レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第16話:追放されたダンジョンへ

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一夜が明け、俺は木賃宿の窓から差し込む光で目を覚ました。昨夜は久しぶりに、死ぬことなく眠りについた。体の節々が痛む幻覚もなく、ただ静かな休息だった。

ベッドの脇には、新しく手に入れたミスリルの剣と鎧が、朝日を浴びて静かに輝いている。それは、俺が幾多の死を乗り越えて手に入れた力の象徴だった。

俺はゆっくりと体を起こし、ミスリルの剣を手に取った。ひんやりとした感触が心地よい。鏡のように磨かれた刀身に、自分の顔が映る。そこにいるのは、もう追放された日のような絶望に打ちひしがれた青年ではなかった。

だが、心の奥底に、まだ小さな澱のようなものが残っている。
それは、あの日の記憶。ミノタウロスの迷宮で、アランに囮になるよう命じられ、仲間たちに見捨てられた、あの瞬間の屈辱と無力感だ。

どれだけステータスが上がろうと、どれだけ強い装備を手に入れようと、この記憶を乗り越えない限り、俺は本当の意味で過去と決別できない。

「行くか」

俺は呟き、新しい装備を身に着けた。ミスリルレザーアーマーは驚くほど軽く、体の動きを一切阻害しない。ロングソードを腰に差し、俺は屋根裏の小さな部屋を後にした。

街に出て、迷宮攻略に必要な最低限のものを買い揃える。回復ポーション数本と、保存食、そして松明。かつては、パーティ全員分の荷物を詰め込んだ巨大なバックパックを背負わされていた。だが今は、小さな革袋一つで十分だった。その身軽さが、過去からの解放を象徴しているようで、俺の心を軽くした。

俺が向かう先は、街の中央にそびえ立つ巨大な塔、「ミノタウロスの迷宮」。
その威容は、以前と何も変わらない。だが、それを見上げる俺の心境は、百八十度違っていた。かつては、これから始まる苦難を思って憂鬱になったものだ。今は違う。あれは、俺が乗り越えるべき過去の残骸であり、自らの成長を証明するための試練の場に過ぎない。

迷宮の入り口には、いくつかの冒険者パーティが集まっていた。彼らは、俺の姿を認めると、ひそひそと噂を始める。

「おい、あれって噂のレベル1じゃないか?」
「ミスリルの装備……本物かよ。一体何者なんだ」
「まさか、一人でこの迷宮に挑む気じゃ……」

彼らの声には、好奇心と、そして侮蔑が混じっていた。レベル1が単独でこのダンジョンに挑むなど、自殺行為以外の何物でもないと、誰もが思っているのだろう。

俺はそんな彼らを一瞥することもなく、迷宮の入り口へと足を踏み入れた。ひんやりとした空気が肌を撫でる。カビと湿気の匂いが鼻をついた。全てが、あの日の記憶を鮮明に蘇らせる。

壁に埋め込まれた魔石が、薄暗い通路をぼんやりと照らしていた。俺は松明に火を灯すことなく、闇の中を進んでいく。幾多の死で研ぎ澄まされた俺の感覚は、もはやこの程度の暗闇をものともしない。

しばらく進むと、前方の通路から複数の足音が聞こえてきた。そして、甲高い奇声と共に、五体のゴブリンが姿を現す。迷宮に住み着いた個体は、通常のゴブリンよりも狡猾で素早い。

かつては、この程度の敵でもパーティ全員で陣形を組んで対処していた。アランが指示を飛ばし、ゴードンが盾で攻撃を受け止め、レナが魔法を詠唱する。エリナは後方で祈りを捧げ、俺は荷物の陰でただ震えているだけだった。

懐かしい記憶だ。だが、今は違う。

俺は腰のミスリルの剣に手をかけることすらしなかった。

「ギャアッ!」

襲いかかってくるゴブリンの群れ。俺は、その先頭にいた一体の顔面を、すれ違いざまに無造作な蹴りで打ち砕いた。ゴブリンは声もなく吹き飛び、壁に叩きつけられて動かなくなる。

残りの四体が一瞬怯んだ。その隙を、俺は見逃さない。
一歩踏み込み、別のゴブリンの首を掴んで持ち上げる。苦しげな声を上げるゴブリンを、そのまま近くの壁へと投げつけた。

さらに二体を、拳の一撃で沈黙させる。残った最後の一体は、目の前で起こった惨劇に腰を抜かし、その場にへたり込んでいた。

「……こんなものだったか」

俺は、かつて自分を殺したことのある種族を見下ろし、静かに呟いた。あれほど恐ろしかった存在が、今はただの虫けらにしか見えない。

俺は最後の一体に構うことなく、その横を通り過ぎて迷宮の奥へと進んだ。腰を抜かしたゴブリンは、俺が完全に姿を消すまで、恐怖に震えながら動くことさえできなかった。

第一階層、第二階層と、俺は歩みを止めなかった。道中で遭遇するモンスターの群れは、全て俺の敵ではなかった。コボルトの群れは拳で薙ぎ払い、巨大なバットの群れは石つぶてで撃ち落とす。

剣を抜く必要すらなかった。圧倒的なステータスの差が、全ての戦闘をただの作業へと変えていく。

かつて、パーティで何時間もかけて進んだ道のりを、俺はわずか三十分ほどで踏破していた。道中に仕掛けられていた罠も、強化された俺の知覚が全て見抜いていた。落とし穴も、毒矢も、俺の前では意味をなさない。

そして、俺はついにたどり着いた。
あの忌まわしい記憶が刻み込まれた場所。迷宮の十階層。

円形の広間へと続く、大きな扉の前に立つ。この扉の向こうに、奴がいる。俺に瀕死の重傷を負わせ、追放の引き金を引いた、牛頭の怪物。

ミノタウロス。

俺は、ここで初めて腰のミスリルの剣に手をかけた。鞘からゆっくりと引き抜くと、シュルン、という澄んだ音が静かな通路に響く。青白い刀身が、周囲の魔石の光を反射して妖しく輝いた。

これは、過去を清算するための儀式だ。
かつての無力な自分に、この手でとどめを刺すための。

俺は深呼吸を一つすると、重い石の扉を、片手で軽々と押し開けた。

広間の奥の暗闇で、二つの赤い光が、俺の姿を捉えていた。
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