無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第18話 勇者一行との最悪の再会

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商業都市ランドールでの日々は、穏やかで、そして有意義だった。
日中は、ルナが調べてくれた私設の大書庫「知の揺り籠」に通い、世界の創世神話や古代文明に関する文献を読み漁った。俺の【システム解析】を使えば、膨大な書物の内容を一瞬でデータ化し、キーワード検索をかけることができた。おかげで、調査は驚くほど効率的に進んだ。

『――神々は世界を創り、その理を『天の石板』に刻んだ』
『――世界のシステムに過負荷が生じし時、天は裁定者を遣わし、全てを無に還すだろう』

断片的な記述ばかりで、まだ核心には至らない。だが、「ワールドエンド」が、神々の手による強制シャットダウンであるという推測は、より確信に近づいていた。

夕方になれば、街に出て、フレアが目を輝かせる屋台の串焼きを食べ歩いたり、ルナが興味深そうに見つめる美しい装飾品を眺めたりした。追放された当初には考えられなかった、仲間との何気ない日常。それが、今の俺の何よりの原動力になっていた。

そんなある日。
俺たちは、旅の途中で世話になった『ランドール・グライフ商会』の会頭、グライフ氏からの招待を受け、彼の豪奢な屋敷を訪れていた。
「いやあ、カイト様! よくぞお越しくださいました! あなた様方のおかげで、我が商会は空前の利益を上げることができましてな! 今夜は、ささやかではありますが、我々からの感謝の宴です。どうぞ、心ゆくまでお楽しみください!」
恰幅のいいグライフ氏は、満面の笑みで俺たちを出迎えてくれた。
通されたのは、貴族の夜会が開かれるような、広大なパーティーホール。天井にはきらびやかなシャンデリアが輝き、テーブルには見たこともないような豪華な料理や高級な酒が並んでいる。俺たち以外にも、ランドールの名士らしき人々が数多く招かれていた。

「うおおお! すげえ! 天国か、ここは!?」
フレアは、子供のようにはしゃぎ回り、早速巨大な肉塊にかぶりついている。
「カイト様、このような華やかな場所は、少し落ち着きませんね……」
ルナは、少し緊張した面持ちで俺の隣に寄り添っている。彼女のために用意された美しいドレスは、その気品ある美しさを一層引き立てていた。
俺自身も、こんな場違いな場所にいることに、少しばかり居心地の悪さを感じていた。だが、グライフ氏の好意を無下にするわけにもいかない。

「おお、あれが噂の『神眼のカイト』殿か」
「なんと、お若い。だが、その佇まいには、只者ならぬ覇気が感じられるな」
「隣にいるエルフと獣人の女性も、息を呑むほどの美しさと強さを秘めておられる……」
周囲から、ひそひそとした囁きと、好奇と尊敬の入り混じった視線が向けられる。フロンティアでの小さなギルドとは違う、大都市の社交界。俺たちの名は、もはや無視できないレベルで、この国に広まっているらしかった。

そんな視線から逃れるように、俺はバルコニーに出て、夜風にあたっていた。ランドールの夜景が、眼下に宝石のように広がっている。
(追放された時は、明日の飯にも困っていたのにな……)
人生とは、分からないものだ。そんな感傷に浸っていると、不意に、背後から聞き覚えのある、しかし聞きたくもない声が聞こえてきた。

「――こんなところでお会いするとは、奇遇ですね。セシリアさん」

その声の主は、グライフ氏だった。彼は、誰かを伴ってバルコニーに出てきたらしい。
そして、その後に続いた、もう一つの声。その声を聞いた瞬間、俺の全身の血が、逆流するような感覚に襲われた。

「ええ、グライフ様。本日はお招きいただき、光栄ですわ」

セシリア・ローレル。
聖女候補。俺に追放を言い渡す際、偽善的な言葉でとどめを刺した、あの女の声だ。
なぜ、彼女がここに?
俺が驚きと嫌悪で振り返ると、そこには、予想しうる限り最悪のメンバーが立っていた。
勇者アレクサンダー。聖女セシリア。賢者レオン。戦士マリア。
俺を追放した、勇者パーティーそのものだった。
彼らもまた、俺の存在に気づき、驚愕に目を見開いている。特に、俺の隣で心配そうに寄り添うルナの姿と、ホールで楽しげに食事を頬張るフレアの姿を認めた時、その驚きは、嫉妬と不信の色へと変わった。

