嫌われ者の悪役貴族、追放されたので好きにすることにした

夏見ナイ

文字の大きさ
47 / 100

第47話:落成式前夜

しおりを挟む
アヴァロンの建設が始まってから、季節は一度巡った。
かつて黒い大地と瘴気だけが広がっていた嘆きの荒野は、今やその面影をどこにも残していなかった。
そこに存在するのは、白亜の壁が陽光を浴びて輝き、整然とした街並みが地平線の彼方まで続く壮麗な魔導都市。
ゴーレム建設部隊の働きと各種族の協力によって、アヴァロン第一期都市建設計画は俺の予想を遥かに超えるスピードで、ついに完成の時を迎えようとしていた。

明日はこの都市の誕生を祝う最初の『落成式』が開かれる。
その前夜、俺はシルヴィア、エリス、ガンツ、ガロウと共に、都市を見下ろすことができる小高い丘の上に立っていた。
眼下に広がる光景は圧巻だった。
魔導炉から供給されるエネルギーによって、都市は夜だというのにまるで宝石箱をひっくり返したかのように無数の光で煌めいている。碁盤の目状に走る大通りを、魔導街灯の光がどこまでも照らし出している。
各種族の文化が融合した美しいデザインの建物。中央広場にそびえ立つ巨大な噴水と時計塔。そして、その全てを巨大な光のドーム『神の盾』が、母親のように優しく、そして力強く包み込んでいる。
それは俺が設計図に描いた以上の、生命力に満ちた生きた都市の姿だった。

「……信じられねえ。本当にできちまったな……」
ガンツがまるで夢でも見ているかのように呆然と呟いた。その手には彼が祝杯のために持ってきたドワーフ秘蔵のエール酒の樽が抱えられている。
「ああ。俺たちの街だ」
ガロウも腕を組みながらその赤い瞳を細めて、眼下の光景を誇らしげに見つめていた。
エリスは何も言わなかった。ただ、その美しい翠の瞳を潤ませながらキラキラと輝く街の灯りをその目に焼き付けているようだった。

俺たちは丘の上に腰を下ろし、ガンツが持ってきたエール酒でささやかな前祝いを始めた。
「思い出すなあ」
ガンツが酒を呷りながら、昔を懐かしむように言った。
「俺たちが、あの薄暗い鉱山で奴隷みてえに働かされていた時のことをよ。あの頃は、まさかこんな未来が待ってるなんて夢にも思わなかったぜ」
「我らも同じだ」
ガロウが静かに頷く。
「平原の掟だけが全てだと信じ、よそ者をただ排斥するだけの狭い世界に生きていた。だが、あんたと出会って俺たちは自分たち以外の『力』を知った。そして力を合わせることの本当の強さを知った」
「私もです」
エリスが微笑みながら続けた。
「森の知恵だけが至高だと信じ、古の伝承の中に閉じこもっていました。ですがアッシュ先生は私に、世界の理は一つではないこと、そして異なる知恵が交わることで新しい未来が生まれることを教えてくださいました」

彼らの言葉はそれぞれに、この一年弱の激動の日々を物語っていた。
圧政からの解放。未知なる魔獣との死闘。そして文化の衝突と融合。
その全てを、俺たちは共に乗り越えてきた。
シルヴィアはそんな彼らの話に静かに耳を傾けながら、時折俺の空になった杯にそっと酒を注いでくれる。その横顔は誇りと、そして深い安らぎに満ちていた。
彼女は俺が追放されたあの日から、ずっと一番近くでこの奇跡の全てを見てきたのだ。

「……なあ、アッシュ殿」
ガンツが少し酔いが回ってきたのか、真剣な顔で俺に問いかけた。
「あんたは最初からこの景色が見えていたのか? 俺たちを解放した時も、エルフの森を救った時も、獣人どもとやり合った時も。全部この街を創るための計算だったのか?」
その問いにガロウもエリスも興味深そうに俺を見た。
彼らにとっては俺の行動は、全てが遠い未来を見据えた神のような深謀遠慮に見えているのかもしれない。

俺は少しだけ考えてから、静かに首を横に振った。
「……半分は当たりで、半分は外れだ」
俺はエール酒を一口飲んでから続けた。
「確かに俺の頭の中には最初から理想郷の設計図があった。そのためにあんたたちの力が必要だったのも事実だ。だが、それはただの青写真に過ぎなかった」
俺は眼下に広がる温かな光の海を見つめた。
「この街に本当の『命』を吹き込んでくれたのはあんたたちだ。ドワーフの不屈の魂がこの街の骨格を創った。エルフの深い慈愛がこの街の血潮となった。獣人の野生の誇りがこの街の心臓の鼓動になった。そして、シルヴィアの揺るぎない忠誠が常に俺の心を支えてくれた」
俺は一人一人の顔を改めて見つめた。
「俺一人では絶対にこの景色を見ることはできなかった。ここに在るのは俺の国じゃない。俺たちの国だ。俺は、そのことをこの一年であんたたちから教わった」

それは俺の偽らざる本心だった。
追放された当初、俺は人間不信に陥っていた。信じられるのは自分の知識とシルヴィアの忠誠だけだと思っていた。
だが、彼らと出会い、彼らとぶつかり、そして彼らと共に何かを創り上げる喜びを知った。
俺の心の中にあった冷たい氷が、いつの間にか完全に溶けてなくなっていることに俺自身が今気づいていた。

俺の言葉に彼らは何も言わなかった。
ただ、ガンツは照れくさそうに頭を掻き、ガロウはそっぽを向いて鼻を鳴らし、エリスは嬉しそうに花が咲くように微笑んだ。
そしてシルヴィアは俺の隣で静かに一筋の涙を頬に伝わせていた。

「さあ、明日は早い」
俺は立ち上がった。
「アヴァロンの新しい歴史が始まる日だ。最高の式典にしようじゃないか」
「「「応!」」」
三人の力強い声が夜空に響き渡った。

俺たちはそれぞれの想いを胸に、その丘を後にした。
明日の式典で、俺はこの街の民に何を語るべきか。
その言葉はもう決まっていた。
それは難しい理論でも高尚な理想でもない。
この一年、俺がこの素晴らしい仲間たちと共に歩んできたその道のりの全てを、ありのままに語るだけだ。
そして、これから始まる無限の可能性に満ちた未来への扉を、皆で一緒に開こうと。
そう呼びかけるだけだ。
アヴァロンの始まりの朝は、もうすぐそこまで来ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

処理中です...