レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第5話:最初の死、そして覚醒

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硬い寝床で目を覚ますと、隙間だらけの壁から差し込む朝日が目に痛かった。昨夜の絶望は、眠っても消えることなく体の芯に澱のように溜まっている。腹が空腹を訴えていたが、もはや銅貨は一枚も残っていない。

生きるためには、稼がなければならない。冒険者として。

俺は錆びついたショートソードを手に、軋むベッドから体を起こした。他にできることなどなかった。追放された身でも、冒見者ギルドの登録はまだ生きているはずだ。一番弱い魔物、ゴブリン。それならレベル1の俺でも、一対一なら倒せるかもしれない。

そうして得たわずかな金でパンを買い、食いつなぐ。それが、今の俺に描ける唯一の未来だった。

木賃宿を出て、街の門へと向かう。かつては仲間たちと談笑しながら通った道だ。だが今は、俺の隣を歩く者は誰もいない。衛兵の訝しげな視線を感じながら、俺は一人、オラトリアの街の外へと足を踏み出した。

街の周辺は比較的安全な草原が広がっている。薬草を摘む民間人や、俺と同じように駆け出しの冒険者がちらほらと見えた。彼らもまた、ゴブリンを狩って日銭を稼いでいるのだろう。

しばらく歩くと、茂みの陰に醜悪な緑色の姿を見つけた。ゴブリンだ。痩せこけていて、手には木の棍棒を持っている。一体だけ。好都合だった。

俺は息を殺してゆっくりと近づく。心臓が嫌な音を立てていた。パーティにいた頃は、常にアランやゴードンが前にいてくれた。敵の殺意を真正面から一人で受け止めるのは、これが初めての経験だった。

だが、恐怖はなかった。いや、恐怖を感じる余裕がなかったのかもしれない。昨夜の絶望が、俺の感情を麻痺させていた。死んでもいい。そんな投げやりな気持ちが、心の大部分を占めていた。

「……!」

俺は無言で茂みから飛び出し、ゴブリンに斬りかかった。ショートソードが、その浅黒い肩を浅く切り裂く。

「ギャアッ!」

ゴブリンは甲高い悲鳴を上げ、憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけた。そして、手に持った棍棒を振りかぶる。

速い。そう感じた時には、もう遅かった。

ゴッ、という鈍い衝撃。左肩に、焼けるような痛みが走った。思わず体勢が崩れる。パーティでの戦闘では、後方で荷物を持っているだけだった俺に、実戦経験などほとんどない。敵の攻撃パターンを読むことも、的確に回避することもできなかった。

「ぐっ……!」

歯を食いしばり、体勢を立て直そうとする。だが、心身の疲弊は俺の動きを致命的に鈍らせていた。昨夜、まともに食事も睡眠もとれていない。そんな状態で、まともな戦いができるはずもなかった。

