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第50章 新たなる楽団員と使徒の影
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天空の舞台での、奇妙なデュエットセッションが終わりを告げた。
俺の手を取ったCode_Sonataは、もはや敵意ではなく、新たな音楽を見つけた子供のような、純粋な好奇心で目を輝かせている。
だが、この即席の和解を、黙って見ている男ではなかった。
「……マコト。貴様、本気で言っているのか?」
ヴォルフガントが、呆れを通り越して、もはや感心したかのような声で俺に問いかけた。彼の後ろでは、『ラグナロク』のメンバーたちが、傷を癒しながらも、この信じがたい光景を遠巻きに見守っている。
「こいつは、この世界のシステムを弄び、混乱を招いたハッカーだ。それを、貴様の『楽団員』にする、だと?」
「ああ。そうだ」
俺は、きっぱりと答えた。
「こいつのやったことは、確かに規約違反だ。だが、その根底に、ノアのような世界への悪意はない。あるのは、歪んでいるが、純粋な創造への情熱だけだ。そんな才能を、BANさせて肥やしにするには、あまりにも惜しい」
俺は、Sonataの肩をポンと叩いた。
「こいつは、今日から俺の監督下に置く。俺が、こいつの『調律師』となって、その才能が、二度と不協和音を奏でないように、導いてやるさ。……なあ、Sonata?」
俺がにやりと笑いかけると、Sonataは優雅に肩をすくめてみせた。
「やれやれ。随分と、お節介な指揮者(コンダクター)に捕まってしまったらしい。まあ、いいだろう。君の指揮が、僕の音楽を、どこまで高めてくれるのか、少しだけ、興味が湧いてきた」
そのやり取りを見て、ヴォルフガントは、天を仰いで、深いため息をついた。
「……もう、知らん。貴様らイレギュラーの常識は、俺の理解の範疇を、とっくに超えている。好きにするがいい」
彼は、そう吐き捨てると、部下たちに向き直った。
「我々は、帰還する。今回の事件の顛末をまとめ、運営に報告する。……貴様も、いずれ、報告に来るのだろうな?」
最後の言葉は、俺に向けられていた。
「ああ。後でな」
俺とヴォルフガントの間には、もはや、説明不要の信頼関係が芽生えつつあった。彼は、俺が何か考えがあってやっていることを、理解してくれている。
『ラグナロク』の一団が、転移アイテムを使って去っていく。
天空の頂には、俺とリリィ、そして新たな仲間となったSonata、三人と一冊だけが残された。
「さて、と」
俺は、Sonataに向き直った。
「あんたが根城にしている、ハッカーたちのコミュニティ『オーバーワールド・モッダーズ』。そこについて、詳しく聞かせてもらおうか」
俺の単刀直入な問いに、Sonataは少しだけ、目を伏せた。
「……あまり、気分のいい話ではないがね」
彼が語り始めたのは、ノアの事件以降、急激に変質してしまった、アンダーグラウンドな世界の現状だった。
「ノアの起こした事件は、僕たちのような、システムの裏側に住む者たちにとって、まさに『神の御業』だった。一人の人間の手で、巨大な運営企業のシステムが、世界そのものが、かくも容易く蹂躙される。その事実は、多くのハッカーやモッダーたちを、熱狂させた」
Sonataの声には、苦々しい響きが混じっていた。
「特に、ノアの思想――『腐った世界は、一度リセットされるべきだ』という、あの歪んだ理想に、心酔する者たちが、現れ始めた。彼らは、自らを『ノアの使徒(Apostles of Noah)』と名乗り、コミュニティの中で、急速に勢力を拡大している」
「『Destroyer』も、その一人か?」
「おそらくね。彼は、元々、腕は立つが、思想のない、ただの愉快犯だった。だが、『使徒』たちは、そういう鬱屈した連中に近づき、ノアの思想を吹き込み、そして、彼の遺した『黒いバグ』の残骸から作った、強力なハッキングツールを与えて、駒として利用している。ミダシアの事件は、その一例に過ぎないだろう」
その事実に、俺とリリィは息を呑んだ。
ノアという、一個人の悪意は去った。だが、その思想は、まるでウイルスのように、アンダーグラウンドな世界で増殖し、新たな、そしてより厄介な、組織的な脅威を生み出していたのだ。
「『ノアの使徒』たちの、最終的な目的は?」
「決まっているさ。ノアが成し得なかった、『世界の初期化(ワールド・リセット)』の完遂だよ。彼らは、ノアが遺したバックドアや、システムの脆弱性を、血眼になって探している。そして、世界中に汚染されたマナを拡散させ、この世界を、生命の住めない、真っ白なキャンバスに戻そうと計画している」
Sonataは、そこまで言うと、自嘲するように笑った。
