レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第26話:秘密の共有

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シルフィリアの問いは、静まり返った沼地に響き渡った。その声は震え、翠色の瞳は恐怖と好奇心、そして理解を超えたものへの畏怖がないまぜになって揺れていた。

俺は、彼女の問いにすぐには答えなかった。ただ、じっとその顔を見つめる。エルフという種族は、本来人間を信用しないと聞く。特に、彼女のようにプライドが高く、理を尊ぶ者ならなおさらだ。

俺のスキル『やりなおし』。
それは、世界の理から逸脱した、あまりにも異質な力だ。これを打ち明けたとして、彼女がどう反応するか。悪魔の力だと断じられ、敵と見なされる可能性も十分にある。

だが、俺は決めた。

彼女は、俺が何度も死ぬ姿を、その目で見た。そして、俺がこの森を救う瞬間まで、逃げずに見届けた。それだけで、彼女を信用するに足る理由になると、そう思った。

それに、俺はずっと一人だった。追放されてから、誰とも心を通わせることなく、ただひたすらに孤独な戦いを続けてきた。この異質な力を、誰かに知ってほしい。理解されなくてもいい。ただ、知っている存在が、自分以外にもう一人いる。そう思えるだけで、心の重荷が少しは軽くなるような気がした。

「……俺のスキルだ」

俺は、ついに口を開いた。

「スキルの名前は、『やりなおし』。その効果は、あんたが見た通りだ」

シルフィリアは、息を呑んだ。俺が、ついに秘密の一端を明かしたことに、緊張が走る。

「死ぬたびに、最後にセーブした場所で復活する。そして、死ぬ直前までのステータスと、死因に対する耐性を引き継ぐ。レベルは1に戻るがな」

俺は淡々と、スキルの真実を語った。それは、この世界で初めて、俺以外の人間が『やりなおし』の真価を知る瞬間だった。

シルフィリアは、俺の言葉を一つ一つ、噛みしめるように聞いていた。その表情は、驚愕から困惑へ、そして深い思索へと変わっていく。

「……死ぬたびに、強くなる……」
「ああ。毒で死ねば毒に強く、物理攻撃で死ねば肉体が頑強になる。そういう理屈だ」
「なんて……なんて冒涜的で……そして、なんて凄まじい力なの……」

彼女は、天を仰ぐように呟いた。その声に、以前のような侮りの色は欠片もなかった。ただ、純粋な驚嘆と、そしてわずかな恐怖が滲んでいた。

「だから、あなたはレベル1のまま、あれほどの力を……。全て、納得がいったわ」

彼女は、ようやく全てのピースがはまったというように、深く頷いた。

「あんた、俺のことを化け物だと思うか?」

俺は、試すように尋ねた。彼女の答え次第では、俺たちはここで袂を分かつことになるだろう。

シルフィリアは、俺の目をまっすぐに見て、静かに首を横に振った。

「いいえ。化け物だとは思わないわ」
「……ほう?」

「確かに、あなたの力は常軌を逸している。神の定めた生死の理にさえ干渉する、禁忌の力と言えるかもしれない。でも……」

彼女は一度言葉を切ると、強い意志を込めて続けた。

「私は見たわ。あなたが、何度も何度も、あの耐え難い苦痛を味わいながら死んでいく姿を。あれは、ただのチートなんかじゃない。あなたのその力は、凄まじい覚悟と、想像を絶するほどの精神力がなければ、到底使いこなせるものじゃない。あなたは、その代償を支払って、その力を得ている」

シルフィリアの言葉は、俺の心の最も深い部分に、温かい光のように染み渡っていった。

代償。そうだ。俺は、常に死の痛みと恐怖という代償を支払ってきた。だが、そのことを誰かに理解してもらえたのは、これが初めてだった。

「……それに」と、彼女は少し照れくさそうに視線を逸らした。「あなた、この森を救ってくれたじゃない。どんな力であれ、その使い道が正しければ、それは正義の力だと、私は思うわ」

その言葉に、俺は思わず目を見開いた。
バルガンに問われた、「力を何のために使うか」という問い。その答えの一つを、目の前のエルフの少女が示してくれたような気がした。

俺たちの間に、沈黙が流れた。だが、それは気まずいものではなく、互いの間に確かな理解が生まれたことを示す、心地よい沈黙だった。

やがて、シルフィリアが顔を上げた。その表情は、すっかり吹っ切れたように晴れやかだった。

「カイル、だったわね。あなた、面白いわ。最高に興味深い研究対象よ」

彼女は、魔術師らしい探究心に満ちた目で、俺を上から下まで眺め回した。

「死によってステータスと耐性が累積するなんて、前代未聞の現象だわ。ぜひ、あなたの体を詳しく調べさせてほしいの。もちろん、解剖したりはしないから安心して」
「……断る」

俺の即答に、彼女は少しムッとしたが、すぐに気を取り直して続けた。

「まあ、いいわ。これから、あなたの側でじっくり観察させてもらうことにするから」
「は? 誰がそんなことを許可した」
「私が許可したのよ。あなたは、この森の恩人であると同時に、私の知的好奇心を最高に刺激する存在なの。あなたを一人にしておくなんて、もったいないじゃない」

彼女は、一方的にそう宣言した。その口調は相変わらず高圧的だったが、そこに悪意がないことは、もう俺にも分かっていた。

「……好きにしろ」

俺は、ため息をつきながらも、それを容認した。
一人でいることの気楽さはあったが、この騒がしいエルフが隣にいるのも、悪くないかもしれない。そう思った。

こうして、俺は初めて、自分の秘密を共有できる仲間を得た。

「さて、と。依頼は達成だ。ギルドに戻って報告しないとな」

俺はポイズンサーペントの巨大な牙を一つ、討伐の証として切り出すと、立ち上がった。

「ギルド? 人間の街に行くの? 面倒くさそうね」
「あんたは来なくていい。ここで待ってろ」
「嫌よ。私も行くわ。あなたの生態を観察する、絶好の機会じゃない」

シルフィリアは、当たり前のように俺の後についてきた。
これから、騒がしくなりそうだ。

だが、その予感は、決して嫌なものではなかった。
追放されてからずっと一人だった俺の旅に、初めて彩りが加わった瞬間だった。
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