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第7話:ゴブリンスレイヤー(される側)
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三度目の復活を遂げた俺は、迷いなく宿を飛び出した。目的は一つ。ゴブリンの巣を見つけ出し、そこを俺専用の「死に場所」とすることだ。
一対一で殺されていては、ステータス上昇の効率が悪すぎる。複数の敵に、一度の人生で何度も攻撃を受け、確実に殺してもらう。それが最も効率的な強化方法だと考えた。狂気の沙汰であることは自分でも分かっている。だが、今の俺にまともな道など残されていなかった。
街の外に出て、俺は森の深部へと向かった。ゴブリンは単独で行動することもあれば、小規模な集落、つまり巣を作って生活している場合もある。巣を見つけるには、彼らの痕跡を辿るのが定石だ。
幸い、パーティにいた頃、斥候としての役割を押し付けられていた経験がここで活きた。地面に残された小さな足跡、不自然に折れた木の枝、食べ散らかされた木の実の残骸。それらのサインを一つ一つ拾い集め、俺はゴブリンたちの通り道を探り当てた。
道なき道を進むことおよそ一時間。獣道が、やがて岩場の多いエリアへと差し掛かった。そして、岩陰に隠れるようにして存在する、不気味な洞窟の入り口を発見した。入り口の周りには動物の骨が散乱し、内部からはゴブリン特有の甲高い声と、腐臭が微かに漏れ聞こえてくる。
間違いない。ここが奴らの巣だ。
俺はごくりと唾を飲んだ。洞窟の闇が、まるで冥界への入り口のように口を開けている。これから俺は、自らその中へ飛び込み、何度も殺されなければならない。
恐怖がなかったと言えば嘘になる。だが、それを上回る期待が俺の心を震わせていた。俺はショートソードを握りしめ、覚悟を決めて洞窟の中へと足を踏み入れた。
中はひんやりと湿っており、カビと獣の匂いが充満していた。壁に埋め込まれた発光性の苔が、ぼんやりと内部を照らしている。奥へ進むと、少し開けた空間に出た。
そこに、奴らはいた。
焚き火を囲み、何やら汚い言葉で喚き散らしている五体のゴブリン。棍棒を持つ者、錆びた短剣を握る者、そして弓矢を構えている者もいる。
俺が姿を現した瞬間、ゴブリンたちの動きが止まった。そして次の瞬間、全ての敵意が俺一人に集中した。
「ギギギ!」
「ギャアアア!」
一斉に奇声を上げ、襲いかかってくる。弓を持った一体が、後方から矢を放った。
速い。避けられない。
矢は俺の脇腹に深々と突き刺さった。激痛が走り、足がもつれる。その一瞬の隙が、命取りだった。
正面から迫ってきた二体のゴブリンが、棍棒と短剣を容赦なく振り下ろす。頭に鈍い衝撃。胸に焼けるような痛み。抵抗する間もなく、俺の体は地面に叩きつけられた。
朦朧とする意識の中、ゴブリンたちが俺を取り囲み、勝ち誇ったように棍棒を何度も振り下ろすのが見えた。骨が砕け、肉が潰れるおぞましい感覚。
これが、俺の四度目の死だった。
木賃宿の天井が、俺の視界に映る。
「……成功だ」
掠れた声で呟き、すぐにステータスを確認する。
【カイル・アッシュフィールド】
レベル:1
HP:20/20
MP:5/5
筋力:13
耐久力:12
敏捷性:14
魔力:5
スキル:やりなおし
思った通りだ。複数の敵から攻撃を受けたことで、耐久力の上昇値がわずかに高い。これだ。この方法なら、飛躍的に強くなれる。
俺はすぐにベッドから起き上がり、再びあの洞窟へと向かった。
五度目の人生。今度は弓矢を警戒し、洞窟に入ってすぐに身を隠した。だが、多勢に無勢。すぐに発見され、槍を持ったゴブリンに腹を貫かれて終わった。
六度目の人生。なんとか一体のゴブリンに一太刀浴びせるも、背後から忍び寄った別の個体に首を掻き切られた。
七度目。八度目。九度目。
俺は、文字通り死を繰り返した。棍棒で頭を砕かれる痛み。剣で体を切り裂かれる絶望。槍で心臓を貫かれる衝撃。時には、生きたまま手足を食いちぎられるという地獄も味わった。
死ぬたびに、俺のステータスは着実に上昇していく。
筋力:14…15…16…
耐久力:13…14…15…
敏捷性:15…16…17…
最初は、ただ殺されるだけだった。何もできず、蹂躙されて終わるだけの短い人生。死の瞬間、全身を襲う激痛と恐怖に、何度も心が折れそうになった。宿で復活するたびに嘔吐し、全身が痙攣することもあった。
だが、十回を超えたあたりから、俺の中に変化が起き始めた。
痛みに、慣れてきたのだ。
いや、慣れるなどという生易しいものではない。痛覚が麻痺し始めた、と言った方が正しいかもしれない。死の瞬間の衝撃は、もはや俺にとってステータス上昇を知らせるゴングのようなものになっていた。
そして、それと同時に、俺の体は確実に進化していた。
二十回目の人生。洞窟に突入した俺は、真っ直ぐに弓ゴブリンへと向かった。放たれた矢が、スローモーションのように見える。
(見える!)
