ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第四十五話 止めて、私のために争わないで!

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世界を白く染め上げた光と、全てを揺るがす轟音。
それが収まった時、空には、信じられない光景が広がっていた。
カイザーとレオンが激突した場所を中心に、空間そのものが、ひび割れたガラスのように、歪んでいた。空には、ぽっかりと、巨大な穴が空いている。そこからは、星々がきらめく、夜空のような異空間が、不気味に覗いていた。
二人の究極の一撃は、この世界の理そのものを、一時的に破壊してしまったのだ。
その、世界の裂け目の下で、二人は、対峙していた。
カイザーは、黒い衣をわずかにはためかせ、平然と宙に浮いている。その表情に、疲労の色はない。
一方、レオンは、片膝をつき、聖剣を杖のようにして、荒い呼吸を繰り返していた。その顔は蒼白で、全身から、おびただしい量の魔力を消耗したことが、見て取れた。
勝敗は、明らかだった。
「……見事な、一撃だった」
カイザーが、静かに、勝者を称えるように言った。
「もし、俺が、ただの古竜であったなら、今の一撃で、塵と化していただろう」
「……なぜだ」
レオンが、悔しさを滲ませた声で、呻くように言った。
「なぜ、私のグランドクロスが……通じない……!」
「言ったはずだ、勇者よ。経験の差だと」
カイザーは、ゆっくりと、レオンに向かって、降下していく。
「お前の一撃は、確かに、山を砕き、海を割るほどの、凄まじい力を持っていた。だが、その力の流れは、あまりにも、直線的で、正直すぎる」
「……なに?」
「俺は、お前が剣を振りかぶった瞬間、その一撃の、軌道、威力、そして、着弾点、その全てを、見切っていた。お前の全力の一撃を、俺は、最小限の力で、その威力を相殺し、受け流したに過ぎん」
それは、あまりにも、残酷な真実だった。
レオンが、命を懸けて放った究極の一撃。
それすらも、カイザーにとっては、読んでいた筋書き通りの、一幕に過ぎなかったのだ。
次元が、違う。
生物としての格も、戦士としての格も、あまりにも、違いすぎた。
「……終わりだ、勇者レオン」
カイザーは、レオンの目の前に、音もなく着地した。
その手には、再び、黒い雷が、静かに、しかし、確実に、その命を刈り取るための輝きを宿して、揺らめいている。
「アリアを、諦めろ。そして、二度と、この地に足を踏み入れるな。さすれば、命だけは、助けてやろう」
それは、勝者から、敗者への、最後の、そして、最大の、慈悲だった。
レオンは、唇を、血が滲むほど、強く噛み締めた。
その青い瞳に、初めて、絶望の色が、浮かぶ。
友を、救えない。
自分の正義が、届かない。
その、どうしようもない無力感が、彼の、勇者としての誇りを、粉々に打ち砕いていく。
だが。
それでも。
彼は、諦めなかった。
「……断る」
彼は、震える足で、ゆっくりと、立ち上がった。
その体は、もう、ボロボロのはずだった。けれど、その瞳だけは、まだ、死んでいなかった。
「私が……私が諦めれば、一体、誰が、アリアを救うというのだ……!」
彼は、最後の力を振り絞り、聖剣を、再び、構え直す。
その、あまりにも、愚かで、そして、あまりにも、気高い姿。
カイザーの目に、初めて、苛立ちの色が浮かんだ。
「……まだ、やるというのか。死にたいらしいな」
「ア-リアを、救えるのなら……この命……惜しくはない……!」
二人の間に、再び、一触即発の、空気が、張り詰める。
もう、だめだ。
このままでは、レオンが、本当に、殺されてしまう。
私の頭の中で、何かが、ぷつりと、切れた。
「やめてえええええええええっ!」
私は、気づけば、テラスから、飛び出していた。
聖なる力を、足の裏に集中させ、空を、駆ける。
そして、今にも、再び激突しようとしている、二人の、間に、割って入ったのだ。
両手を、大きく広げて。
まるで、十字架のように。
「―――っ!?」
「アリア!?」
二人の、驚愕に満ちた声が、同時に響く。
カイザーの、黒い雷。
レオンの、聖なる光。
二つの、絶対的な力が、私の、か弱い体の、すぐ目の前で、ぴたりと、止まった。
私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、二人を、交互に見つめながら、絶叫した。
「もう、やめて……! お願いだから……!」
私の、魂からの、叫び。
「止めて……! 私のために、争わないで……!」
その、悲痛な声は、二人の、高まりきった闘争心に、冷や水を浴びせるには、十分すぎた。
カイザーの、雷が消える。
レオンの、聖剣の光が、収まる。
空に、再び、静寂が戻ってきた。
後に残されたのは、ボロボロになった勇者と、哀しみに満ちた顔の竜。
そして、その間で、ただ、泣きじゃくることしかできない、一人の、聖女だけだった。
私の、たった一つの、身勝手な願い。
それが、ようやく、二人の、狂ってしまった歯車を、ほんの少しだけ、止めることができた。
そんな気がした。
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