レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第23話:レベル1への侮り

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「関係ない、か。まあ、そうだろうな」

俺はエルフの少女のそっけない態度に、肩をすくめて見せた。彼女の目的が何であれ、俺がやるべきことは変わらない。この森の異変の原因を突き止めることだ。

俺は彼女に背を向け、森のさらに奥へと足を進めようとした。これ以上、このプライドの高いエルフに関わっている時間はない。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

すると、背後から慌てたような声が飛んできた。振り返ると、彼女が不満そうな顔でこちらを睨んでいる。

「何だ」
「何だ、じゃないわよ! 人を助けておいて、そのまま無視して行くなんて、どういうつもり?」

その言葉は、まるで俺が非礼を働いているかのような口ぶりだった。助けられたのはそっちの方だろうに。

「あんたが関係ないと言ったんだろう。俺は忙しいんでな」
「それはそれ、これはこれよ! あなた、自分が何をしたか分かってるの? レベル1のくせに、Bランク相当の魔獣を素手で……。普通じゃないわ。説明なさい」

どうやら彼女は、俺の異常な強さに興味というか、疑念を抱いているらしい。その謎を解明するまで、俺を解放するつもりはないようだった。

俺はため息をついた。面倒なことになった。

「説明することなど何もない。見たままだ」
「見たままなわけないでしょ! レベル1なんて、ゴブリンにすら苦戦する最弱の存在よ。それが、フレイムウルフの群れを一瞬で……。何か隠しているに決まってるわ」

彼女は杖の先を俺に向け、翠色の瞳を鋭く細めた。その瞳には、侮りと好奇心が混じり合っている。レベル1という肩書きが、彼女の中で俺の評価を著しく下げているのだ。たとえ、そのレベル1に命を救われた後だとしても。

「あなたのその力、もしかして禁忌の魔法か何か? あるいは、悪魔との契約とか。だとしたら、エルフの魔術師として見過ごすわけにはいかないわ」

彼女の疑いは、とんでもない方向へと飛躍していた。悪魔との契約。そんなお伽噺のような話を持ち出すとは。見た目は若いが、もしかしたら相当な世間知らずなのかもしれない。

「好きに考えればいい。俺は行く」

俺は再び背を向けた。だが、彼女は諦めなかった。俺の前に回り込み、行く手を阻むようにして立ちはだかる。

「行かせないわ。あなたの正体が分かるまで、ここを動くことを許可しない」
「許可しない、だと? あんたにそんな権限があるのか」
「あるわ。私はシルフィリア。森を愛し、理を尊ぶエルフの民よ。この森の秩序を乱す可能性のあるあなたを、監視する義務がある」

シルフィリア。それが彼女の名前らしい。ずいぶんと大仰な自己紹介だった。

俺とシルフィリアが睨み合っていると、森の奥から再び魔獣の気配が近づいてきた。今度は、先ほどの狼たちよりもさらに大きく、禍々しい気配だ。

地面が、微かに揺れている。

「……また来たか」
「今度は一体じゃないわね。数が多い……!」

シルフィリアの表情が、わずかに強張る。俺は彼女を押しのけるようにして前に出た。

茂みを突き破り、姿を現したのは、巨大な猪の群れだった。その体はフレイムウルフと同じように皮膚が爛れ、目には狂気の光が宿っている。体長は三メートルを超え、その牙は鋭い槍のように前へと突き出していた。

「ブラッドボアの群れ……! しかも、十体以上……!」

シルフィリアが、絶望的な声を漏らした。ブラッドボア。Cランクの魔獣で、その突進力は城壁すら砕くとさえ言われている。それが、群れをなして襲ってくる。Bランクの冒険者パーティでも、全滅を覚悟しなければならないほどの脅威だ。

「あなた! さすがにこれは無理よ! 逃げるわよ!」

シルフィリアが俺の腕を掴もうとする。だが、俺はその手を振り払った。

「逃げる必要はない」
「何を言ってるの!? あなたがいくら異常でも、この数を相手にするのは自殺行為よ! レベル1のあなたが足手まといになったら、私まで……!」

彼女は、俺が足手まといになることを懸念している。俺が彼女を助けるのではなく、自分が俺を助けながら逃げなければならないと思っているのだ。どこまでも、俺をレベル1の雑魚だと見下している。

その侮りが、俺の心の奥底にある何かに火をつけた。

「黙って見てろ」

俺は短く告げると、ミスリルの剣を抜き放った。青白い刀身が、薄暗い森の中で妖しい光を放つ。

「え……」

シルフィリアが息を呑む。彼女ほどの魔術師なら、その剣がただの鉄ではないことくらい、一目で分かっただろう。

「グルオオオオオオッ!」

先頭のブラッドボアが、大地を揺るがす突進を仕掛けてきた。その速度は、暴走する鉄塊のようだ。

シルフィリアが「危ない!」と叫ぶ。
だが、俺は冷静だった。

突進してくるブラッドボアに対し、俺は避けることもなく、真正面から迎え撃つ。そして、奴の牙が俺を貫く寸前、わずかに体を捻り、その突進の軌道を逸らした。

すれ違いざま、俺のミスリルの剣が閃く。

ザシュッ、という生々しい音。
ブラッドボアは、突進の勢いを保ったまま、数メートル先で動きを止めた。そして、その巨大な首が、胴体からずり落ちるようにして地面に転がった。

一閃。
ただの一振りで、Cランクの魔獣の首を刎ねたのだ。

「……な……」

シルフィリアが、言葉を失ってその光景を見つめている。
残りのブラッドボアたちが、仲間の死を見て一瞬動きを止めた。

俺は、その隙を見逃さない。
次の獲物へと、疾風のように駆け出した。

「馬鹿な……レベル1の剣筋じゃ、ない……。あの速度、あの威力……。一体、あなた……何者なの……?」

シルフィリアの震える声が、背後から聞こえてきた。その声には、もはや侮りの色はない。代わりに、理解不能な存在を前にした、純粋な畏怖と混乱が満ちていた。

俺は彼女の問いには答えず、ただ黙々と、眼前の敵を斬り伏せていく。
ブラッドボアの群れが、俺一人によって蹂躙されていく。その光景は、彼女がこれまで信じてきた「レベル」という世界の理を、根底から覆すものだった。

レベル1への侮りは、今、この瞬間、驚愕へと変わろうとしていた。
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