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第九十一話 世界の終わり
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混沌の津波が、全てを飲み込もうとしていた。
絶対的な終焉。
抗う術もなく、ただ死を待つだけの絶望的な瞬間。
誰もが諦めかけていた、その時。
「―――まだだ」
カイザーが呻くような声で言った。
彼はボロボロの体を引きずり、私の前に立ちはだかる。その広い背中は傷だらけだったが、決して折れてはいなかった。
「カイザー様……! もう、やめて!」
私の悲痛な叫び。
だが、彼は振り返らなかった。
「……俺は竜王だ」
その声は静かだったが、数千年の時を生きてきた王者の最後の誇りが込められていた。
「そして……お前の番となる男だ。……お前一人守れなくて何が王か」
彼はそう言うと、その両腕を大きく広げた。
その傷だらけの体そのものを、盾として。
彼の体に残る最後の魔力が輝き始める。
それは黒い雷でも、破壊の炎でもない。
ただ、どこまでも優しく、そして温かい黄金色の光だった。
「アリア……愛している」
彼の最後の言葉。
光はドーム状に広がり、私とレオン、ゼノヴィアの三人を優しく包み込んだ。
守りの結界。
彼の命そのものを燃やして作り出した、最後の盾。
次の瞬間、混沌の津波がそのか弱く、しかし気高い光の盾へと激突した。
凄まじい轟音。
世界が白と黒に塗りつぶされる。
私は結界の中からその光景を、ただ見つめていた。
彼の黄金の光が、邪神の混沌の闇に飲み込まれていく。
彼の大きな背中が少しずつ、少しずつ黒い闇に侵食されていく。
「カイザー様あああああああああっ!」
私の絶叫が響き渡る。
だが、その声は彼にはもう届かない。
彼は一度だけこちらを振り返った。
その黄金の瞳。
その瞳には痛みも苦しみもなかった。
ただ深い、深い愛情だけを宿して。
彼は私に微笑んだ。
そして。
パリン、と。
ガラスが砕けるような音と共に。
彼の命の結慣は、完全に砕け散った。
混沌の奔流が彼を完全に飲み込む。
そして、その余波が私たちをも襲った。
「ぐっ……ぁ……!」
意識が遠のいていく。
最後に私の目に映ったのは。
邪神の力がこの地下遺跡を突き破り、地上の王都を、そして空に浮かぶ美しい我が家―――天空城さえも粉々に打ち砕いていく光景だった。
ああ。
終わった。
本当に、全て。
世界は今日、終わるのだ。
私の意識はそこで完全に途絶えた。
……どれくらいの時間が経っただろうか。
私が再び意識を取り戻した時。
そこに広がっていたのは静寂だった。
破壊の音も、混沌の気配もどこにもない。
ただ、しんと静まり返った無音の世界。
私はゆっくりと体を起こした。
周囲にはレオンとゼノヴィアも気を失って倒れている。だが、命に別状はないようだった。カイザーの最後の結界が、私たちを最悪の直撃から守ってくれたのだ。
遺跡は半壊していた。
天井には大きな穴が空き、そこからありえない光景が見えた。
空が血のように赤い。
そして、その赤い空にはいくつもの黒い裂け目が走り、そこから異形の触手のようなものが蠢いている。
邪神は完全に復活し、その汚染は既に世界全体に及び始めていたのだ。
だが今、私の目にそんな世界の終わりの光景は入っていなかった。
私の視線はただ一点に注がれていた。
私の数メートル前方。
そこに彼は倒れていた。
漆黒の衣はボロボロに引き裂かれ、その体はおびただしい傷で覆われている。
その胸は、もう上下していない。
その肌からは温もりが失われている。
その瞳は固く閉じられたまま。
「……カイザー、様……?」
私は震える足で一歩、また一歩と彼に近づいた。
そして、その冷たくなった彼の体のそばに、崩れるように膝をつく。
嘘だ。
嘘だと言って。
私は震える手で彼の頬に触れた。
氷のように冷たい。
「いや……いやだ……」
涙が溢れてくる。
「いやだ、いやだ、いやだああああああっ!」
私は彼の動かなくなった体を強く、強く抱きしめた。
「約束したじゃない……! 番になってくれるって……! ずっと一緒にいてくれるって……! 嘘つき……! 嘘つき、嘘つき、嘘つき……!」
私の絶叫が廃墟と化した遺跡に虚しく響き渡る。
彼は私を守って死んだ。
私の愛する人が、私の腕の中で冷たくなっていく。
この絶望。
この喪失感。
世界なんてどうでもいい。
邪神がどうなろうと知ったことか。
あなたのいない世界なんて。
そんなもの私には何の価値もない。
私の中で何かがぷつりと切れた。
悲しみと怒り、そして彼へのどうしようもないほどの愛が心の中で渦を巻く。
そして、それはやがて一つの巨大なエネルギーの塊となって、私の魂の中心で輝き始めた。
それは今まで私が使ってきた聖なる力とは全く質の違う力だった。
世界を癒やす光ではない。
