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第12話 スキルの「最適化」、天才の才能開花
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「……お前の言っていることが、信じられると思うか?」
フレアは、俺の言葉をすぐには受け入れられなかった。それも当然だろう。彼女はずっと、自分の才能のなさを責め、スキルの欠陥を自らの不適合のせいだと信じ込まされてきたのだ。突然現れた見ず知らずの男に「治せる」と言われても、すぐには信用できるはずがない。
「信じるか信じないかは、君次第だ。だが、試してみる価値はあるんじゃないか? このまま『出来損ない』の烙印を押されたままでいるよりは、マシだと思うが」
俺の挑発的な言葉に、フレアの眉がぴくりと動いた。彼女は負けず嫌いな性格らしい。
「……いいだろう。どうせ失うものなんてもうねえ。お前のそのふざけた戯言に、乗ってやるよ」
彼女はそう言うと、俺たちを近くの訓練場へと案内した。そこはギルドの訓練場とは違う、街の衛兵たちが使う、より実践的な設備が整った場所だった。幸い、今は誰も使っていない。
訓練場の中央で、フレアは俺と向き合った。
「で、どうするんだ? 俺に剣でも振れってのか?」
「ああ。君のスキル【獣王剣技】を、全力で使って見せてくれ。相手は俺でいい」
「はあ!? お前相手に全力で!? 死ぬぞ!」
彼女は驚きの声を上げるが、俺は平然と頷いた。
「大丈夫だ、死にはしない。それに、本気でやってもらわないと、正確な解析ができない」
俺の自信に満ちた態度に、彼女は半信半疑ながらも頷いた。
「……分かったよ。後で泣き言を言うなよな!」
彼女は腰の長剣を抜き放ち、構えた。その瞬間、彼女の纏う空気が一変する。先程までの刺々しい少女の姿は消え、そこにいたのは、一人の歴戦の剣士だった。その構えには、一切の無駄がない。天性の才能を感じさせた。
「いくぞ! スキル発動――【獣王剣技】!」
フレアが叫ぶと、彼女の身体から赤いオーラが立ち上った。筋力、敏捷性が飛躍的に高まっているのが、解析せずとも分かる。
彼女の姿が、掻き消えた。
速い! 猫の獣人ならではの俊敏さに、スキルによる強化が加わっている。常人なら目で追うことすらできないだろう。
だが、俺の【システム解析】は、その動きを完全に捉えていた。
『Skill '獣王剣技' - Routine 'Beast_Rush' is now active.』
『Target: Kaito_Soma』
『Predicted_Path: Displayed』
彼女の移動経路が、青い予測線となって俺の視界に表示される。俺は最小限の動きで、振り下ろされる彼女の剣をひらりとかわした。
「なっ!?」
驚愕の声を上げるフレア。だが、彼女はすぐに体勢を立て直し、流れるような動きで次の攻撃を繰り出してくる。斬撃、突き、薙ぎ払い。その剣技は、荒々しい獣の動きと、洗練された剣術が融合した、見事なものだった。
しかし、その全てが、俺の身体をかすめることすらできない。
「くそっ、なんで当たらねえんだ!」
息を切らし始めたフレアが、苛立ちの声を上げる。彼女の額には、玉のような汗が浮かんでいた。
俺のステータスウィンドウに表示された彼女のMPゲージが、尋常ではない速度で減少していくのが見えた。
`[ERROR] Skill '獣王剣技': Mana consumption is abnormally high.`
解析ログの通りだ。このスキルは、燃費が悪すぎる。これでは、長期戦は絶対に不可能だ。
「はぁっ、はぁっ……。どうなってやがる……。お前、本当にただの冒険者か……?」
連続攻撃を全てかわされ、フレアの動きが鈍る。
「言ったはずだ。君のスキルには、バグがある」
俺は彼女の剣を紙一重でかわしながら、解析を続ける。
「【獣王剣技】は、君の身体能力を爆発的に引き上げる代わりに、大量のMPを消費する。だが、そのエネルギー変換の効率が、極端に悪い。例えるなら、穴の空いたバケツで水を運んでいるようなものだ。大半の魔力は、君の力になる前に、無駄に垂れ流されている」
俺の言葉に、フレアは目を見開いた。
「なんだと……? 俺の魔力が、無駄に……?」
「そうだ。さらに、もっと深刻なバグがある。本来なら発動するはずの、剣技そのものを補助するルーチン――例えば、相手の動きを予測したり、クリティカル率を上げたりする部分が、全く機能していない。内部でロジックが衝突して、互いを打ち消し合っているからだ」
