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第七十五話 王都上空
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王都の上空はまさしく決戦の舞台と化していた。
眼下には美しい白亜の都。その遥か上空で二つの軍勢が静かに、しかし圧倒的な緊張感を持って対峙している。
片や教皇が率いる王国軍と聖騎士団。その数、千を超える大軍勢。ワイバーンとペガサスが入り乱れ、その背に乗る騎士たちの無数の槍の穂先が朝の光を浴びて鈍く輝いている。彼らの顔には狂信的なまでの決意が浮かんでいた。偽りの聖女を守り、邪悪なる竜を討つ。その歪んだ正義が彼らを突き動かしているのだ。
そして片や私たち連合軍。
数十頭の竜たちと、たった三人の人間。戦力差は歴然だった。
だが、私たちの闘志は少しも劣ってはいなかった。
一頭一頭が百の騎士に匹敵する古の竜たち。
人間でありながら神の領域に立つ勇者と魔将。
そして、その中心にいる真の聖女と終焉の竜王。
少数精鋭。いや、神話の軍勢。
私たちの存在は数の論理など超越していた。
敵陣の中央、一際大きな純白のペガサスに跨った黄金の鎧の騎士が前に進み出た。聖騎士団の団長だろう。
彼は拡声の魔道具を使い、その厳かな声を戦場に響き渡らせた。
「―――聞け、終焉の黒竜! そしてそれに与する愚かなる者どもよ!」
その声はレオンやゼノヴィアを指しているのだろう。
「我らは教皇猊下の御名においてこの地を守護する聖騎士団である! 聖女セレスティーヌ様を害そうとする貴様ら異端の存在を、神の鉄槌をもって滅する!」
聖女セレスティーヌ。
あの偽りの聖女の名前。
その名を聞いて私の胸がちくりと痛んだ。
あの怯えたような瞳をした少女。彼女もまた教皇の犠牲者なのだ。
「アリアよ! かつての聖女よ!」
今度はその声が私に向けられた。
「お前はもはや聖女ではない! 竜に魂を売り渡し、堕落した魔女だ! お前のその汚れた存在がこの聖なる空にあること自体が冒涜である! 潔くその身を我らの聖なる炎で浄化されるがよい!」
一方的な断罪。
彼らの瞳にはもはや私への敬意など欠片もなかった。ただ異端者を裁く冷たい光が宿っているだけ。
「……話すだけ無駄なようだな」
私の頭の中にカイザーの静かな声が響く。
「ああ。ああいう頭の固い連中が一番厄介だ」
隣を飛ぶレオンが肩をすくめる。
「さっさと片付けて本丸へ行きましょう」
ゼノヴィアはもうレイピアを抜き放っていた。
私も頷いた。
もう言葉はいらない。
私たちは戦うしかないのだ。真実を証明するために。
カイザーは一度だけ大きく息を吸い込んだ。
そして連合軍の全軍に向かって念話で最後の指示を飛ばす。
『―――目標は敵軍の殲滅ではない。道を切り拓くことだ』
その声は、絶対的な王の声だった。
『アリアとレオン、そして俺が中央を突破する! ゼノヴィアとバルドスたちは左右の翼となり、我々が進む道を確保せよ!』
『はっ!』
『御意!』
竜たちとゼノヴィアから力強い返事が返ってくる。
『良いか! 無用な殺生は避けろ! だが我らの牙を侮る者には容赦はするな!』
カイザーの最後の言葉。
それはこの戦いの本質を示していた。
これは憎しみの戦いではない。
未来を切り拓くための聖戦なのだ。
『―――全軍、突撃せよッ!』
カイザーの号令が下された。
グオオオオオオオオオオッ!!!
