無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第29話 古代遺跡にて「神々の開発者ログ」を発見

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ドワーフの国、ドゥリンヘイムでの最後の夜。
俺たちは、ギルバートの工房で、旅立ちのための最終準備を進めていた。
「カイト、これをいい機会だ、持っていけ」
ギルバートは、ぶっきらぼうな口調で、しかしその目には温かい光を宿して、俺に一つの腕輪を手渡した。それは、黒曜石のように滑らかな金属で作られ、表面には微細なルーン文字が刻まれている。
「これは『空間収納の腕輪(アイテムボックス)』だ。見た目以上の、大容量の荷物を収納できる。あんたたちの長旅には、必須の代物だろう」
「こんな貴重なものを……いいのか?」
「弟子に餞別をやるのは、師匠の役目じゃ。それに、あんたから教わった『デバッグ』の技術のおかげで、ワシはもう、こんなもんはいくらでも作れるようになったんでな」
彼は、悪戯っぽく笑った。この数週間で、彼は俺のスキルからヒントを得て、自らのエンチャント技術を革新させていた。もはや、彼にとって伝説級のマジックアイテムの製作すら、朝飯前のようだった。
フレアとルナも、それぞれ強力な加護が付与されたマントや、万能薬の入ったポーチを受け取っていた。俺たちは、この国に来た時とは比べ物にならないほど、装備も、そして覚悟も、充実していた。

「……ギルバートさん。本当に、世話になった」
「ふん、水臭いことを言うな。ワシの方こそ、あんたに、もう一度槌を振るう喜びを思い出させてもらったわい」
彼は、俺の肩を力強く叩いた。
「行け、カイト。そして、この世界の、本当の姿を見届けてこい。もし、あんたが神々と戦うというのなら、このドゥリンヘイムは、いつでもあんたたちの武器庫になってやる。覚えておけ」
その言葉は、何よりも心強い約束だった。
俺たちは、偉大なる伝説の職人に深々と頭を下げ、夜明けと共に、ドゥリンヘイムを後にした。

次なる目的地は、大陸南端に広がる「嘆きの砂漠」。その先にあるという「神々の観測所」。
俺たちは、ギルバートが用意してくれた、砂漠の過酷な環境にも耐えうる特殊な改造が施された馬車に乗り、南へと進路を取った。

緑豊かな大地は次第に痩せ細り、やがて、地平線の果てまで続く、広大な砂の世界が俺たちの前に広がった。
「うわー……。見渡す限り、砂、砂、砂だな。水、大丈夫か?」
フレアが、早くも喉の渇きを訴えるように言った。
「大丈夫です。ギルバート様からいただいた『無限の水筒』がありますから」
ルナが取り出した水筒は、一日に一定量の清水を自動で生成する、とんでもないマジックアイテムだった。ドワーフの技術力、恐るべし。
だが、この砂漠の本当の脅威は、渇きや暑さだけではなかった。

旅を始めて数日目の夜。
月明かりが砂丘を銀色に照らす中、俺は馬車の見張り台で、不寝番をしていた。
突如、足元の砂が、巨大な生き物のように、ごぽり、と盛り上がった。
「全員、起きろ! 何か来るぞ!」
俺の警告と同時に、砂の中から、バスほどもある巨大な口が、牙を剥き出しにして飛び出してきた!
「サンドワーム!?」
フレアが、寝ぼけ眼をこすりながら叫ぶ。
巨大なミミズのような身体を持つ、砂漠の主。その巨体から繰り出される突進は、馬車ごと俺たちを飲み込もうとする。
「ルナ、馬車に防御結界を! フレア、奴の気を引け! こいつの弱点を探す!」
俺は即座に指示を出し、サンドワームに【システム解析】をかけた。

【OBJECT_NAME: Giant_Sandworm】
【CLASS: Desert_Monster】
【LEVEL: 45】
【SPECIAL_ABILITY】
- [Sand_Camouflage]: 砂中に潜伏し、気配を完全に遮断する。
- [Vibration_Sense]: 地面の振動を感知し、獲物の位置を正確に特定する。
【WEAK_POINT_ANALYSIS】
- 身体の側面にある、青く光る『音叉器官』。これが振動を感知するセンサーであり、同時に最大の弱点。破壊されると、方向感覚を失い、暴走状態に陥る。

「見つけた! フレア、奴の身体の横っ腹だ! 青く光るヒレみたいな器官があるはずだ! そこを狙え!」
「おうよ!」
フレアは、サンドワームの巨体を避けるように、砂丘を駆け上がる。サンドワームは、地中と地上を自在に行き来し、予測不能な場所から攻撃を仕掛けてくる。
だが、俺の目には、奴が次にどこから出現するかが、地面の微弱な魔力の流れとして、見えていた。
「フレア、右後方、10メートル!」
「そこか!」
俺の指示と同時に、砂が盛り上がり、サンドワームが姿を現す。フレアは、その出現地点に先回りし、神速の剣を、解析で示された『音叉器官』に、寸分の狂いもなく突き立てた。

「ギシャアアアアアアアアッ!」

サンドワームが、これまでとは比較にならない、甲高い悲鳴を上げた。弱点を破壊されたそれは、もはや獲物を狙うこともできず、ただ苦しみに身をよじらせながら、暴れ回るだけだ。
「ルナ、とどめだ! 最大火力で、奴の頭を吹き飛ばせ!」
「はい、マスター! 『偉大なる風の王よ、その息吹にて、不浄なるものを薙ぎ払え! テンペスト!』」
ルナの詠唱に応え、巨大な竜巻が発生し、サンドワームを飲み込んだ。砂と風が渦巻く嵐の中、巨体はなすすべもなく切り刻まれ、やがて、光の粒子となって消え去った。

