無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第19話 手のひら返し、「戻ってこい」という傲慢な要求

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一触即発の空気が、バルコニーを支配していた。
フレアから放たれる真紅の闘気と、ルナから溢れ出る絶対零度の魔力。その二つの強大なプレッシャーに、勇者パーティーの面々は完全に気圧されていた。特に、後衛職であるセシリアとレオンは、顔面蒼白で立っているのがやっとという有り様だ。

「な、なんだ……この女どもは……!?」
マリアが、震える声で悪態をつく。彼女も戦士としての矜持があるのか、腰の剣に手をかけてはいるが、その足は完全に竦んでしまっている。フレアとルナの実力が、自分たちとは次元が違うことを、本能で感じ取っているのだ。

この異常事態に、ようやくグライフ氏もことの重大さを理解したらしい。彼は冷や汗をだらだらと流しながら、俺とアレクサンダーの間でオロオロしている。
「ま、まあまあ、皆様、どうかお鎮まりください! こ、ここは私の屋敷です! どうか、穏便に……!」
その必死の仲裁が、かろうじて場の均衡を保っていた。

俺は、燃え上がる二人を、手でそっと制した。
「ルナ、フレア。少し、頭を冷やせ。こいつらをここで始末するのは、グライフさんに迷惑がかかる」
俺の言葉に、二人は不満そうな顔をしながらも、ゆっくりと闘気を収めてくれた。だが、その瞳に宿る敵意は消えていない。
「……カイト様がそうおっしゃるなら」
「ちっ……。カイトが言うなら、今回は見逃してやるよ」
その様子を見て、アレクサンダーは、俺が二人を完全に制御下に置いていると勘違いしたらしい。彼は安堵の息を漏らすと、再び尊大な態度を取り戻した。

「ふん、躾のなっていない獣と人形だな。だが、まあいい。ソウマ、お前が俺の元に戻るというのなら、その女たちも、俺の奴隷として使ってやらんでもない」
彼は、まだ、自分が優位な立場にいると思い込んでいる。この期に及んでも、俺たちを見下し、支配しようとしている。その救いようのない傲慢さに、俺の中で、最後の何かがぷつりと切れた。
俺は、それまで浮かべていた冷たい表情を消し、ふっと、心の底からおかしいというように笑みを浮かべた。

「はは……。ははははは! 奴隷? 戻ってこい? お前、本気で言ってるのか?」
俺の突然の笑いに、アレクサンダーは眉をひそめた。
「何がおかしい。俺は、お前にチャンスを与えてやっているんだぞ」
「チャンス、ね。お前が俺に与えたのは、死ねと言わんばかりの無一文での追放だけだ。試練だの慈悲だの、よくもまあ、そんな寝言が言えるもんだな」
俺は一歩、アレクサンダーに近づいた。
「いいか、よく聞け。勘違いするなよ、勇者様。俺が、お前の元に戻ることは、天地がひっくり返ってもあり得ない。お前たちが俺を捨てたあの日に、俺とお前たちの関係は、完全にご破算になったんだ」

俺のきっぱりとした拒絶の言葉に、アレクサンダーの顔がみるみるうちに怒りで歪んでいく。
「……なんだと? この俺の、勇者アレクサンダーの命令に、逆らうというのか?」
「命令? 笑わせるな。お前は俺の主君でもなければ、上司でもない。ただの、俺が心の底から軽蔑する、元パーティーメンバー(・・・・・)だ。それ以上でも、それ以下でもない」
俺は、一言一言、言葉に侮蔑を込めて言い放った。
「俺には、ルナとフレアという、お前たちなんかより百万倍も信頼できる、かけがえのない仲間がいる。俺の力は、こいつらのために使う。お前たちのような、仲間を平気で切り捨てるクズどものために使う力など、一欠片たりとも持ち合わせていない」

俺の言葉は、勇者パーティーのメンバー、一人一人の胸に突き刺さった。
マリアは悔しそうに唇を噛み、レオンは苦虫を噛み潰したような顔で沈黙している。セシリアは、罪悪感に耐えきれないのか、顔を伏せて震えていた。
そしてアレクサンダーは、ついに堪忍袋の緒が切れたようだった。

