レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第25話:毒耐性、完全獲得

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意識が浮上した瞬間、全身を灼熱が襲った。皮膚が溶け、肉が爛れ、骨の髄まで毒が染み渡るような幻の激痛。俺はベッドの上でのたうち回り、声にならない叫びを上げた。

「ぐっ……う……あああっ……!」

ポイズンサーペントの毒は、これまで経験したどの死よりも強烈で、後を引く。しばらくの間、俺は呼吸もままならないほどの苦痛に身を捩らせていた。

だが、その地獄のような苦しみが薄れていくにつれて、俺の口元には笑みが浮かんでいた。すぐにステータスウィンドウを開く。そこには、俺が期待した通りの文字が浮かんでいた。

【カイル・アッシュフィールド】
レベル:1
(ステータス略)
毒耐性:極(+150)

一回の死で、毒耐性が飛躍的に上昇している。ポイズン・スパイダーに十数回殺されて得た耐性を、たった一度の死で遥かに上回った。

「……最高だ」

これほどの猛毒なら、数回死ぬだけで完全な耐性を得られるかもしれない。俺はまだ疼く体を無理やり起こし、懐から『転移の魔石』を取り出した。

シルフィリアは、どうしているだろうか。俺が死んだのを見て、逃げ出したかもしれない。それでいい。ここからは、俺一人の作業だ。

俺は再び、あの絶望的な沼地をイメージした。



シルフィリアは、目の前で起こった出来事が信じられなかった。
突然現れた、レベル1を名乗る謎の男。彼が毒のブレスに飲み込まれ、肉体が溶け崩れ、跡形もなく消滅するまでを、彼女は一部始終見ていたのだ。

「……死んだ……?」

あまりにもあっけない最期だった。あれほどの力を見せた男が、一瞬で。ポイズンサーペントの毒の恐ろしさを、彼女は改めて思い知らされた。

同時に、わずかな時間だったが共闘した相手を失ったことに、胸が小さく痛んだ。得体が知れず、無礼な男だったが、その強さは本物だった。

「……撤退するしかないわね」

一人では、あの化け物には勝てない。一度里に戻り、長老たちに報告し、応援を要請するべきだ。シルフィリアは悔しさに唇を噛み締め、踵を返そうとした。

その時だった。

「よう。待たせたな」

背後から、聞き覚えのある、平坦な声が聞こえた。
シルフィリアは、心臓が跳ね上がるのを感じながら、ゆっくりと振り返る。

そこに立っていたのは、数分前に毒で溶けて消滅したはずの男、カイルだった。
傷一つない体で、何事もなかったかのように。

「……な……」

シルフィリアは言葉を失った。幻覚か? それとも、死者の魂が亡霊となって現れたのか?

「あなた……死んだはずじゃ……?」
「ああ、死んだな。だが、見ての通りだ」

カイルは肩をすくめ、まるで「少し散歩に行ってきた」とでも言うような軽い口調で答えた。シルフィアの常識が、理解の範疇を超えて悲鳴を上げる。

「いいか。あんたはそこで見てろ。絶対に手を出すな」

カイルはそれだけを言うと、再びミスリルの剣を抜き放ち、ポイズンサーペントへと向き直った。

「待ちなさい! 無駄死にするだけよ!」

シルフィリアの制止の声も聞かず、カイルは再びサーペントへと突っ込んでいく。そして、次の瞬間、シルフィリアは自らの目を疑う光景を目の当たりにした。

カイルは、サーペントが吐き出す毒ブレスを、避けることすらしなかった。
自ら、その紫色の奔流の中へと飛び込んでいったのだ。

「ぐあああああっ!」

先ほどと同じ、断末魔の叫び。そして、彼の体は再び溶け崩れ、瘴気の中に消えていった。

「……え……?」

シルフィリアは、何が起こったのか理解できなかった。自殺? なぜ?

彼女が混乱していると、数分後、またしても背後に気配がした。

「……二回目だ」

無傷のカイルが、そこに立っていた。

「……あなた……一体……?」
「いいから、見てろと言っただろう」

カイルは三度、サーペントに挑む。そして、三度、毒ブレスを浴びて死んだ。
四度目。五度目。六度目。

シルフィリアは、もはや思考を放棄していた。目の前で、常軌を逸した光景が何度も何度も繰り返される。男が死ぬ。数分後、無傷で現れる。そしてまた、自ら死にに行く。

狂っている。この男は、完全に狂っている。

死の回数が十回を超えたあたりから、変化が訪れた。
カイルは、毒ブレスを浴びても、即死しなくなったのだ。全身の皮膚を爛れさせながらも、数秒間、意識を保っていられるようになった。その時間を利用して、彼はサーペントに一太刀浴びせてから死ぬようになった。

二十回目の死。
カイルは毒ブレスを浴びながらも、平然と立っていた。皮膚はただれているが、その動きに一切の滞りがない。彼はサーペントの巨体を駆け上がり、その目に剣を突き立ててから、ようやく力尽きて消滅した。

シルフィリアは、その光景を震えながら見つめていた。
彼女は、ついに理解した。

この男は、死なないのではない。死を、乗り越えているのだ。
死ぬたびに、その死の原因となったものへの耐性を、その身に刻み込んでいる。

なんという、冒涜的な力。神の理にさえ背く、禁断の能力。

そして、三十回目の挑戦。

カイルは、沼地のほとりに静かに立っていた。ポイズンサーペントが、これまでで最大の毒ブレスを彼に向かって放射する。紫色の絶望が、再び世界を覆い尽くした。

だが、カイルは動かなかった。
彼は、その毒の奔流の中を、まるで散歩でもするかのように、ゆっくりと歩き始めたのだ。

紫色の毒が、彼の体に触れる。しかし、皮膚は爛れない。肉が溶けることもない。毒は、まるで彼を避けるかのように、その体の周りを流れていくだけだった。

「……嘘……でしょ……」

シルフィリアが、かすれた声を漏らす。
カイルは、毒の嵐の中を悠然と歩き、ついにポイズンサーペントの目の前までたどり着いた。

「グル……?」

サーペントは、自らの最大の武器が全く通用しないことに、初めて動揺の色を見せた。後ずさろうとするが、もう遅い。

「これで終わりだ」

カイルの声は、静かだった。
彼がミスリルの剣を振り抜くと、青白い閃光が走った。

次の瞬間、ポイズンサーペントの巨大な首が、胴体から離れて宙を舞った。夥しい量の血を噴き出しながら、巨大な頭部が沼地へと落下し、大きな水しぶきを上げた。

主を失った胴体は、しばらくの間痙攣していたが、やがて力なくその場に崩れ落ちた。

静寂が戻る。
黒く濁っていた沼の水が、まるで浄化されるかのように、少しずつ透明度を取り戻し始めていた。地面から噴き出していた瘴気も、次第に薄らいでいく。

森の異変は、終わったのだ。

カイルは、返り血を浴びたまま、静かに剣を鞘に納めた。
そして、呆然と立ち尽くすシルフィリアの方へと、ゆっくりと振り返る。

シルフィリアは、ふらつく足取りでカイルに近づいた。そして、震える声で、ずっと抱いていた疑問を口にした。

「あなた……。あなた、一体、何なの……?」

その問いに、カイルはただ静かに、彼女の翠色の瞳を見つめ返した。
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