無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第13話 最強パーティー結成、それぞれの役割

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「……で、こいつが新しく仲間になったフレアだ。見ての通り、腕の立つ剣士だ」
「おう! フレアだ! よろしくな、ルナ!」
宿屋に戻るなり、俺はルナに快活に自己紹介するフレアを紹介した。フレアはニカッと歯を見せて笑い、何のてらいもなく手を差し出す。
ルナは、その手をすぐには取らなかった。彼女は俺とフレアの姿を交互に見比べ、特に、フレアが俺のことを「カイト」と呼び捨てにしていることに、わずかに眉をひそめている。その碧い瞳の奥に、チリッとした小さな嫉妬の火花が散ったのを、俺は見逃さなかった。

「……ルナと申します。カイト様の、お世話をさせていただいております」
ルナはフレアの手を取らず、代わりにスカートの裾を少しだけつまみ、優雅に一礼した。その所作は完璧だったが、言葉の端々には「私はこの人の特別なのです」という見えない棘が隠されている。
「へえ、世話ねえ。カイト、お前、こんないい子に世話焼かせてんのかよ。隅に置けねえな!」
フレアはそんなルナの牽制など全く気づかない様子で、俺の肩をバンバンと叩いた。純粋で裏表がない性格なのだろう。その能天気さが、ルナの機嫌をさらに少しだけ下降させた。

(……やれやれ、前途多難だな)

俺は内心でため息をついた。献身的で少し独占欲の強いルナと、快活で距離感の近いフレア。性格が正反対の二人だ。うまくやっていけるだろうか。
そんな俺の心配をよそに、フレアは部屋の中を興味津々に見回している。
「へえ、いい部屋じゃねえか。なあカイト、俺も今日からここに住んでいいか? 前の安宿、ノミがひどくて寝られなかったんだよ!」
「はあ!? いきなり何言ってんだ、お前は!?」
「いいじゃねえか、仲間だろ? 家賃はちゃんと払うって!」
悪びれもせずに言い放つフレアに、俺は頭を抱えた。だが、彼女を一人にしておくのも、色々と心配ではある。何より、パーティーとして活動するなら、拠点は一緒の方が何かと便利だ。
俺が返答に困っていると、それまで黙っていたルナが口を開いた。
「……カイト様さえよろしければ、わたくしは構いません。ですが、この部屋にはもう一つしかベッドがありませんが」
その言葉には「だから貴女の寝る場所はありませんよ」という含みがあった。
しかし、フレアは全く動じなかった。
「なあんだ、そんなことか! 俺は床に毛布一枚でも寝れるぞ! それに、カイトと同じベッドでも構わねえぜ?」
「なっ……!?」
「ふ、フレアさん! あなた、女性でしょう!? 何をはしたないことを……!」
今度はルナが本気で狼狽えている。俺も、彼女のあまりに奔放な発言に言葉を失った。この獣人剣士、常識というものが少し欠けているらしい。

結局、俺がもう一部屋借りることで話は落ち着いた。隣の部屋が空いていたのは幸運だった。
部屋を行き来できるようにして、俺たちは改めてテーブルを囲んだ。今後の活動方針を、きちんと決めておく必要がある。
「さて、まずは俺たちのパーティーでの役割分担を明確にしておこう」
俺が切り出すと、二人は真剣な表情で頷いた。
「いいか。このパーティーの司令塔は、俺が務める。俺の【システム解析】で、ダンジョンの構造、敵の配置、罠の位置、そして敵の弱点や行動パターン、その全てを読み解く。いわば、このパーティーの『頭脳』だ」
俺は自分のこめかみを指差して言った。
「フレア、君はその『頭脳』が導き出した最適解を実行する、このパーティーの『剣』だ。誰よりも速く、誰よりも鋭く、最前線で敵の急所を貫いてもらう。君の【神速無双剣】は、単体の敵に対しては無類の強さを発揮するはずだ」
「剣、か。いいな、分かりやすくて! 任せとけ、相棒! お前の指示通り、どんな奴でも一刀両断にしてやるぜ!」
フレアは拳を握りしめ、自信満々に胸を張った。
「そして、ルナ。君はこのパーティーの『盾』であり、『大砲』だ。フレアが取りこぼした敵や、数の多い敵を、後方からの【精霊魔法】で一掃してもらう。同時に、俺たちの傷を癒し、戦線を支える重要な役割も担ってもらう。君の魔法がなければ、このパーティーは成り立たない」
「はい、カイト様。カイト様と、フレアさんをお守りするのが、わたくしの役目ですね。この身に代えても、必ずや」
ルナは胸に手を当て、健気に頷いた。その瞳には、強い決意が宿っている。

「頭脳」の俺。
「剣」のフレア。
「盾にして大砲」のルナ。
それぞれが、それぞれの役割に特化し、互いの欠点を補い合う。追放された者たちが集まった、いびつなパーティー。だが、その連携が完璧に噛み合った時、俺たちは最強のチームになれる。俺には、その確信があった。

