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第54話 ジンの挑発
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古代神殿での一件以来、三人はグリフォンの次の手を警戒し、アジトに籠もる日が続いていた。健太は、リョウが探し出してきた野良の職人たちと連絡を取り、着々と『アフターファイブ』独自の武具開発ラインを構築していた。シオンは、黙々と刀の手入れを繰り返し、リョウはそんな二人を気遣いながら、ギルドへ情報収集に赴く。それが、彼らの新たな日常になりつつあった。
その日、三人は久しぶりに連れ立って、ギルド前の広場を歩いていた。健太が、職人との打ち合わせに必要な素材のサンプルを、ギルドの倉庫から受け取るためだった。
アースドラゴン討伐の後、彼らの顔を知る者は多い。探索者たちが、遠巻きに噂話をしながら道を空ける。そんな視線にも、三人はすっかり慣れていた。
その時だった。
彼らの前方に、威圧的なオーラを放つ一団が現れ、道を塞いだ。
一団の中心に立つ男を見て、シオンの足が、ぴたりと縫い付けられたように止まった。
その男は、銀髪を流し、モデルのように整った顔立ちをしていた。身に纏っているのは、グリフォンの紋章が刺繍された、最高級の純白の騎士服。一見すると、爽やかで、カリスマ性に溢れた理想のリーダーのように見える。
だが、その目に宿る光だけが、蛇のように冷たく、粘りつくような独占欲を湛えていた。
「ジン……」
シオンの唇から、か細い声が漏れた。
ジンと呼ばれた男は、シオンの姿を認めると、芝居がかった仕草で驚いてみせた。
「おや、これは驚いた。シオンじゃないか。こんな所で会うなんて、奇遇だね」
その声は、周囲の探索者たちに聞こえるように、わざとらしく響き渡った。広場の空気が、一瞬で変わる。誰もが、何事かと足を止め、この不穏な対峙に注目していた。
ジンは、シオンの隣に立つ健太とリョウを一瞥すると、侮蔑の色を隠そうともせずに、ふっと鼻で笑った。
「そうか。また新しい主人を見つけたのか。君は、誰かに寄生しないと生きていけないもんな」
「てめえ……!」
リョウが、怒りで声を荒らげようとする。だが、ジンはそれを完全に無視し、その視線をシオンに固定したまま、残酷な言葉を紡ぎ続けた。
「まだ探索者をやっていたんだね。驚いたよ。俺がお前を『壊して』やったはずなのに。……いや、そもそも君は、俺が拾った時から『欠陥品』だったか」
その言葉は、鋭利な刃物となって、シオンの心の最も柔らかな部分を抉った。
欠陥品。
かつて、彼に何度も、何度も投げつけられた言葉。彼女の強さも、弱さも、全ては彼の掌の上にあるのだと、思い知らせるための呪いの言葉。
「裏切り者のお前が、まだ剣を握っていたのか。その剣は、俺が与えてやったものだろう? 俺のいない場所で、お前がまともに戦えるわけがない。前の神殿でも、醜態を晒したそうじゃないか」
ジンは、全てを知っていた。
シオンは、わなわなと震え、呼吸が浅くなる。反論したい。だが、彼の前に立つと、身体が動かない。声が出ない。過去のトラウマが、彼女の全身を縛り付けていた。
健太は、一歩前に出た。
「失礼ですが、どちら様でしょうか。私の仲間に、何か御用ですか」
その冷静な声に、ジンは初めて健太に興味を示したように、ゆっくりと顔を向けた。
「君が、この出来損ないの新しい飼い主か。忠告しておくが、やめておいた方がいい。こいつは、いざという時に必ず裏切る。そして、仲間を破滅させる疫病神だ。……俺が、そうだったようにな」
彼は、悲劇の主人公を演じるかのように、悲しげな表情を作ってみせた。
その時、シオンの瞳から、光が消えた。
「ああ……あ……」
彼女は、小さく呻くと、ふらりと後ずさった。
ジンは、その光景を見て、満足げに口の端を吊り上げた。彼の目的は、シオンの心を完全に折ること。そして、それは完璧に達成された。
「さて、用は済んだ。行こうか」
ジンは、踵を返すと、取り巻きたちを引き連れて悠然と去っていった。
