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第20話 【ざまぁ①】「手遅れだ」圧倒的な実力差を見せつけ要求を完全拒絶
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グライフ氏の屋敷の中庭は、異様な緊張感に包まれていた。
パーティーの招待客たちが、遠巻きに俺とアレクサンダーの対峙を見守っている。誰もが、これから始まる常識外れの決闘に、固唾を飲んでいた。聖剣を持つ勇者と、丸腰の冒険者。結果は火を見るより明らかだと、誰もが思っているだろう。
「カイト様……、本当に、よろしいのですか?」
決闘の場から離れた場所で、ルナが心配そうに俺を見つめている。
「ああ。これは、俺自身でケリをつけなきゃいけない問題なんだ」
「……カイトなら大丈夫だ。あいつは、俺たちなんかより、ずっと強えからな」
フレアは、俺に絶対的な信頼を寄せているようだった。その信頼が、今は何よりも心強い。
中庭の中央で、俺とアレクサンダーは十メートルほどの間隔をあけて向かい合った。
アレクサンダーは、聖剣(偽)を両手で構え、まばゆい光のオーラをその身に纏っている。その姿は、確かに伝説の勇者のように見えなくもない。だが、俺の目には、彼のステータスが全て見えている。
【名前】アレクサンダー・フォン・アークライト
【クラス】勇者(資格不適合)
【レベル】22
【ステータス】
- 筋力: 250
- 耐久: 230
- 敏捷: 240
...
【スキル】聖剣技Lv3、カリスマ(中)
【状態】憤怒、焦燥、プライド(過剰)
レベルは、俺より少し高い。ステータスも、純粋な数値だけ見れば、俺を上回っている。だが、今の俺にとって、そんなものは何の意味もなさない。
「ソウマ・カイト! 今ならまだ、謝って俺の靴を舐めることを許してやってもいいぞ!」
アレクサンダーが、最後の通告のように叫んだ。
「……無駄口はいいから、さっさと始めようぜ。お前の茶番に、いつまでも付き合っている暇はないんでな」
俺の挑発に、アレクサンダーの顔が怒りで引きつった。
「後悔するなよ、クズがァッ!」
彼が地面を蹴った。速い。常人なら、目で追うことすらできないであろう速度で、俺との距離を詰めてくる。振りかぶられた聖剣が、夜の闇を切り裂き、光の尾を引いて俺の頭上めがけて振り下ろされた。
「おおっ!」
観客から、驚きの声が上がる。
だが、俺は冷静だった。
【システム解析】――発動。
『Skill '聖剣技' - Routine 'Blade_of_Light' is now active.』
『Attack_Motion_Time: 0.9s』
『Predicted_Path: Vertical_Slash (deviation: ±5cm)』
『Weak_Point: Right_Elbow_Joint (During_down-swing)』
彼の動き、剣の軌道、そして、攻撃モーション中の弱点。その全てが、俺の脳内にインプットされる。
俺は、まるで背中に目があるかのように、最小限の動きで半歩だけ横にずれた。
ゴウッ、という凄まじい風圧と共に、聖剣が俺のいた場所を通り過ぎ、地面に深々と突き刺さった。石畳が砕け散り、土煙が舞い上がる。
「なっ……!?」
アレクサンダーが、信じられないといった表情で俺を見た。渾身の一撃が、いとも簡単にかわされたのだ。
「運が良かったな、ソウマ! だが、次はないぞ!」
彼は即座に剣を引き抜き、今度は横薙ぎに、俺の胴体を狙ってきた。
だが、それも無駄だった。俺は軽く身を屈めるだけで、その刃をひらりとかわす。
三撃目、四撃目、五撃目……。
アレクサンダーは、鬼の形相で聖剣を振り回し続ける。その剣技は、確かに強力だ。一撃でも当たれば、俺の身体など容易く両断されてしまうだろう。