世界を創り変える光。
絶望の淵で。
聖女アリアは今、真の力に目覚めようとしていた。
絶対的な終焉。
抗う術もなく、ただ死を待つだけの絶望的な瞬間。
誰もが諦めかけていた、その時。
「―――まだだ」
カイザーが呻くような声で言った。
彼はボロボロの体を引きずり、私の前に立ちはだかる。その広い背中は傷だらけだったが、決して折れてはいなかった。
「カイザー様……! もう、やめて!」
私の悲痛な叫び。
だが、彼は振り返らなかった。
「……俺は竜王だ」
その声は静かだったが、数千年の時を生きてきた王者の最後の誇りが込められていた。
「そして……お前の番となる男だ。……お前一人守れなくて何が王か」
彼はそう言うと、その両腕を大きく広げた。
その傷だらけの体そのものを、盾として。
彼の体に残る最後の魔力が輝き始める。
それは黒い雷でも、破壊の炎でもない。
ただ、どこまでも優しく、そして温かい黄金色の光だった。
「アリア……愛している」
彼の最後の言葉。
光はドーム状に広がり、私とレオン、ゼノヴィアの三人を優しく包み込んだ。
守りの結界。
彼の命そのものを燃やして作り出した、最後の盾。
次の瞬間、混沌の津波がそのか弱く、しかし気高い光の盾へと激突した。
凄まじい轟音。
世界が白と黒に塗りつぶされる。
私は結界の中からその光景を、ただ見つめていた。
彼の黄金の光が、邪神の混沌の闇に飲み込まれていく。
彼の大きな背中が少しずつ、少しずつ黒い闇に侵食されていく。
「カイザー様あああああああああっ!」
私の絶叫が響き渡る。
だが、その声は彼にはもう届かない。
彼は一度だけこちらを振り返った。
その黄金の瞳。
その瞳には痛みも苦しみもなかった。
ただ深い、深い愛情だけを宿して。
彼は私に微笑んだ。
そして。
パリン、と。
ガラスが砕けるような音と共に。
彼の命の結慣は、完全に砕け散った。
混沌の奔流が彼を完全に飲み込む。
そして、その余波が私たちをも襲った。
「ぐっ……ぁ……!」
意識が遠のいていく。
最後に私の目に映ったのは。
邪神の力がこの地下遺跡を突き破り、地上の王都を、そして空に浮かぶ美しい我が家―――天空城さえも粉々に打ち砕いていく光景だった。
ああ。
終わった。
本当に、全て。
世界は今日、終わるのだ。
私の意識はそこで完全に途絶えた。
……どれくらいの時間が経っただろうか。
私が再び意識を取り戻した時。
そこに広がっていたのは静寂だった。
破壊の音も、混沌の気配もどこにもない。
ただ、しんと静まり返った無音の世界。
私はゆっくりと体を起こした。
周囲にはレオンとゼノヴィアも気を失って倒れている。だが、命に別状はないようだった。カイザーの最後の結界が、私たちを最悪の直撃から守ってくれたのだ。
遺跡は半壊していた。
天井には大きな穴が空き、そこからありえない光景が見えた。
空が血のように赤い。
そして、その赤い空にはいくつもの黒い裂け目が走り、そこから異形の触手のようなものが蠢いている。
邪神は完全に復活し、その汚染は既に世界全体に及び始めていたのだ。
だが今、私の目にそんな世界の終わりの光景は入っていなかった。
私の視線はただ一点に注がれていた。
私の数メートル前方。
そこに彼は倒れていた。
漆黒の衣はボロボロに引き裂かれ、その体はおびただしい傷で覆われている。
その胸は、もう上下していない。
その肌からは温もりが失われている。
その瞳は固く閉じられたまま。
「……カイザー、様……?」
私は震える足で一歩、また一歩と彼に近づいた。
そして、その冷たくなった彼の体のそばに、崩れるように膝をつく。
嘘だ。
嘘だと言って。
私は震える手で彼の頬に触れた。
氷のように冷たい。
「いや……いやだ……」
涙が溢れてくる。
「いやだ、いやだ、いやだああああああっ!」
私は彼の動かなくなった体を強く、強く抱きしめた。
「約束したじゃない……! 番になってくれるって……! ずっと一緒にいてくれるって……! 嘘つき……! 嘘つき、嘘つき、嘘つき……!」
私の絶叫が廃墟と化した遺跡に虚しく響き渡る。
彼は私を守って死んだ。
私の愛する人が、私の腕の中で冷たくなっていく。
この絶望。
この喪失感。
世界なんてどうでもいい。
邪神がどうなろうと知ったことか。
あなたのいない世界なんて。
そんなもの私には何の価値もない。
私の中で何かがぷつりと切れた。
悲しみと怒り、そして彼へのどうしようもないほどの愛が心の中で渦を巻く。
そして、それはやがて一つの巨大なエネルギーの塊となって、私の魂の中心で輝き始めた。
それは今まで私が使ってきた聖なる力とは全く質の違う力だった。
世界を癒やす光ではない。
世界を創り変える光。
絶望の淵で。
聖女アリアは今、真の力に目覚めようとしていた。
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