無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第28話 世界の成り立ち。「システム」と「管理者」の伝説

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ドワーフの国、ドゥリンヘイムでの日々は、俺たちにとって大きな実りのある時間となった。
伝説の鍛冶師ギルバートの工房を自由に使わせてもらえることになった俺たちは、彼の持つ神業的な鍛冶技術と、俺のデバッグ能力を組み合わせ、パーティーの装備を飛躍的に向上させていた。

「どうだカイト! この新しい鎧、軽くて、めちゃくちゃ頑丈だぜ!」
フレアは、ギルバートが彼女の動きに合わせてカスタムメイドした、深紅の軽量金属鎧を身につけて、満足げに跳ね回っている。その鎧には、俺が最適化した「衝撃吸収」と「自己修復」のエンチャントが施されており、もはや国宝級の逸品と言っても過言ではない。
ルナもまた、世界樹の若木から削り出した新しい杖を手に、その杖に宿る膨大な魔力に感嘆の息を漏らしていた。杖の内部には、俺が構築した「魔力増幅回路」が組み込まれ、彼女の精霊魔法の効果を何倍にも高めている。
そして俺自身も、防御性能と機動性を両立させたコートと、解析能力を補助する特殊なレンズが付いたゴーグルを手に入れていた。

俺が「デバッグ」でエンチャントのバグを修正し、ギルバートがその知識を元に、より洗練された理論で武具を打ち上げる。俺たちは、師弟というよりは、互いの技術を尊敬し合う、最高のパートナーとなっていた。

だが、俺たちの本来の目的は、装備の強化ではない。
ある晩、いつものように工房で、溶鉱炉の火を眺めながらギルバートと二人で酒を酌み交わしていた時、俺は本題を切り出した。
「ギルバートさん。あんたたちドワーフは、この世界の誰よりも古く、そして深く、大地と共に生きてきた。世界の成り立ちについて、何か特別な伝承は残っていないか? 俺たちが『神話』として知っているものとは、違う話が」
俺の真剣な問いに、ギルバートは手にしていた酒杯を置き、静かに俺の目を見つめ返した。彼は、俺がただの冒険者ではないことを、とうに見抜いていた。
「……やはり、あんたは、そっち側の人間か」
「そっち側?」
「世界の『理(ことわり)』に、疑問を抱く側の、な」
ギルバートは、重々しく口を開いた。
「いいだろう。あんたになら、話してやる。ワシらドワーフの王族と、ごく一部の長老にしか伝えられておらん、この世界の本当の始まりの物語を」

彼は俺たちを、工房のさらに奥深く、ドワーフの王ですら特別な許可なくしては入れないという、「始祖の記録庫」へと案内してくれた。
そこは、ひんやりとした空気に満ちた、巨大な洞窟だった。壁一面に、金属や石の板がびっしりと埋め込まれ、その表面には、古代ドワーフ語や、もはや解読不能な神代の文字で、びっしりと何かが刻まれている。
「ワシらが学校で習う神話では、世界は女神アルテミス様を始めとする、七柱の神々によって創られたとされておる。じゃが、それは、後世の人間たちが書き換えた、都合のいいおとぎ話じゃ」
ギルバートは、一体の巨大な石板の前に立つと、その表面を、慈しむように撫でた。
「真実は、こうじゃ。――この世界『エルドラ』は、たった一人の、偉大なる『創造主』によって創られた、壮大な『箱庭』である、とな」
「創造主……? 神々とは違うのか?」
「全くの別物じゃ。創造主は、ただ世界を創っただけ。その後の運営には、ほとんど関与しておらん。その代わり、創造主は、この箱庭が安定して稼働するよう、自らの代理人として、一体の『管理者』を任命した」

管理者。その言葉に、俺は息を呑んだ。SEだった俺にとって、それは非常に馴染み深い単語だった。
「初代の管理者は、それはもう完璧に、その役目をこなしたそうだ。世界の法則――あんたが『システム』と呼ぶもの――を常に監視し、バグがあれば修正し、世界がより豊かになるよう、アップデートを繰り返した。ワシらドワーフに、鍛冶の技術を授けたのも、エルフに、精霊との対話の方法を教えたのも、その初代管理者じゃ」
ギルバートの言葉に、ルナが目を見開いた。彼女の一族に伝わる「偉大なる導き手」の伝説と、奇妙に一致する。
「だが、永遠に続くものはない。初代管理者は、いつしかその役目を終え、その座は、彼の部下であった者たちに引き継がれた。それが、今の『神々』の正体じゃ」
ギルバートの声に、侮蔑の色が混じった。
「二代目以降の管理者たちは、初代様とは比べ物にならんほど、能力も、思想も、劣化しておった。彼らは、世界を『維持』するのではなく、世界を自分たちの『所有物』として、都合のいいように利用し始めた。気に入った人間にだけ力を与え、『勇者』などと祭り上げる。自分たちの権威を脅かす者は、『魔王』と呼んで、世界中の敵に仕立て上げる。全ては、この箱庭の住人たちを、自分たちのコントロール下に置くための、くだらん猿芝居よ」