しかし、その刃が、俺の服をかすめることすら、ない。
俺はただ、彼の攻撃をかわし続けているだけ。だが、観客たちの目には、その光景は異様以外の何物でもなかった。
勇者の猛攻を、丸腰の男が、まるで舞うように、余裕の表情で全て捌いているのだ。
「はぁっ……はぁっ……。な、なぜだ……。なぜ、当たらん……!?」
息を切らし始めたアレクサンダーが、狼狽の声を上げる。彼のプライドが、目の前の信じられない現実に、少しずつ蝕まれていく。
「なぜ、だと?」
俺は、初めて反撃に出た。
彼の突きを、紙一重でかわしながら、その懐に潜り込む。そして、解析で示された弱点――彼の右肘の関節を、手刀で軽く、しかし正確に打ち据えた。
「ぐっ……!?」
激痛に、アレクサンダーの腕から力が抜ける。聖剣が、彼の取り落としそうになるのを、必死で握りしめた。
「簡単なことだ、アレクサンダー。お前の動きは、全て、俺にはお見通しだからだ」
俺は、後方に跳んで距離を取る。
「お前の剣は、大振りで、単純すぎる。怒りに任せて振り回しているだけで、そこには何の工夫も、戦略もない。まるで、駄々をこねる子供のようだ」
「だ、黙れ……! 黙れェェッ!」
図星を突かれたアレクサンダーが、再び斬りかかってくる。だが、その動きは、先ほどよりもさらに精彩を欠いていた。焦りと怒りで、視野が狭くなっているのだ。
俺は、もう遊ぶのは終わりだと決めた。
彼の振り下ろした剣の側面を、足で蹴り上げる。軌道が逸れた聖剣。がら空きになった胴体。
そこに、俺は容赦なく、掌底を叩き込んだ。
「――ッがはっ!?」
アレクサンダーの身体が、「く」の字に折れ曲がり、数メートル後方まで吹き飛ばされた。彼は地面に無様に転がり、咳き込みながら、苦痛に顔を歪めている。
観客たちが、息を呑む。
勇者が、丸腰の男の一撃で、吹き飛ばされた。
その事実は、彼らの常識を完全に破壊した。
「……もう、終わりか? 立てよ、勇者様。お前の力は、そんなものじゃないだろ?」
俺は、冷たく言い放った。
「う……うぅ……。き、さま……」
アレクサンダーは、屈辱に顔を歪めながら、ふらふらと立ち上がった。その瞳には、もはや怒りよりも、恐怖の色が濃く浮かんでいた。彼は、目の前の男が、自分では到底敵わない、規格外の存在であることを、ようやく理解し始めたのだ。
だが、引くことはできない。ここで引けば、彼の全てが終わる。
「こ……これで、終わりにしてやる……! 聖剣技、奥義――!」
彼は残った力を振り絞り、聖剣を天に掲げた。剣先に、凄まじい光のエネルギーが収束していく。彼の持つ、最大の一撃だろう。
「――ホーリー・ノヴァ!」
太陽のような光の球が、聖剣から放たれ、俺に向かって殺到する。周囲の空気が、その熱量で灼けるように熱い。
だが、俺は、その光の奔流を前にして、静かに【システム解析】を発動させた。
『Skill 'Holy_Nova' is now active.』
『Energy_Value: 5000/50000 (10%)』
『Trajectory: Linear』
『System_Warning: Due to user's alignment mismatch, skill logic is unstable. High probability of self-damage on impact.』
(……なるほどな。やはり、力の10%しか出ていない。しかも、無理に使ったせいで、ロジックが不安定になり、自爆ダメージの危険性すらある、か)
あまりにも、お粗末な奥義。
俺は、それを迎え撃つために、初めて本気を出した。
俺は、その場に転がっていた、聖剣の衝撃で砕けた石畳の破片を、一つ拾い上げた。
そして、その小さな石片に、俺のMPを注ぎ込み、デバッグする。
『オブジェクトの物理パラメータを、一時的に最大値まで引き上げる』
