嫌われ者の悪役貴族、追放されたので好きにすることにした

夏見ナイ

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第87話 アヴァロン議会の決断

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第一回緊急アヴァロン議会は、市庁舎の議場に重苦しい緊張感をもたらした。
円卓を囲むのは、エリス、ガンツ、ガロウといった評議会のメンバーと、各種族、そして人間代表の議員たち。その中央には監視用ゴーレムが映し出す南門前のリアルタイムの映像が、幻燈機の光によって大きく投影されていた。
泣き叫ぶ子供。地に伏して助けを乞う老人。そしてそれを苦渋の表情で見つめるアヴァロンの市民たち。
そのあまりにも痛ましい光景が、議員たちの心を容赦なく抉っていた。

俺は議長席からその場の空気を冷静に観察していた。
そして、議論の口火を切った。
「議題は一つ。門の前にいるアルビオン王国からの難民たちをどうするか。諸君らの率直な意見を聞きたい」

最初に口を開いたのは、ドワーフの代表の一人だった。ガンツの腹心でもある、頑固一徹な老職人だ。
「……反対だ」
その声は低く、そして硬かった。
「断固として反対する。奴らは我々を奴隷として扱った。我らの誇りを踏みにじった、その国の民だ。今さら虫のいい話があるものか。自業自得だ。自分たちの王の愚かさのツケを、自分たちで払わせるべきだ」
その厳しい言葉に、議場は静まり返った。
彼の個人的な憎しみだけではない。それは長年人間に虐げられてきたドワーフという、種族全体の心の叫びでもあった。
その意見に、獣人の代表の一人も同調した。
「俺も反対だ。こいつらを中に入れれば必ず問題が起きる。食料はどうする? 住む場所は? そして何より、こいつらは俺たち亜人族を化け物だと見下してきた連中だ。そんな連中と同じ屋根の下で暮らせると思うか? 争いの火種をわざわざ自分たちの家の中に持ち込むようなものだ」

彼の現実的な指摘は、多くの議員の心を揺さぶった。
アヴァロンはまだ生まれたばかりの若い国だ。
数千という規模の難民を受け入れるだけの体力は、まだないのかもしれない。
そして何より、ようやく手に入れたこの種族間の奇跡的な調和が、彼ら新しい『異物』の流入によって壊されてしまうことを誰もが恐れていた。

だが、その冷たい拒絶の空気に異を唱える声が上がった。
エリスだった。
彼女は静かに立ち上がると、その慈愛に満ちた翠の瞳で議員たちを見渡した。
「……皆さんの気持ちは分かります。ですが私は、受け入れるべきだと考えます」
その声は穏やかだったが、その奥には揺るぎない芯の強さがあった。
「……彼らは確かに我々とは違う歴史を生きてきました。ですが見てください。あの門の外にいる人々の顔を。そこにいるのは憎むべき侵略者ですか? 我々を見下す傲慢な支配者ですか?」
彼女は映像の中で母親の胸にすがりついて泣いている幼い子供を指差した。
「……いいえ。そこにいるのは、ただ生きる場所を失い、助けを求めているか弱い人々です。罪を憎んで人を憎まず。それは古代の賢王の言葉。我々が今彼らの手を振り払ってしまえば、我々はかつて我々を虐げた者たちと、一体何が違うというのですか?」

エリスの魂に語りかけるような言葉に、議場は再び静寂に包まれた。
議員たちの心の中で、拒絶と同情、恐怖と憐憫、様々な感情が渦を巻いているのが分かった。
ガンツもガロウも、難しい顔で腕を組み押し黙っている。
彼らもまた、その頑固な、あるいは野性的な心の奥底で葛藤していたのだ。

議論は平行線を辿った。
受け入れを主張する人道主義的な意見。
拒絶を主張する現実主義的な意見。
どちらも正しく、そしてどちらも危うさを孕んでいた。
アヴァロンという多種族国家が初めて経験する、その理念と現実の狭間での苦悩。
その重苦しい空気を打ち破るかのように、俺は静かに立ち上がった。

全ての視線が俺に集中する。
俺がどちらの意見に与するのか。
その一言でこの国の運命が決まる。
俺はゆっくりと口を開いた。
その声は議場全体に、そしてそこにいる全ての者の魂に、直接響き渡った。
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