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第五十話 想いは一つに
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カイザーの腕の中は、世界で一番、温かい場所だった。
彼の力強い鼓動が、私の背中を通して、直接、心に響いてくる。愛している、と言ってくれた彼の声が、まだ、耳の奥で、甘く反響している。
夢のようだった。
いや、夢だとしても、こんなに幸せな夢が、あるだろうか。
私は、彼の胸に顔をうずめたまま、幸せを、ただ、噛み締めていた。
やがて、カイザーは、ゆっくりと、私の体を、離した。
けれど、その手は、私の肩を、優しく掴んだままだ。
彼の、黄金の瞳が、熱を帯びて、私を見つめている。その視線に、射抜かれて、私は、身動き一つ、できなくなる。
「アリア」
彼が、私の名前を、囁くように、呼ぶ。
「はい……」
答える声は、情けないほど、上ずっていた。
彼は、何も言わなかった。
ただ、その整った顔を、ゆっくりと、私に、近づけてくる。
どきん、と。
心臓が、大きく、跳ねた。
彼の、美しい顔が、目の前に迫ってくる。吐息がかかるほどの、至近距離。
私は、これから、何が起ころうとしているのかを、理解した。
そして、その運命を、受け入れるために、そっと、目を、閉じた。
唇に、柔らかく、そして、少しだけ、ひんやりとした感触。
それは、初めての、口づけだった。
触れただけの、ほんの、一瞬。
けれど、その一瞬に、永遠が、込められているようだった。
彼の、数千年の想い。
私の、数ヶ月の想い。
二つの想いが、ようやく、一つに、溶け合っていく。
唇が、離れる。
目を開けると、そこには、少しだけ、照れたように、頬を染めている、カイザーがいた。
その、あまりにも、人間らしい表情。
愛おしくて、たまらなくて。
私は、気づけば、微笑んでいた。
涙で、ぐしゃぐしゃの顔のまま、最高の、笑顔で。
「……ふふ」
私の笑みを見て、彼も、つられるように、その口元を、緩めた。
その、穏やかで、幸せに満ちた、二人の世界。
それを、少し離れた場所から、静かに、見つめている、一人の男がいた。
勇者、レオン。
彼は、いつの間にか、立ち上がっていた。
その顔に、もはや、苦悩や、混乱の色はなかった。
代わりに浮かんでいたのは、どこまでも、澄み切った、穏やかな表情。
まるで、親友の、幸せな結婚式を、見守るような、そんな、温かい眼差しだった。
彼は、全てを、理解したのだ。
そして、受け入れた。
アリアは、囚われているのではない。
彼女は、ここで、自分の居場所を見つけ、そして、真実の愛を、手に入れたのだ、と。
自分の「正義」は、間違っていたのかもしれない。
いや、間違っていたのではない。ただ、この、二人の絆の前では、あまりにも、ちっぽけなものだったのだ。
彼は、そっと、二人に背を向けた。
もう、ここに、自分の役目はない。
これ以上、この神聖な空間に、留まるべきではない。
彼は、音もなく、その場を、立ち去ろうとした。
「―――待て」
その背中に、カイザーの、静かな声が、かけられた。
レオンは、足を止め、ゆっくりと、振り返る。
カイザーは、私の肩を抱いたまま、レオンに向かって、言った。
「……礼を、言う」
「……え?」
レオンが、意外な言葉に、目を見開く。
「お前が、いなければ、俺は、この想いを、アリアに、告げることは、できなかったかもしれん。お前の、その、真っ直ぐすぎる正義が、俺の、臆病な心を、打ち破ってくれた」
それは、竜王からの、最大限の、賛辞だった。
レオンは、一瞬、きょとんとした顔をしたが、やがて、全てを悟ったように、ふっと、柔らかく、笑った。
「……貸し、一つだな。竜王」
「ああ。いずれ、必ず、返す」
二人の間に、種族を超えた、戦士としての、友情に似た感情が、芽生えた瞬間だった。
「アリア」
レオンは、私に向かって、優しく、語りかけた。
「……幸せに、なれよ」
その、短い言葉。
けれど、その一言に、彼の、友人としての、全ての想いが、込められていた。
「……ありがとう、レオン」
私は、涙声で、そう答えるのが、精一杯だった。
レオンは、満足そうに、一度、頷くと、今度こそ、本当に、その場を、去っていった。
彼の乗ってきたであろう、ワイバーンも、もういない。彼は、自らの足で、この、雲の上の世界から、帰っていくのだろう。
その背中は、少しだけ、寂しそうだったけれど、どこまでも、誇り高かった。
嵐は、去った。
後に残されたのは、どこまでも、穏やかで、優しい時間。
私は、カイザーの胸に、もう一度、そっと、寄り添った。
「……これから、どうなるのかな」
ぽつりと、呟く。
「さあな」
カイザーが、私の髪を撫でながら、答える。
「だが、一つだけ、確かなことがある」
「……なあに?」
「俺は、もう二度と、お前を、離さない」
その、絶対的な、誓いの言葉。
私は、幸せに、目を細めた。
想いは、一つに。
竜と聖女の、長い、長い物語は、まだ、始まったばかり。
どんな困難が待ち受けていようと、この手と手が、繋がれている限り。
私たちは、きっと、乗り越えていける。
