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第63話:情報戦の幕開け
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「全軍、突撃ィィィィッ!!」
グスタフ将軍の怒号を合図に。
ベルシュタイン王国軍一万五千は、まるで堰を切った濁流のように帝国軍の陣地へと殺到した。
彼らの瞳にはもはや恐怖も迷いもなかった。
あるのは同胞を蹂躙されたことへの燃え盛るような怒りと、民を守るという騎士としての純粋な義憤だけだった。
士気は最高潮に達していた。
「……来たか、愚か者どもめが」
帝国軍の陣地でその光景を見ていたヴァルガス将軍は、醜い笑みを浮かべた。
略奪行為は確かに褒められたものではない。
だが、そのおかげで亀のように閉じこもっていた敵をおびき出すことができた。
兵力差はこちらが上。
地の利もある。
まともに正面からぶつかり合えば、負けるはずがなかった。
「全軍、迎撃用意! あの時代遅れの騎士どもに、帝国軍の本当の恐ろしさを教えてやれ!」
帝国軍の兵士たちも槍を構え、鬨の声を上げる。
シルヴァ平原は今、まさに両軍の数万の兵士たちが激突する、血で血を洗う大戦場となろうとしていた。
だが、その瞬間。
戦場の誰もが予想だにしなかった事態が起こった。
森の中で静かにその時を待っていたゼノンが。
右手をすっと天に掲げた。
その手には赤い光を放つ小さな魔道具が握られている。
それが合図だった。
次の瞬間。
王国軍の後方に控えていたアークライト軍の荷馬車の隊列。
その分厚い布で覆われていた巨大な積荷が、一斉にその姿を現した。
現れたのは鉄と木で作られた巨大な筒。
魔術師たちが開発した王国軍の切り札。
長距離攻撃兵器『魔導砲』だった。
その数、二十門。
砲の周囲ではアークライト軍の砲兵たちが慌てることなく、淡々と作業を進めていた。
魔石からエネルギーを充填し、鉄の弾を装填し、そして照準を合わせていく。
彼らの動きは全てゼノンが作成したマニュアル通り。
無駄がなく、そして冷徹だった。
そして、彼らの耳に装着された小型の遠話の魔道具から。
ゼノンの静かな、しかし絶対的な命令が響き渡った。
『……目標、敵陣中央部。
弾種、榴散弾。
……撃て』
号令と共に。
二十門の魔導砲が、一斉に火を噴いた。
ゴオオオッ、という空気を引き裂くような轟音。
それはこの世界の誰もが聞いたことのない、破壊の音だった。
空を切り裂いて飛んでいく二十の鉄の塊。
それらは帝国軍の頭上で炸裂した。
そして中から無数の小さな鉄の散弾が、死の雨となって降り注いだ。
「……ぐ、あああああっ!?」
「何だ! 何が起きた!?」
帝国軍の陣地は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
天から降り注ぐ見えない刃。
それは鎧も盾も貫き、兵士たちの体を無慈悲に引き裂いていく。
何の前触れもなく隣にいた戦友が、血まみれの肉塊へと変わる。
そのあまりにも一方的な殺戮。
帝国兵たちは何が起きているのか理解できず、ただパニックに陥った。
「ば、馬鹿な……! どこからだ! どこから攻撃されているのだ!」
ヴァルガス将軍が、信じられないという顔で叫んだ。
攻撃はベルシュタイン軍の遥か後方から飛んできている。
あんな距離から攻撃できる兵器など存在するはずがない。
弓でも魔法でもない。
未知の力。
それは彼らの戦争の常識を完全に超えていた。
魔導砲の第二射、第三射が続けざまに帝国軍の陣地を蹂躙していく。
彼らの密集した陣形は格好の的だった。
指揮系統は完全に麻痺し、兵士たちはただ逃げ惑うだけだった。
そして、その地獄のような光景を。
突撃の途中で足を止めていた王国軍の兵士たちも、呆然と見つめていた。
「……あれは、何だ……」
「……神の怒りか……」
彼らにとっても、それは理解を超えた光景だった。
だが、彼らの耳にも遠話の魔道具を通じて司令官からの命令が届いていた。
それはゼノンがこの日のためにグレイを通じて全ての部隊長に密かに配らせていたものだった。
『……王国軍、全軍へ』
ゼノンの冷静な声が、全ての兵士たちの頭の中に直接響き渡る。
『敵は混乱している。今こそ好機だ。
だが、突撃するな。
各部隊は散開し、ゆっくりと前進。
敵を包囲し、圧力をかけろ。
抵抗する者は、マスケット銃で排除しろ。
繰り返す。これは戦闘ではない。
……ただの掃討だ』
その声はまるで神の声のようだった。
戦場の全てを見通し、勝利への道筋を指し示す絶対者の声。
王国軍の兵士たちの心から恐怖と混乱が消えていった。
代わりにそこに生まれたのは。
自分たちの司令官に対する絶対的な信頼と畏怖だった。
彼らはもはや怒りに任せて突撃する烏合の衆ではなかった。
一つの知性によって統率された、冷徹な狩人の集団へと変貌していた。
情報戦の幕は上がった。
遠話の魔道具による完璧な指揮系統の確立。
魔導砲という圧倒的な技術的優位性。
そして敵と味方の心理を完全に掌握した戦術。
ゼノンの描いたシナリオ通りに、戦場の全てが動いていく。
それはもはや戦争ではなかった。
一方的な蹂躙。