体をわずかに傾けるだけで、矢は俺の頬を掠めて後ろの壁に突き刺さった。以前なら脇腹を貫いていたはずの一撃だ。
「まず、お前からだ!」
敏捷性が20を超えた俺の踏み込みは、もはやゴブリンの動体視力では捉えきれない。一瞬で距離を詰め、ショートソードを奴の喉元に突き立てた。
ゴブリンは声も出せずに崩れ落ちる。初めて、この巣で一体を仕留めた瞬間だった。
もちろん、その直後に他のゴブリンたちに囲まれ、滅多刺しにされて二十回目の死を迎えた。
だが、確かな手応えがあった。
三十回目の人生。俺は弓ゴブリンを瞬殺した後、そのままの勢いで棍棒を持ったゴブリンの一体に斬りかかった。相手が棍棒を振り上げるよりも速く、俺の剣がその心臓を貫く。
二体目。
だが、やはり数の差は覆せない。残りの三体に囲まれ、集中攻撃を受けて死亡。
それでも、俺は笑っていた。宿のベッドで復活するたびに、ステータスを確認し、自分の成長に打ち震えた。
四十回目。五十回目。
死の回数が五十を超えた頃には、洞窟内のゴブリン五体を全て返り討ちにできるようになっていた。俺の筋力と敏捷性は、もはや常人の域を遥かに超えている。レベル1のステータスとは到底思えない。
ゴブリンの動きは、完全に止まって見えた。棍棒の軌道、短剣の突き。その全てを予測し、回避し、カウンターを叩き込む。それは、もはや戦闘ではなく、作業に近かった。
俺は、死体の山の上で荒い息をついた。全身が返り血で真っ赤に染まっている。
「はぁ……はぁ……。まだだ。まだ足りない」
洞窟の奥から、さらに多くのゴブリンたちが現れた。どうやら、この巣は思ったよりも規模が大きいらしい。
好都合だ。
俺は口の端に浮かんだ血を拭い、新たな獲物に向かって駆け出した。
もはや、俺にとってゴブリンは脅威ではなかった。ステータスという絶対的な暴力が、数の有利を覆していく。
六十回目。七十回目。
何十回死んだのか、もう数えるのもやめた。ただひたすらに、殺し、殺された。
痛みは遠い昔の記憶のようだ。恐怖という感情は、心の奥底で化石になってしまった。今、俺を突き動かしているのは、ただ一つ。
強くなりたい。もっと、もっと強く。
この力があれば、誰にも蔑まされることはない。誰にも奪われることはない。俺自身の力で、未来を切り開くことができる。
その飽くなき渇望だけが、俺を次の死へと駆り立てていた。
俺は、ゴブリンを殺す者。そして、ゴブリンに殺される者。
皮肉な称号を胸に、俺はただ黙々と、ステータスの累積という名の経験値を積み上げていった。
一対一で殺されていては、ステータス上昇の効率が悪すぎる。複数の敵に、一度の人生で何度も攻撃を受け、確実に殺してもらう。それが最も効率的な強化方法だと考えた。狂気の沙汰であることは自分でも分かっている。だが、今の俺にまともな道など残されていなかった。
街の外に出て、俺は森の深部へと向かった。ゴブリンは単独で行動することもあれば、小規模な集落、つまり巣を作って生活している場合もある。巣を見つけるには、彼らの痕跡を辿るのが定石だ。
幸い、パーティにいた頃、斥候としての役割を押し付けられていた経験がここで活きた。地面に残された小さな足跡、不自然に折れた木の枝、食べ散らかされた木の実の残骸。それらのサインを一つ一つ拾い集め、俺はゴブリンたちの通り道を探り当てた。
道なき道を進むことおよそ一時間。獣道が、やがて岩場の多いエリアへと差し掛かった。そして、岩陰に隠れるようにして存在する、不気味な洞窟の入り口を発見した。入り口の周りには動物の骨が散乱し、内部からはゴブリン特有の甲高い声と、腐臭が微かに漏れ聞こえてくる。
間違いない。ここが奴らの巣だ。
俺はごくりと唾を飲んだ。洞窟の闇が、まるで冥界への入り口のように口を開けている。これから俺は、自らその中へ飛び込み、何度も殺されなければならない。
恐怖がなかったと言えば嘘になる。だが、それを上回る期待が俺の心を震わせていた。俺はショートソードを握りしめ、覚悟を決めて洞窟の中へと足を踏み入れた。