数十頭の竜たちが一斉に咆哮を上げる。その地響きのような雄叫びは、敵の軍勢を恐怖に震わせた。
そして、私たちは動いた。
カイザーを先頭に、一つの巨大な黒い楔となって、敵が待ち受けるその大軍勢のど真ん中へと一直線に突っ込んでいった。
空が割れる。
光と闇が交錯する。
剣と牙が火花を散らす。
王都の上空で、世界の運命を懸けた壮絶な空中戦の火蓋が、今、切って落とされた。
後に「天墜の戦役」と呼ばれることになるその伝説の戦いは、一人の聖女の帰還から始まったのだ。
眼下には美しい白亜の都。その遥か上空で二つの軍勢が静かに、しかし圧倒的な緊張感を持って対峙している。
片や教皇が率いる王国軍と聖騎士団。その数、千を超える大軍勢。ワイバーンとペガサスが入り乱れ、その背に乗る騎士たちの無数の槍の穂先が朝の光を浴びて鈍く輝いている。彼らの顔には狂信的なまでの決意が浮かんでいた。偽りの聖女を守り、邪悪なる竜を討つ。その歪んだ正義が彼らを突き動かしているのだ。
そして片や私たち連合軍。
数十頭の竜たちと、たった三人の人間。戦力差は歴然だった。
だが、私たちの闘志は少しも劣ってはいなかった。
一頭一頭が百の騎士に匹敵する古の竜たち。
人間でありながら神の領域に立つ勇者と魔将。
そして、その中心にいる真の聖女と終焉の竜王。
少数精鋭。いや、神話の軍勢。
私たちの存在は数の論理など超越していた。
敵陣の中央、一際大きな純白のペガサスに跨った黄金の鎧の騎士が前に進み出た。聖騎士団の団長だろう。
彼は拡声の魔道具を使い、その厳かな声を戦場に響き渡らせた。
「―――聞け、終焉の黒竜! そしてそれに与する愚かなる者どもよ!」
その声はレオンやゼノヴィアを指しているのだろう。
「我らは教皇猊下の御名においてこの地を守護する聖騎士団である! 聖女セレスティーヌ様を害そうとする貴様ら異端の存在を、神の鉄槌をもって滅する!」
聖女セレスティーヌ。
あの偽りの聖女の名前。
その名を聞いて私の胸がちくりと痛んだ。
あの怯えたような瞳をした少女。彼女もまた教皇の犠牲者なのだ。
「アリアよ! かつての聖女よ!」
今度はその声が私に向けられた。
「お前はもはや聖女ではない! 竜に魂を売り渡し、堕落した魔女だ! お前のその汚れた存在がこの聖なる空にあること自体が冒涜である! 潔くその身を我らの聖なる炎で浄化されるがよい!」
一方的な断罪。
彼らの瞳にはもはや私への敬意など欠片もなかった。ただ異端者を裁く冷たい光が宿っているだけ。
「……話すだけ無駄なようだな」
私の頭の中にカイザーの静かな声が響く。
「ああ。ああいう頭の固い連中が一番厄介だ」
隣を飛ぶレオンが肩をすくめる。
「さっさと片付けて本丸へ行きましょう」
ゼノヴィアはもうレイピアを抜き放っていた。
私も頷いた。
もう言葉はいらない。
私たちは戦うしかないのだ。真実を証明するために。
カイザーは一度だけ大きく息を吸い込んだ。
そして連合軍の全軍に向かって念話で最後の指示を飛ばす。
『―――目標は敵軍の殲滅ではない。道を切り拓くことだ』
その声は、絶対的な王の声だった。
『アリアとレオン、そして俺が中央を突破する! ゼノヴィアとバルドスたちは左右の翼となり、我々が進む道を確保せよ!』
『はっ!』
『御意!』
竜たちとゼノヴィアから力強い返事が返ってくる。
『良いか! 無用な殺生は避けろ! だが我らの牙を侮る者には容赦はするな!』
カイザーの最後の言葉。
それはこの戦いの本質を示していた。
これは憎しみの戦いではない。
未来を切り拓くための聖戦なのだ。
『―――全軍、突撃せよッ!』
カイザーの号令が下された。
グオオオオオオオオオオッ!!!
数十頭の竜たちが一斉に咆哮を上げる。その地響きのような雄叫びは、敵の軍勢を恐怖に震わせた。
そして、私たちは動いた。
カイザーを先頭に、一つの巨大な黒い楔となって、敵が待ち受けるその大軍勢のど真ん中へと一直線に突っ込んでいった。
空が割れる。
光と闇が交錯する。
剣と牙が火花を散らす。
王都の上空で、世界の運命を懸けた壮絶な空中戦の火蓋が、今、切って落とされた。
後に「天墜の戦役」と呼ばれることになるその伝説の戦いは、一人の聖女の帰還から始まったのだ。
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