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第85話:竜将軍バハムート
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アランが光の粒子となって消え去った後には、一本の聖剣だけが残されていた。その輝きは完全に失われ、ただの鉄の塊のように冷たい。エリナは涙をこらえながらその聖剣をそっと拾い上げた。それは彼が生きた、そして道を誤った悲しい証だった。
「……行こう」
俺は感傷に浸る仲間たちに静かに声をかけた。俺たちの戦いはまだ終わっていない。魔王を討つ。その目的を果たすまで、立ち止まっている暇はなかった。
シルフィリアとヴォルフは力強く頷き、エリナも涙を拭って決意の表情を浮かべた。俺たち四人は全ての因縁を振り切るように、奈落の城の巨大な門の奥へとその足を踏み入れた。
城の内部は外観以上に禍々しい空間だった。
そこは巨大な洞窟をくり抜いて作られたかのような広大な空間。天井という概念はなく、遥か上空では黒い雷雲が渦を巻いている。地面には赤黒い溶岩の川がいくつも流れ、その熱気で空気が陽炎のように揺らめいていた。壁にはまるで生きているかのように、苦悶の表情を浮かべた無数の顔が埋め込まれ、声なき叫びを上げているようだった。
「……ひどい場所ね。ここはもはや城というより、地獄そのものだわ」
シルフィリアが嫌悪感を露わにして呟く。
「ああ。魂の墓場ってやつか。胸糞悪ぃぜ」
ヴォルフも鼻をしかめて周囲を警戒した。
道は一本だけだった。溶岩の川に架けられた黒曜石の橋。それが遥か先の闇へと続いている。俺たちはその橋を慎重に渡っていった。
やがて橋の先に、ひときわ巨大な広間が見えてきた。
その広間はドーム状になっており、中央には溶岩が流れ落ちる巨大な滝があった。そして、その滝壺の中心、溶岩でできた玉座のような岩の上でそいつは眠っていた。
それは竜だった。
これまで対峙したワイバーンなど子供扱いにできるほどの、圧倒的な巨体。その全長は五十メートルは下らないだろう。全身は溶岩が固まったかのような、黒く、そして鈍い赤色を放つ鱗で覆われている。閉じられた瞼の下で、その瞳がマグマのように脈打っているのが見えた。
その存在感はまさしく絶対者。
ただ眠っているだけで周囲の空間を支配し、俺たちの呼吸さえも圧迫するほどの凄まじいプレッシャーを放っていた。
「……間違いない。あれが四天王最強……『竜将軍バハムート』……」
シルフィリアがかすれた声で囁いた。
獣将軍ガルムとは格が違う。あれはもはや将軍などという枠には収まらない。古の神話に登場する破壊神そのものだった。
俺たちが広間に足を踏み入れた、その時。
バハムートの瞼がゆっくりと開かれた。
現れたのは太陽そのものを閉じ込めたかのような、灼熱の光を放つ瞳だった。その瞳が、俺たち虫けらのような存在を冷たく見下ろした。
「……我の眠りを妨げるは、何奴だ」
その声は地響きそのものだった。言葉を発しただけでドーム全体がビリビリと震える。
「我は魔王様に仕える四天王が一人、竜将軍バハムート。貴様ら、死の覚悟はできておるか」
その問いに答える者は誰もいなかった。
俺たちはただ、その圧倒的な存在を前に動けずにいた。
「……つまらぬ」
バハムートは退屈そうに呟くと、大きく息を吸い込んだ。
その喉の奥が太陽のように赤熱していく。
「カイル!」
シルフィリアが叫ぶ。
だが、もう遅い。
バハムートの口から、極光のような純白のブレスが放射された。
それは炎ではなかった。
熱そのもの。全てを原子レベルで分解し、消滅させる超々高温の熱線だった。
ブレスは扇状に広がり、回避する術はない。
俺は咄嗟に仲間たちの前に飛び出し、無限の聖剣インフィニティを構えた。
「うおおおおおおっ!」
俺の全ステータスを込めて、聖剣のオーラを最大まで高める。七色の光の障壁が俺たちの前に展開された。
だが。
ブレスが障壁に触れた瞬間、それは何の意味もなさなかった。
光の障壁は泡のように弾け、蒸発していく。
次に、ミスリルよりも強固なはずのインフィニティの刀身が、まるで蝋のように溶け始めた。
「なっ……!?」
俺が驚愕する暇もなかった。
ブレスは溶けていく剣を飲み込み、そして俺の体をも完全にその奔流の中へと捉えた。
痛みはなかった。
熱を感じる間もなかった。
ただ、俺という存在がこの世界から『消滅』していく感覚だけがあった。
仲間たちの悲鳴が遠くに聞こえた気がした。
これが四天王最強。
