レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第14話:過去との決別

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オークジェネラルの全身から放たれる黒いオーラが、砦の中庭の空気をビリビリと震わせる。天に掲げられた戦斧には、もはや原型を留めないほどの闇のエネルギーが渦を巻いていた。あれは、自らの生命力を魔力に変換して放つ、捨て身の一撃だろう。

対する俺も、ロングソードを正眼に構え、意識を極限まで集中させていた。百回以上の死で蓄積された筋力、耐久力、敏捷性。その全てを、この瞬間、解き放つ。

「グルオオオオオオオッ!」

ジェネラルの咆哮が、最後の攻撃の合図だった。振り下ろされた戦斧から、黒い破壊の奔流が放たれる。地面を抉り、空気を裂きながら、全てを飲み込む津波のように俺へと殺到した。

俺はその奔流に対し、真っ直ぐに剣を突き出した。

「はあっ!」

特別な技ではない。ただ、純粋に、自分の持つ全ての力を切っ先に込めただけの、渾身の一突き。

俺の剣先と、破壊の奔流が激突する。

凄まじい衝撃。世界から音が消え、次に爆発的な轟音が鼓膜を打った。俺の体は、まるで木の葉のようにいとも簡単に吹き飛ばされる。チェインメイルは瞬時に蒸発し、皮膚が焼け爛れ、骨が砕ける感覚。

だが、俺の突きは、確かに奔流の中心を貫いていた。

ほんの一瞬、破壊の力が二つに分かたれる。そのわずかな隙間を、俺の意識は見逃さなかった。

(……見えた)

一撃の核となる部分。力の流れ。そして、技の後に訪れるであろう、一瞬の硬直。

それら全てをその身に刻み込みながら、俺の体は光の粒子となって消滅した。オークジェネラルが放った最後の一撃は、砦の壁を半壊させ、森の木々を薙ぎ倒し、やがてその力を失った。

後に残されたのは、荒い息をつきながら膝を折る、満身創痍のオークジェネラルだけだった。

木賃宿のベッドで、俺は静かに目を開けた。
全身を駆け巡る幻の激痛は、これまで経験した中でも最大のものだった。だが、それと同時に、今まで感じたことのないほどの力が体に満ち溢れているのを感じた。

ステータスウィンドウを開く。

【カイル・アッシュフィールド】
レベル:1
HP:20/20
MP:5/5
筋力:255
耐久力:280
敏捷性:248
魔力:5
スキル:やりなおし
毒耐性:高
**闇属性耐性:微**

全てのステータスが、爆発的に上昇していた。耐久力に至っては、一回の死で30近くも跳ね上がっている。そして、新たに追加された『闇属性耐性』の文字。

「……感謝するぜ、オークジェネラル」

俺は呟き、ベッドから立ち上がった。体は、驚くほど軽い。もはや、自分が人間という種族の枠組みの中にいるのかどうかさえ、分からなくなっていた。

俺は装備を整え、最後の戦いのために再びあの砦へと向かった。

半壊した砦にたどり着くと、そこには昨日と同じ光景が広がっていた。傷つき、疲弊しきったオークジェネラルが、瓦礫の中で一人、静かに座り込んでいた。俺が倒したオークたちの死体は、まだそのまま放置されている。

俺が姿を現すと、ジェネラルはゆっくりと顔を上げた。その目に、驚愕の色が浮かぶ。昨日、己の全生命力をかけて葬ったはずの敵が、無傷で再び目の前に現れたのだ。その絶望は、いかばかりか。

「……これで、本当に最後だ」

俺はロングソードを構える。ジェネラルも、最後の力を振り絞るように立ち上がり、戦斧を拾い上げた。だが、その体はもはや限界だった。昨日の一撃で、生命力のほとんどを使い果たしてしまったのだろう。

戦いは、一瞬で決した。

ジェネラルが渾身の力で振り下ろした斧。俺はそれを、昨日と同じように真っ向から受け止めた。

だが、今度は吹き飛ばされない。

「なっ……!?」

ジェネラルの目が、信じられないものを見るように見開かれた。俺は、片手で振り下ろされた戦斧を、ぴたりと止めていた。ステータスが爆発的に上昇した俺にとって、もはやこの一撃は脅威ではなかった。

「お前の力、確かに受け取った」

俺は戦斧を弾き返し、がら空きになったジェネラルの胴体に、ロングソードを深々と突き立てた。

「グ……ォ……」

ジェネラルは苦悶の声を漏らし、その巨体から力が抜けていく。俺は、その耳元で静かに囁いた。

「お前は強かった。俺が出会った中で、最高の敵だった」

それが、俺なりの敬意の示し方だった。
ジェネラルは、何かを理解したように、静かに目を閉じた。そして、ゆっくりと前のめりに倒れ込み、二度と動かなくなった。

静寂が訪れる。
砦に吹き込む風の音だけが、やけに大きく聞こえた。

俺はジェネラルの亡骸の前に立ち、しばらくの間、動かなかった。

大きな達成感があった。それは、ただ強い敵を倒したというだけのものではない。この死闘を通じて、俺は確実に、そして飛躍的に成長した。

同時に、俺は自分の過去と向き合っていた。

アランたちに追放された、無力な自分。荷物持ちとして、ただ蔑まれるだけだった自分。ゴブリン一体に殺された、惨めな自分。

それらの過去が、走馬灯のように頭をよぎる。

だが、もう、あの頃の俺はいない。

オークジェネラルとの死闘は、俺に絶対的な自信を与えてくれた。死を乗り越えることで無限に強くなれる、この『やりなおし』というスキルと共に歩んでいく覚悟を、固めてくれた。

アラン、ゴードン、レナ。
彼らへの憎しみが消えたわけではない。だが、もはやどうでもよくなっていた。彼らは、俺がこれから進む道の、遥か後方にいる存在だ。振り返る価値もない。

俺は、彼らに追放されたおかげで、この力を手に入れたのだ。皮肉なものだ。

俺はオークジェネラルの亡骸から、討伐の証である巨大な角を一つ切り取った。そして、一度も振り返ることなく、半壊した砦を後にした。

背中に差す夕日が、温かかった。
それはまるで、俺の新しい門出を祝福しているかのようだった。

追放された荷物持ち、カイル・アッシュフィールドは、この日、この場所で完全に死んだ。

そして、最強のレベル1冒険者として、生まれ変わったのだ。
過去との決別を果たした俺の足取りは、驚くほどに軽やかだった。
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