レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第24話:共闘、ポイズンサーペント

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ブラッドボアの群れは、もはや脅威ではなかった。俺の剣技とステータスの前では、ただの的だ。一体また一体と、巨大な猪の亡骸が森の地面に積み上がっていく。シルフィリアは、その圧倒的な光景を、ただ呆然と見つめているだけだった。

十分とかからず、十数体いたブラッドボアの群れは全滅した。俺は剣を振るって血糊を払うと、静かに鞘へと納める。返り血を浴びた俺の周囲には、おびただしい量の獣の死体が転がっていた。

「……終わったぞ」

俺が声をかけると、シルフィリアははっと我に返った。彼女は信じられないものを見る目で、俺と死体の山を交互に見比べた。

「あなた……本当に、レベル1なの……?」

その声は、か細く震えていた。彼女が今まで信じてきた常識が、目の前で粉々に打ち砕かれたのだ。無理もない。

「ああ。何度でも言うが、俺はレベル1だ」
「……」

シルフィリアは何も言えずに、ただ唇を噛み締めていた。その翠色の瞳には、畏怖、混乱、そしてわずかな屈辱の色が浮かんでいるように見えた。自分が苦戦した魔獣を、レベル1の男が赤子の腕を捻るように屠ってみせたのだ。プライドの高い彼女にとって、それは耐え難い事実だったのだろう。

俺はそんな彼女に構うことなく、ブラッドボアの死体を検分し始めた。どの個体も、フレイムウルフと同じように皮膚が爛れ、目には狂気の光が残っている。やはり、この森全体が何らかの異常に侵されているのは間違いない。

「……この瘴気。森の奥へ行くほど、濃くなっているわ」

不意に、シルフィリアが呟いた。彼女は地面から立ち上る黒い瘴気を睨みつけ、その源を探っているようだった。どうやら、ようやく冷静さを取り戻したらしい。

「あんたも、この森の異変を調査しに来たのか」
「……ええ。私は、この森で生まれ育ったの。こんな風に森が病んでいくのを、黙って見てはいられない」

彼女の横顔に、森を想う強い覚悟が滲んでいた。ただプライドが高いだけの、世間知らずなエルフではなかったようだ。

「そうか。俺もギルドの依頼で、原因を調査しに来た。目的は同じらしいな」
「……あなたのような得体の知れない人と、目的が同じだなんて思いたくないけど」

シルフィリアはそう言って鼻を鳴らしたが、その声に以前のような棘はなかった。

「瘴気の源は、おそらく森の中央にある沼地よ。あそこは、古くから森の力が集まる神聖な場所だった。もし異変が起きているとしたら、あそこが一番怪しいわ」

彼女の情報は、バルガンから受け取った資料にはない、貴重なものだった。

「案内しろ」
「なっ……! 何で私が、あなたに命令されなきゃいけないのよ!」
「俺はこの森の地理に詳しくない。あんたは詳しい。効率を考えれば、協力するのが一番だろう」

俺の合理的な提案に、シルフィリアはぐっと言葉を詰まらせた。しばらく不満そうに俺を睨んでいたが、やがて諦めたように大きなため息をついた。

「……分かったわ。ただし、勘違いしないでよね。あなたのためじゃない。あくまで、この森のために協力してあげるだけなんだから」

典型的なツンデレだった。俺は小さく頷くと、彼女の後に続いた。
こうして、俺とシルフィリアの奇妙な共闘が始まった。

シルフィリアの案内で、俺たちは森の奥深くへと進んでいく。道中、何度も凶暴化した魔獣に襲われたが、その全てを俺が斬り伏せた。シルフィリアは後方から魔法で援護しようとするのだが、彼女が詠唱を終える前に、俺が戦闘を終わらせてしまう。そのたびに、彼女は悔しそうな顔をしていた。

「あなた、少しは手加減というものを知らないの……?」
「敵に手加減する趣味はない」

そんなやり取りを繰り返しながら、俺たちはついに瘴気の源とされる沼地へとたどり着いた。

そこは、不気味なほど静まり返っていた。沼の水はヘドロのように黒く濁り、周囲の木々は枯れ果てている。そして、地面の至る所から、濃密な黒い瘴気が噴き出していた。空気が重く、呼吸をするだけで気分が悪くなる。

「ひどい……。聖なる沼が、こんな姿に……」

シルフィリアが、悲痛な声を漏らす。
その時だった。

ザバアアアンッ!

黒く濁った沼の水面が、突如として大きく盛り上がった。そして、中から巨大な何かが姿を現す。

それは、蛇だった。
だが、ただの蛇ではない。その全長は二十メートルを超え、体はぬらりとした紫色の鱗で覆われている。そして、鎌のように湾曲した巨大な牙の隙間からは、絶えず毒の霧が漏れ出していた。

「ポイズンサーペント……! まさか、こんな古代の魔獣が、まだ生きていたなんて……!」

シルフィリアが、驚愕と絶望の入り混じった声を上げる。ポイズンサーペント。Aランクに分類される、伝説級の魔獣だ。その毒は、竜さえも殺すと言われている。

どうやら、こいつがこの森の異変の元凶らしい。奴が吐き出す毒の瘴気が、沼を汚染し、森全体を蝕んでいるのだ。

「グルルルルル……」

ポイズンサーペントは、鎌首をもたげ、その黄色く濁った目で俺たちを睨みつけた。その巨体から放たれる威圧感は、オークジェネラルさえも上回っていた。

「シルフィリア、援護を頼む」
「……ええ。分かってるわ」

彼女の声は震えていたが、その瞳には戦う覚悟が宿っていた。

「行くぞ!」

俺はミスリルの剣を構え、地面を蹴った。ポイズンサーペントの巨体へと、真っ直ぐに突っ込む。

「喰らえ! サンダーランス!」

シルフィリアの詠唱と共に、数本の雷の槍が生まれ、サーペントの胴体を打ち据えた。紫色の鱗がバチバチと火花を散らす。だが、致命傷には程遠い。

サーペントは怒りの咆哮を上げ、その巨大な尾を鞭のようにしならせて俺を薙ぎ払った。俺はそれを跳躍して回避する。だが、それは陽動だった。

「危ない!」

シルフィリアの叫びと同時に、サーペントの口が大きく開かれ、そこから濃密な紫色の毒ブレスが放射された。

俺は空中で体勢を変えることができず、毒の奔流に為すすべもなく飲み込まれた。

「ぐ……あああああっ!」

全身の皮膚が焼け爛れ、内側から肉が溶けていくような激痛。視界が紫に染まり、呼吸ができなくなる。

これは、ポイズン・スパイダーの毒とは比べ物にならない。即死性の猛毒だ。

シルフィリアが悲鳴を上げるのが聞こえる。
俺の体は、毒のブレスを浴びながら、力なく地面へと落下していった。

これが、この森での最初の死だった。
だが、俺の口元には、確かな笑みが浮かんでいた。

最高の獲物だ。
こいつに殺され続ければ、俺は「毒」を完全に克服できる。

新たなる死闘の幕が、今、上がった。
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