これが竜将軍バハムート。
俺は為すすべもなく、この戦いにおける最初の死を迎えた。
それはこれまで経験したどの死とも違う、完全な『無』への回帰だった。
「……行こう」
俺は感傷に浸る仲間たちに静かに声をかけた。俺たちの戦いはまだ終わっていない。魔王を討つ。その目的を果たすまで、立ち止まっている暇はなかった。
シルフィリアとヴォルフは力強く頷き、エリナも涙を拭って決意の表情を浮かべた。俺たち四人は全ての因縁を振り切るように、奈落の城の巨大な門の奥へとその足を踏み入れた。
城の内部は外観以上に禍々しい空間だった。
そこは巨大な洞窟をくり抜いて作られたかのような広大な空間。天井という概念はなく、遥か上空では黒い雷雲が渦を巻いている。地面には赤黒い溶岩の川がいくつも流れ、その熱気で空気が陽炎のように揺らめいていた。壁にはまるで生きているかのように、苦悶の表情を浮かべた無数の顔が埋め込まれ、声なき叫びを上げているようだった。
「……ひどい場所ね。ここはもはや城というより、地獄そのものだわ」
シルフィリアが嫌悪感を露わにして呟く。
「ああ。魂の墓場ってやつか。胸糞悪ぃぜ」
ヴォルフも鼻をしかめて周囲を警戒した。
道は一本だけだった。溶岩の川に架けられた黒曜石の橋。それが遥か先の闇へと続いている。俺たちはその橋を慎重に渡っていった。
やがて橋の先に、ひときわ巨大な広間が見えてきた。
その広間はドーム状になっており、中央には溶岩が流れ落ちる巨大な滝があった。そして、その滝壺の中心、溶岩でできた玉座のような岩の上でそいつは眠っていた。
それは竜だった。
これまで対峙したワイバーンなど子供扱いにできるほどの、圧倒的な巨体。その全長は五十メートルは下らないだろう。全身は溶岩が固まったかのような、黒く、そして鈍い赤色を放つ鱗で覆われている。閉じられた瞼の下で、その瞳がマグマのように脈打っているのが見えた。
その存在感はまさしく絶対者。
ただ眠っているだけで周囲の空間を支配し、俺たちの呼吸さえも圧迫するほどの凄まじいプレッシャーを放っていた。
「……間違いない。あれが四天王最強……『竜将軍バハムート』……」
シルフィリアがかすれた声で囁いた。
獣将軍ガルムとは格が違う。あれはもはや将軍などという枠には収まらない。古の神話に登場する破壊神そのものだった。
俺たちが広間に足を踏み入れた、その時。
バハムートの瞼がゆっくりと開かれた。
現れたのは太陽そのものを閉じ込めたかのような、灼熱の光を放つ瞳だった。その瞳が、俺たち虫けらのような存在を冷たく見下ろした。
「……我の眠りを妨げるは、何奴だ」
その声は地響きそのものだった。言葉を発しただけでドーム全体がビリビリと震える。
「我は魔王様に仕える四天王が一人、竜将軍バハムート。貴様ら、死の覚悟はできておるか」
その問いに答える者は誰もいなかった。
俺たちはただ、その圧倒的な存在を前に動けずにいた。
「……つまらぬ」
バハムートは退屈そうに呟くと、大きく息を吸い込んだ。
その喉の奥が太陽のように赤熱していく。
「カイル!」
シルフィリアが叫ぶ。
だが、もう遅い。
バハムートの口から、極光のような純白のブレスが放射された。
それは炎ではなかった。
熱そのもの。全てを原子レベルで分解し、消滅させる超々高温の熱線だった。
ブレスは扇状に広がり、回避する術はない。
俺は咄嗟に仲間たちの前に飛び出し、無限の聖剣インフィニティを構えた。
「うおおおおおおっ!」
俺の全ステータスを込めて、聖剣のオーラを最大まで高める。七色の光の障壁が俺たちの前に展開された。
だが。
ブレスが障壁に触れた瞬間、それは何の意味もなさなかった。
光の障壁は泡のように弾け、蒸発していく。
次に、ミスリルよりも強固なはずのインフィニティの刀身が、まるで蝋のように溶け始めた。
「なっ……!?」
俺が驚愕する暇もなかった。
ブレスは溶けていく剣を飲み込み、そして俺の体をも完全にその奔流の中へと捉えた。
痛みはなかった。
熱を感じる間もなかった。
ただ、俺という存在がこの世界から『消滅』していく感覚だけがあった。
仲間たちの悲鳴が遠くに聞こえた気がした。
これが四天王最強。
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俺は為すすべもなく、この戦いにおける最初の死を迎えた。
それはこれまで経験したどの死とも違う、完全な『無』への回帰だった。
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