中はひんやりと湿っており、カビと獣の匂いが充満していた。壁に埋め込まれた発光性の苔が、ぼんやりと内部を照らしている。奥へ進むと、少し開けた空間に出た。
そこに、奴らはいた。
焚き火を囲み、何やら汚い言葉で喚き散らしている五体のゴブリン。棍棒を持つ者、錆びた短剣を握る者、そして弓矢を構えている者もいる。
俺が姿を現した瞬間、ゴブリンたちの動きが止まった。そして次の瞬間、全ての敵意が俺一人に集中した。
「ギギギ!」
「ギャアアア!」
一斉に奇声を上げ、襲いかかってくる。弓を持った一体が、後方から矢を放った。
速い。避けられない。
矢は俺の脇腹に深々と突き刺さった。激痛が走り、足がもつれる。その一瞬の隙が、命取りだった。
正面から迫ってきた二体のゴブリンが、棍棒と短剣を容赦なく振り下ろす。頭に鈍い衝撃。胸に焼けるような痛み。抵抗する間もなく、俺の体は地面に叩きつけられた。
朦朧とする意識の中、ゴブリンたちが俺を取り囲み、勝ち誇ったように棍棒を何度も振り下ろすのが見えた。骨が砕け、肉が潰れるおぞましい感覚。
これが、俺の四度目の死だった。
木賃宿の天井が、俺の視界に映る。
「……成功だ」
掠れた声で呟き、すぐにステータスを確認する。
【カイル・アッシュフィールド】
レベル:1
HP:20/20
MP:5/5
筋力:13
耐久力:12
敏捷性:14
魔力:5
スキル:やりなおし
思った通りだ。複数の敵から攻撃を受けたことで、耐久力の上昇値がわずかに高い。これだ。この方法なら、飛躍的に強くなれる。
俺はすぐにベッドから起き上がり、再びあの洞窟へと向かった。
五度目の人生。今度は弓矢を警戒し、洞窟に入ってすぐに身を隠した。だが、多勢に無勢。すぐに発見され、槍を持ったゴブリンに腹を貫かれて終わった。
六度目の人生。なんとか一体のゴブリンに一太刀浴びせるも、背後から忍び寄った別の個体に首を掻き切られた。
七度目。八度目。九度目。
俺は、文字通り死を繰り返した。棍棒で頭を砕かれる痛み。剣で体を切り裂かれる絶望。槍で心臓を貫かれる衝撃。時には、生きたまま手足を食いちぎられるという地獄も味わった。
死ぬたびに、俺のステータスは着実に上昇していく。
筋力:14…15…16…
耐久力:13…14…15…
敏捷性:15…16…17…
最初は、ただ殺されるだけだった。何もできず、蹂躙されて終わるだけの短い人生。死の瞬間、全身を襲う激痛と恐怖に、何度も心が折れそうになった。宿で復活するたびに嘔吐し、全身が痙攣することもあった。
だが、十回を超えたあたりから、俺の中に変化が起き始めた。
痛みに、慣れてきたのだ。
いや、慣れるなどという生易しいものではない。痛覚が麻痺し始めた、と言った方が正しいかもしれない。死の瞬間の衝撃は、もはや俺にとってステータス上昇を知らせるゴングのようなものになっていた。
そして、それと同時に、俺の体は確実に進化していた。
二十回目の人生。洞窟に突入した俺は、真っ直ぐに弓ゴブリンへと向かった。放たれた矢が、スローモーションのように見える。
(見える!)
体をわずかに傾けるだけで、矢は俺の頬を掠めて後ろの壁に突き刺さった。以前なら脇腹を貫いていたはずの一撃だ。
「まず、お前からだ!」
敏捷性が20を超えた俺の踏み込みは、もはやゴブリンの動体視力では捉えきれない。一瞬で距離を詰め、ショートソードを奴の喉元に突き立てた。
ゴブリンは声も出せずに崩れ落ちる。初めて、この巣で一体を仕留めた瞬間だった。
もちろん、その直後に他のゴブリンたちに囲まれ、滅多刺しにされて二十回目の死を迎えた。
だが、確かな手応えがあった。
三十回目の人生。俺は弓ゴブリンを瞬殺した後、そのままの勢いで棍棒を持ったゴブリンの一体に斬りかかった。相手が棍棒を振り上げるよりも速く、俺の剣がその心臓を貫く。
二体目。
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強くなりたい。もっと、もっと強く。
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