外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

文字の大きさ
59 / 100

第59話:旅の準備と高まる期待

しおりを挟む
旅立ちの前夜、公爵邸は静かな興奮に包まれていた。
使用人たちは、最後の準備に余念がなく、廊下を忙しそうに行き交っている。けれど、その表情は一様に明るく、まるで自分たちの祝祭の準備をしているかのように、活気に満ちていた。
私は、自室のバルコニーに出て、夜空に輝く星々を見上げていた。
明日から、私はこの安全で快適な屋敷を離れ、未知の世界へと旅立つのだ。その事実が、まだどこか現実味を帯びずに、ふわふわとした感覚で私を包んでいた。
不安がない、と言えば嘘になる。
本当に、私に村を救うことなどできるのだろうか。領地の人々は、私のような若輩者を、受け入れてくれるだろうか。
そんな弱気な考えが、心の隅をよぎる。
「……こんなところで、何をしている」
不意に、背後から優しい声がした。
振り返ると、アシュレイ様が、そこに立っていた。彼は、夜着の上からガウンを羽織っただけという、とてもくつろいだ格好をしていた。
「眠れないのか」
「あ、いえ……。ただ、少し、色々と考え事を」
私が曖-昧に答えると、彼は私の隣に立ち、同じように夜空を見上げた。
「明日のことが、不安か」
私の心を、完全に見透かしたような言葉。
私は、こくりと、小さく頷いた。
「……はい。少しだけ。私が、ちゃんと皆様のお役に立てるかどうか……」
すると、彼は、私の肩を、大きな手で優しく抱き寄せた。
「リナリア」
彼の声は、夜の静寂に溶けるように、穏やかで、そして力強かった。
「君は、何も心配する必要はない。君はただ、君の思うままに、その優しい心で、人々に寄り添えばいい。それだけで、十分だ」
「ですが……」
「君は、もう十分に強い」
彼は、私の言葉を遮った。
「君が思っている以上に、君は、この数週間で、見違えるほどに強く、そして美しくなった。私は、それを誰よりも近くで見てきた。だから、分かる。君なら、必ずできる」
その言葉には、一切の疑いがなかった。
絶対的な信頼。
その温かい響きが、私の心の中にあった最後の不安の影を、綺麗に拭い去ってくれた。
「それに」と彼は続けた。「私が、常に君の隣にいることを、忘れるな。たとえ何があろうと、私が君を守る。だから、君は、安心して、前だけを見ていればいい」
私は、彼の言葉に、胸がいっぱいになった。
この人がいれば、大丈夫。
私は、彼の肩に、そっと頭を寄せた。彼は、何も言わずに、私の髪を優しく撫でてくれる。
「……ありがとうございます、アシュレイ様」
「礼を言うのは、私のほうだ」
彼は、囁くように言った。
「私の、生まれ育った場所を、君に見せられる。君と共に、私の大切な領地を旅することができる。それが、どれほど嬉しいことか……。君には、まだ分からないだろうな」
その声には、子供のような、純粋な喜びが滲んでいた。
彼もまた、この旅を、心から楽しみにしているのだ。その事実が、私の心を、大きな幸福感で満たした。
もう、迷いはない。
「……楽しみです」
私は、心からの気持ちを、素直に口にした。
「アシュレイ様の、お生まれになった場所。アシュレイ様が、愛する人々。その全てを、私も、この目で見たいです。そして、知りたいです」
私のその言葉に、彼が、息をのむ気配がした。
彼は、私の肩を抱く腕に、ぐっと力を込めた。そして、私の耳元で、熱のこもった声で、囁いた。
「……ああ。全て、見せてやろう。私の、全てを」
その声は、とろけるように甘く、私の心を、どうしようもなく掻き乱した。

私たちは、しばらくの間、そうして寄り添い、言葉もなく、ただ静かに夜空を眺めていた。
北の空に、ひときわ大きく輝く星が見える。それは、古くからアイゼンベルク公爵家を守護すると伝えられる、導きの星。
その星が、まるで私たちの未来を祝福するかのように、強く、そして美しく輝いていた。
明日の朝、私たちは、あの星が示す方角へと、旅立つのだ。
そこには、どんな出会いが、どんな景色が、そして、どんな運命が待ち受けているのだろう。
私の心は、不安ではなく、高まる期待と、そして、愛する人と共に未知の世界へと踏み出す、純粋な喜びで、どこまでも、どこまでも、満たされていくのだった。
旅立ちの前夜は、こうして、温かく、そして甘やかに、更けていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

地味令嬢の私ですが、王太子に見初められたので、元婚約者様からの復縁はお断りします

有賀冬馬
恋愛
子爵令嬢の私は、いつだって日陰者。 唯一の光だった公爵子息ヴィルヘルム様の婚約者という立場も、あっけなく捨てられた。「君のようなつまらない娘は、公爵家の妻にふさわしくない」と。 もう二度と恋なんてしない。 そう思っていた私の前に現れたのは、傷を負った一人の青年。 彼を献身的に看病したことから、私の運命は大きく動き出す。 彼は、この国の王太子だったのだ。 「君の優しさに心を奪われた。君を私だけのものにしたい」と、彼は私を強く守ると誓ってくれた。 一方、私を捨てた元婚約者は、新しい婚約者に振り回され、全てを失う。 私に助けを求めてきた彼に、私は……

