ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

文字の大きさ
86 / 100

第八十六話 教皇、降臨

しおりを挟む
邪神の不完全な顕現。
そのおぞましい光景を背にして、教皇はその真の姿を現した。
それはもはや人間の姿ではなかった。
彼の体は邪神から漏れ出した混沌の魔力をその身に取り込み、人ならざる怪物へと変貌を遂げていたのだ。
純白だった法衣は血と闇で汚れたかのように漆黒に染まり、その背中からは巨大な蝙蝠の翼が生えている。顔は悪魔のように歪み、その口からは鋭い牙が覗いていた。
ただ、その瞳だけが以前と同じ狂信の輝きを宿している。
「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、この力は!」
教皇は自らの変化した拳を見つめ、恍惚とした声を上げた。
「これぞ神に最も近づいた姿! これぞ新世界の神となるべき私の姿だ!」
彼はその翼を一度大きく羽ばたかせた。
それだけで凄まじい風圧が巻き起こり、祭壇の周囲の岩盤を粉々に砕く。
「……化け物が」
カイザーが吐き捨てるように言った。その手には既に黒い雷を纏った漆黒の剣が握られている。
私も白き水晶の杖を固く握りしめた。
相手はもはやただの人間ではない。
邪神の力をその身に宿した、神話級の怪物。
生半可な攻撃では通じない。
「さあ、来るがいい、竜王よ、聖女よ!」
教皇が両手を広げ、私たちを挑発する。
「お前たちのその絶望に満ちた顔! それこそが我が神への最高の捧げものとなるのだ!」
先に動いたのはカイザーだった。
彼の姿が一瞬にして掻き消える。
次の瞬間、彼は教皇の背後に回り込み、その漆黒の剣を無防備な背中へと突き立てていた。
神速の一撃。
だが。
ガキンッ!
甲高い金属音。
カイザーの剣は教皇の背中に届く寸前で、見えない障壁に阻まれていた。
「……なに!?」
カイザーが驚愕の声を上げる。
「無駄だ、無駄だ、無駄ァ!」
教皇は振り返ることもなく、甲高い笑い声を上げた。
「我が身は既に神の御力と一体となっている! 貴様のそのちっぽけな竜の力など、もはや通じはせんよ!」
彼はその巨大な腕を背後へと薙ぎ払った。
その動きはあまりにも速く、そして重い。
カイザーは咄嗟に剣でそれを受け止める。
ズガアアンッ!
凄まじい衝撃音。
カイザーの体がまるで弾丸のように後方へと吹き飛ばされた。彼はかろうじて空中で体勢を立て直したが、その表情には信じられないという色が浮かんでいる。
純粋な力で彼が押し負けたのだ。
「カイザー様!」
私は叫んだ。
「案ずるな!」
彼は短く応える。
「……少し厄介なだけだ」
その強がり。
だが、状況が圧倒的に不利なことは明らかだった。
「ははははは! どうした、竜王! その程度か!」
教皇は勝ち誇ったように高笑いする。
「ならば、今度はこちから行かせてもらうぞ!」
彼の姿が消えた。
そして次の瞬間、彼は私の目の前にいた。
「―――っ!」
あまりの速さに反応ができない。
その巨大な鉤爪が私の心臓を抉ろうと迫ってくる。
死。
その二文字が脳裏をよぎった、その時。
私の前に黒い影が割り込んだ。
カイザーだった。
彼は私を庇い、その鉤爪を自らの腕で受け止めていた。
ザシュッ、という肉が裂ける生々しい音。
彼の竜の鱗でさえ防ぎきれないほどの鋭い一撃。
カイザーの腕から鮮血が噴き出した。
「カイザー様!」
私の悲鳴。
「……ぐっ」
カイザーは苦痛に顔を歪ませながらも、私を突き飛ばし、距離を取らせる。
「……小賢しい真似を」
教皇は忌々しげに舌打ちをした。
「だが、それも時間の問題だ。まず貴様から血祭りにあげてやる」
彼は再びカイザーに襲いかかろうとする。
その隙。
それこそが私が待っていた瞬間だった。
「―――光よ!」
私は杖を教皇に向けた。
そして今まで練り上げた全ての聖なる力を、一つの光の奔流として解き放った。
それはもはや矢などではない。
全てを浄化し、洗い流す聖なる津波。
「おおっ!?」
教-皇は咄嗟に両腕で顔を庇った。
光の洪水が彼の邪悪な体を飲み込んでいく。
ジュウウウウウッ!
肉が焼けるような音と煙。
教皇の絶叫が祭壇の間に響き渡った。
「やった……!」
私が勝利を確信した、その時。
「―――甘いぞ、小娘がッ!」
光の奔流の中から、教皇の怒声が轟いた。
次の瞬間、光の津波は内側から爆発するように吹き飛ばされる。
その中心に立っていたのは、所々が焼け爛れ、苦痛に顔を歪ませた教皇の姿。
私の全力の一撃は、彼にダメージを与えはしたが、致命傷には至っていなかった。
「……この聖なる光……! 忌々しい……!」
彼は憎々しげに私を睨みつける。
「だが、二度は食らわん!」
彼の体が黒い瘴気を纏い始める。それは私の聖なる光を中和するための、邪悪なオーラ。
万事休すか。
私と傷を負ったカイザー。
二人だけでは、この神の力を得た怪物を倒すことはできないのか。
絶望が私の心を支配しかけた、その時だった。
背後の風穴から。
二つの眩い光が、弾丸のように飛び込んできた。
「―――待たせたな、二人とも!」
黄金の光を纏った勇者、レオン。
「―――少し厄介な虫がいたものでね」
氷のオーラを纏った魔将、ゼノヴィア。
二人の英雄が、ついにこの決戦の地にたどり着いたのだ。
役者は全て揃った。
私たちの本当の反撃が、今、始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

処理中です...