ゴブリンは、俺が怯んだのを見て勝利を確信したのだろう。醜い口元を歪め、勝ち誇ったような奇声を発した。そして、棍棒を大きく振りかぶる。

まずい。そう思ったが、体は言うことを聞かない。痺れた肩が動かず、足がもつれる。

振り下ろされた棍棒が、スローモーションのように見えた。

ああ、これが俺の最期か。勇者パーティを追放され、誰にも知られることなく、最弱の魔物に殺される。なんて惨めで、滑稽な人生だったんだろう。

エリナの泣き顔が、アランの冷たい目が、脳裏をよぎる。

次の瞬間、俺の頭蓋骨が砕ける嫌な感触と、視界が真っ赤に染まる衝撃が全てを塗り潰した。痛みを感じる間もなかった。急速に意識が遠のき、体が冷たくなっていく。

草原の土の匂い。ゴブリンの甲高い笑い声。それが、俺がこの世界で感じた最後の感覚だった。

そして、完全な闇が訪れた。

どれほどの時が経ったのか。永遠にも思える暗闇の中、ふと意識が水面に浮上するような感覚があった。

重い瞼をこじ開ける。最初に目に映ったのは、見覚えのある天井のシミだった。

「……ここ、は……?」

掠れた声が出た。体を起こそうとして、自分がベッドの上にいることに気づく。昨日泊まった、あの薄汚い木賃宿の屋根裏部屋だ。

混乱した頭で状況を整理しようとする。俺は、街の外でゴブリンに殺されたはずだ。頭を棍棒で殴られて……。

「夢……だったのか?」

あまりにも鮮明な死の感触。夢にしては、リアリティがありすぎた。肩に残っていたはずの痛みも、頭部の衝撃も、今は跡形もなく消えている。

そこで、俺は自分のスキルのことを思い出した。

『やりなおし』――死ぬと、全てがリセットされる。

「そうか……俺は、本当に死んだのか……」

そして、スキルが発動して、最後にセーブされた地点であるこの宿屋に戻ってきた。そういうことなのだろう。

途端に、激しい脱力感が全身を襲った。結局、何も変わらない。ゴブリン一体すら倒せず、無様に死んで、また振り出しに戻っただけだ。俺はやっぱり、何をやってもダメな、ただのレベル1なんだ。

自嘲の笑みがこぼれる。もう一度、あのゴブリンに挑む気力も湧いてこなかった。

「……ん?」

その時、ふと違和感を覚えた。なんとなく、体が軽い。昨夜までの、鉛を引きずるような疲労感が薄れている。

俺は、ほとんど無意識のうちに、自分のステータスウィンドウを開いた。レベルが1に戻っていることを確認するためだけの、惰性のような行動だった。

【カイル・アッシュフィールド】
レベル:1
HP:20/20
MP:5/5
筋力:11
耐久力:9
敏捷性:12
魔力:5
スキル:やりなおし

表示されたウィンドウを見て、俺は自分の目を疑った。

レベルは1。HPもMPも全快している。それはいつも通りだ。

だが、その下の項目。筋力、耐久力、敏捷性。それらの数値が、明らかに昨日見た時よりも上がっている。それぞれ、1ずつ。ほんのわずかな上昇だ。だが、間違いなく増えている。

「なんだ……これ……?」

俺はベッドから飛び起きた。拳を握り、腕を振る。気のせいではない。確実に、死ぬ前よりも体がスムーズに動く。力が漲ってくるような、そんな感覚さえあった。

『やりなおし』のスキル説明を、頭の中で反芻する。「死亡時、経験値はリセットされる」。そうだ。経験値はゼロになる。レベルも1に戻る。

だが、ステータスについては、どこにも記述がなかった。

まさか。そんな馬鹿な。

もし、この仮説が正しいとしたら?

『やりなおし』の本当の効果は、経験値のリセットなどというデメリットではない。死亡時に、それまでに蓄積された基礎ステータスを……引き継いで復活する。

「死ねば死ぬほど、ステータスだけが累積していく……?」

ゴクリと、喉が鳴った。

そうだとしたら、このスキルはハズレなどではない。レベルという見せかけの指標に縛られず、無限に肉体を強化できる、とんでもない可能性を秘めたスキルなのではないか。

死の痛みと恐怖。その代償はあまりにも大きい。だが、それを乗り越えさえすれば、俺は誰よりも強くなれるかもしれない。アランさえも超える、本当の強さを手に入れられるかもしれない。

絶望で塗りつぶされていた心に、小さな火が灯った。それはやがて、燃え盛る炎となって俺の全身を駆け巡った。

「は……はは……あははははは!」

乾いた笑いが、狭い部屋に響き渡る。それは絶望から生まれた笑いではない。狂気にも似た、しかし確かな希望に満ちた笑い声だった。

俺は錆びついたショートソードを再び手に取った。その重みが、先ほどとはまるで違って感じられる。

確かめなければならない。この仮説が、俺の希望的観測ではないということを。

俺は部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。目指す場所は一つ。

あのゴブリンがいた、街の外の草原だ。

今度は、殺されるために行く。自らの体で、このスキルの真価を証明するために。

追放されたレベル1の荷物持ち。彼の本当の冒険は、たった今、この瞬間から始まろうとしていた。
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