ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第八十七話 最後の狂信者

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「レオン! ゼノヴィア様!」
二人の頼もしすぎる援軍の到着に、私は思わず喜びの声を上げた。
彼らの体は所々傷つき、消耗しているのが見て取れた。だが、その瞳は少しも死んでいない。むしろ目の前の強大な敵を前にして、戦士としての闘志を爛々と輝かせていた。
「……遅かったではないか」
カイザーが傷を負った腕を押さえながら、ぶっきらぼうに言った。その口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。
「すまんな。少し手間取った」
レオンはそう言うと聖剣を構え直し、怪物と化した教皇を睨みつけた。
「……あれが親玉か。随分とおぞましい姿になったものだな」
「ええ。趣味が悪いわね」
ゼノヴィアもレイピアの切っ先を教皇に向けながら、冷ややかに言い放った。
「……ほう。勇者に魔将か」
教皇は突然の乱入者たちを一瞥すると、その歪んだ唇をさらに吊り上げた。
「面白い! 面白いぞ! 虫けらがいくら集まろうと、結果は変わらんということを教えてやる!」
彼は高らかに宣言した。
「我が名は教皇グレゴリウス三世! 古き腐敗した世界を浄化し、神となりて新たな秩序をもたらす者なり!」
その狂気に満ちた自己紹介。
彼はもはや自分を人間だとは思っていない。
神の代行者。いや、神そのものだと本気で信じ込んでいるのだ。
「お前たち旧世界の残滓どもよ! 我が神の御力の前にひれ伏し、その魂を捧げるがいい! それこそがお前たちに許された唯一の栄光なのだ!」
その歪んだ正義。
その独善的な選民思想。
レオンは静かに聖剣を構えた。
「……黙れ、狂信者」
その青い瞳には怒りよりも深い憐れみの色が浮かんでいた。
「お前が語るそれは神の言葉ではない。ただのお前の醜い欲望だ。神の御名を騙る最大の罪人め。……俺の剣がお前を裁く!」
「私も同感ね」
ゼノヴィアも同意する。
「あなたのような独裁者の作る世界など、息が詰まって反吐が出るわ。私はもっと自由で混沌とした世界の方が好きよ」
「……そして、俺は」
カイザーが一歩前に出た。
傷を負った腕から血が滴り落ちるのも構わずに。
「俺はただ、俺の愛する女が平和に暮らせる世界を望むだけだ。お前のような狂人が支配する世界に、俺のアリアの居場所はない」
三人の英雄。
それぞれの譲れない想い。
それぞれの守るべき正義。
それが今、一つとなって最後の狂信者に向けられる。
「……やかましい!」
教皇が絶叫した。
「小賢しい理屈を並べおって! 力こそが全てだ! 神の力がこの俺の正しさを証明してくれるわ!」
彼はその巨大な翼を羽ばたかせた。
凄まじい突風が私たちを襲う。
「―――行くぞ!」
レオンの号令。
四人は同時に動いた。
レオンとカイザーが左右から。
ゼノヴィアが上空から。
そして私が後方からの援護。
完璧なフォーメーション。
「聖光連斬!」
レオンの聖剣が無数の光の斬撃と化して、教皇の死角から襲いかかる。
「終焉の雷!」
カイザーの漆黒の剣が闇の雷となって、逆サイドから薙ぎ払う。
「氷獄の薔薇(ローゼン・プリズン)!」
ゼノヴィアのレイピアが煌めくと、教皇の足元から無数の氷の薔薇が咲き乱れ、その動きを封じようとする。
そして、私。
「光よ! 彼らを守りたまえ!」
私は三人に聖なる力を送った。
それは攻撃の力ではない。
彼らの体を守り、その力を増幅させる補助魔法。
光のオーラを纏った三人の攻撃は、さらにその威力を増す。
「ぐ……ぬおおおおおおっ!」
教皇は三方向からの猛攻に、さすがに対応しきれない。
その体にいくつもの光の斬撃が刻まれ、黒い雷がその身を焼き、氷の薔薇がその足に絡みつく。
「おのれ……おのれ、虫けらどもがあっ!」
彼は苦痛に絶叫した。
だが、彼はまだ倒れない。
邪神から供給される膨大な魔力が、彼の傷を瞬時に再生させていく。
「無駄だと言ったはずだ! 我が身は不死身なり!」
彼は咆哮すると、その体から全方位に向かって衝撃波を放った。
「くっ……!」
三人が同時に後方へと吹き飛ばされる。
だが、その隙を見逃す者は誰もいなかった。
「―――今だ!」
カイザーとレオンの声が重なる。
二人は吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直すと、再び教皇へと突進していく。
それは、まるで示し合わせたかのような完璧な連携。
「合わせろ、勇者!」
「言われるまでもない、竜王!」
二人の剣が交差する。
光と闇。
聖と魔。
二つの相反する力が一つに溶け合い、螺旋を描くように凝縮されていく。
それはかつて二人が互いに放った究極奥義の融合。
「「―――終焉のグランドクロス!!」」
白と黒が混じり合った巨大な十字の閃光。
それが再生中の無防備な教皇の胸板に、深々と突き刺さった。
時間が止まる。
そして。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
教皇の断末魔の絶叫が、遺跡全体を揺るがした。
彼の胸には十字架の形をした巨大な風穴が空いていた。
その傷はもはや再生できない。
聖と魔の相克の力が、彼の再生能力そのものを根源から破壊したのだ。
彼は信じられないというように、自らの胸の穴を見つめている。
「……馬鹿な……。この私が……神である私が……」
その体はゆっくりと崩れ始めていた。
黒い塵となって、風に溶けていく。
「……まだだ」
だが、彼は死の間際にその最後の狂気を見せた。
崩れゆく顔が醜く歪む。
そして、彼は笑った。
心の底から楽しそうに。
「……これでいい。これでいいのだ……」
「……何?」
カイザーが訝しげに眉をひそめる。
「我が魂は……我が神の復活のための、最後の贄となる……!」
「―――しまった!」
カイ-ザーが叫んだ。
だが、もう遅い。
教皇の崩れゆく体は、最後の光を放った。
それは自らの魂を燃やし尽くす、最後の輝き。
その光は祭壇の中央。
空間の裂け目へと吸い込まれていった。
そして。
遺跡全体を揺るがす凄まじい地響きと共に。
空間の裂け目が一気にその口を広げ始めた。
最後の狂信者が遺した、最後の罠。
それが今、発動しようとしていた。
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