それは、プログラミングで言えば、二つの異なるライブラリが同じ関数名を使い、競合を起こしているような状態だった。結果として、どちらの機能も正常に動作しなくなっている。
「これが、『出来損ない』の正体だ。君のせいじゃない。ただ、スキルというプログラムが、壊れているだけなんだ」
俺の言葉は、彼女にとって衝撃だっただろう。自分が信じてきた全てが、覆されるような感覚。
フレアの動きが、完全に止まった。彼女は呆然と立ち尽くし、自分の剣を見つめている。
「俺の……スキルが……壊れてる……?」
「今から、それをデバッグする」
俺は宣言すると、彼女に近づいた。フレアは、抵抗しなかった。
俺は彼女の肩にそっと手を置き、全神経を集中させた。
「【システム解析】――デバッグモード! 対象、スキル【獣王剣技】!」
凄まじい情報量が、再び俺の脳内に流れ込んでくる。ルナの首輪をデバッグした時とはまた違う、複雑で、ダイナミックに変化する戦闘スキルのソースコード。
だが、一度経験したおかげか、以前ほどの負荷は感じない。俺のスキル熟練度も、着実に上がっているのだ。
俺は、問題となっている二つのコードブロックを特定した。
一つは、エネルギー変換効率を計算するモジュール。
もう一つは、複数の補助機能を呼び出すためのメインロジック。
`// Energy Conversion Module`
`efficiency = 0.2; // 20%`
`// Combat Support Module`
`call function predict_move();`
`call function critical_boost();`
`// ERROR: function names are duplicated with 'Beast_Instinct_Module'`
「……ひどいコードだな。これじゃ動くはずがない」
俺はため息をつきながら、デバッグ作業を開始した。
まず、エネルギー変換効率の値を、強制的に書き換える。
`efficiency = 0.95; // 95%`
次に、競合している関数名をリネームし、ロジックの衝突を回避する。
`call function predict_move_EX();`
`call function critical_boost_EX();`
最後に、無駄な処理を削ぎ落とし、全体のコードを「最適化」する。
MP消費を抑え、スキルのレスポンスを向上させるための、総仕上げだ。
「――デバッグ、完了。スキル【獣王剣技】、再構築(リビルド)!」
俺が宣言した瞬間、フレアの身体から立ち上っていた赤いオーラが、一瞬、凝縮するように収束し、次の瞬間、爆発的に燃え上がった!
それは、以前の荒々しいだけのオーラとは違う。もっと洗練され、力強く、そして安定した、真紅の闘気だった。
フレア自身が、その変化に最も驚いていた。
「な……なんだ、これ……!? 身体が……軽い……!力が、無限に湧いてくるみてえだ……!」
彼女は自分の両手を見つめ、信じられないといった表情を浮かべている。
その目の前に、彼女自身の新しいスキル情報が、ウィンドウとなって表示された。
【スキルが進化しました】
【獣王剣技】→【神速無双剣】
【SKILL: 神速無双剣】
【TYPE: Active_Combat】
【DESCRIPTION: 獣のごとき俊敏性と、王者のごとき剣技を融合させた究極の剣術。神速の動きで敵を翻弄し、一撃必殺の斬撃を放つ。】
- 効果1: 全ステータス大幅上昇(特に敏捷性)
- 効果2: MP消費を大幅に軽減
- 効果3: 超反応(相手の攻撃を自動的に回避・迎撃する)
- 効果4: 急所看破(敵の弱点を自動的に表示する)
「……神速無双剣……?」
フレアは、呆然とスキル名を呟いた。
俺は彼女から少し距離を取り、微笑んだ。
「試してみろ。新しい君の力を」
その言葉が、スイッチだった。
フレアは、弾かれたように剣を構え直した。その瞳には、もはや迷いはなかった。あるのは、己の内に眠っていた本当の力が解放されたことへの、純粋な歓喜。
「いくぞ、カイト!」
彼女がそう叫んだと思った瞬間には、その姿はもうそこにはなかった。
残像すら残さない、まさに神速の動き。
俺の【システム解析】が、かろうじてその軌道を捉える。だが、以前とは比較にならないほどの速度と、複雑な機動。
「速い!」
思わず声が漏れる。今度は、かわすだけで精一杯だ。
