ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第九十七話 竜の涙

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私たちの涙の再会を、レオンとゼノヴィアは言葉もなく見守っていた。
彼らの瞳にもまた、安堵と、そして目の前で起こった奇跡への畏敬の念が浮かんでいる。
「……信じられん」
レオンがようやく絞り出すように呟いた。
「死んだはずの人間が生き返るなど……。いや、彼は人間ではないが……。こんな奇跡、神話の中でしか聞いたことがない」
「ええ……」
ゼノヴィアも同意する。
「彼女のあの力。創生の光とでも言うべきかしら。世界の理そのものを書き換えてしまったわ。……彼女はもはやただの聖女ではない。神に最も近い存在なのかもしれないわね」
その言葉。
それは真実だった。
だが、今の私はそんなことどうでもよかった。
ただ、腕の中の温もりが全てだった。
「……もう、大丈夫か」
カイザーが私の背中を優しく撫でながら尋ねた。
私は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、何度も何度も頷いた。
彼はゆっくりとその体を起こす。
その動きはまだ少しぎこちなかったが、その体には確かに生命力がみなぎっていた。
彼はまず自分の手を見つめた。
そして、私の顔を見つめる。
それから、心配そうにこちらを見守っているレオンとゼノヴィアを見つめた。
そして最後に、修復されたこの美しい遺跡全体を見渡した。
「……夢ではないようだな」
彼はそう言うと、深い、深いため息をついた。
それは絶望からの生還を実感した、安堵のため息だった。
彼は私の左手に視線を落とした。
その薬指で静かに輝く竜の鱗の指輪に。
「……俺の最後の力が、お前を守ってくれたのか」
「いいえ」
私は首を振った。
「あなたの力が私を守り、私の力があなたを救った。……私たち二人で起こした奇跡です」
その言葉にカイザーは一瞬目を見開いたが、やがてその口元に深く、そして優しい笑みを浮かべた。
「……そうか。そうだな」
彼は、私の指輪がはめられたその手を優しく取った。
そして、その指輪にそっと自らの唇を寄せた。
まるで騎士が姫に忠誠を誓うかのように。
そのあまりにもロマンチックな光景。
私はまた顔が熱くなるのを感じた。
「……おいおい。こっちの身にもなってくれ」
レオンが気まずそうに咳払いをする。
「ええ。目の毒だわ」
ゼノヴィアもそっぽを向いて呟いた。その頬がほんのりと赤い。
その二人の反応に、私たちは思わず顔を見合わせて笑い合った。
ようやく、本当に全てが終わったのだ。
そんな穏やかで幸せな空気が、祭壇の間に満ちていく。

だが。
幸せな時間の終わりは、いつも唐突にやってくる。
「―――ぐっ……!」
突然、私は胸に鋭い痛みを感じて、その場にうずくまった。
「アリア!?」
カイザーが慌てて私の体を支える。
「どうした!?」
「いえ……何でも……っ!」
私は強がろうとした。
だが、痛みは嘘をついてくれない。
まるで心臓を内側から氷の針で刺されるような激しい痛み。
そして、それと同時に全身から力が抜けていくような感覚。
私の指先から生命力が急速に失われていくのが分かった。
「……これは」
カイザーが私の手を取り、その顔色を変えた。
「……馬鹿な。創生の光の代償か……!」
その言葉。
そうだ。
奇跡には代償が伴う。
世界の理を書き換えるほどの大いなる奇跡。
その代償が私の命そのものであるというのは、当然の摂理だったのかもしれない。
私の命を捧げて彼を蘇らせようとした儀式。
それは彼の指輪の力で中断されたはずだった。
だが、その反動は時間差で私の体を蝕み始めていたのだ。
「……あ……」
私の視界が霞み始める。
意識が遠のいていく。
ああ、結局こうなる運命だったのか。
彼を救うことができた。
世界を守ることができた。
それだけで、もう十分幸せだ。
そう思おうとした。
けれど。
心の奥底で声が聞こえる。
いやだ。
死にたくない。
もっと彼と一緒にいたい。
笑い合って、食事をして、庭の花の世話をして。
そんな何気ない幸せな毎日を、彼と共に生きていきたい。
「アリア! しっかりしろ、アリア!」
カイザーの悲痛な叫び声が聞こえる。
彼の腕の中で、私の体はどんどん冷たくなっていく。
その時だった。
ぽたり、と。
私の頬に何か温かいものが落ちてきた。
それはカイザーの瞳からこぼれ落ちた、一粒の雫だった。
黄金色の美しい雫。
竜の涙。
その涙が私の唇に触れた瞬間。
奇跡が起こった。
涙は眩いばかりの黄金の光となって、私の体の中へと流れ込んでいったのだ。
それはかつて彼が、千年前の恋人に与えたという不老不死の力を秘めた竜の秘宝。
彼の愛の結晶。
そのあまりにも強大で、そして温かい生命の力が、私の消えかかっていた命の灯火を再び力強く燃え上がらせた。
胸の痛みは嘘のように消え失せ、全身に温かい力がみなぎってくる。
私はゆっくりと目を開けた。
そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私を見つめる愛する竜の顔があった。
私はそっとその頬に手を伸ばした。
そして、その涙を拭って微笑んだ。
「……もう、泣かないで」
その一言。
それが私たちの本当のハッピーエンドの始まりを告げる、鐘の音だった。
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