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

精霊の森に追放された私ですが、森の主【巨大モフモフ熊の精霊王】に気に入られました

腐ったバナナ
恋愛
王都で「魔力欠損の無能者」と蔑まれ、元婚約者と妹の裏切りにより、魔物が出る精霊の森に追放された伯爵令嬢リサ。絶望の中、極寒の森で命を落としかけたリサを救ったのは、人間を食らうと恐れられる森の主、巨大なモフモフの熊だった。 実はその熊こそ、冷酷な精霊王バルト。長年の孤独と魔力の淀みで冷え切っていた彼は、リサの体から放たれる特殊な「癒やしの匂い」と微かな温もりに依存し、リサを「最高のストーブ兼抱き枕」として溺愛し始める。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

【悲報】氷の悪女と蔑まれた辺境令嬢のわたくし、冷徹公爵様に何故かロックオンされました!?~今さら溺愛されても困ります……って、あれ?

放浪人
恋愛
「氷の悪女」――かつて社交界でそう蔑まれ、身に覚えのない罪で北の辺境に追いやられた令嬢エレオノーラ・フォン・ヴァインベルク。凍えるような孤独と絶望に三年間耐え忍んできた彼女の前に、ある日突然現れたのは、帝国一冷徹と名高いアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵だった。 彼の目的は、荒廃したヴァインベルク領の視察。エレオノーラは、公爵の鋭く冷たい視線と不可解なまでの執拗な関わりに、「新たな不幸の始まりか」と身を硬くする。しかし、領地再建のために共に過ごすうち、彼の不器用な優しさや、時折見せる温かい眼差しに、エレオノーラの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 「お前は、誰よりも強く、優しい心を持っている」――彼の言葉は、偽りの悪評に傷ついてきたエレオノーラにとって、戸惑いと共に、かつてない温もりをもたらすものだった。「迷惑千万!」と思っていたはずの公爵の存在が、いつしか「心地よいかも…」と感じられるように。 過去のトラウマ、卑劣な罠、そして立ちはだかる身分と悪評の壁。数々の困難に見舞われながらも、アレクシス公爵の揺るぎない庇護と真っ直ぐな愛情に支えられ、エレオノーラは真の自分を取り戻し、やがて二人は互いにとってかけがえのない存在となっていく。 これは、不遇な辺境令嬢が、冷徹公爵の不器用でひたむきな「ロックオン(溺愛)」によって心の氷を溶かし、真実の愛と幸福を掴む、ちょっぴりじれったくて、とびきり甘い逆転ラブストーリー。

冷遇された公爵令嬢は、敵国最恐の「氷の軍神」に契約で嫁ぎました。偽りの結婚のはずが、なぜか彼に溺愛され、実家が没落するまで寵愛されています

メルファン
恋愛
侯爵令嬢エリアーナは、幼い頃から妹の才能を引き立てるための『地味な引き立て役』として冷遇されてきました。その冷遇は、妹が「光の魔力」を開花させたことでさらに加速し、ついに長年の婚約者である王太子からも、一方的な婚約破棄を告げられます。 「お前のような華のない女は、王妃にふさわしくない」 失意のエリアーナに与えられた次の役割は、敵国アースガルドとの『政略結婚の駒』。嫁ぎ先は、わずか五年で辺境の魔物を制圧した、冷酷非情な英雄「氷の軍神」こと、カイン・フォン・ヴィンター公爵でした。 カイン公爵は、王家を軽蔑し、感情を持たない冷徹な仮面を被った、恐ろしい男だと噂されています。エリアーナは、これは五年間の「偽りの契約結婚」であり、役目を終えれば解放されると、諦めにも似た覚悟を決めていました。 しかし、嫁いだ敵国で待っていたのは、想像とは全く違う生活でした。 「華がない」と蔑まれたエリアーナに、公爵はアースガルドの最高の仕立て屋を呼び、豪華なドレスと宝石を惜しみなく贈呈。 「不要な引き立て役」だったエリアーナを、公爵は公の場で「我が愛する妻」と呼び、侮辱する者を許しません。 冷酷非情だと噂された公爵は、夜、エリアーナを優しく抱きしめ、彼女が眠るまで離れない、極度の愛妻家へと変貌します。 実はカイン公爵は、エリアーナが幼い頃に偶然助けた命の恩人であり、長年、彼女を密かに想い続けていたのです。彼は、エリアーナを冷遇した実家への復讐の炎を胸に秘め、彼女を愛と寵愛で包み込みます。 一方、エリアーナを価値がないと捨てた実家や王太子は、彼女が敵国で女王のような寵愛を受けていることを知り、慌てて連れ戻そうと画策しますが、時すでに遅し。 「我が妻に手を出す者は、国一つ滅ぼす覚悟を持て」 これは、冷遇された花嫁が、敵国の最恐公爵に深く愛され、真の価値を取り戻し、実家と王都に「ざまぁ」を食らわせる、王道溺愛ファンタジーです。

処理中です...