過酷な砂漠の旅を乗り越え、地図に示された地点にたどり着いた時、俺たちは、その光景に言葉を失った。
砂漠の真ん中に、ぽつんと、巨大な水晶の塔が、天を突くようにそびえ立っていたのだ。
それは、どんな石材よりも硬く、どんな金属よりも滑らかに見えた。塔の表面には、青白い光の線が、まるで電子回路のように、複雑な模様を描きながら明滅を繰り返している。
「……これが、『神々の観測所』……」
それは、この世界の文明レベルからは、明らかに逸脱した、SFの世界から飛び出してきたかのような、異質な建造物だった。

塔の入り口には、扉らしきものはなかった。ただ、滑らかな壁があるだけだ。
俺が壁に手を触れると、壁面が、水面のように波打ち、俺の魔力パターンをスキャンするような光が走った。

『――来訪者を確認。生体情報、照合中……。エラー。登録されていないエンティティです。侵入者は排除します』

無機質な、合成音声のような声が、直接、俺の頭の中に響き渡った。
直後、塔の壁から、レーザーのような光線が数条、俺たちに向かって放たれた!
「危ない!」
フレアとルナが、咄嗟に俺をかばうように前に出る。だが、俺は冷静だった。
「デバッグモード、起動! この防衛システムの制御プログラムに、強制アクセス!」
俺は、この遺跡全体のセキュリティシステムに、ハッキングを試みた。
『管理者権限の認証を要求します』
「認証キーは不明。だが、お前たちのシステムの脆弱性は、見つけた」
俺は、セキュリティプログラムの、ほんの僅かなコードの隙間――例外処理の甘さ――を突き、自分自身を「デバッグ作業を行うための、ゲスト管理者」として、強引に登録させた。

『……ゲスト管理者『Kaito_Soma』を認証。防衛システム、スタンバイモードに移行します』

合成音声の声のトーンが、少しだけ穏やかになった。レーザーは消え、俺たちの目の前の壁が、静かに横にスライドして、内部への入り口を開いた。
「……カイト、お前、今、何やったんだ……?」
フレアが、呆然と俺に尋ねる。
「ちょっと、自己紹介をしてきただけさ」
俺たちは、息を呑みながら、遺跡の内部へと足を踏み入れた。

中は、どこまでも続く、光の回廊だった。壁も、床も、天井も、全てが淡く発光する未知の素材でできている。
道中、物理法則を無視したパズルのようなトラップや、ホログラムのように実体のないガーディアンが何度も現れたが、俺は、この遺跡のシステムそのものに介入し、それらを全て無力化していった。

そして、塔の最上階。
俺たちは、ついに、この遺跡の心臓部である、巨大な制御室にたどり着いた。
部屋の中央には、宙に浮かぶ巨大な水晶球があり、その中には、俺たちのいる世界『エルドラ』が、ミニチュアのように映し出されている。周囲には、無数の光るパネルが、キーボードのように配置されていた。
ここが、初代管理者が、世界の全てを観測し、調整していた場所。

「……見つけた」
俺は、中央の水晶球の前に設置された、メインコンソールのような装置に、吸い寄せられるように近づいた。その表面に、手をかざす。
『ゲスト管理者、Kaito_Soma。アクセスするログファイルを選択してください』
無数のファイル名が、リストとなって表示される。
「ファイル名、『ワールドエンド・プロトコル』で検索」
俺が命じると、リストが一つのファイルに絞り込まれた。
俺は、ゴクリと喉を鳴らし、そのファイルを開いた。

そこに表示されたのは、初代管理者自身が、自らの声で記録したと思われる、音声付きのログデータだった。
厳かで、しかし、どこか疲労と悲しみを滲ませた声が、静かな制御室に響き渡る。

『――ログ記録、開始。私は、この世界『エルドラ』の初代管理者。創造主の命を受け、この箱庭の安定稼働を任された者である』
『――世界の創造は、順調に進んだ。生命は芽吹き、文明は生まれ、魂は輝き始めた。だが、私は気づいてしまった。この世界のシステムには、創造主すら予見し得なかった、根本的かつ、致命的な『設計上の欠陥』が存在することに……』

初代管理者の声が、そこで、一瞬、途切れた。まるで、何かを躊躇うかのように。
そして、彼は、衝撃的な事実を告げた。

『――この世界は、不完全なのだ。生命が生まれ、進化し、魂が成長すればするほど、その活動エネルギーが、世界の基盤システムそのものに、予測不能な負荷をかけ、微細な『バグ』を発生させてしまう。それは、生命の輝きそのものが、世界を蝕んでいくという、絶望的なパラドックスだった……』

俺は、その言葉に、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
世界のバグの原因は、神々の怠慢や、悪意ではなかった。
俺たち、生命そのものが、バグの原因だったというのか。

『――私は、そのバグを修正するために、長年、尽力した。だが、生命を殺すことなく、この欠陥を根本的に解決する方法は、見つからなかった。そして、私は、最悪の事態を想定し、一つのプログラムを組み込むことを決断した。それが、『ワールドエンド・プロトコル』だ』
『――これは、決して、世界を破壊するためのものではない。バグによって、魂そのものが汚染され、修復不可能な『エラー存在』へと変質してしまう前に……その魂の尊厳を守るため、全ての生命活動を一時的に停止させ、世界を、生命が生まれる前の、クリーンな状態へと『初期化』するための、苦渋の選択……最後の、救済措置なのだ』

初代管理者の、悲痛な声が響く。
そして、ログは、最後の、そして最も恐ろしい真実を、俺たちに突きつけた。

『――ワールドエンドの発動条件は、一つ。世界のバグの総量が、許容量の閾値を超えた時。そして、私の計算によれば、その『時』は……』

『――もう、目前にまで迫っている』
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