《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ

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第3話 スキルの覚醒

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全身を駆け巡る奔流のようなマナの濁流。それは痛みというよりも、存在そのものが作り替えられていくような、根源的な畏怖を伴う感覚だった。カイの意識は膨大なエネルギーの渦に飲み込まれ、現実との境界が曖昧になっていく。

(死ぬ……のか……?)

自暴自棄にスキルを使ったはずが、予期せぬ現象に戸惑う。だが、不思議と苦痛はなかった。むしろ、今までずっと身体に纏わりついていた重い枷が、一つ一つ砕け散っていくような解放感があった。
脳内に響いた無機質な声。《万物創造》という、聞き慣れない言葉。それが何を意味するのか、朦朧とした意識では理解できない。

やがて、荒れ狂っていたマナの嵐が嘘のように静まった。
カイが恐る恐る目を開けると、先ほどと何も変わらない、荒涼とした景色が広がっていた。灰色の空、枯れた大地、不気味な形をした岩々。

「……夢、か?」

呟きは、掠れた声になった。全身から力が抜け、まるで身体が自分のものではないかのように重い。先ほどの現象が幻だったのだとしても、体力が限界なのは変わらない。結局、自分はここで静かに死んでいくだけの運命なのだ。
諦めが再び心を支配しかけた、その時だった。

『スキル:《万物創造》が使用可能です』

まただ。脳内に直接、声が響く。今度は幻聴ではないと、カイは確信した。

(万物創造……? 俺のスキルは【錬成】だったはずだ)

混乱しながらも、カイは自分のステータスを思い浮かべた。パーティーにいた頃、ステータスプレートで何度も確認した、見飽きた情報。

-----------------------------
名前:カイ・アステル
職業:村人
スキル:【錬成】
-----------------------------

あまりに貧弱で、仲間たちに笑われたステータス。それが、今どうなっているというのか。
祈るように再びステータスを念じる。すると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。以前のものとは明らかに違う、荘厳ささえ感じさせるデザインのウィンドウ。そこに表示されていた文字を、カイは信じられない思いで見つめた。

-----------------------------
名前:カイ・アステル
職業:創造主(Creator)
スキル:《万物創造》- Lv.∞
-----------------------------

「……は?」

声にならない声が漏れた。
職業が、村人から『創造主』に変わっている。そして、スキル【錬成】は、レベルが無限大(インフィニティ)と表示された《万物創造》というスキルに変貌していた。

「創造主……? 万物創造……? なんだ、これ……」

理解が追いつかない。手の込んだ悪戯か、あるいは死の間際に見る都合の良い夢か。
確かめるように、カイは目の前に転がっていた、拳ほどの大きさの石ころに手を伸ばした。震える指先が、ざらりとした石の表面に触れる。

もし、このスキルが本物なら。もし、この力が夢ではないのなら。
カイの脳裏に、一つのイメージが浮かんだ。それは、数日間まともに口にしていない、温かい食べ物。湯気の立つ、ふかふかのパン。

(パンに……なれ)

祈るというより、ただ漠然と念じただけだった。
すると、信じられないことが起こった。カイの手の中にある石ころが、淡い光を発し始めたのだ。光は次第に強まり、石の硬質な輪郭が、まるで粘土のようにぐにゃりと歪んでいく。
そして、光が収まった時。カイの手の中にあったはずの石ころは、跡形もなく消え去っていた。代わりにそこにあったのは――。

「……パン?」

こんがりと焼き色のついた、紛れもない一つの丸いパンだった。ほのかに立ち上る湯気。小麦の焼けた、香ばしい匂い。それはカイが空腹のあまり思い描いた、理想のパンそのものだった。
カイは呆然と、手のひらの上のパンと、元々石ころがあった地面を交互に見比べた。

「馬鹿な……あり得ない……」

錬金術や変換魔法というものは存在する。だが、それらは等価交換が原則だ。石ころをパンに変えるなど、神話の時代の奇跡か、おとぎ話の世界でしかあり得ない。物質の構造を原子レベルで分解し、全く別のものに再構築するなど、人間の魔法理論では絶対に不可能な現象だった。

ゴクリ、と喉が鳴る。空腹が、現実感を訴えかけてくる。
カイは恐る恐る、そのパンを口元へ運んだ。そして、一口、かじりつく。

「――っ! うまい……!」

サクッとした歯触りの後に、ふんわりとした柔らかい生地が口の中に広がる。噛みしめるほどに、小麦の優しい甘みが感じられた。それは、王都の高級パン屋で売られているものよりも、ずっと、ずっと美味しかった。
夢中でパンを頬張る。乾ききっていた身体に、温かいエネルギーが染み渡っていくのを感じた。涙が、自然と頬を伝う。それは絶望の涙ではなく、生きていることを実感する、安堵の涙だった。

パンを一つ食べ終えると、カイの心に少しだけ余裕が生まれた。
もう一度、スキルについて思考を巡らせる。

(《万物創造》。文字通り、万物を創り出すスキル……? まさか……)