そう、心の底から、信じることができた。
空には、いつの間にか、美しい、虹が、かかっていた。
彼の力強い鼓動が、私の背中を通して、直接、心に響いてくる。愛している、と言ってくれた彼の声が、まだ、耳の奥で、甘く反響している。
夢のようだった。
いや、夢だとしても、こんなに幸せな夢が、あるだろうか。
私は、彼の胸に顔をうずめたまま、幸せを、ただ、噛み締めていた。
やがて、カイザーは、ゆっくりと、私の体を、離した。
けれど、その手は、私の肩を、優しく掴んだままだ。
彼の、黄金の瞳が、熱を帯びて、私を見つめている。その視線に、射抜かれて、私は、身動き一つ、できなくなる。
「アリア」
彼が、私の名前を、囁くように、呼ぶ。
「はい……」
答える声は、情けないほど、上ずっていた。
彼は、何も言わなかった。
ただ、その整った顔を、ゆっくりと、私に、近づけてくる。
どきん、と。
心臓が、大きく、跳ねた。
彼の、美しい顔が、目の前に迫ってくる。吐息がかかるほどの、至近距離。
私は、これから、何が起ころうとしているのかを、理解した。
そして、その運命を、受け入れるために、そっと、目を、閉じた。
唇に、柔らかく、そして、少しだけ、ひんやりとした感触。
それは、初めての、口づけだった。
触れただけの、ほんの、一瞬。
けれど、その一瞬に、永遠が、込められているようだった。
彼の、数千年の想い。
私の、数ヶ月の想い。
二つの想いが、ようやく、一つに、溶け合っていく。
唇が、離れる。
目を開けると、そこには、少しだけ、照れたように、頬を染めている、カイザーがいた。
その、あまりにも、人間らしい表情。
愛おしくて、たまらなくて。
私は、気づけば、微笑んでいた。
涙で、ぐしゃぐしゃの顔のまま、最高の、笑顔で。
「……ふふ」
私の笑みを見て、彼も、つられるように、その口元を、緩めた。
その、穏やかで、幸せに満ちた、二人の世界。
それを、少し離れた場所から、静かに、見つめている、一人の男がいた。
勇者、レオン。
彼は、いつの間にか、立ち上がっていた。
その顔に、もはや、苦悩や、混乱の色はなかった。
代わりに浮かんでいたのは、どこまでも、澄み切った、穏やかな表情。
まるで、親友の、幸せな結婚式を、見守るような、そんな、温かい眼差しだった。
彼は、全てを、理解したのだ。
そして、受け入れた。
アリアは、囚われているのではない。
彼女は、ここで、自分の居場所を見つけ、そして、真実の愛を、手に入れたのだ、と。
自分の「正義」は、間違っていたのかもしれない。
いや、間違っていたのではない。ただ、この、二人の絆の前では、あまりにも、ちっぽけなものだったのだ。
彼は、そっと、二人に背を向けた。
もう、ここに、自分の役目はない。
これ以上、この神聖な空間に、留まるべきではない。
彼は、音もなく、その場を、立ち去ろうとした。
「―――待て」
その背中に、カイザーの、静かな声が、かけられた。
レオンは、足を止め、ゆっくりと、振り返る。
カイザーは、私の肩を抱いたまま、レオンに向かって、言った。
「……礼を、言う」
「……え?」
レオンが、意外な言葉に、目を見開く。
「お前が、いなければ、俺は、この想いを、アリアに、告げることは、できなかったかもしれん。お前の、その、真っ直ぐすぎる正義が、俺の、臆病な心を、打ち破ってくれた」
それは、竜王からの、最大限の、賛辞だった。
レオンは、一瞬、きょとんとした顔をしたが、やがて、全てを悟ったように、ふっと、柔らかく、笑った。
「……貸し、一つだな。竜王」
「ああ。いずれ、必ず、返す」
二人の間に、種族を超えた、戦士としての、友情に似た感情が、芽生えた瞬間だった。
「アリア」
レオンは、私に向かって、優しく、語りかけた。
「……幸せに、なれよ」
その、短い言葉。
けれど、その一言に、彼の、友人としての、全ての想いが、込められていた。
「……ありがとう、レオン」
私は、涙声で、そう答えるのが、精一杯だった。
レオンは、満足そうに、一度、頷くと、今度こそ、本当に、その場を、去っていった。
彼の乗ってきたであろう、ワイバーンも、もういない。彼は、自らの足で、この、雲の上の世界から、帰っていくのだろう。
その背中は、少しだけ、寂しそうだったけれど、どこまでも、誇り高かった。
嵐は、去った。
後に残されたのは、どこまでも、穏やかで、優しい時間。
私は、カイザーの胸に、もう一度、そっと、寄り添った。
「……これから、どうなるのかな」
ぽつりと、呟く。
「さあな」
カイザーが、私の髪を撫でながら、答える。
「だが、一つだけ、確かなことがある」
「……なあに?」
「俺は、もう二度と、お前を、離さない」
その、絶対的な、誓いの言葉。
私は、幸せに、目を細めた。
想いは、一つに。
竜と聖女の、長い、長い物語は、まだ、始まったばかり。
どんな困難が待ち受けていようと、この手と手が、繋がれている限り。
私たちは、きっと、乗り越えていける。
そう、心の底から、信じることができた。
空には、いつの間にか、美しい、虹が、かかっていた。
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