『運動エネルギーの減衰率を、限りなくゼロに近づける』
「――行け」
俺が指で弾いた小石は、音もなく、光の奔流に向かって飛んでいった。
次の瞬間、信じられない光景が、そこに広がった。
小さな石片が、巨大な光の球の中心に、吸い込まれるように着弾する。
そして、太陽のようだった光の塊が、まるで風船が割れるように、いともたやすく、パァン! という軽い音と共に、霧散して消え失せたのだ。
アレクサンダーの最大奥義が、俺が指で弾いた、ただの小石一つで、完全に無効化された。
「……………」
アレクサンダーは、目の前で起きたことが理解できず、ただ、呆然と立ち尽くしていた。
「……………」
観客たちも、声一つ出せない。
「……………」
彼の仲間たち、レオンも、マリアも、セシリアも、まるで時が止まったかのように、固まっていた。
静寂を破ったのは、俺の、静かな足音だった。
俺は、ゆっくりとアレクサンダーの前まで歩いていく。
「……分かったか? これが、俺とお前の、埋めようのない『差』だ」
俺は、彼の目の前で、はっきりと告げた。
「お前が俺に追いつくことは、もうない。お前が俺に追いつこうと必死に走っている間に、俺は、お前の遥か先、雲の上まで行っちまったんだよ」
「手遅れなんだ、アレクサンダー」
その言葉は、彼の心を、プライドを、存在意義を、完全に粉砕した。
彼は、糸が切れた人形のように、その場にへなへなと崩れ落ちた。その瞳からは、光が消え失せていた。
俺は、そんな彼を、もう見向きもせずに、背を向けた。
俺たちの因縁は、今、この瞬間、完全な形で終わりを告げたのだ。
「さて、帰るか。ルナ、フレア」
俺が声をかけると、二人が駆け寄ってきた。
「カイト様……、お見事でした」
「へへっ、当然だ! 俺の相棒を、なめんなってんだ!」
俺たちは、もはや誰からの注目も気にせず、その場を後にしようとした。
決着は、ついた。
もう、ここには何の用もない。
そう、思った、矢先だった。
「――待ちなさい」
凛とした、しかし有無を言わせぬ声が、俺たちを呼び止めた。
振り返ると、そこには、いつの間にか現れていた、王国の騎士団の鎧を纏った、一団が立っていた。
その先頭に立つのは、白銀の鎧に身を包んだ、厳格な顔つきの女性騎士。その腰には、見覚えのある、王国の騎士団長の紋章が輝いていた。
「勇者様を打ち負かすとは、見事な腕前。その力、我がアークライト王国のために、役立てていただきたい」
彼女の目は、俺を、まるで価値のある「物」として品定めするように、鋭く見つめていた。
どうやら、面倒事は、まだ終わってはいなかったらしい。
俺は、内心で深いため息をつきながら、新たな敵意を、静かに見据えた。
パーティーの招待客たちが、遠巻きに俺とアレクサンダーの対峙を見守っている。誰もが、これから始まる常識外れの決闘に、固唾を飲んでいた。聖剣を持つ勇者と、丸腰の冒険者。結果は火を見るより明らかだと、誰もが思っているだろう。
「カイト様……、本当に、よろしいのですか?」
決闘の場から離れた場所で、ルナが心配そうに俺を見つめている。
「ああ。これは、俺自身でケリをつけなきゃいけない問題なんだ」
「……カイトなら大丈夫だ。あいつは、俺たちなんかより、ずっと強えからな」
フレアは、俺に絶対的な信頼を寄せているようだった。その信頼が、今は何よりも心強い。
中庭の中央で、俺とアレクサンダーは十メートルほどの間隔をあけて向かい合った。
アレクサンダーは、聖剣(偽)を両手で構え、まばゆい光のオーラをその身に纏っている。その姿は、確かに伝説の勇者のように見えなくもない。だが、俺の目には、彼のステータスが全て見えている。
【名前】アレクサンダー・フォン・アークライト
【クラス】勇者(資格不適合)
【レベル】22
【ステータス】
- 筋力: 250
- 耐久: 230
- 敏捷: 240
...