だとしたら、食料だけではない。水も、道具も、家だって創り出せるのではないか。
カイは、新たなイメージを脳裏に描いた。次に彼が必要なのは、飲み水だ。この乾ききった土地で、水は命そのものだった。
彼は地面の一点を見つめ、強く念じた。

(ここに、清らかな水よ、湧き出でよ)

すると、カイが念じた場所の地面が、わずかに盛り上がったかと思うと、ひび割れ、そこからコンコンと水が湧き出し始めた。最初は泥水だったが、すぐに透き通り、あっという間に小さな泉を形成した。
カイは両手でその水をすくい、口に含む。鉄臭さや土臭さは一切ない、清冽で、ほんのりと甘みさえ感じる極上の水だった。

「本当に……何でも創り出せるのか……」

カイは自分の両手を見つめた。この手に、神の如き力が宿っている。今まで「無能」「役立たず」と蔑まれてきたこの自分が、世界の理すら捻じ曲げる、あり得ない力を持っている。
その事実に、カイは武者震いした。
これは、復讐の力になるだろうか。自分を追放したアレスたちを見返すことができるだろうか。
一瞬、そんな黒い感情が胸をよぎった。だが、すぐにカイは首を振る。

(違う……。今は、そんなことよりも……)

今は、生き延びることだ。この死の大地で、自分の力だけで生き抜いてみせる。それが、彼らへの最大の復讐になるはずだ。
まずは、安全な寝床の確保だ。いつ魔物に襲われるか分からないこの荒野で、無防備に夜を明かすのは自殺行為に等しい。
カイは周囲を見渡し、手頃な大きさの岩山を見つけた。あそこの岩壁をくり抜けば、頑丈な洞窟ができるはずだ。

岩山の前に立ち、カイは再び《万物創造》の力に意識を集中させる。今度は、より複雑で大規模な創造だ。
イメージするのは、人間一人が快適に過ごせるだけの広さを持つ空間。雨風をしのげる、頑丈な壁と天井。滑らかで平らな床。

「創造――『安息の洞窟(セーフティ・ケイヴ)』!」

カイがそう叫ぶと、彼の目の前の岩壁が、まるで熱した飴のように融解し始めた。岩が意思を持ったかのように蠢き、自ら空間を形作っていく。轟音も振動も一切ない。ただ静かに、滑らかに、世界の法則が書き換えられていく。
数分後、カイの目の前には、人が一人通れるくらいの入り口を持つ、完璧な洞窟が出現していた。

カイは唾を飲み込み、洞窟の中へと足を踏み入れた。
内部は、彼がイメージした通りの空間だった。壁も床も、まるで磨き上げた大理石のように滑らかで、外の荒涼とした風景が嘘のように静かで安心できる空間が広がっている。

「すごい……」

感嘆の声が漏れる。これなら、大型の魔物に襲われても、入り口さえ塞げばやり過ごせるだろう。
しかし、カイの創造はまだ終わらない。どうせなら、もっと快適な空間にしたい。欲が出始めたのだ。

「次はベッドだ」

洞窟の奥の壁際に手を触れ、イメージする。ふかふかのマットレス。柔らかい枕。温かい毛布。
光が迸り、石の床が盛り上がる。そして、それはカイが思い描いた通りの、立派な石造りのベッドへと姿を変えた。恐る恐る腰掛けてみると、石でできているとは思えないほどの、絶妙な弾力があった。

「はは……ははは……!」

笑いが込み上げてきた。楽しくて仕方がない。今まで虐げられてきた鬱憤を晴らすかのように、カイは次々と創造を続けた。
枯れ木を集めてきて、それを燃やすための暖炉を。
泉から水を引くための、滑らかな水路を。
夜の闇を照らすための、壁に埋め込まれた発光する石を。

数時間後、殺風景だった洞窟は、まるで高級宿の一室のような、快適な居住空間へと生まれ変わっていた。暖炉の炎がパチパチと音を立てて燃え、部屋全体を暖かく照らしている。ベッドの傍らには、いつでも新鮮な水が飲める小さな蛇口まで設えた。

カイは、ふかふかのベッドに大の字に寝転がった。
疲労困憊だったはずの身体が、不思議と軽い。それは、創造したパンと水のおかげか、それともこのスキルの影響か。
天井で淡く光る石を眺めながら、カイは自分が手に入れた力の途方もなさを改めて実感していた。

《万物創造》。
それは、絶望の淵に立たされたカイに与えられた、あまりにも強大すぎる力。
この力があれば、もう誰かに虐げられることも、見下されることもないだろう。自分の望むものを、望むだけ手に入れることができる。

(俺は、生きられる……。この力で、生きていけるんだ)

追放された悲しみは、まだ胸の奥で燻っている。しかし、それ以上に、未来への小さな希望の光が灯り始めていた。
それは、誰にも頼らず、自分一人の力で切り開く、新しい人生の始まりだった。
暖炉の炎に照らされながら、カイは久しぶりに穏やかな気持ちで、深い眠りへと落ちていった。
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