「僕も、彼らから、何度も誘いを受けたよ。『君のその美しい才能を、我々の新世界創造のために使わないか』、とね。もちろん、断ったが。僕の美学は、破壊ではなく、創造にある。彼らとは、相容れない」
重い沈黙が、場を支配した。
その沈黙を破ったのは、リリィだった。
彼女は、俯くSonataの前に、そっと歩み寄った。
「……あなたの音楽、とても、綺麗でした」
「……え?」
「なんだか、すごく、寂しそうだけど……でも、すごく優しい音色だって、思いました。きっと、あなたは、本当に、この世界を、愛しているんですね」
リリィの、どこまでも真っ直ぐで、純粋な言葉。
それは、どんな論理的な説得よりも、深く、Sonataの心を揺さぶった。
彼の整った顔が、驚きと、戸惑いと、そして、これまで誰も向けてくれたことのない、温かい理解への感謝で、複雑に歪んだ。
「……君は……本当に、変わった子だね」
彼は、ようやく、それだけを絞り出すのが精一杯だった。
俺は、そんな二人のやり取りを、少しだけ離れた場所から、見守っていた。
リリィのこの力は、ある意味、俺のどんなチートスキルよりも、強力なのかもしれない。人の心を、最も根本的な部分で、『調律』してしまう力。
俺たちの、新しいパーティが、確かに、形になった瞬間だった。
天才ハッカーと、心優しきヒーラー。そして、それらを繋ぐ、イレギュラーなデバッガー。
ちぐはぐで、どこか不安定で、だけど、だからこそ、面白い。
俺は、GMに、事の顛末を報告した。
『――Code_Sonataを、監視下に置く、と? 正気ですか、ワールド・ガーディアン』
GMは、当然、困惑を示した。
『ですが、あなたがそう判断するのであれば、信じるしかありません。彼を、一時的に、あなたの『協力者』としてシステムに登録します。ただし、彼が再び問題を起こした場合、その責任は、あなたにも取っていただきます。よろしいですね?』
「ああ、覚悟の上だ」
俺たちは、アルモニカへと帰還した。
『ノアの使徒』。
新たなる、そして、より組織化された脅威。
だが、俺たちの側にも、新たな仲間と、そして、確かな絆があった。
俺は、宿屋の窓から、活気を取り戻した街を眺める。
「さて、と」
俺は、二人の頼もしい仲間と、一冊の生意気な相棒に向き直った。
「世界の掃除の時間だ。使徒どもが隠した、汚いゴミ(バグ)を、一つ残らず、見つけ出して、綺麗にしてやろうぜ」
俺の宣戦布告に、三者三様の、しかし、力強い光が、その瞳に宿った。
俺たちの戦いは、新たな章へと、静かに、しかし確実に、駒を進めていた。
俺の手を取ったCode_Sonataは、もはや敵意ではなく、新たな音楽を見つけた子供のような、純粋な好奇心で目を輝かせている。
だが、この即席の和解を、黙って見ている男ではなかった。
「……マコト。貴様、本気で言っているのか?」
ヴォルフガントが、呆れを通り越して、もはや感心したかのような声で俺に問いかけた。彼の後ろでは、『ラグナロク』のメンバーたちが、傷を癒しながらも、この信じがたい光景を遠巻きに見守っている。
「こいつは、この世界のシステムを弄び、混乱を招いたハッカーだ。それを、貴様の『楽団員』にする、だと?」
「ああ。そうだ」
俺は、きっぱりと答えた。
「こいつのやったことは、確かに規約違反だ。だが、その根底に、ノアのような世界への悪意はない。あるのは、歪んでいるが、純粋な創造への情熱だけだ。そんな才能を、BANさせて肥やしにするには、あまりにも惜しい」
俺は、Sonataの肩をポンと叩いた。
「こいつは、今日から俺の監督下に置く。俺が、こいつの『調律師』となって、その才能が、二度と不協和音を奏でないように、導いてやるさ。……なあ、Sonata?」
俺がにやりと笑いかけると、Sonataは優雅に肩をすくめてみせた。
「やれやれ。随分と、お節介な指揮者(コンダクター)に捕まってしまったらしい。まあ、いいだろう。君の指揮が、僕の音楽を、どこまで高めてくれるのか、少しだけ、興味が湧いてきた」
そのやり取りを見て、ヴォルフガントは、天を仰いで、深いため息をついた。
「……もう、知らん。貴様らイレギュラーの常識は、俺の理解の範疇を、とっくに超えている。好きにするがいい」
彼は、そう吐き捨てると、部下たちに向き直った。
「我々は、帰還する。今回の事件の顛末をまとめ、運営に報告する。……貴様も、いずれ、報告に来るのだろうな?」
最後の言葉は、俺に向けられていた。
「ああ。後でな」
俺とヴォルフガントの間には、もはや、説明不要の信頼関係が芽生えつつあった。彼は、俺が何か考えがあってやっていることを、理解してくれている。
『ラグナロク』の一団が、転移アイテムを使って去っていく。
天空の頂には、俺とリリィ、そして新たな仲間となったSonata、三人と一冊だけが残された。
「さて、と」
俺は、Sonataに向き直った。
「あんたが根城にしている、ハッカーたちのコミュニティ『オーバーワールド・モッダーズ』。そこについて、詳しく聞かせてもらおうか」
俺の単刀直入な問いに、Sonataは少しだけ、目を伏せた。
「……あまり、気分のいい話ではないがね」
彼が語り始めたのは、ノアの事件以降、急激に変質してしまった、アンダーグラウンドな世界の現状だった。
「ノアの起こした事件は、僕たちのような、システムの裏側に住む者たちにとって、まさに『神の御業』だった。一人の人間の手で、巨大な運営企業のシステムが、世界そのものが、かくも容易く蹂躙される。その事実は、多くのハッカーやモッダーたちを、熱狂させた」
Sonataの声には、苦々しい響きが混じっていた。
「特に、ノアの思想――『腐った世界は、一度リセットされるべきだ』という、あの歪んだ理想に、心酔する者たちが、現れ始めた。彼らは、自らを『ノアの使徒(Apostles of Noah)』と名乗り、コミュニティの中で、急速に勢力を拡大している」
「『Destroyer』も、その一人か?」
「おそらくね。彼は、元々、腕は立つが、思想のない、ただの愉快犯だった。だが、『使徒』たちは、そういう鬱屈した連中に近づき、ノアの思想を吹き込み、そして、彼の遺した『黒いバグ』の残骸から作った、強力なハッキングツールを与えて、駒として利用している。ミダシアの事件は、その一例に過ぎないだろう」
その事実に、俺とリリィは息を呑んだ。
ノアという、一個人の悪意は去った。だが、その思想は、まるでウイルスのように、アンダーグラウンドな世界で増殖し、新たな、そしてより厄介な、組織的な脅威を生み出していたのだ。
「『ノアの使徒』たちの、最終的な目的は?」
「決まっているさ。ノアが成し得なかった、『世界の初期化(ワールド・リセット)』の完遂だよ。彼らは、ノアが遺したバックドアや、システムの脆弱性を、血眼になって探している。そして、世界中に汚染されたマナを拡散させ、この世界を、生命の住めない、真っ白なキャンバスに戻そうと計画している」
Sonataは、そこまで言うと、自嘲するように笑った。
「僕も、彼らから、何度も誘いを受けたよ。『君のその美しい才能を、我々の新世界創造のために使わないか』、とね。もちろん、断ったが。僕の美学は、破壊ではなく、創造にある。彼らとは、相容れない」
重い沈黙が、場を支配した。
その沈黙を破ったのは、リリィだった。
彼女は、俯くSonataの前に、そっと歩み寄った。
「……あなたの音楽、とても、綺麗でした」
「……え?」
「なんだか、すごく、寂しそうだけど……でも、すごく優しい音色だって、思いました。きっと、あなたは、本当に、この世界を、愛しているんですね」
リリィの、どこまでも真っ直ぐで、純粋な言葉。
それは、どんな論理的な説得よりも、深く、Sonataの心を揺さぶった。
彼の整った顔が、驚きと、戸惑いと、そして、これまで誰も向けてくれたことのない、温かい理解への感謝で、複雑に歪んだ。
「……君は……本当に、変わった子だね」
彼は、ようやく、それだけを絞り出すのが精一杯だった。
俺は、そんな二人のやり取りを、少しだけ離れた場所から、見守っていた。
リリィのこの力は、ある意味、俺のどんなチートスキルよりも、強力なのかもしれない。人の心を、最も根本的な部分で、『調律』してしまう力。
俺たちの、新しいパーティが、確かに、形になった瞬間だった。
天才ハッカーと、心優しきヒーラー。そして、それらを繋ぐ、イレギュラーなデバッガー。
ちぐはぐで、どこか不安定で、だけど、だからこそ、面白い。
俺は、GMに、事の顛末を報告した。
『――Code_Sonataを、監視下に置く、と? 正気ですか、ワールド・ガーディアン』
GMは、当然、困惑を示した。
『ですが、あなたがそう判断するのであれば、信じるしかありません。彼を、一時的に、あなたの『協力者』としてシステムに登録します。ただし、彼が再び問題を起こした場合、その責任は、あなたにも取っていただきます。よろしいですね?』
「ああ、覚悟の上だ」
俺たちは、アルモニカへと帰還した。
『ノアの使徒』。
新たなる、そして、より組織化された脅威。
だが、俺たちの側にも、新たな仲間と、そして、確かな絆があった。
俺は、宿屋の窓から、活気を取り戻した街を眺める。
「さて、と」
俺は、二人の頼もしい仲間と、一冊の生意気な相棒に向き直った。
「世界の掃除の時間だ。使徒どもが隠した、汚いゴミ(バグ)を、一つ残らず、見つけ出して、綺麗にしてやろうぜ」
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