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第35話:Bランク昇格
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俺とシルフィリアは、再生を始めた森を背に、迷宮都市オラトリアへの帰路についた。二人で並んで歩くのは、どこか新鮮で、少しだけ照れくさい。
「……人間の街って、こんなに騒がしいのね。埃っぽいし、色々な匂いが混じって品がないわ」
街の門をくぐったシルフィリアは、初めて見る人間の都市の喧騒に眉をひそめながら、いつもの調子で悪態をついた。だが、その翠色の瞳は好奇心に満ちてきらきらと輝いており、本心ではこの活気を楽しんでいることが見て取れた。
「嫌なら森に帰るか?」
「なっ……! 誰が帰るなんて言ったのよ! あなたの生態を観察するという、私の崇高な研究目的を忘れたわけじゃないでしょうね!」
彼女はぷいと顔をそむける。そのやり取りも、もはや俺たちの間ではお決まりのものになりつつあった。
俺たちが二人で冒険者ギルドの扉を開けると、ホールにいた全ての冒険者たちが、息を呑んでこちらを見た。俺の再登場にも驚いただろうが、それ以上に、俺の隣に立つシルフィリアの存在が、彼らの度肝を抜いたのだ。
絹のような銀髪、彫刻のように整った顔立ち、そして人間にはない神秘的な気配を纏う、尖った耳。本物のエルフ、それも絶世の美女が、あのレベル1の化け物と一緒にいる。その事実は、彼らの理解を完全に超えていた。
「エルフ……だと……?」
「しかも、とんでもない美人だぞ……」
「どういう関係なんだ? あのレベル1、いつの間にあんなお宝を……」
羨望と嫉妬、そして畏怖が入り混じった視線が、俺たち二人に突き刺さる。シルフィリアは、そんな無遠慮な視線に少し不快そうな表情を浮かべたが、堂々と胸を張って歩いている。さすがは元王族といったところか。
俺たちはそんな周囲のざわめきを無視し、まっすぐにギルドの奥、バルガンの執務室へと向かった。ノックをすると、中から「入れ」という低い声が聞こえる。
「戻ったか、カイル。早かったな。森の入り口で怖気づいて逃げ帰ってき……」
執務机に座っていたバルガンは、俺の姿を認めてニヤリと笑ったが、俺の後ろに立つシルフィリアの姿を見て、その言葉を途中で止めた。歴戦の強者である彼の目が、驚きに見開かれる。
「……ほう。こいつはまた、とんでもないお宝を連れてきやがったな」
バルガンは椅子から立ち上がると、シルフィリアの全身を値踏みするように見た。だが、その視線は下卑たものではなく、同等か、あるいはそれ以上の強者に対する、純粋な興味と警戒の色を帯びていた。
「依頼の報告だ」
俺は、肩に担いでいたポイズンサーペントの巨大な牙を、彼の机の上に置いた。ズシン、と部屋が揺れるほどの重い音が響く。
「……ポイズンサーペントの牙。それも、数百年は生きたであろう主クラスの個体だ。森の瘴気も、完全に消え去ったとの報告が入っている。……まさかとは思うが、一日も経たずに原因を特定し、排除までしてきたというのか?」
「ああ。こいつの協力もあってな」
俺が隣のシルフィリアを示すと、彼女はふんと鼻を鳴らした。
「私が本気を出せば、これくらい当然よ」
その自信に満ちた態度と、彼女から発せられる膨大な魔力量を感じ取って、バルガンは得心がいったように深く頷いた。
「なるほどな。エルフのハイキャスターか。道理で、規格外の芸当ができるわけだ。カイル、貴様はとんでもないパートナーを見つけたもんだ」
バルガンは豪快に笑うと、報酬である金貨百枚が詰まった革袋を俺に放り投げた。
「見事な仕事だった。文句なしのSランク級の功績だ。貴様のBランク昇格は、間違いなく正しかったと、俺が保証してやる」
彼の言葉に、俺は静かに頷いた。
そして、バルガンはシルフィリアに向き直る。
「さて、そこのエルフの嬢ちゃん。あんた、ギルドには未登録だろう。どうだ、この際、冒険者にならねえか?」
「私が? 人間の組織に属するなんて、まっぴらごめんよ」
シルフィリアは、即座に拒絶した。
