レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第72話:死に戻りによる弱点分析

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「ガアアアアアアアアアッ!」

『百獣化』したガルムが、理性を失った咆哮を上げた。その巨体はさらに一回り大きくなり、赤黒いオーラが嵐のように吹き荒れている。もはやそこに知性ある将軍の姿はなく、ただ純粋な破壊衝動に突き動かされる天災のような存在が立っていた。

ガルムは地面に突き刺さっていた戦斧を引き抜くと、それをまるで小枝のように軽々と振り回し、ヴォルフへと突進した。その速度はこれまでの比ではない。残像さえ見えるほどの神速の突撃だった。

ヴォルフは、その突撃を正面から迎え撃った。
オリハルコンの大剣と魔鋼の戦斧が激突する。

ズウウウウウウンッ!

これまでとは比較にならない、天を揺るがすほどの衝撃音。
二人の足元の地面が直径数メートルにわたって陥没し、凄まじい衝撃波が周囲の魔族兵たちを吹き飛ばした。

だが、拮抗は一瞬で破れた。

「ぐ……おおおおおおっ!」

ヴォルフの体が、いとも簡単に弾き飛ばされる。彼の渾身の一撃は百獣化したガルムの圧倒的なパワーの前ではあまりにも無力だった。ヴォルフは数十メートル後方まで吹き飛び、俺のすぐ近くの地面に叩きつけられた。

「……がはっ……!」

ヴォルフは口から大量の血を吐き出した。オリハルコンの大剣はその手から離れ、遠くに転がっている。全身の骨が砕けているのが一目で分かった。もはや戦闘不能。

「……つ……ええ……な……」

彼は薄れゆく意識の中でそう呟いた。
ガルムはそんなヴォルフには目もくれず、次の破壊の対象を探すように、その狂気の瞳をぎょろりと動かした。そしてその視線が、地面に倒れたままの俺を捉えた。

「グ……ル……」

ガルムが唸り声を上げ、俺に向かって歩を進めてくる。
まずい。今の俺ではあの一撃を耐えることはできない。

その時だった。

「聖なる光よ、彼に守りの盾を! プロテクション!」

城壁の上からエリナの祈りの声が響いた。
淡い光の障壁が俺の体を包み込む。それはエリナが放てる最大級の防御魔法だった。

「ガアアッ!」

ガルムの戦斧がその障壁へと叩きつけられる。
バリンッ、というガラスが砕けるような音と共に障壁は一撃で粉砕された。だが、その一瞬の防御が俺にほんのわずかな時間を与えてくれた。

俺は最後の力を振り絞り、地面を転がった。
戦斧は俺がいた場所の地面を抉り、巨大なクレーターを作り出す。

(……助かった)

だが、状況は何も変わっていない。ガルムは再び戦斧を振りかぶり、俺にとどめを刺そうとしている。

シルフィリアも城壁の上から必死に魔法を放っているが、百獣化したガルムの体表を覆う赤黒いオーラがその全てを弾き返していた。

万事休すか。

俺は迫り来る死を覚悟した。
だが、その瞬間、俺の頭の中に、ある考えが閃いた。

(……そうだ。死ねばいい)

俺はもう何度も死んできた。
そしてその死の経験こそが、俺の最大の武器なのだ。

この絶望的な状況を覆す方法は一つしかない。
俺がガルムの奥義『百獣化』の攻撃をその身で受け続ける。そしてそのパターンと弱点を、この体に刻み込むのだ。

「……やってやる」

俺は覚悟を決めた。
それはこれまでで最も過酷で、最も苦痛に満ちた『死に戻り』になるだろう。

俺は立ち上がろうとするのをやめ、無防備なままガルムを見上げた。

「……カイル君!?」「大将!?」

仲間たちの悲痛な叫び声が聞こえる。
だが、俺はその声に答えることなく、ただ静かにガルムの振り下ろす死の一撃を待った。

二十一回目の死。
戦斧に脳天から体を両断された。

復活。
アイギスの砦の裏門。全身が引き裂かれる幻の激痛。
俺は歯を食いしばり、すぐに戦場へと戻った。

「グアアア?」

ガルムは殺したはずの俺が再び目の前に現れたことに、獣の本能レベルで混乱しているようだった。

俺は再びガルムの前に立ちはだかった。
そして彼の攻撃をあえて受けた。

二十二回目の死。
胸を貫かれ、心臓を抉り出された。

二十三回目の死。
両腕を叩き折られ、頭部を砕かれた。

二十四回目、二十五回目……。
俺は狂ったように死を繰り返した。
そのたびに俺の体には、『百獣化』したガルムの攻撃パターンが少しずつ、しかし確実に記録されていく。

(……見えてきた)

死の回数が三十回を超えた頃。俺はついにその核心に触れた。

ガルムの攻撃は確かに速く、重い。だが、理性を失っているが故にその動きは完全にパターン化されている。
右の薙ぎ払い。左の突き。そして脳天への振り下ろし。その三つの攻撃を獣の本能の赴くままに、ただ繰り返しているだけなのだ。

そして最も重要な発見。
それは彼が一連の攻撃を終えた後、次の攻撃に移るまでの間に、ほんのコンマ数秒、動きが完全に停止する瞬間があるということ。

おそらく、それは『百獣化』の副作用。強大な力を振るう代償として体に凄まじい負荷がかかり、一時的な硬直を生んでいるのだ。

これだ。
これこそが俺たちに残された唯一の勝機。

俺は三十一回目の死から復活すると、仲間たちがいる城壁の上へと向かった。
俺が再び生きて現れたことに、仲間たちは驚きと安堵の表情を浮かべた。

「カイル! 無事だったのね!」
「大将! てっきりまた無茶な死に方してるのかと……」

「……ヴォルフ」

俺はエリナの治癒魔法でなんとか動けるようになったヴォルフの元へと歩み寄った。

「お前にしか頼めないことがある」

俺は彼の耳元で静かに作戦を告げた。
俺が見つけ出したガルムの弱点。そしてその弱点を突くための、一撃必殺の策を。

俺の言葉を聞いたヴォルフの顔に、驚きと、そしてすぐに獰猛な戦士の笑みが戻った。

「……へっ。なるほどな。面白い。最高にイカした作戦じゃねえか」

彼は砕けた骨がまだ軋む体を、無理やり奮い立たせた。

「やってやるぜ、大将。あいつの首は、この俺が必ず獲る」

俺たちの最後の反撃が始まろうとしていた。
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