レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第93話:仲間たちの覚悟

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「行きますよ!」

シルフィリアの叫びを合図に、三人の仲間たちが動いた。
先陣を切ったのはヴォルフだった。

「おおおおおおおっ!」

彼は獣のような雄叫びを上げ、ザハークへと突進する。オリハルコンの大剣が床を削りながら、必殺の一撃を繰り出した。

だが、ザハークはその場から一歩も動かなかった。
彼はただ、その大剣の切っ先を指一本で受け止めてみせた。

「なっ……!?」

ヴォルフが驚愕の声を上げる。
彼の渾身の一撃が、まるで綿毛でも受け止めるかのようにぴたりと静止している。

「武力とは、実に野蛮で非効率な力ですな」

ザハークは嘲るように言うと、ヴォルフの剣を掴んだまま、その腹に黒い魔力の籠手で無造作な掌底を叩き込んだ。

「ぐぼっ……!」

ヴォルフの巨体がくの字に折れ曲がる。口から大量の血を吐き出し、鎧の上からでも内臓が破裂したのが分かった。彼はそのまま力なく崩れ落ち、動かなくなった。

「ヴォルフ!」

エリナの悲痛な叫び声。
ザハークはそんな彼女に冷たい視線を向けた。

「お次はあなたですか。聖女様」

彼は一瞬でエリナの目の前に移動すると、その華奢な首を鷲掴みにした。

「ひっ……!」
「あなたのその聖なる力、実に不愉快だ。まずはその声帯から潰してしんぜましょう」

ザハークの指に力が込められていく。エリナの顔が苦痛に歪む。

「―――させないわよ!」

シルフィリアの詠唱が完了していた。
彼女が放ったのは極大の火球魔法。それはザハークを焼くためではない。俺とザハークの間に巨大な炎の壁を作り出し、彼の視界を遮るための陽動だった。

炎の壁が二人を分断する。
シルフィリアは、その隙に風の魔法でエリナの体を自分の方へと引き寄せた。

「……助かったわ、シルフィリア……!」
「礼は後! 来るわよ!」

炎の壁の向こうから、ザハークが何事もなかったかのように歩いてくる。彼のローブは少し焦げているだけで、ほとんどダメージを受けていない。

「ほう。なかなか良い判断です。ですが、小細工はそこまでですぞ」

ザハークは両腕を広げた。
すると、彼の周囲の空間が歪み、そこから数十本もの黒い魔力の槍が出現した。

「消し炭にして差し上げます」

その槍が、一斉にシルフィリアとエリナへと殺到した。
回避不能の全方位攻撃。

「……くっ!」

シルフィリアはエリナを庇うように、その前に立ちはだかった。そして、残された全ての魔力を一点の防御障壁に集中させる。

だが、その障壁も数本の槍を受け止めただけで、ガラスのように砕け散った。
残りの槍が二人の無防備な体に突き刺さろうとしていた。

もう、だめだ。
俺は地面に膝をついたまま、その絶望的な光景をただ見ていることしかできなかった。魂を蝕む呪いは、俺の体から完全に力を奪っていた。

(……動け……。動け、俺の体……!)

心は叫んでいるのに、指一本動かせない。
仲間たちが、俺のために死んでいく。
俺が、無力なばかりに。

その無力感が俺の魂の奥底で、何かの枷を破壊した。

(……こんなところで、終わってたまるか……!)

追放されたあの日。
ゴブリンに殺されたあの日。
俺は誓ったはずだ。
二度と無力なままではいないと。
大切なものを二度と失わないと。

俺の魂魄値のゲージが赤く、激しく明滅を始めた。
それは魂が消滅する寸前の危険信号。
だが、それと同時に俺の魂の核が、これまで感じたことのないほどの熱を帯び始めた。

俺は叫んだ。
声にならない、魂の叫びを。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

その瞬間、俺の体から七色のオーラが爆発的に噴き出した。
それは、無限の聖剣インフィニティに宿る可能性の光。
そして、俺自身の諦めないという意志の光。

その光は俺の魂を蝕んでいた『魂蝕の呪い』を、内側から焼き尽くしていく。

「なっ……!? 馬鹿な! 我が呪いが破られるだと!?」

ザハークが初めて、心の底から驚愕の声を上げた。
俺は光の中でゆっくりと立ち上がった。
魂の痛みは消えていない。だが、俺はそれを自らの意志の力でねじ伏せていた。

俺の瞳はもはやただの人間のそれではない。
七色に輝く、神々しい光を宿していた。

俺は仲間たちを貫こうとしていた黒い魔力の槍を、一瞥した。
すると、槍は俺の視線に焼かれたかのように霧散して消え去った。

「……よくも、俺の仲間を」

俺の声は静かだった。
だが、その声に含まれた怒りは星さえも砕くほどの絶対的なものだった。

俺はインフィニティを再びその手に握りしめた。
剣は俺の覚醒に呼応し、これまでのどの時よりも強く、美しく輝いている。

「……ありえない……。魂の力だけで呪いを克服するなど……。貴様は、一体……!」

ザハークが恐怖に後ずさる。
俺はそんな彼に答えを返す代わりに、静かに剣を構えた。

「お前の実験は終わりだ」

俺は地面を蹴った。
覚醒した俺の速度は、もはやザハークの認識能力さえも置き去りにしていた。
彼は俺が消えたことに気づくことさえできなかっただろう。

俺は彼の背後に音もなく現れた。
そして、七色に輝くインフィティを彼の心臓へと静かに突き立てた。

「……これが、お前が見たかった俺の力の『限界』だ」

俺の最後の言葉が、彼の耳に届いたかどうか。
ザハークは、信じられないといった顔で自らの胸を貫く光の剣を見下ろした。

そして、その体は一言も発することなく、光の中に溶けて消えていった。
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