「まあ、そう言うな。あんたほどの魔術師が野良でいるのは、世のためにならん。それに、カイルとパーティを組むなら、正式な手続きを踏んでおいた方が、何かと都合がいいだろう」
バルガンは、机の引き出しから一枚のまっさらなギルドカードを取り出した。
「あんたの実力は、この俺が保証する。カイルと同じ、特例でBランクからスタートさせてやろう。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」
「……Bランク?」
シルフィリアの目が、わずかに動いた。
バルガンは、その反応を見逃さず、ニヤリと笑って畳み掛ける。
「そうだ。Bランクになれば、高難易度の依頼を自由に受けられる。つまり、カイルの面白い生態……いや、面白い『死に様』を観察する機会が、格段に増えるってことだ。それでも、興味はないか?」
その言葉は、シルフィリアの心を的確に射抜いた。
彼女はしばらくの間、腕を組んで考え込んでいたが、やがて仕方がないといった表情で、大きなため息をついた。
「……しょうがないわね。あなたがそこまで言うなら、登録だけしてあげてもいいわ。ただし、勘違いしないで。これは全て、私の知的好奇心を満たすための研究活動の一環なんだから!」
彼女はビシッと指を突きつけ、いつもの調子でそう宣言した。
こうして、シルフィリアもまた、レベル表記のない、特例のBランク冒険者として登録されることになった。
俺とシルフィリア。
レベル1のBランク剣士と、レベル不明のBランク魔術師。
前代未聞のパーティが、ここに正式に誕生した。
執務室を出ると、俺たちは二枚のBランクプレートを並べてみた。
その光景は、どこかおかしくて、だが、誇らしかった。
「さて、これからどうする?」
「決まってるでしょ。次の研究……じゃなくて、冒険の準備よ。まずは、こんな埃っぽい街から出て、もっと景色のいい場所に行きましょう」
シルフィリアは、まるで自分のパーティであるかのように、意気揚々と歩き始めた。
その背中を見ながら、俺は静かに笑った。
一人ではなくなった旅路。
それは、俺が想像していたよりも、ずっと騒がしくて、ずっと楽しいものになりそうだった。
俺は、彼女の隣に並び、まだ見ぬ次なる冒険へと、新たな一歩を踏み出した。
「……人間の街って、こんなに騒がしいのね。埃っぽいし、色々な匂いが混じって品がないわ」
街の門をくぐったシルフィリアは、初めて見る人間の都市の喧騒に眉をひそめながら、いつもの調子で悪態をついた。だが、その翠色の瞳は好奇心に満ちてきらきらと輝いており、本心ではこの活気を楽しんでいることが見て取れた。
「嫌なら森に帰るか?」
「なっ……! 誰が帰るなんて言ったのよ! あなたの生態を観察するという、私の崇高な研究目的を忘れたわけじゃないでしょうね!」
彼女はぷいと顔をそむける。そのやり取りも、もはや俺たちの間ではお決まりのものになりつつあった。
俺たちが二人で冒険者ギルドの扉を開けると、ホールにいた全ての冒険者たちが、息を呑んでこちらを見た。俺の再登場にも驚いただろうが、それ以上に、俺の隣に立つシルフィリアの存在が、彼らの度肝を抜いたのだ。
絹のような銀髪、彫刻のように整った顔立ち、そして人間にはない神秘的な気配を纏う、尖った耳。本物のエルフ、それも絶世の美女が、あのレベル1の化け物と一緒にいる。その事実は、彼らの理解を完全に超えていた。
「エルフ……だと……?」
「しかも、とんでもない美人だぞ……」
「どういう関係なんだ? あのレベル1、いつの間にあんなお宝を……」
羨望と嫉妬、そして畏怖が入り混じった視線が、俺たち二人に突き刺さる。シルフィリアは、そんな無遠慮な視線に少し不快そうな表情を浮かべたが、堂々と胸を張って歩いている。さすがは元王族といったところか。
俺たちはそんな周囲のざわめきを無視し、まっすぐにギルドの奥、バルガンの執務室へと向かった。ノックをすると、中から「入れ」という低い声が聞こえる。
「戻ったか、カイル。早かったな。森の入り口で怖気づいて逃げ帰ってき……」
執務机に座っていたバルガンは、俺の姿を認めてニヤリと笑ったが、俺の後ろに立つシルフィリアの姿を見て、その言葉を途中で止めた。歴戦の強者である彼の目が、驚きに見開かれる。
「……ほう。こいつはまた、とんでもないお宝を連れてきやがったな」
バルガンは椅子から立ち上がると、シルフィリアの全身を値踏みするように見た。だが、その視線は下卑たものではなく、同等か、あるいはそれ以上の強者に対する、純粋な興味と警戒の色を帯びていた。
「依頼の報告だ」
俺は、肩に担いでいたポイズンサーペントの巨大な牙を、彼の机の上に置いた。ズシン、と部屋が揺れるほどの重い音が響く。
「……ポイズンサーペントの牙。それも、数百年は生きたであろう主クラスの個体だ。森の瘴気も、完全に消え去ったとの報告が入っている。……まさかとは思うが、一日も経たずに原因を特定し、排除までしてきたというのか?」
「ああ。こいつの協力もあってな」
俺が隣のシルフィリアを示すと、彼女はふんと鼻を鳴らした。
「私が本気を出せば、これくらい当然よ」
その自信に満ちた態度と、彼女から発せられる膨大な魔力量を感じ取って、バルガンは得心がいったように深く頷いた。
「なるほどな。エルフのハイキャスターか。道理で、規格外の芸当ができるわけだ。カイル、貴様はとんでもないパートナーを見つけたもんだ」
バルガンは豪快に笑うと、報酬である金貨百枚が詰まった革袋を俺に放り投げた。
「見事な仕事だった。文句なしのSランク級の功績だ。貴様のBランク昇格は、間違いなく正しかったと、俺が保証してやる」
彼の言葉に、俺は静かに頷いた。
そして、バルガンはシルフィリアに向き直る。
「さて、そこのエルフの嬢ちゃん。あんた、ギルドには未登録だろう。どうだ、この際、冒険者にならねえか?」
「私が? 人間の組織に属するなんて、まっぴらごめんよ」
シルフィリアは、即座に拒絶した。
「まあ、そう言うな。あんたほどの魔術師が野良でいるのは、世のためにならん。それに、カイルとパーティを組むなら、正式な手続きを踏んでおいた方が、何かと都合がいいだろう」
バルガンは、机の引き出しから一枚のまっさらなギルドカードを取り出した。
「あんたの実力は、この俺が保証する。カイルと同じ、特例でBランクからスタートさせてやろう。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」
「……Bランク?」
シルフィリアの目が、わずかに動いた。
バルガンは、その反応を見逃さず、ニヤリと笑って畳み掛ける。
「そうだ。Bランクになれば、高難易度の依頼を自由に受けられる。つまり、カイルの面白い生態……いや、面白い『死に様』を観察する機会が、格段に増えるってことだ。それでも、興味はないか?」
その言葉は、シルフィリアの心を的確に射抜いた。
彼女はしばらくの間、腕を組んで考え込んでいたが、やがて仕方がないといった表情で、大きなため息をついた。
「……しょうがないわね。あなたがそこまで言うなら、登録だけしてあげてもいいわ。ただし、勘違いしないで。これは全て、私の知的好奇心を満たすための研究活動の一環なんだから!」
彼女はビシッと指を突きつけ、いつもの調子でそう宣言した。
こうして、シルフィリアもまた、レベル表記のない、特例のBランク冒険者として登録されることになった。
俺とシルフィリア。
レベル1のBランク剣士と、レベル不明のBランク魔術師。
前代未聞のパーティが、ここに正式に誕生した。
執務室を出ると、俺たちは二枚のBランクプレートを並べてみた。
その光景は、どこかおかしくて、だが、誇らしかった。
「さて、これからどうする?」
「決まってるでしょ。次の研究……じゃなくて、冒険の準備よ。まずは、こんな埃っぽい街から出て、もっと景色のいい場所に行きましょう」
シルフィリアは、まるで自分のパーティであるかのように、意気揚々と歩き始めた。
その背中を見ながら、俺は静かに笑った。
一人ではなくなった旅路。
それは、俺が想像していたよりも、ずっと騒がしくて、ずっと楽しいものになりそうだった。
俺は、彼女の隣に並び、まだ見ぬ次なる冒険へと、新たな一歩を踏み出した。
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