彼女の剣が、俺の頬をかすめる。ほんの数ミリずれていたら、致命傷だった。
【SYSTEM_LOG】
- `[INFO] Skill '神速無双剣' - Routine '超反応' is active.`
- `[INFO] Skill '神速無双剣' - Routine '急所看破' is active.`
彼女の目には、俺の動きが予測され、弱点が見えているのだ。
これは、もはや俺が一方的に捌ける相手ではない。
俺はバックステップで大きく距離を取ると、降参の印に両手を上げた。
「ストップ! 分かった、もう十分だ!」
俺の言葉に、フレアの動きがぴたりと止まった。彼女は少し離れた場所で、荒い息をついている。だが、その表情は、疲労ではなく興奮に満ちていた。
「……すげえ。これが……これが、俺の本当の力……」
彼女は、自分の剣をうっとりと見つめている。
やがて、彼女はこちらに向き直ると、剣を鞘に納め、真っ直ぐに俺の元へ歩いてきた。
そして、俺の目の前で、深々と頭を下げた。
「……感謝する。カイト。お前は、俺の人生を救ってくれた。俺の全てを、変えてくれた」
その声は、震えていた。
「この恩は、一生忘れねえ。だから……頼む!」
彼女は顔を上げ、真剣な瞳で俺を見つめた。
「俺を、お前のパーティーに入れてくれ! この力、お前のために使わせてくれ! 俺は、お前と一緒に、もっと強くなりたい!」
それは、魂からの叫びだった。
追放され、見捨てられ、自分の価値を見失っていた少女が、本当の自分を取り戻した瞬間の、決意の言葉だった。
その熱い思いを、俺が断れるはずもなかった。
「……歓迎するよ、フレア」
俺がそう言って手を差し出すと、彼女は満面の笑みを浮かべ、その手を力強く握り返した。
「おう! これからよろしくな、相棒!」
こうして、俺たちのパーティーに、二人目の仲間が加わった。
快活で、誰よりも熱い心を持つ、天才獣人剣士。
俺は、ルナ、そしてフレア。
追放された者たちが集まって結成された、奇妙で、しかし間違いなく最強のパーティーが、この辺境の街で、静かに産声を上げたのだった。
フレアは、俺の言葉をすぐには受け入れられなかった。それも当然だろう。彼女はずっと、自分の才能のなさを責め、スキルの欠陥を自らの不適合のせいだと信じ込まされてきたのだ。突然現れた見ず知らずの男に「治せる」と言われても、すぐには信用できるはずがない。
「信じるか信じないかは、君次第だ。だが、試してみる価値はあるんじゃないか? このまま『出来損ない』の烙印を押されたままでいるよりは、マシだと思うが」
俺の挑発的な言葉に、フレアの眉がぴくりと動いた。彼女は負けず嫌いな性格らしい。
「……いいだろう。どうせ失うものなんてもうねえ。お前のそのふざけた戯言に、乗ってやるよ」
彼女はそう言うと、俺たちを近くの訓練場へと案内した。そこはギルドの訓練場とは違う、街の衛兵たちが使う、より実践的な設備が整った場所だった。幸い、今は誰も使っていない。
訓練場の中央で、フレアは俺と向き合った。
「で、どうするんだ? 俺に剣でも振れってのか?」
「ああ。君のスキル【獣王剣技】を、全力で使って見せてくれ。相手は俺でいい」
「はあ!? お前相手に全力で!? 死ぬぞ!」
彼女は驚きの声を上げるが、俺は平然と頷いた。
「大丈夫だ、死にはしない。それに、本気でやってもらわないと、正確な解析ができない」
俺の自信に満ちた態度に、彼女は半信半疑ながらも頷いた。
「……分かったよ。後で泣き言を言うなよな!」
彼女は腰の長剣を抜き放ち、構えた。その瞬間、彼女の纏う空気が一変する。先程までの刺々しい少女の姿は消え、そこにいたのは、一人の歴戦の剣士だった。その構えには、一切の無駄がない。天性の才能を感じさせた。
「いくぞ! スキル発動――【獣王剣技】!」
フレアが叫ぶと、彼女の身体から赤いオーラが立ち上った。筋力、敏捷性が飛躍的に高まっているのが、解析せずとも分かる。
彼女の姿が、掻き消えた。
速い! 猫の獣人ならではの俊敏さに、スキルによる強化が加わっている。常人なら目で追うことすらできないだろう。
だが、俺の【システム解析】は、その動きを完全に捉えていた。
『Skill '獣王剣技' - Routine 'Beast_Rush' is now active.』
『Target: Kaito_Soma』
『Predicted_Path: Displayed』
彼女の移動経路が、青い予測線となって俺の視界に表示される。俺は最小限の動きで、振り下ろされる彼女の剣をひらりとかわした。