ゼノン・フォン・アークライトという合理主義者が仕掛けた、華麗で、そして無慈悲な情報戦の始まりだった。
グスタフ将軍の怒号を合図に。
ベルシュタイン王国軍一万五千は、まるで堰を切った濁流のように帝国軍の陣地へと殺到した。
彼らの瞳にはもはや恐怖も迷いもなかった。
あるのは同胞を蹂躙されたことへの燃え盛るような怒りと、民を守るという騎士としての純粋な義憤だけだった。
士気は最高潮に達していた。
「……来たか、愚か者どもめが」
帝国軍の陣地でその光景を見ていたヴァルガス将軍は、醜い笑みを浮かべた。
略奪行為は確かに褒められたものではない。
だが、そのおかげで亀のように閉じこもっていた敵をおびき出すことができた。
兵力差はこちらが上。
地の利もある。
まともに正面からぶつかり合えば、負けるはずがなかった。
「全軍、迎撃用意! あの時代遅れの騎士どもに、帝国軍の本当の恐ろしさを教えてやれ!」
帝国軍の兵士たちも槍を構え、鬨の声を上げる。
シルヴァ平原は今、まさに両軍の数万の兵士たちが激突する、血で血を洗う大戦場となろうとしていた。
だが、その瞬間。
戦場の誰もが予想だにしなかった事態が起こった。
森の中で静かにその時を待っていたゼノンが。
右手をすっと天に掲げた。
その手には赤い光を放つ小さな魔道具が握られている。
それが合図だった。
次の瞬間。
王国軍の後方に控えていたアークライト軍の荷馬車の隊列。
その分厚い布で覆われていた巨大な積荷が、一斉にその姿を現した。
現れたのは鉄と木で作られた巨大な筒。
魔術師たちが開発した王国軍の切り札。
長距離攻撃兵器『魔導砲』だった。
その数、二十門。
砲の周囲ではアークライト軍の砲兵たちが慌てることなく、淡々と作業を進めていた。
魔石からエネルギーを充填し、鉄の弾を装填し、そして照準を合わせていく。
彼らの動きは全てゼノンが作成したマニュアル通り。
無駄がなく、そして冷徹だった。
そして、彼らの耳に装着された小型の遠話の魔道具から。
ゼノンの静かな、しかし絶対的な命令が響き渡った。
『……目標、敵陣中央部。
弾種、榴散弾。
……撃て』
号令と共に。
二十門の魔導砲が、一斉に火を噴いた。
ゴオオオッ、という空気を引き裂くような轟音。
それはこの世界の誰もが聞いたことのない、破壊の音だった。
空を切り裂いて飛んでいく二十の鉄の塊。
それらは帝国軍の頭上で炸裂した。
そして中から無数の小さな鉄の散弾が、死の雨となって降り注いだ。
「……ぐ、あああああっ!?」
「何だ! 何が起きた!?」
帝国軍の陣地は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
天から降り注ぐ見えない刃。
それは鎧も盾も貫き、兵士たちの体を無慈悲に引き裂いていく。
何の前触れもなく隣にいた戦友が、血まみれの肉塊へと変わる。
そのあまりにも一方的な殺戮。
帝国兵たちは何が起きているのか理解できず、ただパニックに陥った。
「ば、馬鹿な……! どこからだ! どこから攻撃されているのだ!」
ヴァルガス将軍が、信じられないという顔で叫んだ。
攻撃はベルシュタイン軍の遥か後方から飛んできている。
あんな距離から攻撃できる兵器など存在するはずがない。
弓でも魔法でもない。
未知の力。
それは彼らの戦争の常識を完全に超えていた。
魔導砲の第二射、第三射が続けざまに帝国軍の陣地を蹂躙していく。
彼らの密集した陣形は格好の的だった。
指揮系統は完全に麻痺し、兵士たちはただ逃げ惑うだけだった。
そして、その地獄のような光景を。
突撃の途中で足を止めていた王国軍の兵士たちも、呆然と見つめていた。
「……あれは、何だ……」
「……神の怒りか……」
彼らにとっても、それは理解を超えた光景だった。
だが、彼らの耳にも遠話の魔道具を通じて司令官からの命令が届いていた。
それはゼノンがこの日のためにグレイを通じて全ての部隊長に密かに配らせていたものだった。
『……王国軍、全軍へ』
ゼノンの冷静な声が、全ての兵士たちの頭の中に直接響き渡る。
『敵は混乱している。今こそ好機だ。
だが、突撃するな。
各部隊は散開し、ゆっくりと前進。
敵を包囲し、圧力をかけろ。
抵抗する者は、マスケット銃で排除しろ。
繰り返す。これは戦闘ではない。
……ただの掃討だ』
その声はまるで神の声のようだった。
戦場の全てを見通し、勝利への道筋を指し示す絶対者の声。
王国軍の兵士たちの心から恐怖と混乱が消えていった。
代わりにそこに生まれたのは。
自分たちの司令官に対する絶対的な信頼と畏怖だった。
彼らはもはや怒りに任せて突撃する烏合の衆ではなかった。
一つの知性によって統率された、冷徹な狩人の集団へと変貌していた。
情報戦の幕は上がった。
遠話の魔道具による完璧な指揮系統の確立。
魔導砲という圧倒的な技術的優位性。
そして敵と味方の心理を完全に掌握した戦術。
ゼノンの描いたシナリオ通りに、戦場の全てが動いていく。
それはもはや戦争ではなかった。
一方的な蹂躙。
ゼノン・フォン・アークライトという合理主義者が仕掛けた、華麗で、そして無慈悲な情報戦の始まりだった。
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