「よし、理屈は分かったな。じゃあ、早速試してみようぜ!」
フレアが、うずうずしたように立ち上がった。
「そうだな。言うだけじゃ意味がない。パーティーとしての初陣だ。ギルドで、少し骨のありそうな依頼を受けてこよう」

俺たちは再びギルドへ向かい、Cランクの依頼の中から「オークの集落討伐」を選んだ。森の奥に形成されたオークの集落を壊滅させ、リーダーのオークジェネラルを討伐するという内容だ。オークはゴブリンより遥かに体格も力も上で、集団で襲ってくるため、並のパーティーでは苦戦を強いられる相手だ。俺たちの連携を試すには、ちょうどいい。

目的の森に着くと、すぐにオークの斥候が数体、こちらに気づいて雄叫びを上げた。すぐに、森の奥から十数体のオークが、巨大な棍棒や錆びた斧を手に、地響きを立てながら姿を現した。
「うわっ、すげえ数……! それに、臭え!」
フレアが鼻をつまむ。
ルナは静かに杖を構え、俺の指示を待っていた。

「【システム解析】――全敵オブジェクト、ロックオン。解析開始」
俺の視界に、オークたちのステータスと、行動予測ルートが瞬時に表示される。
「作戦開始だ! フレア、前方のオーク三体を一直線に貫け! 奴らの突進ルートは重なっている! そのまま、奥にいるリーダー格の首を刎ねろ! 弱点は兜の隙間、首の右側だ!」
「へっ、お安い御用だ!」
フレアの姿が、弾丸のように飛び出した。彼女の剣が真紅の軌跡を描くと、突進してきたオークたちの身体が、まるで紙切れのように両断される。彼女は一切速度を緩めず、オークジェネラルの懐に潜り込むと、一閃。リーダーの首が、宙を舞った。
「なっ……!?」
あまりの光景に、ルナが息を呑む。彼女も、フレアの本当の力を目の当たりにするのは初めてだった。
「ルナ、感心してる場合じゃない! 右翼の五体、足元に『アースバインド』! 左翼の七体、視界を奪う『フォグクラウド』!」
「は、はい! 『大地の枷よ、敵を捕らえよ!』 『深き霧よ、彼らの光を覆い隠せ!』」
ルナの詠唱に応え、地面から無数の茨が伸びてオークたちの足に絡みつき、もう一方の集団は濃い霧に包まれて混乱に陥った。
「フレア、霧の中の敵を殲滅しろ! 奴らの位置情報は、俺がリアルタイムで転送する!」
俺は解析したオークたちの座標データを、フレアの視界に直接マーカーとして表示させる。
「うおっ、すげえ! マップハックかよ! これなら余裕だぜ!」
フレアは歓声を上げると、霧の中に突っ込んでいった。中から、オークたちの断末魔の悲鳴と、金属音が断続的に響き渡る。
やがて霧が晴れた時、そこには、一体残らず倒されたオークたちの亡骸が転がっていた。

討伐は、わずか数分で終わった。
俺たちは、誰一人としてかすり傷一つ負っていない。
「……すごい。これが、カイト様の指揮と、フレアさんの剣技……」
ルナは、まだ信じられないといった様子で、戦いの跡を見つめている。
「へへん、どうだ! 俺の力、すごいだろ!」
フレアが胸を張って自慢すると、ルナは素直に頷いた。
「はい。認めます。フレアさんの剣は、わたくしたちの何よりの切り札になります」
「だろー? ルナの魔法も、すげえ便利だったぜ! あれがあれば、どんな大群が来ても怖くねえな!」
互いの力を認め合った二人の間に、ほんの少しだけ、仲間としての絆が芽生えたようだった。

その夜、俺たちは討伐報酬で手に入れた金で、盛大な祝勝会を開いた。
テーブルの上には、ローストチキンやチーズ、上等なワインが並ぶ。
「うおおお! うめえええ! なんだこれ、めちゃくちゃ美味いじゃねえか!」
フレアは、目を輝かせながらローストチキンに齧り付いている。その食べっぷりは、見ていて気持ちがいいほどだ。
「待ってください、フレアさん! こちらのパイも、ルナが特別に焼いてくれたものですよ!」
俺がパイを勧めると、フレアは目を輝かせてそれに飛びついた。
「マジで!? ルナ、お前、料理までできんのかよ! 天才か!」
「そ、そんな……。カイト様のお口に合うように、少し練習しただけです……」
フレアに素直に絶賛され、ルナは照れくさそうに頬を染めた。その様子を見て、俺は思わず吹き出してしまった。

追放された元SE。
呪われた元巫女。
騎士団を追われた元剣士。

社会からはみ出し、それぞれの場所で絶望を味わった俺たちが、こうして一つのテーブルを囲み、笑い合っている。
目の前で、最後の一切れのパイを巡って、フレアとルナが子供のような言い争いを始めた。その光景は、ひどく騒がしくて、どうしようもなく温かかった。
これが、俺が追放された先で見つけた、新しい居場所。
俺はワイングラスを片手に、このかけがえのない日常が、一日でも長く続くことを、心から願った。
最強のパーティーの、本当の伝説は、この騒がしい食卓から、静かに始まろうとしていた。
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