後に残されたのは、好奇と侮辱、そして憐憫の視線に晒される『アフターファイブ』のメンバーと、まるで魂が抜け殻になったかのように、ただ虚空を見つめて立ち尽くすシオンの姿だけだった。
健太もリョウも、彼女にかけるべき言葉を、何一つ見つけられなかった。
その日、三人は久しぶりに連れ立って、ギルド前の広場を歩いていた。健太が、職人との打ち合わせに必要な素材のサンプルを、ギルドの倉庫から受け取るためだった。
アースドラゴン討伐の後、彼らの顔を知る者は多い。探索者たちが、遠巻きに噂話をしながら道を空ける。そんな視線にも、三人はすっかり慣れていた。
その時だった。
彼らの前方に、威圧的なオーラを放つ一団が現れ、道を塞いだ。
一団の中心に立つ男を見て、シオンの足が、ぴたりと縫い付けられたように止まった。
その男は、銀髪を流し、モデルのように整った顔立ちをしていた。身に纏っているのは、グリフォンの紋章が刺繍された、最高級の純白の騎士服。一見すると、爽やかで、カリスマ性に溢れた理想のリーダーのように見える。
だが、その目に宿る光だけが、蛇のように冷たく、粘りつくような独占欲を湛えていた。
「ジン……」
シオンの唇から、か細い声が漏れた。
ジンと呼ばれた男は、シオンの姿を認めると、芝居がかった仕草で驚いてみせた。
「おや、これは驚いた。シオンじゃないか。こんな所で会うなんて、奇遇だね」
その声は、周囲の探索者たちに聞こえるように、わざとらしく響き渡った。広場の空気が、一瞬で変わる。誰もが、何事かと足を止め、この不穏な対峙に注目していた。
ジンは、シオンの隣に立つ健太とリョウを一瞥すると、侮蔑の色を隠そうともせずに、ふっと鼻で笑った。
「そうか。また新しい主人を見つけたのか。君は、誰かに寄生しないと生きていけないもんな」
「てめえ……!」
リョウが、怒りで声を荒らげようとする。だが、ジンはそれを完全に無視し、その視線をシオンに固定したまま、残酷な言葉を紡ぎ続けた。
「まだ探索者をやっていたんだね。驚いたよ。俺がお前を『壊して』やったはずなのに。……いや、そもそも君は、俺が拾った時から『欠陥品』だったか」
その言葉は、鋭利な刃物となって、シオンの心の最も柔らかな部分を抉った。
欠陥品。
かつて、彼に何度も、何度も投げつけられた言葉。彼女の強さも、弱さも、全ては彼の掌の上にあるのだと、思い知らせるための呪いの言葉。
「裏切り者のお前が、まだ剣を握っていたのか。その剣は、俺が与えてやったものだろう? 俺のいない場所で、お前がまともに戦えるわけがない。前の神殿でも、醜態を晒したそうじゃないか」
ジンは、全てを知っていた。
シオンは、わなわなと震え、呼吸が浅くなる。反論したい。だが、彼の前に立つと、身体が動かない。声が出ない。過去のトラウマが、彼女の全身を縛り付けていた。
健太は、一歩前に出た。
「失礼ですが、どちら様でしょうか。私の仲間に、何か御用ですか」
その冷静な声に、ジンは初めて健太に興味を示したように、ゆっくりと顔を向けた。
「君が、この出来損ないの新しい飼い主か。忠告しておくが、やめておいた方がいい。こいつは、いざという時に必ず裏切る。そして、仲間を破滅させる疫病神だ。……俺が、そうだったようにな」
彼は、悲劇の主人公を演じるかのように、悲しげな表情を作ってみせた。
その時、シオンの瞳から、光が消えた。
「ああ……あ……」
彼女は、小さく呻くと、ふらりと後ずさった。
ジンは、その光景を見て、満足げに口の端を吊り上げた。彼の目的は、シオンの心を完全に折ること。そして、それは完璧に達成された。
「さて、用は済んだ。行こうか」
ジンは、踵を返すと、取り巻きたちを引き連れて悠然と去っていった。
後に残されたのは、好奇と侮辱、そして憐憫の視線に晒される『アフターファイブ』のメンバーと、まるで魂が抜け殻になったかのように、ただ虚空を見つめて立ち尽くすシオンの姿だけだった。
健太もリョウも、彼女にかけるべき言葉を、何一つ見つけられなかった。
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