彼の言葉は、衝撃的だった。
俺を召喚した女神アルテミス。アレクサンダーを勇者に選んだ、あの儀式。その全てが、堕落した管理者たちによる、茶番劇だったというのか。
「ワシらドワーフは、今の神々なんぞ、全く信用しとらん。ワシらが真に敬うのは、この世界を創られた偉大なる創造主と、その御心(みこころ)を正しく継いだ、初代管理者様だけじゃ」
ギルバートは、俺に深く、鋭い視線を向けた。
「あんたが言っていた『世界のバグ』。そして、『ワールドエンド』という言葉。ワシは、こう推測しておる。それは、今の堕落した管理者たちが、自分たちの手に負えんようになった、この失敗作の箱庭を……自分たちの無能さが露見する前に、証拠隠滅のために、まとめて廃棄(フォーマット)するための、非道なプログラムなのではないか、と」

その仮説は、ルナの一族に伝わる「最終安全装置」という解釈よりも、遥かに悪意に満ちていた。だが、勇者たちの体たらくや、王国の腐敗を見てきた俺にとっては、むしろ、そちらの方が、しっくりときた。
無能な管理者が、プロジェクトの失敗を隠蔽するために、サーバーごとデータを消去する。それは、俺がいた世界でも、時折耳にする話だった。

「……真実を確かめる方法はないのか?」
俺の問いに、ギルバートは、長い髭を扱きながら、ううむ、と唸った。
「一つだけ、言い伝えが残っておる。遥か昔、初代管理者が、世界のシステムを調整(デバッグ)するために使っていたとされる、『神々の観測所』という古代遺跡が、大陸のどこかに眠っておると」
「神々の観測所……」
「ああ。そこには、あるいは、管理者たちが残した、世界の運営記録――あんたたちの言葉で言うなら、『開発者ログ』のようなものが、残されておるやもしれん。それを見れば、ワールドエンドの本当の目的も、今の神々の正体も、全てが明らかになるじゃろう」

開発者ログ。
それこそが、俺たちが今、最も必要としている情報だった。
「その観測所の場所は、分かるのか?」
「残念ながら、正確な場所までは……。じゃが、この国に現存する最も古い地図に、それらしき場所を示す、暗号のようなものが記されておる。解読できるかどうかは、あんたの『神眼』次第じゃ」
ギルバートは、記録庫の奥から、羊皮紙ですらない、何かの皮をなめして作られた、恐ろしく古い地図を持ってきた。
俺は、その地図に【システム解析】を発動させた。
無数の、意味をなさない記号の羅列。だが、その中に、特定のパターンで配置された、微弱な魔力の痕跡を発見した。
「……これは、座標データだ。暗号化されているが、解読できる」
俺はMPを集中させ、その古代の暗号アルゴリズムを、脳内で解き明かしていく。
やがて、俺の頭の中に、一つの明確な場所が、地図上の点として浮かび上がった。
「……見つけた。大陸の南端、『嘆きの砂漠』の、その先に……!」

俺たちは、ついに、次なる目的地を特定した。
それは、世界の根源的な謎、神々の秘密に、直接触れることができる場所。
俺は、ギルバートに深く礼を言った。彼は、ただの強力な支援者ではない。俺たちの進むべき道を照らしてくれた、偉大な導き手だ。
「礼には及ばん。むしろ、ワシの方こそ、あんたに世界の未来を託したい。……行け、カイト。そして、堕落した神々に、一泡吹かせてやれ」
ギルバートは、悪戯っぽく笑って、俺の背中を力強く叩いた。

俺たちのドワーフの国での日々は、終わろうとしていた。
だが、それは、新たな、そして、より危険な旅の始まりを意味していた。
俺は、自分が、この世界の「システム」と「管理者」という、巨大な構図の中で、どのような役割を果たすべきなのかを、改めて自覚していた。
俺は、ただの追放者ではない。
俺は、この世界の理(ルール)を書き換える、唯一のイレギュラーなのだから。
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