ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第八十八話 全力の一撃

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教皇グレゴリウス三世、その最後の狂信者は、自らの魂を贄とすることで、最悪の置き土産を残していった。
彼の魂を喰らった空間の裂け目は、もはやただの亀裂ではない。
それは、まるでこの世界そのものを飲み込もうとする、巨大な混沌の顎(あぎと)だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
祭壇の間全体が崩壊を始めたかのように激しく揺れる。
天井からは巨大な水晶の塊が次々と落下し、床には深い亀裂が走っていく。
「……まずいな」
カイザーが苦々しく吐き捨てた。
「奴は自分の死さえも儀式の一部に組み込んでいたのか。……最後の詰めが甘かった」
彼の瞳には初めて焦りの色が浮かんでいた。
「カイザー様!」
私は彼のそばに駆け寄る。
「どうすれば……! このままでは邪神が完全に……!」
「分かっている!」
彼は私の言葉を遮ると、隣に立つレオンに向き直った。
「……勇者よ」
その声は静かだったが、並々ならぬ決意を秘めていた。
「……ああ。やるしかないようだな」
レオンもまた、その意図を即座に理解したようだった。
二人の英雄の瞳が交錯する。
その視線だけで、彼らはこれから為すべきことを完全に理解し合っていた。
「二人とも、何を……?」
私とゼノヴィアは、ただ困惑するばかりだった。
カイザーは私に向き直ると、その大きな手で私の肩を掴んだ。
「アリア。よく聞け」
その黄金の瞳はどこまでも真剣だった。
「今から俺と勇者は、この遺跡の核となっている祭壇そのものを破壊する。邪神がこの世界に顕現するための依り代となっている、あの祭壇をな」
「祭壇を、破壊……?」
「ああ。だが、それには俺たちの全ての力を注ぎ込んだ一撃が必要だ。……一撃を放てば、俺たちもしばらくは動けなくなるだろう。それほどの諸刃の剣だ」
そのあまりにも危険な賭け。
「その間、何が起こるか分からん。もしかしたら邪神の力の奔流が俺たちを飲み込むかもしれん」
彼は一度言葉を切ると、私の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「だからアリア。お前にしかできないことがある。俺たちを守れ。お前のその聖なる盾で。俺たちが全力を放つ、その一瞬の間だけ、俺たちを邪神の干渉から守り抜いてみせろ」
そのあまりにも重く、そして重要な役目。
私にできるだろうか。
あの神々の混沌の力から、この二人の英雄を守るなんて。
私の不安を見透かしたように、カイザーは私の頬にそっと手を添えた。
「……お前ならできる」
その声。
その絶対的な信頼。
「俺はお前を信じている」
その一言だけで、私の心の中の迷いは全て吹き飛んだ。
そうだ。
私はもう無力な少女ではない。
彼の光。
彼の切り札。
私は彼の信頼に応えなければならない。
「……はい」
私は力強く頷いた。
「必ずお二人を守ってみせます」
私の覚悟。
それを見て、カイザーは満足そうに微笑んだ。
そして彼はレオンと向き直る。
「……準備はいいか、勇者」
「ああ。いつでも行ける」
二人は並び立った。
竜王と勇者。
二人の最強の戦士が今、一つの目的のためにその力を合わせようとしている。
レオンが聖剣を天に掲げる。
カイザーがその右手に漆黒の剣を作り出す。
二人の体から金と黒のオーラが、炎のように立ち上った。
「ゼノヴィア!」
レオンが叫ぶ。
「俺たちの邪魔をさせないでくれ!」
「……言われなくてもね」
ゼノヴィアはレイピアを構え、空間の裂け目から這い出してこようとする邪神の無数の触手を睨みつけた。
そして、私。
私は二人の英雄の前に立った。
白き水晶の杖を地面に突き立てる。
そして祈った。
私の魂の全てを懸けて。
「―――我が光よ! 愛する者たちを守る、聖なる盾となれ!」
私の体から金色の光が溢れ出した。
それは今までで最も強大で、そして神々しい輝き。
光は半透明の巨大なドームとなって、カイザーとレオンの体を完全に包み込んだ。
「―――今だ!」
私が叫ぶ。
その声を合図に。
二人は動いた。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」
二人の魂からの雄叫び。
彼らの体に宿る全ての力。
全ての魔力。
全ての想い。
その全てを注ぎ込んだ、最後にして最強の一撃。
金と黒の光が一つに溶け合った究極のエネルギーの奔流が、祭壇の心臓部へと叩き込まれた。
その瞬間。
世界から音が消えた。
そして、全てを飲み込む純白の閃光が、遺跡全体を包み込んだ。
全力の一撃。
それは世界の運命を決める、最後の一撃だった。
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