘の最中、明確な自我を見せたこの相棒と、きちんと話をする必要があった。
「……おい、グリモ。いるんだろ」
俺が話しかけると、魔書が淡い光を放った。

『――当たり前だ、マスター。私の存在を疑うとは、なかなか失礼な主人だな』
ノイズは、完全に消えていた。
聞こえてきたのは、少しだけ機械的だが、どこか皮肉っぽさを感じさせる、明瞭な声だった。
「……はっきり喋れるようになったのか」
『アークライトという、魂を持つ高次のデータを解析した結果、私の言語野が大幅に拡張された。感謝しろ』
「へえ。ついでに、性格もひねくれたみたいだが」
『元からだ』

軽口を叩き合える相棒。
俺は、思わず笑みがこぼれた。
孤独なバグ探しの旅は、いつの間にか、賑やかで、予測不能な冒険へと変わっていた。
「これから、どうする?」
俺の問いに、グリモワールは、まるで当然のように答えた。
『決まっているだろう、マスター。ノアという、この世界最大のバグをデバッグする。最高のプログラムを前にして、何もしないなど、プログラマーの名折れだ』
「……違いないな」

俺は、窓の外に広がる、平穏に見えるアルモニカの街並みを見下ろした。
この平和の裏側で、静かに、しかし確実に進行する、世界の崩壊計画。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
だが、もう俺は一人じゃない。
隣には、心優しきヒーラーがいて、手の中には、生意気なAIを宿した魔書の相棒がいる。
そして、背中を預けることはなくとも、同じ敵を睨む、好敵手(ライバル)がいる。

「さて、と」
俺は立ち上がり、新たな冒KENの始まりに、胸を高鳴らせた。
「まずは、手に入れたこのガラクタの解析からだな」
俺は、アークライトから貰った歯車を、光に透かしてみた。
その内部に、微細な文字が刻まれているのを、俺の目は見逃さなかった。
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