「なっ!?」
驚愕の声を上げるフレア。だが、彼女はすぐに体勢を立て直し、流れるような動きで次の攻撃を繰り出してくる。斬撃、突き、薙ぎ払い。その剣技は、荒々しい獣の動きと、洗練された剣術が融合した、見事なものだった。
しかし、その全てが、俺の身体をかすめることすらできない。
「くそっ、なんで当たらねえんだ!」
息を切らし始めたフレアが、苛立ちの声を上げる。彼女の額には、玉のような汗が浮かんでいた。
俺のステータスウィンドウに表示された彼女のMPゲージが、尋常ではない速度で減少していくのが見えた。
`[ERROR] Skill '獣王剣技': Mana consumption is abnormally high.`
解析ログの通りだ。このスキルは、燃費が悪すぎる。これでは、長期戦は絶対に不可能だ。
「はぁっ、はぁっ……。どうなってやがる……。お前、本当にただの冒険者か……?」
連続攻撃を全てかわされ、フレアの動きが鈍る。
「言ったはずだ。君のスキルには、バグがある」
俺は彼女の剣を紙一重でかわしながら、解析を続ける。
「【獣王剣技】は、君の身体能力を爆発的に引き上げる代わりに、大量のMPを消費する。だが、そのエネルギー変換の効率が、極端に悪い。例えるなら、穴の空いたバケツで水を運んでいるようなものだ。大半の魔力は、君の力になる前に、無駄に垂れ流されている」
俺の言葉に、フレアは目を見開いた。
「なんだと……? 俺の魔力が、無駄に……?」
「そうだ。さらに、もっと深刻なバグがある。本来なら発動するはずの、剣技そのものを補助するルーチン――例えば、相手の動きを予測したり、クリティカル率を上げたりする部分が、全く機能していない。内部でロジックが衝突して、互いを打ち消し合っているからだ」
それは、プログラミングで言えば、二つの異なるライブラリが同じ関数名を使い、競合を起こしているような状態だった。結果として、どちらの機能も正常に動作しなくなっている。
「これが、『出来損ない』の正体だ。君のせいじゃない。ただ、スキルというプログラムが、壊れているだけなんだ」
俺の言葉は、彼女にとって衝撃だっただろう。自分が信じてきた全てが、覆されるような感覚。
フレアの動きが、完全に止まった。彼女は呆然と立ち尽くし、自分の剣を見つめている。
「俺の……スキルが……壊れてる……?」
「今から、それをデバッグする」
俺は宣言すると、彼女に近づいた。フレアは、抵抗しなかった。
俺は彼女の肩にそっと手を置き、全神経を集中させた。
「【システム解析】――デバッグモード! 対象、スキル【獣王剣技】!」
凄まじい情報量が、再び俺の脳内に流れ込んでくる。ルナの首輪をデバッグした時とはまた違う、複雑で、ダイナミックに変化する戦闘スキルのソースコード。
だが、一度経験したおかげか、以前ほどの負荷は感じない。俺のスキル熟練度も、着実に上がっているのだ。
俺は、問題となっている二つのコードブロックを特定した。
一つは、エネルギー変換効率を計算するモジュール。
もう一つは、複数の補助機能を呼び出すためのメインロジック。
`// Energy Conversion Module`
`efficiency = 0.2; // 20%`
`// Combat Support Module`
`call function predict_move();`
`call function critical_boost();`
`// ERROR: function names are duplicated with 'Beast_Instinct_Module'`
「……ひどいコードだな。これじゃ動くはずがない」
俺はため息をつきながら、デバッグ作業を開始した。
まず、エネルギー変換効率の値を、強制的に書き換える。
`efficiency = 0.95; // 95%`
次に、競合している関数名をリネームし、ロジックの衝突を回避する。
`call function predict_move_EX();`
`call function critical_boost_EX();`
最後に、無駄な処理を削ぎ落とし、全体のコードを「最適化」する。
MP消費を抑え、スキルのレスポンスを向上させるための、総仕上げだ。
「――デバッグ、完了。スキル【獣王剣技】、再構築(リビルド)!」
俺が宣言した瞬間、フレアの身体から立ち上っていた赤いオーラが、一瞬、凝縮するように収束し、次の瞬間、爆発的に燃え上がった!