「そ、そうま……? なぜ、お前が、こんなところに……?」
最初に声を発したのは、マリアだった。その声には、信じられないものを見たという動揺が露わになっていた。
「それはこちらのセリフだ。お前たちこそ、王都でおとなしくお遊戯でもしていればいいものを。なぜ、こんな場所をうろついている?」
俺は、自分でも驚くほど冷たい声で言い放った。心の奥底で、かつての屈辱と怒りが、どす黒いマグマのように沸き上がるのを感じる。
俺の変わりように、彼らは一瞬、言葉を失った。あの頃の、言いなりになるしかなかった無力な俺は、もうどこにもいない。

「カイト様、この方たちは……?」
ルナが、俺の腕を掴み、警戒したように勇者たちを睨みつけた。彼女は、俺の話から、彼らが俺を追放した張本人たちであると、瞬時に理解したのだろう。その碧い瞳から放たれる冷たい圧力に、セシリアとマリアがたじろいだ。

状況を飲み込めていないのは、グライフ氏だけだった。
「おお、カイト様。皆様は、王都よりお越しの勇者様御一行ですぞ。皆様、こちらこそが、先ほどお話しした我が商会の恩人、『神眼のカイト』様です」
グライフ氏は、良かれと思って俺たちを紹介した。だが、それが、場の空気をさらに険悪なものにする。
アレクサンダーは、俺から視線を外し、グライフ氏に向かって尊大に言った。
「ほう、グライフ殿の恩人、ね。だが、勘違いしては困るな。その男、ソウマ・カイトは、元々、この俺のパーティーに所属していた者だ。つまり、お分かりかな? 彼が立てた手柄は、全てこの俺に帰属する、ということだ」

そのあまりにも傲慢で、理不尽な物言いに、俺は怒りを通り越して、呆れてしまった。
グライフ氏は、何が何だか分からず、困惑した表情で俺とアレクサンダーを交互に見ている。
「はっ……。何を言っているんだ、お前は。俺は、お前たちに追放された身だ。もはや、何の関係もないはずだが?」
「追放? 人聞きの悪いことを言うな。あれは、お前に試練を与えたのだ。俺の慈悲深い計らいによって、お前は眠っていた力を覚醒させることができた。そうだろう? ならば、その力は俺のために使われるべきだ。感謝こそすれ、文句を言われる筋合いはない」
アレクサンダーは、心底そう信じているかのように、胸を張って言い切った。
この男の自己中心的な思考回路は、健在らしい。いや、むしろ悪化している。

その時、ホールの喧騒に気づいたフレアが、口の周りをソースで汚したまま、こちらにやってきた。
「おいカイト、どうしたんだよ? なんか、嫌な感じの奴らがいるけど……知り合いか?」
フレアは、アレクサンダーたちを値踏みするように見つめる。その野生の勘が、彼らが敵であることを告げているのだろう。
フレアの姿を見たアレクサンダーの目が、侮蔑の色に見開かれた。
「なんだ、その汚らしい獣人は。ソウマ、お前も随分と趣味が悪くなったものだな。そんな輩とつるんでいるとは。まあいい。ちょうどいい機会だ。今すぐ、そのくだらない仲間とやらを捨て、俺のパーティーに戻ってこい。勇者である、この俺が直々に命じてやっているんだ。光栄に思え」

その一言が、引き金だった。

「――てめえ、今、なんて言った?」

フレアの声のトーンが、一瞬で変わった。快活さは消え失せ、底冷えのするような、静かな怒りがその声に宿っていた。
彼女が最も嫌う、「獣人」という言葉での侮辱。そして、彼女が「相棒」と認めた俺への、傲慢な命令。
フレアの背後で、真紅の闘気が、陽炎のように揺らめき始めた。
「カイトは、俺の相棒だ。そして、俺の大事な仲間を……侮辱する奴は、たとえ勇者だろうがなんだろうが、容赦しねえ……!」

同時に、俺の隣に立つルナからも、絶対零度の魔力が放たれる。
「……マスターを、物のように扱う貴方たちに、生きている価値はありません。今すぐ、その汚れた魂ごと、消滅させて差し上げましょうか?」
そのあまりにも純粋な殺気に、賢者のレオンですら、顔を引きつらせて一歩後ずさった。

パーティー会場の陽気な音楽が、嘘のように遠くに聞こえる。
バルコニーは、一触即発の、凍てついた戦場と化していた。
俺を追放した者たちとの、最悪の再会。
それは、もはや言葉で解決できる段階を、とうに超えてしまっていた。
俺は、静かに燃える怒りを心の内に収めながら、目の前の、かつての「仲間」たちを、冷たく、そして無慈悲に見据えた。
物語の歯車が、軋みを立てて、新たな局面へと回り始めた。
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