【スキル】聖剣技Lv3、カリスマ(中)
【状態】憤怒、焦燥、プライド(過剰)
レベルは、俺より少し高い。ステータスも、純粋な数値だけ見れば、俺を上回っている。だが、今の俺にとって、そんなものは何の意味もなさない。
「ソウマ・カイト! 今ならまだ、謝って俺の靴を舐めることを許してやってもいいぞ!」
アレクサンダーが、最後の通告のように叫んだ。
「……無駄口はいいから、さっさと始めようぜ。お前の茶番に、いつまでも付き合っている暇はないんでな」
俺の挑発に、アレクサンダーの顔が怒りで引きつった。
「後悔するなよ、クズがァッ!」
彼が地面を蹴った。速い。常人なら、目で追うことすらできないであろう速度で、俺との距離を詰めてくる。振りかぶられた聖剣が、夜の闇を切り裂き、光の尾を引いて俺の頭上めがけて振り下ろされた。
「おおっ!」
観客から、驚きの声が上がる。
だが、俺は冷静だった。
【システム解析】――発動。
『Skill '聖剣技' - Routine 'Blade_of_Light' is now active.』
『Attack_Motion_Time: 0.9s』
『Predicted_Path: Vertical_Slash (deviation: ±5cm)』
『Weak_Point: Right_Elbow_Joint (During_down-swing)』
彼の動き、剣の軌道、そして、攻撃モーション中の弱点。その全てが、俺の脳内にインプットされる。
俺は、まるで背中に目があるかのように、最小限の動きで半歩だけ横にずれた。
ゴウッ、という凄まじい風圧と共に、聖剣が俺のいた場所を通り過ぎ、地面に深々と突き刺さった。石畳が砕け散り、土煙が舞い上がる。
「なっ……!?」
アレクサンダーが、信じられないといった表情で俺を見た。渾身の一撃が、いとも簡単にかわされたのだ。
「運が良かったな、ソウマ! だが、次はないぞ!」
彼は即座に剣を引き抜き、今度は横薙ぎに、俺の胴体を狙ってきた。
だが、それも無駄だった。俺は軽く身を屈めるだけで、その刃をひらりとかわす。
三撃目、四撃目、五撃目……。
アレクサンダーは、鬼の形相で聖剣を振り回し続ける。その剣技は、確かに強力だ。一撃でも当たれば、俺の身体など容易く両断されてしまうだろう。
しかし、その刃が、俺の服をかすめることすら、ない。
俺はただ、彼の攻撃をかわし続けているだけ。だが、観客たちの目には、その光景は異様以外の何物でもなかった。
勇者の猛攻を、丸腰の男が、まるで舞うように、余裕の表情で全て捌いているのだ。
「はぁっ……はぁっ……。な、なぜだ……。なぜ、当たらん……!?」
息を切らし始めたアレクサンダーが、狼狽の声を上げる。彼のプライドが、目の前の信じられない現実に、少しずつ蝕まれていく。
「なぜ、だと?」
俺は、初めて反撃に出た。
彼の突きを、紙一重でかわしながら、その懐に潜り込む。そして、解析で示された弱点――彼の右肘の関節を、手刀で軽く、しかし正確に打ち据えた。
「ぐっ……!?」
激痛に、アレクサンダーの腕から力が抜ける。聖剣が、彼の取り落としそうになるのを、必死で握りしめた。
「簡単なことだ、アレクサンダー。お前の動きは、全て、俺にはお見通しだからだ」
俺は、後方に跳んで距離を取る。
「お前の剣は、大振りで、単純すぎる。怒りに任せて振り回しているだけで、そこには何の工夫も、戦略もない。まるで、駄々をこねる子供のようだ」
「だ、黙れ……! 黙れェェッ!」
図星を突かれたアレクサンダーが、再び斬りかかってくる。だが、その動きは、先ほどよりもさらに精彩を欠いていた。焦りと怒りで、視野が狭くなっているのだ。
俺は、もう遊ぶのは終わりだと決めた。
彼の振り下ろした剣の側面を、足で蹴り上げる。軌道が逸れた聖剣。がら空きになった胴体。
そこに、俺は容赦なく、掌底を叩き込んだ。
「――ッがはっ!?」
アレクサンダーの身体が、「く」の字に折れ曲がり、数メートル後方まで吹き飛ばされた。彼は地面に無様に転がり、咳き込みながら、苦痛に顔を歪めている。
観客たちが、息を呑む。
勇者が、丸腰の男の一撃で、吹き飛ばされた。
その事実は、彼らの常識を完全に破壊した。
「……もう、終わりか? 立てよ、勇者様。お前の力は、そんなものじゃないだろ?」
俺は、冷たく言い放った。
「う……うぅ……。き、さま……」