それは、以前の荒々しいだけのオーラとは違う。もっと洗練され、力強く、そして安定した、真紅の闘気だった。
フレア自身が、その変化に最も驚いていた。
「な……なんだ、これ……!? 身体が……軽い……!力が、無限に湧いてくるみてえだ……!」
彼女は自分の両手を見つめ、信じられないといった表情を浮かべている。
その目の前に、彼女自身の新しいスキル情報が、ウィンドウとなって表示された。
【スキルが進化しました】
【獣王剣技】→【神速無双剣】
【SKILL: 神速無双剣】
【TYPE: Active_Combat】
【DESCRIPTION: 獣のごとき俊敏性と、王者のごとき剣技を融合させた究極の剣術。神速の動きで敵を翻弄し、一撃必殺の斬撃を放つ。】
- 効果1: 全ステータス大幅上昇(特に敏捷性)
- 効果2: MP消費を大幅に軽減
- 効果3: 超反応(相手の攻撃を自動的に回避・迎撃する)
- 効果4: 急所看破(敵の弱点を自動的に表示する)
「……神速無双剣……?」
フレアは、呆然とスキル名を呟いた。
俺は彼女から少し距離を取り、微笑んだ。
「試してみろ。新しい君の力を」
その言葉が、スイッチだった。
フレアは、弾かれたように剣を構え直した。その瞳には、もはや迷いはなかった。あるのは、己の内に眠っていた本当の力が解放されたことへの、純粋な歓喜。
「いくぞ、カイト!」
彼女がそう叫んだと思った瞬間には、その姿はもうそこにはなかった。
残像すら残さない、まさに神速の動き。
俺の【システム解析】が、かろうじてその軌道を捉える。だが、以前とは比較にならないほどの速度と、複雑な機動。
「速い!」
思わず声が漏れる。今度は、かわすだけで精一杯だ。
彼女の剣が、俺の頬をかすめる。ほんの数ミリずれていたら、致命傷だった。
【SYSTEM_LOG】
- `[INFO] Skill '神速無双剣' - Routine '超反応' is active.`
- `[INFO] Skill '神速無双剣' - Routine '急所看破' is active.`
彼女の目には、俺の動きが予測され、弱点が見えているのだ。
これは、もはや俺が一方的に捌ける相手ではない。
俺はバックステップで大きく距離を取ると、降参の印に両手を上げた。
「ストップ! 分かった、もう十分だ!」
俺の言葉に、フレアの動きがぴたりと止まった。彼女は少し離れた場所で、荒い息をついている。だが、その表情は、疲労ではなく興奮に満ちていた。
「……すげえ。これが……これが、俺の本当の力……」
彼女は、自分の剣をうっとりと見つめている。
やがて、彼女はこちらに向き直ると、剣を鞘に納め、真っ直ぐに俺の元へ歩いてきた。
そして、俺の目の前で、深々と頭を下げた。
「……感謝する。カイト。お前は、俺の人生を救ってくれた。俺の全てを、変えてくれた」
その声は、震えていた。
「この恩は、一生忘れねえ。だから……頼む!」
彼女は顔を上げ、真剣な瞳で俺を見つめた。
「俺を、お前のパーティーに入れてくれ! この力、お前のために使わせてくれ! 俺は、お前と一緒に、もっと強くなりたい!」
それは、魂からの叫びだった。
追放され、見捨てられ、自分の価値を見失っていた少女が、本当の自分を取り戻した瞬間の、決意の言葉だった。
その熱い思いを、俺が断れるはずもなかった。
「……歓迎するよ、フレア」
俺がそう言って手を差し出すと、彼女は満面の笑みを浮かべ、その手を力強く握り返した。
「おう! これからよろしくな、相棒!」
こうして、俺たちのパーティーに、二人目の仲間が加わった。
快活で、誰よりも熱い心を持つ、天才獣人剣士。
俺は、ルナ、そしてフレア。
追放された者たちが集まって結成された、奇妙で、しかし間違いなく最強のパーティーが、この辺境の街で、静かに産声を上げたのだった。
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