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第45話:北の鉱山都市
しおりを挟むアースゴーレムとの戦闘は、俺たち三人の連携が完璧に機能することを証明した。ヴォルフという頼れる前衛が加わったことで、俺はより自由に動けるようになり、シルフィリアは後方から戦況全体をコントロールすることに専念できる。俺たちのパーティは、日を追うごとに洗練されていった。
ザラームで次なる目的地を話し合った結果、俺たちは北の鉱山都市「グランツ」を目指すことに決めた。ヴォルフの規格外のパワーに耐えうる、新たな大剣の素材を求めるためだ。出発の準備のためザラームのギルドに立ち寄った際、俺は冒険者たちの噂話を耳にした。「そういえば、最近落ちぶれた勇者パーティがヒーラーを探して、同じく北に向かったらしいぜ」「ああ、あの『暁の剣』か。仲間割れでもしたのかね」。聞き覚えのある名前に一瞬眉をひそめたが、すぐに思考を切り替えた。今の俺には、もう関係のないことだ。
旅を続けること数日。俺たちは、そのグランツに到着していた。雪を冠した険しい山脈の麓に築かれたこの街は、石と鉄でできた無骨な建物が立ち並び、常に鍛冶の槌音が響いている。ザラームのような華やかさはないが、職人たちの確かな営みと活気が感じられる街だった。
「うへえ……。なんだ、この街は。鉄臭くて、男臭くて、全然可愛くないわ」
シルフィリアは、鼻をつまみながら不満そうに呟いた。
「がっはっは! 俺は好きだぜ、こういう街は! 旨い酒と、頑丈な武具がありそうだ!」
対照的に、ヴォルフは目を輝かせている。
俺たちがこの街を訪れたのには、明確な目的があった。
ヴォルフが使う大剣だ。闘技場で使っていた愛用の大剣は、俺との戦いで砕けてしまった。今彼が使っているのは、ザラームで買った間に合わせの鉄製のもので、彼の規格外のパワーに耐えきれず、すでに刃こぼれが目立ち始めている。
「あんたほどの使い手には、それ相応の武器が必要だ。この街なら、最高の素材と、最高の職人が見つかるかもしれん」
俺は、ギルドで仕入れた情報を元に、そう提案したのだ。
このグランツ鉱山でしか採掘されないという、伝説の金属。魔法との親和性が極めて高く、鋼の数十倍の強度を誇るという、オリハルコン。それを使えば、ヴォルフのパワーに耐えうる、究極の大剣が打てるかもしれない。
「オリハルコン、ね。エルフの伝承にも出てくるわ。神々が使った武具の材料だとされている、幻の金属よ。本当に、そんなものがこの山にあるのかしら」
シルフィリアが、半信半疑といった様子で言う。
俺たちは、街で一番と評判の鍛冶屋を訪ねた。そこは、バルガンがいたオラトリアの店にも劣らない、見事な武具が並ぶ工房だった。
工房の主である、年老いたドワーフの職人に、俺はオリハルコンについて尋ねた。すると、老ドワーフは、悲しそうに首を横に振った。
「オリハルコン……。確かに、このグランツの山には、かつてその鉱脈があった。じゃが、今はもう、誰も近寄ることさえできん」
彼の話によれば、数ヶ月前、鉱山の最深部に巨大な魔物が巣食ってしまったのだという。それは、空を舞う凶暴な竜、ワイバーン。ワイバーンは鉱山を縄張りと定め、近づく鉱夫たちを容赦なく襲うようになった。ギルドも討伐隊を派遣したが、空を自在に飛ぶワイバーンを相手にすることができず、多大な犠牲者を出して撤退したそうだ。
それ以来、オリハルコンが眠る最深部の鉱脈は、完全に閉鎖されてしまったのだという。
「街の男たちは、皆悔しがっておる。宝の山を目の前にして、手が出せんのだからな。もし、あんたたちが、あのワイバーンをどうにかしてくれるというのなら……。ワシの生涯最高の技術で、オリハルコンの大剣を打ってやろう。だが、無謀な挑戦はやめておけ。空の王者に、地を這うだけの人間が勝てるはずもない」
老ドワーフは、そう言って寂しそうに槌を握った。
工房を出た俺たちの間には、重い沈黙が流れていた。
「……ワイバーン、か。Aランク級の、厄介な相手だな」
ヴォルフが、唸るように言った。彼の表情は険しい。
「空中を飛ぶ相手に、私たちの攻撃は届きにくいわ。特に、あなたの剣とヴォルフの大剣は、完全に無力化される可能性が高い。私の魔法も、高速で飛び回る相手に当てるのは至難の業よ」
シルフィリアも、冷静に戦力差を分析する。
ワイバーン。竜種の中でも、その飛行能力と獰猛さで知られる強敵だ。ブレスこそ吐かないが、その爪と牙は鉄の鎧さえも容易く引き裂き、翼で巻き起こす突風は家屋すら吹き飛ばすという。
普通のパーティなら、撤退を選ぶのが賢明な判断だろう。
だが、俺の頭の中では、すでに勝利への算段が組み上がりつつあった。
空中戦が不利? 攻撃が届かない?
ならば、届く場所に、行けばいい。
俺は、二人の仲間へと向き直った。
「……面白い。やってやろうじゃないか」
俺の不敵な笑みに、シルフィリアとヴォルフは驚いたような顔をした。
「大将、正気か? ドワーフの爺さんの話を聞いてなかったのか?」
「ええ。勝算はあるの?」
二人の問いに、俺は静かに頷いた。
「ああ。最高の『死に場所』が見つかった」
俺の言葉の意味を、シルフィリアはすぐに理解したようだった。彼女は「また、あれをやる気なの……」と、呆れたように、しかしどこか楽しそうにため息をついた。
ヴォルフは、まだ俺のスキルのことを詳しく知らない。彼はただ、俺の自信に満ちた態度を見て、何かとんでもない秘策があるのだろうと感じ取ったようだった。
「よく分からんが、大将がそう言うなら、俺は乗るぜ! 面白くなってきたじゃねえか!」
彼は、豪快に笑った。
こうして、俺たちの次なる目標が決まった。
北の鉱山に巣食う空の王者、ワイバーン。
ヴォルフの最強の剣を手に入れるため、そして、俺がさらなる高みへと至るため。
俺たちは、ギルドでワイバーン討伐の依頼を受け、雪深いグランツの山へと、その足を踏み入れた。
そこには、これまでのどの戦いとも違う、三次元の死闘が待ち受けていた。
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