94 / 100
第九十四話 聖女の覚醒
しおりを挟む
絶叫は光になった。
私の喉から迸った最後の悲鳴。それは絶望の闇を切り裂く、一筋の虹色の閃光へと姿を変えた。
光は私の体から溢れ出した。
それは今まで私が使ってきた、聖なる金色の光とは全く違うものだった。
金色の光が太陽のように闇を祓う力強い「陽」の力なのだとすれば。
この虹色の光は、月のように全てを静かに優しく包み込む「陰」の力を内包していた。
破壊でもない。浄化でもない。
ただ、そこに存在する全ての理を根源から書き換える。
全てを癒やし、全てを赦し、そして新たな生命を与える。
創生の光。
光は波紋のように私から広がっていった。
最初に光に触れたのは、私の腕の中で冷たくなっていたカイザーの亡骸だった。
光は彼のおびただしい傷をそっと塞いでいく。引き裂かれた漆黒の衣を、元の美しい姿へと修復していく。血の気を失ったその肌に、かすかな温もりを取り戻させていく。
だが、彼の魂は戻らない。命の灯火は灯らない。
私のこの力は死者を蘇らせるようなご都合主義の奇跡ではなかったからだ。
それは、ただ失われたものをその本来あるべき美しい姿へと還すだけの力。
光はさらに広がっていく。
気を失って倒れていたレオンとゼノVィアの体を優しく包み込む。
彼らの傷が癒え、消耗しきった魔力がゆっくりと満たされていく。
二人の眉間の皺が解け、その寝顔が穏やかなものへと変わっていく。
そして光は、この半壊した遺跡そのものを満たし始めた。
崩れ落ちた天井。砕け散った柱。ひび割れた床。
その全てが、まるで時を遡るかのように音もなく、元の壮麗な姿へと修復されていく。
壁に刻まれた邪神のおぞましいレリーフさえもその狂気を失い、ただの古代の芸術作品のような静かな佇まいを取り戻した。
邪神の瘴気に汚染されていた空気が浄化され、神聖な静けさが祭壇の間に戻ってくる。
そのあまりにも異質な力の出現。
それに最初に反応したのは、この世界の理の外にいる存在。
古の邪神だった。
空間の裂け目からその混沌の体を完全に現していた邪神。
その中心にある血のように赤い一つ目が、初めて明確な感情を宿した。
それは、困惑。
そして、本能的な恐怖だった。
キシャアアアアアアアッ!
邪神は甲高い不協和音を発した。
そして、その不定形の体から無数の黒い触手を伸ばし、その異質な光の源である私に向かって攻撃を仕掛けてきた。
だが、その触手が私の虹色の光に触れた瞬間。
シュウウウウ、と。
触手はまるで朝日に溶ける霧のように、いとも簡単にその存在を消滅させてしまった。
攻撃が通じない。
どころか、触れることさえ許されない。
邪神は後ずさるように、その混沌の体を揺らめかせた。
その様子を。
光の中心にいる私は、どこか遠い意識で眺めていた。
もう私の心に悲しみも憎しみもなかった。
カイザーを失った絶望。
それはこの創生の光の中で、より大きく、そして純粋な一つの感情へと昇華されていた。
愛。
彼への個人的な愛は、この世界に存在する全ての命に向けられる博愛へと姿を変えていた。
カイザーが生きたこの世界。
彼が愛したこの世界。
彼がその命を懸けて守ろうとした、この不完全で愚かで、そしてどこまでも美しいこの世界。
それをこのまま終わらせるわけにはいかない。
破壊の衝動は、創造への渇望へと変わっていた。
私はゆっくりと立ち上がった。
私の体はもはや、私自身のものではないようだった。
世界の理そのものと一体化したかのような全能感。
私の瞳は虹色に輝き、その体からは後光のように淡い光が放たれている。
その姿は、もはやただの聖女ではない。
世界を創造する女神の降臨。
私は腕の中のカイザーの亡骸を、そっと修復された祭壇の上に横たえた。
そして振り返る。
私と対峙する古の邪神へと。
その赤い瞳に映る恐怖の色。
私は静かに彼に告げた。
その声は私自身の声でありながら、どこか世界の声そのもののようにも響いた。
「……もう、終わりにしましょう」
その声。
その絶対的な存在感。
それに呼応するように、気を失っていたレオンとゼノヴィアがゆっくりとその意識を取り戻し始めていた。
彼らが最初に目にするのは、一体どのような光景なのだろうか。
邪神は本能的な恐怖から、その混沌の体の全てを凝縮させ、最後にして最大級の攻撃を放とうとしていた。
空間が再び歪み始める。
その世界の終わりを告げる一撃を前にして。
私は、ただ静かにその右手をかざすだけだった。
戦いではない。
これは、ただの調律。
狂ってしまった世界の音を、その本来あるべき美しいハーモニーへと戻すための、最後の一音。
私は、その指をゆっくりと奏で始めた。
