ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第九十二話 君だけは、必ず守る

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混沌の津波が全てを飲み込む、その刹那。
カイザーの思考は驚くほど冷静だった。
負ける。
そう確信した。
神話の時代に創造主たる女神でさえ完全には滅ぼすことのできなかった原初の混沌。その力の片鱗を目の当たりにして、彼は自らの限界を悟ったのだ。
竜王としての数千年の経験も知識も、この絶対的な存在の前では何の意味もなさない。
だが、彼に後悔はなかった。
アリアと出会ってからのこの数ヶ月。
それは彼の永い永い生涯の中で、唯一色を持った時間だった。
初めて知った温もり。
初めて覚えた愛おしさ。
そして、初めて感じた失うことへの恐怖。
その全てが、彼にとってかけがえのない宝物だった。
(……これで、いい)
彼は心の中で呟いた。
(俺の命と引き換えに、あいつがほんの一瞬でも生き延びられるのなら)
彼は体に残る最後の魔力を魂ごと燃焼させた。
それは自らの存在そのものを燃料とする、究極の防御魔法。
黄金色の光の結界が、彼の命の輝きとなってアリアたちを包み込む。
『君だけは、必ず守る』
心の中でそう誓った。
アリアの悲しむ顔が脳裏をよぎる。
それだけが唯一の心残りだった。
もっと笑わせてやりたかった。
もっと共に生きたかった。
もっと……。
彼の意識はそこで完全に途絶えた。
混沌の奔流が彼の黄金の光を飲み込んでいく。
それはまるで一粒の砂が大海に溶けていくかのように、あまりにもあっけない最期だった。
だが。
彼が残した最後の光は、無駄ではなかった。
結界は確かにアリアたちを直撃から守り抜いた。
そして、その光の残滓は彼女の左手の薬指で静かに輝く黒い指輪へと吸い込まれていったのだ。
彼が彼女に贈った誓いの指輪。
彼の鱗から作られた、彼の分身とも言えるその指輪に、彼の最後の想いと力がわずかに宿ったことを、まだ誰も知らなかった。

邪神の圧倒的な力の前に仲間たちは倒れ、天空城さえも砕け散った。
万策尽きた状況。
そして、カイザーは最後の力を振り絞り、アリアを守るための結界を張った。
だが、その結界は邪神の混沌の奔流の前に脆くも砕け散る。
そしてカイザー自身もその奔流に飲み込まれ、瀕死の重傷を負ってしまった。
彼の意識が薄れゆく中で。
最後に彼の黄金の瞳に映ったのは。
自らの冷たくなっていく体を抱きしめ、絶叫する愛する少女の姿だった。
(……泣くな、アリア)
声にならない声で彼は呼びかけた。
(……笑っていてくれ)
その最後の願いも虚しく。
彼の世界は完全に闇に閉ざされた。
君だけは、必ず守る。
その誓いさえも果たせなかった、無力な竜王の哀れな最期だった。
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