ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第四十四話 竜と勇者の一騎打ち

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テラスでのカイザーとレオンの衝突。
それはこれから始まる天変地異の序曲に過ぎなかった。
「―――ここではない」
カイザーがレオンの聖剣を弾き返しながら低く言った。
「お前ほどの相手と本気でやり合えば、この城がもたん」
「望むところだ」
レオンも即座に応じる。
次の瞬間、二人の姿がテラスから同時に掻き消えた。
私がはっとして空を見上げると、はるか上空、雲の遥か上で二つの光点が激しくぶつかり合っているのが見えた。
一つは聖剣が放つ白銀の光。
もう一つはカイザーが放つ黒雷の光。
二つの光は何度も何度も衝突を繰り返す。そのたびに空が轟音を立てて震え、稲妻が走り、大気がビリビリと悲鳴を上げた。
まるで神々の戦い。
地上に生きる者たちが決して目にすることのない神話の世界。
レオンは人間でありながら、その領域に足を踏み入れていた。聖剣に選ばれた勇者という存在は、それほどまでに人の理を超越しているのだ。
彼は空中をまるで大地を駆けるかのように自在に駆け巡る。聖剣から放たれる斬撃は音速を超え、空間そのものを切り裂いてカイザーに襲いかかった。
だがカイザーは、その全ての攻撃を完璧に見切り、捌き、あるいはいなしていく。
彼はまだ竜の姿にはなっていなかった。人型のまま黒い衣をはためかせ、まるで優雅に舞うかのような動きでレオンの猛攻を凌いでいる。
その戦いぶりは、明らかにカイザーに余裕があることを示していた。
数千年の時を生きてきた竜王。
その圧倒的な戦闘経験と磨き抜かれた技量は、勇者というたかだか数十年の才能を遥かに凌駕していたのだ。
「くっ……!」
レオンの焦りを滲ませた声が、風に乗って聞こえてくる。
彼の剣は速い。そして重い。一撃一撃が山をも砕くほどの絶大な破壊力を秘めている。
だが、当たらない。
カイザーの動きはまるで未来を予知しているかのようだった。レオンが剣を振るうそのコンマ数秒前に、既にその場から最適解の動きで回避している。
「なぜだ……!なぜ私の剣が読める!」
「経験の差だ、勇者よ」
カイザーの声はどこまでも冷静だった。
「お前が生涯で振るう剣の数を、俺は一日で振るう。お前が生涯で戦う敵の数を、俺は瞬きする間に屠ってきた。それがお前と俺とを隔てる絶対的な壁だ」
挑発。
いや、それはただの揺るぎない事実だった。
その事実にレオンの勇者としてのプライドが燃え上がった。
「ならば―――!」
彼の体から金色のオーラが炎のように噴き出した。
「この一撃に全てを懸ける!」
レオンは上空高く舞い上がると、聖剣を天に掲げた。
剣の切っ先に空に浮かぶ雲が吸い寄せられるように集まってくる。大気中のマナが渦を巻き、聖剣へと凝縮されていく。
それは彼が魔王にとどめを刺したという究極奥義。
「天よ、光よ、我が剣に集え! 邪を滅する聖なる裁きを!」
聖剣が太陽そのものと見紛うほどの凄まじい輝きを放ち始めた。
世界から音が消える。
ただ、その絶対的な光だけが全てを支配する。
「―――グランドクロス!」
レオンの絶叫と共に、十字に煌めく巨大な光の斬撃がカイザーめがけて放たれた。
それはもはや斬撃というよりも、光そのものの洪水。
触れるもの全てを分子レベルで分解し、浄化し尽くす究極の破邪魔法剣。
そのあまりにも神々しい一撃を前にして。
カイザーは初めてその表情をわずかに変えた。
彼の口元に浮かんだのは、恐怖でも焦りでもない。
ただ純粋な戦士としての歓喜の笑みだった。
「―――良い一撃だ」
彼はそう呟くと、初めてその右手を前に突き出した。
黒い雷がその手に集束していく。
だが、それは今までのようなただの雷ではなかった。
雷は凝縮され、圧縮され、やがて一本の漆黒の槍の形へと変わっていく。
それは光さえも飲み込み、捻じ曲げる絶対的な闇の具現。
「―――終焉の一閃」
カイザーの静かな声。
そして、二つの究極が激突した。
白銀の十字架と漆黒の槍。
光と闇。
聖と魔。
二つの相反する絶対的な力が空の中央でぶつかり合った、その瞬間。
世界が白く染まった。
音も色も匂いも、全てがその白光の中に飲み込まれていく。
ゴオオオオオオオオオッ!!!
遅れて天と地を揺るがす凄まじい轟音が鳴り響いた。
衝撃波が嵐となって天空城を襲う。
結界がみしみしと悲鳴を上げた。
私はテラスの床に必死にしがみつきながら、その世界の終わりのような光景をただ見つめていた。
涙で視界が滲む。
カイザー。
レオン。
どちらも死なないで。
私の声にならない祈りは、爆音の中に虚しく掻き消えていった。
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