アレクサンダーは、屈辱に顔を歪めながら、ふらふらと立ち上がった。その瞳には、もはや怒りよりも、恐怖の色が濃く浮かんでいた。彼は、目の前の男が、自分では到底敵わない、規格外の存在であることを、ようやく理解し始めたのだ。
だが、引くことはできない。ここで引けば、彼の全てが終わる。
「こ……これで、終わりにしてやる……! 聖剣技、奥義――!」
彼は残った力を振り絞り、聖剣を天に掲げた。剣先に、凄まじい光のエネルギーが収束していく。彼の持つ、最大の一撃だろう。
「――ホーリー・ノヴァ!」
太陽のような光の球が、聖剣から放たれ、俺に向かって殺到する。周囲の空気が、その熱量で灼けるように熱い。
だが、俺は、その光の奔流を前にして、静かに【システム解析】を発動させた。
『Skill 'Holy_Nova' is now active.』
『Energy_Value: 5000/50000 (10%)』
『Trajectory: Linear』
『System_Warning: Due to user's alignment mismatch, skill logic is unstable. High probability of self-damage on impact.』
(……なるほどな。やはり、力の10%しか出ていない。しかも、無理に使ったせいで、ロジックが不安定になり、自爆ダメージの危険性すらある、か)
あまりにも、お粗末な奥義。
俺は、それを迎え撃つために、初めて本気を出した。
俺は、その場に転がっていた、聖剣の衝撃で砕けた石畳の破片を、一つ拾い上げた。
そして、その小さな石片に、俺のMPを注ぎ込み、デバッグする。
『オブジェクトの物理パラメータを、一時的に最大値まで引き上げる』
『運動エネルギーの減衰率を、限りなくゼロに近づける』
「――行け」
俺が指で弾いた小石は、音もなく、光の奔流に向かって飛んでいった。
次の瞬間、信じられない光景が、そこに広がった。
小さな石片が、巨大な光の球の中心に、吸い込まれるように着弾する。
そして、太陽のようだった光の塊が、まるで風船が割れるように、いともたやすく、パァン! という軽い音と共に、霧散して消え失せたのだ。
アレクサンダーの最大奥義が、俺が指で弾いた、ただの小石一つで、完全に無効化された。
「……………」
アレクサンダーは、目の前で起きたことが理解できず、ただ、呆然と立ち尽くしていた。
「……………」
観客たちも、声一つ出せない。
「……………」
彼の仲間たち、レオンも、マリアも、セシリアも、まるで時が止まったかのように、固まっていた。
静寂を破ったのは、俺の、静かな足音だった。
俺は、ゆっくりとアレクサンダーの前まで歩いていく。
「……分かったか? これが、俺とお前の、埋めようのない『差』だ」
俺は、彼の目の前で、はっきりと告げた。
「お前が俺に追いつくことは、もうない。お前が俺に追いつこうと必死に走っている間に、俺は、お前の遥か先、雲の上まで行っちまったんだよ」
「手遅れなんだ、アレクサンダー」
その言葉は、彼の心を、プライドを、存在意義を、完全に粉砕した。
彼は、糸が切れた人形のように、その場にへなへなと崩れ落ちた。その瞳からは、光が消え失せていた。
俺は、そんな彼を、もう見向きもせずに、背を向けた。
俺たちの因縁は、今、この瞬間、完全な形で終わりを告げたのだ。
「さて、帰るか。ルナ、フレア」
俺が声をかけると、二人が駆け寄ってきた。
「カイト様……、お見事でした」
「へへっ、当然だ! 俺の相棒を、なめんなってんだ!」
俺たちは、もはや誰からの注目も気にせず、その場を後にしようとした。
決着は、ついた。
もう、ここには何の用もない。
そう、思った、矢先だった。
「――待ちなさい」
凛とした、しかし有無を言わせぬ声が、俺たちを呼び止めた。
振り返ると、そこには、いつの間にか現れていた、王国の騎士団の鎧を纏った、一団が立っていた。
その先頭に立つのは、白銀の鎧に身を包んだ、厳格な顔つきの女性騎士。その腰には、見覚えのある、王国の騎士団長の紋章が輝いていた。
「勇者様を打ち負かすとは、見事な腕前。その力、我がアークライト王国のために、役立てていただきたい」
彼女の目は、俺を、まるで価値のある「物」として品定めするように、鋭く見つめていた。
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