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第34話:初めての仲間
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エンシェントキマイラが消滅し、遺跡の心臓部を覆っていた黒い瘴気は完全に霧散した。代わりに、浄化された清らかな魔力が、ドーム状の空間を満たしている。天井の亀裂から差し込む光が、まるで俺たちの勝利を祝福しているかのようだった。
「……立てるか?」
「ええ……なんとか」
俺は魔力を使い果たして脱力しているシルフィリアに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がらせた。彼女の体は驚くほど軽く、そして温かかった。
俺たちは、互いに支え合いながら、静まり返った遺跡を後にした。ゴーレムの残骸も、幻惑の回廊の罠も、主を失った今では完全に沈黙している。
沼の底から地上へと戻ると、森の空気が一変していることに気づいた。淀んでいた空気は澄み渡り、枯れ果てていた木々には、かすかに緑の新芽が芽吹き始めている。鳥のさえずりさえ聞こえてくる。森は、確かに息を吹き返していた。
「……よかった」
シルフィリアが、心の底から安堵したように呟いた。その横顔は、森の再生を目の当たりにして、母のような慈愛に満ちた表情を浮かべていた。
「これで、俺の依頼も完了だ。ギルドに戻って報告しないとな」
俺は肩に担いでいたポイズンサーペントの牙を担ぎ直した。キマイラは跡形もなく消滅してしまったため、討伐の証拠はこれしかない。だが、森の状態を見れば、バルガンも納得するだろう。
「……そうね」
シルフィリアの返事は、どこか歯切れが悪かった。彼女は何かを言いたそうに、唇を何度か開閉させたが、結局俯いてしまう。
「どうした?」
「……別に、なんでもないわ」
彼女の態度に、俺は少しだけ寂しさを感じた。
依頼は終わった。俺は冒険者として、次の目的地へと向かう。彼女は、故郷であるこの森に残り、その再生を見守るのだろう。俺たちの道は、ここで分かれる。それが、当然の流れだった。
俺たちは、言葉少なに森の出口へと向かって歩いた。あれほどの死闘を共に乗り越えたというのに、別れの時が近づくにつれて、二人の間には気まずい空気が流れ始めていた。
森の入り口が見えてきた。
街へと続く道と、森の奥へと続く道。分かれ道だ。
「……じゃあな」
俺は、努めてあっさりと別れの言葉を口にした。
「あんたには世話になった。達者で暮らせよ」
「……ええ」
シルフィリアは、小さな声で頷くだけだった。彼女は、森の奥へと続く道に視線を向けたまま、動こうとしない。
俺は、そんな彼女に背を向け、街へと続く道を歩き始めた。
一歩、また一歩と、彼女から遠ざかっていく。
これでいい。俺は一人で強くなる。仲間など、足手まといになるだけだ。追放されたあの日、そう誓ったはずだ。
だが、足取りは鉛のように重かった。
背中を預けられる仲間がいることの心強さ。秘密を共有できる相手がいることの安堵感。それを、俺はシルフィリアと共にいることで、知ってしまった。
再び、あの孤独な日々に逆戻りするのか。
そう思うと、胸の奥が、ちくりと痛んだ。
十歩ほど歩いただろうか。
俺が、彼女との別れを完全に受け入れようとした、その時だった。
「待ちなさいよ、この朴念仁!」
背後から、これまで聞いたこともないような、切羽詰まった声が飛んできた。
振り返ると、シルフィリアが顔を真っ赤にして、こちらを睨みつけていた。その翠色の瞳は、少し潤んでいるように見えた。
「……何だ」
「何だ、じゃないわよ! このままお別れなんて、私が納得できるわけないでしょ!」
「だが、あんたは森に残るんだろう」
「……残るわよ。でも、ずっとじゃないわ。森が完全に再生するのを見届けたら、私はまた、私の旅を続けるつもりだもの」
彼女は、一度息を吸い込むと、意を決したように叫んだ。
「だ、だから……! その……! あなたのスキル、研究対象として、ものすごく面白そうだから……! わ、私が、特別に、あなたの旅に同行して、観察してあげてもいいって言ってるのよ!」
それは、彼女なりの、最大限の歩み寄りだった。素直に「一緒にいたい」と言えない、プライドの高い彼女らしい、捻くれた申し出。
その不器用さが、どうしようもなく愛おしく思えた。
俺は、吹き出しそうになるのをこらえ、真面目な顔で問い返した。
「研究対象、か。俺にメリットはあるのか?」
「め、メリット!? あるに決まってるでしょ! 私のような、美しくて聡明で、超一流の魔法を使いこなすエルフの魔術師が仲間になるのよ!? これ以上のメリットがどこにあるって言うのよ!」
彼女は、胸を張り、必死に自分の価値をアピールしている。その姿は、少し滑稽で、だが、真剣だった。
俺は、もう我慢できなかった。
「ぷっ……ははははは!」
腹を抱えて笑い出した俺を見て、シルフィリアの顔がさらに赤く染まっていく。
「な、何がおかしいのよ! 人が真剣に話してるのに!」
「いや……悪い。あんた、やっぱり面白いな」
俺は笑いながら、彼女の元へと歩み寄った。そして、その銀色の髪を、くしゃりと撫でた。
「ひゃっ!?」
彼女は猫のように体を震わせ、驚いた顔で俺を見上げた。
「よろしく頼む。俺の、初めての仲間」
俺が、まっすぐな目で見つめてそう言うと、彼女は全ての抵抗をやめた。そして、小さな声で、しかしはっきりと、こう言った。
「……ええ。よろしくね、私の、初めてのパートナー」
照れ隠しだろうか。彼女は最後に「ただし、対等な関係なんだから、勘違いしないでよね!」と付け加えるのを忘れなかった。
こうして、俺は一人ではなくなった。
追放されて以来、初めて、心の底から信頼できる仲間ができたのだ。
俺とシルフィリア。
レベル1の不死身の剣士と、ツンデレなエルフの天才魔術師。
二人の奇妙で、そして最強のパーティが、今、この瞬間に誕生した。
俺たちは、どちらからともなく顔を見合わせ、笑い合った。
その笑顔は、森に差し込む木漏れ日のように、明るく、温かかった。
「……立てるか?」
「ええ……なんとか」
俺は魔力を使い果たして脱力しているシルフィリアに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がらせた。彼女の体は驚くほど軽く、そして温かかった。
俺たちは、互いに支え合いながら、静まり返った遺跡を後にした。ゴーレムの残骸も、幻惑の回廊の罠も、主を失った今では完全に沈黙している。
沼の底から地上へと戻ると、森の空気が一変していることに気づいた。淀んでいた空気は澄み渡り、枯れ果てていた木々には、かすかに緑の新芽が芽吹き始めている。鳥のさえずりさえ聞こえてくる。森は、確かに息を吹き返していた。
「……よかった」
シルフィリアが、心の底から安堵したように呟いた。その横顔は、森の再生を目の当たりにして、母のような慈愛に満ちた表情を浮かべていた。
「これで、俺の依頼も完了だ。ギルドに戻って報告しないとな」
俺は肩に担いでいたポイズンサーペントの牙を担ぎ直した。キマイラは跡形もなく消滅してしまったため、討伐の証拠はこれしかない。だが、森の状態を見れば、バルガンも納得するだろう。
「……そうね」
シルフィリアの返事は、どこか歯切れが悪かった。彼女は何かを言いたそうに、唇を何度か開閉させたが、結局俯いてしまう。
「どうした?」
「……別に、なんでもないわ」
彼女の態度に、俺は少しだけ寂しさを感じた。
依頼は終わった。俺は冒険者として、次の目的地へと向かう。彼女は、故郷であるこの森に残り、その再生を見守るのだろう。俺たちの道は、ここで分かれる。それが、当然の流れだった。
俺たちは、言葉少なに森の出口へと向かって歩いた。あれほどの死闘を共に乗り越えたというのに、別れの時が近づくにつれて、二人の間には気まずい空気が流れ始めていた。
森の入り口が見えてきた。
街へと続く道と、森の奥へと続く道。分かれ道だ。
「……じゃあな」
俺は、努めてあっさりと別れの言葉を口にした。
「あんたには世話になった。達者で暮らせよ」
「……ええ」
シルフィリアは、小さな声で頷くだけだった。彼女は、森の奥へと続く道に視線を向けたまま、動こうとしない。
俺は、そんな彼女に背を向け、街へと続く道を歩き始めた。
一歩、また一歩と、彼女から遠ざかっていく。
これでいい。俺は一人で強くなる。仲間など、足手まといになるだけだ。追放されたあの日、そう誓ったはずだ。
だが、足取りは鉛のように重かった。
背中を預けられる仲間がいることの心強さ。秘密を共有できる相手がいることの安堵感。それを、俺はシルフィリアと共にいることで、知ってしまった。
再び、あの孤独な日々に逆戻りするのか。
そう思うと、胸の奥が、ちくりと痛んだ。
十歩ほど歩いただろうか。
俺が、彼女との別れを完全に受け入れようとした、その時だった。
「待ちなさいよ、この朴念仁!」
背後から、これまで聞いたこともないような、切羽詰まった声が飛んできた。
振り返ると、シルフィリアが顔を真っ赤にして、こちらを睨みつけていた。その翠色の瞳は、少し潤んでいるように見えた。
「……何だ」
「何だ、じゃないわよ! このままお別れなんて、私が納得できるわけないでしょ!」
「だが、あんたは森に残るんだろう」
「……残るわよ。でも、ずっとじゃないわ。森が完全に再生するのを見届けたら、私はまた、私の旅を続けるつもりだもの」
彼女は、一度息を吸い込むと、意を決したように叫んだ。
「だ、だから……! その……! あなたのスキル、研究対象として、ものすごく面白そうだから……! わ、私が、特別に、あなたの旅に同行して、観察してあげてもいいって言ってるのよ!」
それは、彼女なりの、最大限の歩み寄りだった。素直に「一緒にいたい」と言えない、プライドの高い彼女らしい、捻くれた申し出。
その不器用さが、どうしようもなく愛おしく思えた。
俺は、吹き出しそうになるのをこらえ、真面目な顔で問い返した。
「研究対象、か。俺にメリットはあるのか?」
「め、メリット!? あるに決まってるでしょ! 私のような、美しくて聡明で、超一流の魔法を使いこなすエルフの魔術師が仲間になるのよ!? これ以上のメリットがどこにあるって言うのよ!」
彼女は、胸を張り、必死に自分の価値をアピールしている。その姿は、少し滑稽で、だが、真剣だった。
俺は、もう我慢できなかった。
「ぷっ……ははははは!」
腹を抱えて笑い出した俺を見て、シルフィリアの顔がさらに赤く染まっていく。
「な、何がおかしいのよ! 人が真剣に話してるのに!」
「いや……悪い。あんた、やっぱり面白いな」
俺は笑いながら、彼女の元へと歩み寄った。そして、その銀色の髪を、くしゃりと撫でた。
「ひゃっ!?」
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「……ええ。よろしくね、私の、初めてのパートナー」
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俺とシルフィリア。
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俺たちは、どちらからともなく顔を見合わせ、笑い合った。
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