ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第十三話 私の力は、呪いなの?

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カイザーから告げられた真実は、重い鉛のように私の心に沈殿した。
夜、一人でベッドに入っても、なかなか寝付けない。瞼を閉じれば、教皇の慈悲深い笑みが浮かんでくる。あの笑顔の裏で、私を「処理」する計画が進んでいたのかと思うと、体の芯から凍えるような寒気がした。
私の人生は、何だったのだろう。
聖女として生きてきた十八年間は、全て偽りだったのか。
私が救ったと信じていた人々も、結局は私を利用しようとしていた権力者たちに踊らされていたに過ぎないのか。
考えれば考えるほど、思考は暗い沼の底へと沈んでいく。
私のこの力があるせいで。
私が、こんな異常な力を持って生まれてきたせいで。
全ての悲劇は、そこから始まっているのではないか。
この力がなければ、私は普通の女の子として、もっと穏やかな人生を歩めていたかもしれない。家族に愛され、友と笑い合い、ささやかな恋をする。そんな、ありふれた幸せを。
私の力は、人を癒やす祝福なんかじゃない。
人々を狂わせ、争いを引き起こす、呪いそのものだ。

翌朝、私はほとんど眠れないまま、重い体を引きずってダイニングへ向かった。
テーブルに着くと、カイザーが私の顔をじっと見つめてきた。その視線は、私の心の奥まで見透かしているようだった。
「……眠れなかったようだな」
「……すみません」
私は力なく謝罪した。彼の前では、何も隠し通すことなどできそうにない。
朝食のパンは、砂を噛むように味気なかった。無理やり喉の奥へと流し込む。
食事が終わっても、私は椅子から立ち上がれずにいた。カイザーも何も言わず、ただ静かに向かいに座っている。その沈黙が、今の私にはありがたかった。
やがて、私はか細い声で、胸の中に渦巻いていた疑問を口にした。
「……カイザー様」
「なんだ」
「私のこの力は……やはり、ない方が良かったのでしょうか」
その言葉に、カイザーの黒曜石の瞳が、わずかに揺れた気がした。
「この力があるせいで、私は教会に利用され……多くの人々の欲望を掻き立ててしまった。私が……争いの種になってしまった」
声が、震える。
「だったら、いっそ、この力なんて……消えてなくなってしまえばいいのに」
それは、心の底からの叫びだった。
この呪われた力さえなければ。そうすれば、もう誰も私を利用しようとしない。カイザーも、私を守るという重荷から解放される。
それが、一番良い解決策なのではないか。
私の悲痛な言葉を聞いても、カイザーは表情を変えなかった。彼は静かに立ち上がると、私の隣に来て、その場に跪いた。私の視線の高さに、彼の顔が来る。
「アリア」
彼は私の両手を取り、その大きな手で包み込んだ。
「お前のその考えは、間違っている」
きっぱりとした、強い口調だった。
「力が、罪なのではない。力が、人を狂わせるのでもない。力を悪用しようとする、人間の弱い心が罪なのだ。その責任を、お前が負う必要はない」
「でも……!」
「包丁は、料理を作るための便利な道具だ。だが、使い方を誤れば、人を傷つける凶器にもなる。だからといって、包丁そのものが悪だと、お前は言うのか?」
彼の例えは、とても分かりやすかった。
「お前の力も、それと同じだ。それは、それ自体に善悪はない、ただの純粋なエネルギーだ。使い方次第で、祝福にもなれば、呪いにもなる」
カイザーは、包み込んだ私の手に、さらに力を込めた。
「教会は、お前の力を『呪い』として利用しようとした。だが、お前自身は、その力を『祝福』として使ってきたはずだ。魔王との戦いで、多くの人々を癒やし、仲間を守ってきた。その事実は、誰にも否定できない」
彼の言葉が、暗闇に沈んでいた私の心に、一条の光を差し込む。
そうだ。私は、この力で、たくさんの人を救ってきた。
勇者レオンが深手を負った時も、魔物の毒に倒れた村人たちを癒やした時も。私の力は、確かに人々の希望になっていたはずだ。
それは、偽りではなかった。
「力は、使い方次第だ。アリア」
カイザーは、私の瞳を真っ直ぐに見つめて、言った。
「お前は、自分の力が呪いだと嘆くのか? それとも、今一度、その力を祝福として使う道を選ぶのか? それは、他の誰でもない、お前自身が決めることだ」
自分で、決める。
その言葉が、私の胸に重く響いた。
今まで、私は自分の人生を自分で決めたことなど一度もなかった。聖女として生きることも、アルフォンス王子の婚約者になることも、全て誰かに決められた道だった。
でも、彼は言う。お前が決めろ、と。
「私は……」
私は、どうしたいのだろう。
この力を捨てて、全てから逃げ出したいのか。
それとも。
脳裏に、カイザーの姿が浮かんだ。
私を守るために、たった一人で世界と敵対しようとしている、この優しく、不器用な竜の姿が。
もし、私に力があれば。
この力を、正しく使う術を知っていれば。
ただ守られるだけじゃなく、私も、彼のために何かできるかもしれない。彼と共に、戦えるかもしれない。
「私は……この力を、正しく使えるようになりたいです」
気づけば、言葉が口をついて出ていた。
それは、誰に言われたわけでもない、私自身の、初めての「意思」だった。
「もう、誰かに利用されるのは嫌です。自分の意思で、この力を……カイザー様のような、大切な人を守るために、使いたいです」
私の言葉を聞いて、カイザーの口元に、初めて見るような、深く、優しい笑みが浮かんだ。
「……それでこそ、お前だ」
彼はそう言うと、私の手の甲に、そっと唇を寄せた。騎士が忠誠を誓う、あの時のように。
「ならば、俺が教えよう。お前が、その力を真に使いこなすための術を」
彼の黒曜石の瞳に、強い決意の光が宿る。
絶望の淵にいた私に、新しい道が示された瞬間だった。
呪いだと嘆いていたこの力は、私の選択次第で、未来を切り開くための希望に変わるのかもしれない。
初めて、私は自分の力と、そして自分の人生と、本当の意味で向き合おうとしていた。
この過保護で、賢い竜の導きと共に。
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