「……貴様ァァァッ!」
彼は怒りの咆哮と共に、腰に佩いていた聖剣を引き抜いた。まばゆい光を放つその剣は、女神から授かった勇者の証。
「もういい! 言葉で分からぬ愚か者には、力でその身の程を教えてやる! ソウマ・カイト! 貴様がどれだけ増長しようと、勇者であるこの俺には決して及ばないということを、その身体に刻み込んでやる!」
聖剣が、俺の喉元に突きつけられる。パーティー会場に、招待客たちの悲鳴が響き渡った。
だが、俺は微動だにしなかった。
それどころか、目の前に突きつけられた聖剣を、冷めた目で見つめていた。
「……聖剣、か。確かに、見た目は立派だな」
俺は、その剣先に、ゆっくりと指を伸ばした。
「カイト様!」「カイト!」
ルナとフレアの悲鳴が聞こえるが、俺は構わない。
俺の指先が、聖剣の切っ先に触れた、その瞬間。
俺は【システム解析】を発動させ、その構造データを読み解いていた。

【ITEM_NAME: 聖剣アスカロン(偽)】
【TYPE: Weapon】
【RARITY: Legend(Fake)】
【ATK: 350】
【DESCRIPTION: 女神アルテミスによって勇者に与えられたとされる伝説の剣。その刀身は聖なる光を放ち、あらゆる魔を滅すると言われている。】
【HIDDEN_PARAMETER】
- System_Internal_ID: #W-LGD-001b
- True_Power_Release_Condition: user.class == "True_Hero" && user.alignment == "Lawful_Good"
- Current_Status: Power_Sealed (Condition_Not_Met)
- // Warning: User's alignment does not match. Sword's true potential is locked at 10%.

「……なんだ、これは」
思わず、声が漏れた。
聖剣アスカロン(偽)。伝説(フェイク)。
真の力の解放条件は、使用者が『真の勇者』であり、かつ、その属性が『秩序・善』であること。
そして、現在の状態は、力は封印され、潜在能力の10%しか引き出せていない。原因は、使用者の属性が適合しないため。

(こいつ……勇者の資格がないのか……!)

衝撃の事実だった。アレクサンダーは、女神に選ばれた勇者ではなかった。あるいは、選ばれた後に、その資格を失うほどの何かをしたのか。いずれにせよ、彼が手にしているのは、ただの光るナマクラだったのだ。
俺は、アレクサンダーの目を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳の奥にある、醜い嫉妬と、独善的な支配欲。なるほど、『秩序・善』とは程遠い。
俺は、彼のプライドを、根こそぎ叩き折る覚悟を決めた。

「なあ、アレクサンダー。お前に、一つ面白いことを教えてやろうか?」
俺は、不敵な笑みを浮かべた。
「そのお前が自慢げに掲げている聖剣、ただの『偽物』だぞ」
「なっ……!? き、貴様、何を馬鹿なことを……!」
動揺するアレクサンダーに、俺は追い打ちをかける。
「本当の聖剣は、持ち主が『真の勇者』の資格を持つ時、その真の力を解放する。だが、お前にはその資格がない。だから、お前が手にしているソレは、本来の力の10%も出せていない、ただのガラクタだ」
俺が告げた事実は、彼にとって、何よりも信じがたく、そして受け入れがたいものだった。
「だ、黙れ! 黙れ黙れ黙れ! そんなデタラメを……! 俺が、勇者でないだと!?」
「デタラメかどうか、試してみるか?」
俺は、彼の聖剣を指で軽く弾いた。
「俺がお前の元に戻るかどうか、勝負と行こうじゃないか。お前がその『聖剣』で、俺に一太刀でも浴びせることができたら、お前の言うことを聞いてやる。だが、もしできなかったら……お前たちは、二度と俺たちの前に現れるな。それでどうだ?」

俺からの、あまりにも大胆な提案。
それは、武器も持たない俺が、聖剣を持つ勇者に、一対一の勝負を挑むという、誰がどう見ても無謀な賭けだった。
だが、アレクサンダーは、その挑発に乗るしかなかった。
彼自身の存在意義、勇者としてのプライド、その全てが、この勝負に懸かっていたからだ。
「……面白い。いいだろう、その勝負、受けてやる!」
彼は、震える声を必死で抑え込み、叫んだ。
「後悔するなよ、ソウマ・カイト! 貴様は、その身をもって、本物の勇者の力というものを知ることになる!」

グライフ氏の屋敷の、広大な中庭が、急遽、決闘の舞台となった。
俺とアレクサンダー。
二人の因縁に、今、決着の時が訪れようとしていた。
俺は静かに、彼が振りかざす光のナマクラを、冷徹な目で見据えていた。
手のひらを返したような要求は、もう聞き飽きた。
ここからは、圧倒的な実力差という、誰にも覆せない「事実」を、彼らに叩きつける時間だ。
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