レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第27話:古代遺跡の発見

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ポイズンサーペントの巨体が沼に沈み、周囲を覆っていた濃密な瘴気は嘘のように薄らいでいった。枯れ果てていた木々にも、心なしか生命力が戻り始めたように見える。森の空気は浄化され、静寂の中にも穏やかさが戻りつつあった。

「……終わったのね」

シルフィリアが安堵のため息をついた。彼女の表情からは、故郷の森を救えたことへの喜びが窺える。

「ああ。依頼は達成だ。あとはギルドに戻って報告するだけだな」

俺は討伐の証であるサーペントの巨大な牙を肩に担ぎ、踵を返そうとした。だが、その時、ふと違和感を覚えた。

瘴気は確かに薄くなった。だが、完全には消えていない。沼の中心、サーペントが姿を現したあたりから、まだ微弱ながらも黒い靄のようなものが立ち上っている。

「……いや、まだだ」
「え?」

俺の呟きに、シルフィリアが怪訝な顔を向ける。

「見てみろ。瘴気の源は、まだ残っている」

俺が指し示した先を見て、シルフィリアも眉をひそめた。彼女の鋭い魔術師の目にも、その異常ははっきりと見て取れたようだ。

「本当ね……。ポイズンサーペントの毒気とは違う、もっと古くて、淀んだ魔力の匂いがするわ。まさか、あのサーペントは原因ではなく、結果だったというの?」
「その可能性が高いな。あの魔獣も、この瘴気にあてられて凶暴化しただけかもしれん」

だとしたら、依頼はまだ終わっていない。根本的な原因を排除しなければ、いずれ第二、第三のポイズンサーペントが現れるだろう。

「面倒だが、もう少し付き合ってもらうぞ」
「言われなくても、そのつもりよ。聖なる沼をここまで汚した元凶を、このままにしておけるわけないじゃない」

シルフィリアの瞳に、再び強い意志の光が宿る。俺たちは互いに頷き合うと、瘴気が立ち上る沼の中心部へと慎重に近づいていった。

沼の水は、サーペントの血で赤黒く濁っている。その底に何が潜んでいるか分からない。

「私が魔法で道を拓くわ。聖なる風よ、汚れし水を退け、清浄なる道を示せ! ウィンド・ウォーク!」

シルフィリアが杖を掲げて詠唱すると、沼の水面が渦を巻き始めた。そして、俺たちの目の前の水が、まるでモーゼの奇跡のように左右に分かれ、沼の底へと続く道が現れた。

「すごいな」
「これくらい、エルフの高等魔術師にとっては朝飯前よ」

シルフィリアは得意げに胸を張った。俺たちは、魔法によって作られた水の回廊をゆっくりと下っていく。壁となった水の中を、魚たちが驚いたように泳ぎ去っていくのが見えた。

沼の底は、予想以上に深かった。そして、その最深部に、それはあった。

「……これは……遺跡……?」

シルフィリアが、驚愕の声を漏らす。
沼の底の泥の中に、巨大な石造りの建造物が、その大部分を埋もれさせていた。俺たちが見ているのは、おそらくその門の一部だろう。精巧な幾何学模様が刻まれた石の扉は固く閉ざされ、その隙間から、問題の黒い瘴気がゆらゆらと漏れ出していた。

古代遺跡。
ギルドの資料には、一切記されていなかった存在だ。

「こんなものが、森の地下に眠っていたなんて……。エルフの古い伝承にも、記録はないわ」

シルフィリアは、魔術師としての好奇心に目を輝かせている。
俺は、扉から漏れ出す瘴気に注意を向けた。それは、オークジェネラルが最後に放った闇のエネルギーと、どこか似た性質を持っていた。生命力を蝕み、精神を狂わせる、邪悪な魔力の匂いだ。

「どうやら、こいつが大元で間違いなさそうだな」
「ええ。この遺跡から漏れ出す瘴気が沼を汚染し、ポイズンサーペントを凶暴化させた。そして、そのサーペントの毒が、さらに森全体へと汚染を広げていた……。これが、事件の全貌ね」

全てのピースが繋がった。
俺たちのやるべきことは一つ。この遺跡の中に入り、瘴気の源を断つことだ。

「問題は、どうやってこの扉を開けるか、ね。見たところ、物理的な鍵穴はないわ。おそらく、魔法的な仕掛けで封印されているはずよ」

シルフィリアが扉に近づき、その表面を注意深く観察し始めた。
俺は、そんな彼女の横を通り過ぎ、巨大な石の扉の前に立った。

「おい、カイル! 無闇に触ると危ないわよ! 古代の呪いが……」

彼女の警告を無視し、俺は扉の継ぎ目に両手の指をねじ込んだ。そして、息を吸い込み、全身の筋肉を隆起させる。

「……どけ」
「え?」

俺は、扉に全ての力を込めた。

「うおおおおおおっ!」

ミシミシミシッ!

石と石が擦れる、耳障りな音が響き渡る。数千年は閉ざされていたであろう巨大な石の扉が、俺の圧倒的な筋力の前で、ゆっくりと、だが確実にこじ開けられていく。シルフィリアが「馬鹿じゃないの!?」と叫んでいるのが聞こえたが、構うものか。

魔法的な仕掛け? 古代の呪い?
そんなものは、絶対的な物理能力の前では無意味だ。

ゴゴゴゴゴ……という地響きのような音を立て、ついに扉は人が一人通れるほどの隙間を開けた。その隙間から、さらに濃密な瘴気と、カビ臭い空気が溢れ出してくる。

「……開いた」

シルフィリアは、信じられないものを見る目で、俺と開いた扉を交互に見つめていた。その表情は、呆れと驚愕が半分ずつといったところか。

「あんたって、本当に……デリカシーも何もあったものじゃないのね……。古代文明への敬意ってものが、欠片もないんだから」

彼女はため息をつきながらも、その目は遺跡の内部を捉え、爛々と輝いていた。

「行くぞ」
「言われなくても!」

俺たちは、互いの顔を見合わせると、頷き合った。
扉の向こうは、完全な闇に包まれている。そこには、一体どんな罠が、どんな魔物が待ち受けているのか。

だが、俺たちの心に、恐怖はなかった。
あるのは、未知への好奇心と、これから始まるであろう新たな戦いへの高揚感だけ。

俺はミスリルの剣の柄を握りしめ、シルフィリアは杖に魔力を込める。
そして、二人は同時に、古代遺跡の闇へと、その一歩を踏み出した。
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