私の喉から迸った最後の悲鳴。それは絶望の闇を切り裂く、一筋の虹色の閃光へと姿を変えた。
光は私の体から溢れ出した。
それは今まで私が使ってきた、聖なる金色の光とは全く違うものだった。
金色の光が太陽のように闇を祓う力強い「陽」の力なのだとすれば。
この虹色の光は、月のように全てを静かに優しく包み込む「陰」の力を内包していた。
破壊でもない。浄化でもない。
ただ、そこに存在する全ての理を根源から書き換える。
全てを癒やし、全てを赦し、そして新たな生命を与える。
創生の光。
光は波紋のように私から広がっていった。
最初に光に触れたのは、私の腕の中で冷たくなっていたカイザーの亡骸だった。
光は彼のおびただしい傷をそっと塞いでいく。引き裂かれた漆黒の衣を、元の美しい姿へと修復していく。血の気を失ったその肌に、かすかな温もりを取り戻させていく。
だが、彼の魂は戻らない。命の灯火は灯らない。
私のこの力は死者を蘇らせるようなご都合主義の奇跡ではなかったからだ。
それは、ただ失われたものをその本来あるべき美しい姿へと還すだけの力。
光はさらに広がっていく。
気を失って倒れていたレオンとゼノVィアの体を優しく包み込む。
彼らの傷が癒え、消耗しきった魔力がゆっくりと満たされていく。
二人の眉間の皺が解け、その寝顔が穏やかなものへと変わっていく。
そして光は、この半壊した遺跡そのものを満たし始めた。
崩れ落ちた天井。砕け散った柱。ひび割れた床。
その全てが、まるで時を遡るかのように音もなく、元の壮麗な姿へと修復されていく。
壁に刻まれた邪神のおぞましいレリーフさえもその狂気を失い、ただの古代の芸術作品のような静かな佇まいを取り戻した。
邪神の瘴気に汚染されていた空気が浄化され、神聖な静けさが祭壇の間に戻ってくる。
そのあまりにも異質な力の出現。
それに最初に反応したのは、この世界の理の外にいる存在。
古の邪神だった。
空間の裂け目からその混沌の体を完全に現していた邪神。
その中心にある血のように赤い一つ目が、初めて明確な感情を宿した。
それは、困惑。
そして、本能的な恐怖だった。
キシャアアアアアアアッ!
邪神は甲高い不協和音を発した。
そして、その不定形の体から無数の黒い触手を伸ばし、その異質な光の源である私に向かって攻撃を仕掛けてきた。
だが、その触手が私の虹色の光に触れた瞬間。
シュウウウウ、と。
触手はまるで朝日に溶ける霧のように、いとも簡単にその存在を消滅させてしまった。
攻撃が通じない。
どころか、触れることさえ許されない。
邪神は後ずさるように、その混沌の体を揺らめかせた。
その様子を。
光の中心にいる私は、どこか遠い意識で眺めていた。
もう私の心に悲しみも憎しみもなかった。
カイザーを失った絶望。
それはこの創生の光の中で、より大きく、そして純粋な一つの感情へと昇華されていた。
愛。
彼への個人的な愛は、この世界に存在する全ての命に向けられる博愛へと姿を変えていた。
カイザーが生きたこの世界。
彼が愛したこの世界。
彼がその命を懸けて守ろうとした、この不完全で愚かで、そしてどこまでも美しいこの世界。
それをこのまま終わらせるわけにはいかない。
破壊の衝動は、創造への渇望へと変わっていた。
私はゆっくりと立ち上がった。
私の体はもはや、私自身のものではないようだった。
世界の理そのものと一体化したかのような全能感。
私の瞳は虹色に輝き、その体からは後光のように淡い光が放たれている。
その姿は、もはやただの聖女ではない。
世界を創造する女神の降臨。
私は腕の中のカイザーの亡骸を、そっと修復された祭壇の上に横たえた。
そして振り返る。
私と対峙する古の邪神へと。
その赤い瞳に映る恐怖の色。
私は静かに彼に告げた。
その声は私自身の声でありながら、どこか世界の声そのもののようにも響いた。
「……もう、終わりにしましょう」
その声。
その絶対的な存在感。
それに呼応するように、気を失っていたレオンとゼノヴィアがゆっくりとその意識を取り戻し始めていた。
彼らが最初に目にするのは、一体どのような光景なのだろうか。
邪神は本能的な恐怖から、その混沌の体の全てを凝縮させ、最後にして最大級の攻撃を放とうとしていた。
空間が再び歪み始める。
その世界の終わりを告げる一撃を前にして。
私は、ただ静かにその右手をかざすだけだった。
戦いではない。
これは、ただの調律。
狂ってしまった世界の音を、その本来あるべき美しいハーモニーへと戻すための、最後の一音。
私は、その指をゆっくりと奏で始めた。
5
あなたにおすすめの小説
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる