悪役貴族? いえ、ただの合理主義者ですが何か? ~冷徹と呼ばれる俺の改革が、いつの間にか国を豊かにし聖女にまで懐かれる件~

夏見ナイ

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第51話:守旧派の崩壊

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謁見の間に転がる、夥しい数の金貨。
それは、アルフォンス王子派の地に落ちた権威とプライドの残骸だった。
国王エドワード四世は、玉座に座ったまましばらくの間目を閉じていた。息子が犯した、あまりにも大きな過ち。そして、目の前の少年が持つ、あまりにも恐ろしい力。その二つの重い事実が、老いた王の肩にずっしりと圧し掛かっていた。

やがて、彼はゆっくりと目を開けた。
その瞳には、もはや迷いの色はなかった。
王としての冷徹な決断の光が宿っていた。

「……衛兵」
国王の低く、しかし威厳に満ちた声が響いた。
「マードック子爵、ライオネル伯爵、及び、これに連座する者全員を捕らえよ。爵位を剥奪の上、全財産を没収。国家への反逆罪、及び公金横領罪の咎で、終身、辺境の鉱山へ送るものとする」

その裁定は、あまりにも厳しく、そして情け容赦のないものだった。
名前を呼ばれた貴族たちは、その場で崩れ落ち見苦しい命乞いを始めた。
「へ、陛下! お待ちください!」
「我らは、ただ王子殿下のために……!」
だが、国王は彼らに一瞥もくれなかった。衛兵たちが彼らの口を塞ぎ、罪人のように引きずっていく。
謁見の間は、彼らの情けない悲鳴と絶望の呻き声に包まれた。

そして最後に、国王の視線は呆然と立ち尽くす我が息子、アルフォンスへと注がれた。
「アルフォンス」
その声には、王としての厳しさと父親としての深い、深い悲しみが滲んでいた。
「お前は、あまりにも未熟だった。正義を語りながら、その実己の嫉妬とプライドのために卑劣な罠を仕掛けた。次期国王たる者、断じてあってはならぬことだ」

「父上……」
「お前には一ヶ月の王城内での謹慎を命じる。その間に己の犯した罪の重さを、そして真の王道を見つめ直すがいい。……よいな」
「……はい」
アルフォ-ンスは力なく頷くことしかできなかった。
彼は衛兵に連れられ、うなだれたまま謁見の間を後にした。その背中は、かつての輝かしい光を失い、ただ小さく見えた。

こうして、王都を二分していたアルフォンス王子率いる守旧派は、たった一日でその主要なメンバーを失い、事実上崩壊した。
それは、ゼノン・フォン・アークライトというたった一人の合理主義者が、王都の権力構造を根底からひっくり返した瞬間だった。

残された謁見の間で、国王は改めてゼノンと向き合った。
「……ゼノンよ。見事な返り討ちであった。だが、忘れるな。お前が我が息子を、そして我が国の貴族たちをここまで追い詰めたという事実をな」
その言葉は、称賛であり、同時に警告でもあった。
お前の力は認めよう。だが、その力はあまりにも危険すぎる、と。

「承知しております、陛下」
ゼノンは静かに頭を下げた。
「ですが、私はただ降りかかる火の粉を払ったに過ぎません。それ以上の意図はございません」
「……ふん。今はそうであろうな」
国王は意味深にそう言うと、疲れたように手を振った。
「下がれ。追って沙汰を下す」

ゼノンは一礼すると、静かに謁見の間を後にした。
彼の完璧な勝利だった。
だが、彼の表情に喜びや高揚の色はなかった。
彼の頭の中では、既にこの勝利がもたらす新たな「面倒事」の計算が始まっていた。



王城の一室。
謹慎を命じられたアルフォンスは、一人窓の外を眺めていた。
彼の心は、嵐が過ぎ去った後のように荒れ果てていた。
プライドは粉々に砕かれた。
信じてきた正義は、卑劣な陰謀によって自ら汚してしまった。
そして、何よりも彼を打ちのめしたのは、ゼノンのあの最後の言葉だった。
『このような者たちが国の中枢にいること。それこそが、この国の最大の脆弱性なのではありませんか?』

あの言葉は正しかった。
アルフォ-ンスは認めざるを得なかった。
自分は国を守ろうとしていたのではない。
ただ、自分が信じる古き良き美しい「秩序」を守りたかっただけだ。
そのためなら現実から目を背けることも厭わなかった。

ゼノンは違う。
彼は冷徹に、この国の現実を見つめていた。
腐敗した既得権益。
時代遅れの軍事思想。
そして、それらにしがみつく自分たちの愚かさ。
その全てを彼は正確に分析し、そして破壊しようとしている。
そのやり方は、あまりにも過激で非情だ。
だが、彼の言う「脆弱性」を放置すれば、この国がいずれ滅びるであろうことも、また事実だった。

(……俺は、間違っていたのか)
初めて、アルフォ-ンスの心に自分自身への深い疑念が芽生えた。
正義とは、一体何なのか。
国を守るとは、一体どういうことなのか。
ゼノン・フォン・アークライト。
あの男は自分にとって、不倶戴天の敵であるはずだった。
だが、今、アルフォンスは認めざるを得なかった。
あの男こそが、誰よりもこの国の未来を見据えているのかもしれない、と。
その、認めたくない事実が彼の心を引き裂くように苛んでいた。



ゼノンの華麗なる返り討ち。
そのニュースは、王都の貴族社会を震撼させた。
守旧派の劇的な崩壊。
それは、ゼノンという男を敵に回すことが何を意味するかを、全ての貴族たちに骨の髄まで理解させた。

彼への評価は、もはや「恐怖」と「畏怖」の二つしかなかった。
誰も彼に迂闊に近づこうとはしない。
彼の前では、家柄も権威も何の意味もなさない。
ただ、冷徹な論理と事実だけが全てを支配する。
ゼノン・フォン・アークライトの名は、王都において触れてはならない禁句のようになった。

当のゼノンは、そんな周囲の反応の変化を非常に好ましく思っていた。
(これで、ようやく静かになる)
彼は、屋敷の執務室でアークライト領から届いた最新の報告書に目を通していた。
敵対勢力は一掃された。
これで王都の面倒事も終わりだ。
早く自分の合理的で快適な領地へ帰りたい。
彼は心の底からそう願っていた。

だが、彼のそのささやかな願いは、数日後、国王からの新たな召喚状によって無残にも打ち砕かれることになる。

「ゼノン・フォン・アークライトに、新たな役職を与える……?」
グレイが信じられないという顔で、国王の書状を読み上げた。

ゼノンの眉間に、深い、深い皺が刻まれた。
彼の最も恐れていた事態。
彼の最も望まない展開。
勝利の代償として、彼はとてつもなく大きく、そして面倒な荷物を背負わされようとしていた。
彼の静かで平穏な日々は、どうやらまだ当分戻ってきそうになかった。
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